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黄泉比良坂編

記者会見

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城島さんから記者会見の依頼があった。
何でも、色々なところから懇願されているらしく、僕が寝ている間に何人もの頭のつむじを見たらしい。

「どれだけの人に会ったか、もう数えるのも面倒くさくなりましたよ」

名刺だけは強制的に渡されるので、パソコンに一括で保存しているそうだ。
名前を自動であいうえお順に並び替えて、顔つきで携帯で確認できるらしい。
その中で、拒否することが出来ない人が混ざっていたようだ。

「石橋大臣ですよ」

あ~、拒否できない人だ。

「何か記者会見で言わなければならない事ありましたっけ?」
「阿蘇のダンジョンを攻略した事と、反神教団についての私的見解を言って欲しい。特に後者は教団を完全に否定してくれると助かりますね」
「それなら簡単です。質問はあらかじめ決まっていますか?」
「いくつかは決まっていますが、3つぐらいランダムになる予定です」
「分かりました」

既定の質問は5つ。
1つ、今回の完全攻略になった経緯。
2つ、僕の右腕。
3つ、強敵の感想。
4つ、反神教団について。
5つ、今後の方針。

回答を考えながらメモ用紙に記載していく。
一問につき2~3分で回答する予定だ。
質問も合わせて全部で20分。
これにランダムが3問合わさって40分以内といったところか。
可能な限りヒートアップしないように気をつけないといけない。

「なかなか真面目なのね」
「・・・朱野さんはいつまで僕たちについて来るんですか?」

阿蘇の組合で挨拶してから、何故か一緒に行動している。

「ついてきちゃダメなの? 鬼木さんには許可は貰ってるわよ? こっちのパーティメンバーも一緒に行動することに納得してるし。いざ何かあった時、私たちは戦力になるわよ」

自信満々に言うが、あの魔人の力の一部が温泉に当たるのを防いだ実力の持ち主だ。
言動に違わない実力を持っているのだろう。

「まあ、いいですよ。ただし、戦闘になったら危ない時は逃げてくださいね?」
「大丈夫よ。お姉さんを信じて」

笑顔で応えるが、僕よりも6つ上でもうすぐ25になるはず。
大丈夫と言われて安心できるほど、人生経験踏んでるとは思えない。

「木下は・・・大丈夫じゃないな」

もう既に全身を硬直させて、目を見開いている木下を見て、僕はため息をついた。
フォーマルな格好に身を包んでいるのも緊張に拍車をかけているのかもしれない。

「お、お前はよく平静でいられるよな」
「聞かれたことを答えればいいだけだよ。変なお笑い要素も必要ないし。それに、木下が答えることなく終わるはずだ。今回はな」
「・・・今回はってなんだよ」

そりゃ、第一線で活躍している如月さんと結婚するんだ。
いずれ一級になる探索者と現在一級探索者パーティのメインメンバーの結婚となると、結婚記者会見は必要になるだろう。
話題性抜群だから、記者としても取り上げたいだろうし・・・その時になったら、ブラックアイズの人たちからアドバイスも貰えるだろう。

「時間です。会場へ移動をお願いします」

案内の人が来て、城島さんが先に立ち、続いて僕と木下はついていく。
朱野さんは僕らの荷物番をしてくれるとのこと。
・・・探索者同士だから装備の重要性は分かっているはずだし、まさか僕の装備は持っていかないだろう。
他にも自衛隊の人や警察の人も見張ってるし。
強化されたベルゼブブの籠手は僕の主要装備。
無くなるとかなり痛い。

「大丈夫ですぜ、主人。もう既にあいつとは繋がっているから、あいつに何かあれば俺様が分かるから」
「そうなのか?」
「俺様の権限で作り変えましたからね。身体強化は主人から離れることはありませんが、あいつは着脱しないといけないから主人が心配するだろうと思ってリンクさせました」
「いい判断だ、エイジ」
「よっしゃ! 主人の好感度1ポイントゲット!」

そんなポイント配ってはいないのだが、これで心配事が一つ減った。

僕らが会場に入ると、複数のフラッシュが一斉に光った。
凄く眩しかったが耐えるしかない。
席の前に立って、皆んな揃ったところで一礼して席に着く。
木下があたふたしていたが、ご愛嬌だろう。

「それでは、定刻となりましたので、探索者の瀬尾一級探索者と木下五級探索者の阿蘇、灼熱ダンジョン完全攻略説明会を始めます。今回の攻略は阿蘇地区全体ではなく、中心ダンジョンの灼熱ダンジョン攻略ということをご承知おきください」

司会者が前置きをしてから「質問のある方」と挙手を促し、最初の人が当てられて立ち上がる。

「探スポの駒止です。今回の攻略ですが、かなり突発的なものだったと聞いています。是非とも経緯を教えてください」

既定の質問に、僕は頷いてマイクに顔を近づけた。

「初めまして、瀬尾京平です。まずは皆さんにお詫びします」

ザワザワっと記者たちが騒いだ。

「滅多に阿蘇から出ずに引きこもってました。この場を借りてお詫びします」

何人かが吹き出した。
初めから笑ってはいけないと思っているのか、手で口を塞いでいる人もいる。

「それでは改めまして、経緯についてですが、僕が阿蘇を離れる前に、まだ行っていない場所まで行こうと計画し、木下とブラックアイズの如月さんが参加しました。そして未踏の場所に如月さんが足をついた際に、転移系の罠が発動したことが始まりです」
「お二人は彼女を救出しに向かったそうですが?」
「はい。今回の灼熱ダンジョンは彼女のスキルでは脱出不可能なダンジョンでした」
「如月二級探索者の氷のスキルは灼熱ダンジョンと相性がいいように思えますが?」
「燃え盛る炎に一滴の水では意味がありません。今回はそういうダンジョンでした」
「ありがとうございます」

最初の質問が終わった。
次は・・・エイジのことか。

「次に質問のある方」

司会者が次へ進行して別の記者が手を挙げる。
その人を司会者が指名した。

「週刊ミラクルの中道です。私の質問はちょっと答えづらいかもしれませんが・・・瀬尾一級探索者の右腕について、どうしてそうなったかお答えいただければ・・・」

どうも質問しづらそうだ。
まあ、腕をなくした人に、今ついている腕はどうしたんですか? って質問しているのだから、何を質問しているんだろっと思っても変ではない。
この質問をしてくれと頼まれたのだろう。
僕は中道さんが変に炎上したりしないよう、ちょっと笑顔を作って、分かっってますよという雰囲気を作って頷いた。

「この右腕については、必要に迫られた結果なのですが、進化の実というアイテムを使用してこうなりました。エイジ、挨拶を頼む」
「オス! 俺様はエイジ! よろしくな!」

僕が肘をついて手の甲に有るエイジの目を記者たちに見せた。
会場全体がシーンと静まった。
まさか喋るとは思っていなかったようだ。

「俺様のワイルドな姿に惚れっちまったかい? だが俺様は主人のものだ。今回は涙を飲んで諦めてくれぇい」

エイジが続けて喋るが、残念ながら、記者たちは停止したままだ。

「あ・・・えっと、質問ある方?」

司会が意地と根性で進行した。
エイジについてはスキルシステムも含めて探索者組合から情報が発信されるはずだし、それを待ってもらおう。

「あ、私か。はい」

自分の順番を思い出した記者が手を上げた。

「はい、どうぞ」
「えっと、デイリー・ワールドニュースの友永です。えー、ちょっと衝撃的すぎて・・・ちょっとお待ちください・・・あ、これだ。灼熱ダンジョンのボスについて、だいぶん苦戦されたと聞いてますが、今思い返しての感想などありますか?」

この記者は、自分の質問もしっかりメモしておく主義だったようで、目的のページを見つけてほっとした表情で質問した。

「正直言って、凄く危なかったです。僕だけでは、絶対やられてましたし、木下と如月さんが協力しても決定打に欠けていました。阿蘇神社からの一撃がなければ今こうして喋っていなかったかもしれません」
「1番危ない! と思った攻撃はありますか?」
「僕自身が危なかったわけではありませんが、阿蘇市に向けられた高火力砲撃には危機を感じました」
「阿蘇市には結界があるので安全だと認識していましたが? それでも危険だったと?」
「あの時は、阿蘇市も攻撃のために結界を解除していたようです。例えそれがあったとしても、魔人のあの一撃が放たれていたら相当な被害が出たと思います」
「ありがとうございます。質問は以上です」

ここまでは無難に進めることができた。
個人的には次の質問が問題だ。
頭にまとめている言葉を上手く言えるか言えないかで僕の印象が変化するかもしれない。

「では次のそちらの方・・・お願いします」
「はい。朝読新聞の藤堂です。よろしくお願いします」

藤堂さんがお辞儀をしたので、僕もお返しに頭を下げる。

「もう既にご存知とは思いますが、反神教団と称する団体が声明を発表しました。今時点での瀬尾一級探索者の彼らに対するお考えを聞かせていただきたい」
「僕の彼らに対する考えですか・・・簡単に言うと犯罪者ですね」

会場が騒めいた。
僕としてはその点を曲げるわけにはいかないので直球で言わせてもらったが、彼らとしては、僕が少し認めるのではないかと考えていたのかもしれない。

「理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。僕のことを調べたらすぐ分かることですので。その反神教団に所属している人の中に、僕の祖父母を殺した人がいます」

数人、息を飲んだ。
ただ、それなりの人がその情報も掴んでいたようだ。

「他の所属している人も彼方此方で問題を起こしたり、人を殺害しています。そんな団体は犯罪組織という認識で十分です」
「参考までにですが、彼らが言っていたレベルについてはどのように思われますか?」

僕がきつく断言したせいか、心なしか藤堂さんの動きが硬くなった。
ちょっと気をつけよう。

「レベルについてですが、それ自体はあれば凄く嬉しいものです。ですが、今から授けられても凄く困るものですね」
「えっと、勉強不足で申し訳ありません。探索者としては大歓迎できるシステムだと思ったのですが、違うのでしょうか?」
「探索者で一個人なら大歓迎です。僕だけに適用されるならですが。でも、人類全てとなると混乱を招く元となります」

記者の人たちが不思議そうに僕を見た。
この人たちも、利点だけしか見ていないのだろう。

「例えば、貴方の横にいる人。彼女が探索者でレベルを上げているとします。想定でB級モンスターぐらいの身体能力としましょう。銃弾を跳ね返し、避けて、高熱だろうがものともせず、拳を振れば壁に穴を開ける。そんな人の隣に貴方は平気でいられますか?」

皆んなが隣の人を見る。
見知った顔の人もいるだろうが、大体が初めて会う人だろう。
性格も気質も分かっていない。

「ちょっとでも気に障れば暴力を振ってくるかもしれない。自分には相手を止める力はない。レベルを授かると、隣人に最大限の警戒をしないと生活できない世界に変わります」
「で、でも、そこは警察や法律で規制をかければ」
「銃弾が通じない人ですよ? 大人しく警察や法律に従うと思いますか?」

藤堂さんの顔が真っ青になった。

「レベルがあればモンスターより強くなるでしょう。それは人を完全に超越することを意味します。善人ならまだしも、悪人がレベルを上げたら・・・平気で人を暴力で支配しようとする人が出てきたら・・・どうなるか分かりますよね」
「・・・ありがとうございます」

レベルの危険性について理解してくれたようだ。
よかったと思うが、どうも怖がらせてしまったようで、多少心苦しい。

「お前から圧が出ていたんだよ」

木下が正面から目を逸らすことなく呟いた。
・・・まさか・・・僕は平静だ。

「それでは、次の質問に移ります。はい、そちらの方」
「初めまして、週刊トピックスの新沢と言います。よろしくお願いします」

新沢さんも軽くお辞儀をしたので僕も返す。

「ストレートにお聞きしますね。次の活動拠点を教えてください!」

この質問に僕は小さく笑った。

「すみません、活動拠点はしばらくない状態で、反神教団を追って東に向かうつもりです」
「彼らの居場所について、何か目星はありますか?」
「僕はその情報を持っていません。先行している探索者組合から連絡が後ほどあるはずです」
「そうですか・・・ありがとうございます」

新沢さんは残念そうに着席した。
流石に次の目的地については、例え知っていたとしても話すことはできなかっただろう。
もしかしたら、反神教団の一味がいるかもしれない。
僕が話すことで、逃げられたらたまったものではない。

「えー、では次の質問は・・・そちらの方で」


ここからはランダムだ。
注意して答えなければならない!

「はい、夜刊現在の米良です。弱小雑誌で申し訳ありませんが、一つだけ質問させてください」
「どうぞ」

米良さんがクマのある目をすごく擦ってメモ用紙を睨む。
・・・何が書いてあるのか。

「えー、如月探索者と付き合っています・・・か? え? これ誰が書いたんだろ?」

本当に、誰が書いたんだ?
こんな場で聞く質問じゃないだろ。

「付き合っています!」

大声で木下が答えた。
おい、それ答えて大丈夫なのか!?
一部の女性探索者はアイドルクラスでファンがついているんだぞ!?

「えっと・・・それは結婚を前提ですか?」

何で続けようとする!

「木下! 考えてこた・・・」
「結婚を前提です!」

おおーっと記者たちがどよめいた。
しかも、携帯ですぐさまメッセージを送っている!

「待ってください! ちょっと待ってください! 木下! その結婚を前提ってのは、もちろん如月さんには言ったんだよな? プロポーズはもうしたんだよな?」
「え? ・・・付き合ってってのは随分前に言ったけど」
「違う! 結婚を前提に付き合ってくれって言ったんだよな!?」
「え? 言ってない。だって、付き合ったらだいたい結婚するもんだろ?」
「バカ!」

ダメだこいつ!
「結婚を前提に」と言う言葉を入れたプロポーズがどれほど女性にとって重要か分かってない!
本当は日本人的に衆人観衆の中でプロポーズはアウトだが、テレビで伝えられるよりは遥かにいい!

「すみません、こいつがバカなことを言いました。・・・これって生放送ですよね?」

司会者が黙って頷いた。

「今からこいつを連れて如月さんを追います。行くぞ!」
「え? 何で? おい!」

この後、僕の銀行からお金を引き出して、福岡のハリー・ウィンストンで6号の指輪を買って、如月さんを新幹線内で見つけてからプロポーズさせた。
生放送を見ていなければよかったのだが、もう見ていたようで、最初はブスっとしていたが、2000万の指輪を見た瞬間表情が変わって、膝をついている木下に抱きついた。

変な蟠りのキッカケにならずに済んだ。
よかった・・・。
お金は魔石のお金が入ってから返してもらおう。
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