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黄泉比良坂編

神社庁

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崩壊した研究所を前に、僕は日野さんから旅館に戻って休むように言われた。
疲れも出ていたので、その言葉はありがたかったが、同じくらい皆嶋さんの安否も気になった。
結局、後ろ髪を引かれながらパトカーに乗って旅館に戻ることになった。
車の中で朱野さんに連絡をして、旅館に戻ったらお話ししますと伝えて電話を切る。

車の中では少しだけ目を閉じて休憩をとった。
ほんの10分程度だが、しないよりはマシだ。
静かな車内にエンジンが稼働する音とタイヤが道を走る音が響く。
乗り心地が良かったせいか、僕は数分間眠ったみたいで、夢を見た。
・・・天外天がみんな揃っている夢だった。
いっときの幸せを感じて目を覚まし、目を開けて涙が溢れた。

旅館に戻るとロビーに3人とも僕を待っていたので、全員で男性部屋に入って僕の情報を共有することにした。

「研究所が・・・」
「防衛はしていなかったの?」

朱野さんと真山さんが絶句する中、金田さんは何も言わずに考え込んで、チラリと僕を見た。

「全壊だったんだよな?」
「ええ、全壊でした」
「・・・可能性として聞いてもらっていいか?」

その言葉に、僕は戸惑いながら頷く。
何かしら僕では考えつかない予測があるのかもしれない。

「もし、行方不明の23名が既に死んでいて、残っていた研究員の誰かが犯人って事はないか?」
「・・・誰が犯人なんですか?」
「それは分からない。でも、キョンシーを操る道術? それと死霊術をあんなに一度に操るスキルホルダーは限られるんじゃないか?」
「・・・探索者だと2級レベルですか?」
「2級じゃダメよ。あれだけの死兵を操るなら1級レベルになるわ」

朱野さんが難しい顔で断言した。

「1級のスキルは瀬尾くんを見れば分かると思うけど、完全にレベルが違うわ。相手に確実にダメージを与える、超広範囲を自分の支配下に置く、スキルの影響を全く受けなくなる、敵に察知されない仕掛けを設置する。どれもこれもが普通のスキルじゃ不可能よ。今回の死霊使いか道術使いはキョンシー7体、ドラゴン1体、ゾンビ3体を操ったわ」
「複数人の可能性は?」
「それでもドラゴンを操った人は2級相当よ。普通の自衛隊が色々な武器を持って20人いれば、大損害と引き換えに倒せるってとこだと思う」

確かに、あの黒い光は僕だから被害なしで終わったが、あの時の地面や建物は黒い光に抉られて黒い煙が漂ったり紫色の水晶が生み出されていた。
エイジが可能な限り吸収していたが、残っていたのはどうなったんだろう?

「あの後、警察と自衛隊に加えて神社庁からも浄化のプロが来て、あっちこっち作業してたよ」
「壊されたのは直せないけど、黒い気と水晶は綺麗さっぱり無くなったわね」

どんなスキルで浄化したのか興味があるが、神社庁?
初めて聞く名称だ。
どんな事をする場所なのか調べてみると、所属する神社の管理を担っているらしい。
正直分からない。
不正なお金とかを見つけたら正すとか、そういう事なのだろうか?
ここ島根の神社庁は出雲神社の西側に存在している。

「出雲神社から来たんじゃなくて、神社庁から来たんですね?」
「そう言ってたわよ」

朱野さんが僕にもらった名刺を見せてきた。
名刺も作っているんだ・・・。

それから僕らは、今日の昼過ぎに改めて探索者組合に行って、関係者全員で情報を擦り合わせることにした。
日野さんにもその事を電話で伝えると、「協力するなら早いうちに良好な関係を築いた方がいいな」と言って了承してくれた。
その時、神社庁のことを話したが、日野さんもピンときていなかったのだろう。
あ? うん・・・そうか、で終わった。

そして現地で撤去作業を見ている日野さんを除いて、僕らは探索者組合に再度集まった。

「瓦礫の撤去に早くても2週間かかる。死体の撤去と身元確認。死者が出たことで黄泉比良坂が刺激されていないか慎重に進めなければならない」

一条さんが眉間を押さえながら僕達に教えてくれた。
元々深く刻まれているシワが、さらに深くなっている。
いなくなった23人の手がかりも含めて全て瓦礫の中なのだから、かかる時間と労力と費用に悩んでいるのだろう。

「黄泉比良坂からモンスターが受肉したりは、今までありましたか?」
「嬉しいことに、発生してから今まで一度もモンスターが受肉した記録はない。今後もないだろうと考えられるが、万が一が起きたとき対処出来なかったら問題だからな。俺たちは戦々恐々としている状態だ」

もし受肉するとしたら、神すらも恐れて逃げ出した伝説の醜女になるのだろうか?
そんな相手に勝てるとは思えないのだが・・・。

「戻ってくださいとお願いするしかないでしょうね。情けない限りですが」
「誰も情けないと思わないですよ。国を作った神を叩き出す化け物ですから」
「少なくとも探索者でそう思う人はいないだろうよ。なんせ、危ない時は必ず逃げたり隠れたりするからな」
「批判したら、お前が行けって話になるわね」
「自衛隊も、今は警戒態勢を敷いているわ。瓦礫撤去は警察の方で行っているから、こっちは神社庁と連携して黄泉比良坂の北東南に展開している」

野中さんが疲れた表情で僕を見た。
目にクマはないが、こちらも疲れているようだ。

「神社庁って何をされている場所なのでしょうか?」
「昔は伝統的な祭事や決まりを所属している神社が守っているか確認する場所だったらしいのだけど、今は所属している神社の人事も担っているわ。お祓いや呪い、祝い関係のスキルが付いたアイテムを率先して集めて、使える人に貸与して必要と思われる神社に派遣しているの。ただ、ダンジョンアタックは彼らはできないから、必然的に微妙スキルになのだけど」
「ダンジョンに道具を持って行ってスキルを付けているんですか?」
「そうみたい」

根気のいる作業を地道にやっているらしい。
甘木のダンジョンで僕自身が体験したことを思い出す。

「瀬尾くんも経験あるの?」
「最初のダンジョンで、当時気弱だったので同級生の誘いを断れずに行きましたね。持ってた道具には、全部微妙スキルが付きましたけど」
「私も経験あるけど、100個持って行ってもいいスキル一つも付かなかったわ」
「探検者あるあるでしょうね。僕の専用装備に付いたスキルは匂いを外に出さないでしたよ。体臭を気にしなくてよかったスキルでしたけど、普通はハズレですよね」
「私が最初に持っていた武器には、体重をコントロールするっていうのが付いたわ。それも私の体重を10キロ上下するだけ。女性になんつースキルをくれてんじゃ! って思ったわ」

朱野さんは笑いながら教えてくれた。
僕の加重と同系統のスキルだったのだろう。
もしかしたら適合性次第では使えるスキルだったのかもしれないが、効果を聞く限り10%だった可能性が高い。

「島根県神社庁にも、話をしておくべきでしょうか?」
「それが一番でしょう。警察も県・市連携で対応できるように通知しておく。神社庁への対応はお願いしても?」
「大丈夫です。私の方で話をしておきましょう。自衛隊の方は?」
「現在本部に問い合わせ中ですよ。瀬尾くんがここにいるから、話は通しやすいでしょうけど」

僕がいることで、色々と都合がつきやすいようだ。
今後のトラブル対応に利用できる名前なら存分に使ってほしい。
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