上 下
87 / 120
阿蘇ダンジョン攻略編

炎獣と金棒

しおりを挟む
「キュルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!」

アルマジロの声が響く。
同時に火の弾丸と球が混ざって降り注いだ。
それを僕は避け、打ち払い、受け流す。
ただ数が多い。
そして、地面に穴が開くため移動が難しくなる。
火の弾丸が止んだ。
すぐに移動する。
アルマジロの皮骨が赤く光った。
僕が横に跳ぶ。
熱線が空気を焼いて地面に赤い川を作り出した。
大鎚を構える。
アルマジロが球状になって回転を始めた。
あれが来る!

「くそ!」

あれは意外とタメからの発動が短く、僕が距離を詰める余裕がないため、後の手を考えないと攻略できない!

向かってくるアルマジロ。
僕はそのラインから飛び退いて大鎚を振り回す。

「このクソ!」

ゴガァン! と音が響いて大鎚とアルマジロが衝突する。
力が拮抗したのは一瞬。
1秒後には大鎚は弾かれ、僕の身体も大きくのけ反った。
だが、アルマジロもそこから追撃することなくスキルの範囲から出て身体を元に戻して忌々しげに僕を睨んだ。

「はぁ、はぁ・・・。クソッタレ!」

口から出る悪態が止まらない。
正直言って突破口がなさすぎて悪態でもつかないとやってられない気持ちになるのだ。
攻撃力は圧倒的に向こうが上だ。
こっちは小回りと技術でなんとか凌いでいる状態。
ただ、アルマジロとしてもその小回りと技術のせいで決定打が見出せない状況なのだろう。
だからと言って不用意にスキルの範囲内にあいつを入れることはできない。
突然の回転スキルと火の弾丸に対応できるか不安だからだ。
スキルの範囲外だが、アルマジロのスキルに対応できる距離・・・。
それが今の僕の立ち位置だ。

「何やってんだ! 京平!」

外野が叫び出した。

「マゴマゴしてんな!」
「うるさい! こっちは生命力奪っても元気なやつを相手にしているんだ! いちいち叫ぶな!」
「お前の要領が悪いからだろうが! そんなやつ、向かってきたら打ち返せよ!」
「・・・」

打ち返す?
高速で回転するあれを?
さながらプロ野球選手やメジャーリーガーのように?

「出来るか! あれを野球のボールみたいに言うな! 僕が踏ん張れないほどの威力があるんだぞ!」

「キュルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!」

アルマジロが叫んで火の弾丸が降り注いだ。
僕は大鎚で防いで駆け出す。
アルマジロは僕のスキル範囲に入ると同時に身体を丸めて回転を始めた。
ダメだ!
さっきと一緒だ!
僕は止まって大鎚を構える。
向かってきたら、すぐに横に跳んで大鎚を振る。
あの巨大な球体を打ち返すイメージを脳裏に描く。

「こい!」

ゴガァァァァン!

大鎚をバットのように振り抜く! 振り抜く! 振り・・・抜けない!
さっきの同じように大鎚は弾かれて僕の身体はのけ反り、アルマジロはスキル範囲外まで転がっていく。
今回は範囲から出てすぐに元に戻らずに、壁際まで転がって僕と距離を開け、ゆっくりと元に戻った。
多少なりともダメージを与えれたと思いたい。

「バカやろう! 全然違うだろうが!」

ヤジが飛んできた。

「うるさい! こっちは野球なんて真剣にやったことないんだよ!」
「だからって、ハンマーをバットがわりする奴はいねー!」
「これしか武器がないんだ!」
「俺の付与で作ったんなら他のも出来るだろうが!」
「そんな機能は知らない!」

さっき出来たのにすぐに応用しろとか、無茶振りすぎるだろ!
ひとまずバットをイメージだ!
・・・手に棒が握られていた。

「ちげー!!」
「うっさ! うぉ! ちょっと待て!」
「キュルルルルルルルルルル!」

アルマジロから火の球が飛んできて、僕は棒で打ち返す。
なるほどこんな感じか?
流石に弾丸は小さすぎて無理だが、球ぐらいの大きさであればこの棒でも打ち返せる!
なら、あの図体なら4分の1ぐらいの大きさのバットがあれば打ち返せるか?
いや、それ以外にも踏ん張りという問題が残っている。
アルマジロの全体重を掛けた攻撃に、僕の体重は軽すぎる。

「あと、加重を使え! 押されてるぞ!」

木下が横からアドバイスを出す。
なるほど加重か。
・・・一歩間違えれば大ダメージは免れないが、8階9階はそういう場所だ。

僕は加重を使い、手に持った棒をバットらしき物に変えて巨大化させる。

・・・なんか違う・・・。
攻撃力が足りてないのか?

僕はさらにそこから、棘が出てるバットをイメージしてみた。
参考にするのは釘バット・・・いや、鬼の金棒だ。
あれなら棘が折れることはない。
アルマジロの皮骨を破壊することも出来るはずだ!
イメージしたバット・・・いや、鬼の金棒を僕は構えた。

「こい!」

打ち返すつもりで構えるが、アルマジロは僕の考えを無視して皮骨を真っ赤に染めた。
また熱線か・・・。
そう思ったら、アルマジロはそこから更に身体を丸めて回転を始めた。
地面はアルマジロの熱で溶けて、溶岩が飛び散る。

・・・まさか、あれでくるのか!?

あれを打ち返すとなると、今の装備では熱がまずい!
近寄るだけでもアイスアーマーは蒸発してしまう!
一旦避けるか。
僕が金棒を下ろそうとすると、アイスアーマーが何かに応えるかのようにビキビキと音を立てて分厚い物へと変わっていく。
如月さんを見ると、真剣な表情で僕を見ていた。

・・・やるしかなさそうだ。

炎の金棒を中断に構える。

「俺の言ったこと無視かよ!」

黙れ!
お前の言う通りにしてやるんだ! 集中させろ!

アルマジロに意識を集中させる。
強化されているとはいえ、意識を逸らすことはできない。

握りに力を入れて右手だけ緩める。
アルマジロが跳ねて来た!
速い!
だが、向きが違う。
このままだと僕に当たらない?
いや、回転が違う!

焦って金棒を構える。
足の向きも重要だ。
重心を右足に置く。
アルマジロが曲がって僕に向かって来た!
カーブ? スライダー?
分からない! どうでもいい!
後ろに飛んでアルマジロがいい位置に来るようにし、一気に金棒を巨大化させて振った!

べギャ!

何かが潰れた。
それを確認する余裕も時間も僕にはない。
押される力に対抗する。
ジュゥゥゥとアイスアーマーが蒸発していく。
僕は一刻も早く打ち返そうと足を踏ん張る、腰を捻る、両手に力を込める。

「このぉぉぉぉぉぉおおおおお!」

アルマジロの回転が止まらない!
酷い音を立てながら金棒の棘を削る勢いで回転を続ける!
またしても僕の足が地面を掴み続けることができずにズルズルと後退を始めた。

・・・ここまでか。
木下と如月さんが参戦すれば、確実に仕留めることができる。
僕だけでは不可能だけど、2人が加われば・・・

「出来るかぁ!」

認めてたまるか!
何か奇跡を!
この状況を打破する何かを!
右足がガクッと何かにハマった。
後ろに押される力にハマった場所が壁となって勢いを止める。

いまだ!
どうする!
何すればいい!

「かち上げろ!」

木下が叫んだ。

「正面に打ち返すな! 上だ! 上にあげてぶちかませ!」

正面にかけていた力を斜め上へ、そして更に上へと向きを変える。

「おおおおおおおおおおお!」

アルマジロ回転はそのままに上へと押し上げる。
そうすると、地面から得られる力をアルマジロは得ることができずに、押す力があっさりと消え去った。

「ぶっ飛べ!」

上空に打ち上げる。
力を失って回転しかできないアルマジロに、僕は金棒を大鎚に変えて振りかぶった。
ブンブンと振り回して、遠心力をつけて落ちてくるアルマジロに大鎚を叩きつけた。
壁に叩きつけられるアルマジロ。
回転するスキルも終わったのか、壁にめり込んだ状態で元の姿に戻っていた。

チャンスだ!

「潰れろ!」

正面から、上から、横から大鎚を振り回して叩きつける。
何十発と叩きつけると、ようやく頭の皮骨がベキッと割れた。

「ふん!」

割れた場所をさらに叩く。
そうしてようやくアルマジロが光に変わり出した。

・・・やっとだ。

全身から力が抜けてその場に座った。

「京平!」

木下と如月さんが駆け寄ってきた。
・・・単独突破を狙っていたけど、結局こいつからアドバイスを貰いまくってしまった。
・・・情けない。

「これで満足かよ」

木下が不機嫌そうに手を出した。
僕はその手につかまり、ゆっくりと立ち上がったが、流石に疲れた。
体がフラつく。

「帰りはモンスターハウス以外は頼む」
「ああ、そんぐらいはするさ。くそ・・・俺の役立たず・・・」

ぼそりと言った言葉が聞こえてしまった。
こいつは何を言っているんだ・・・?
僕の方こそ決め手に欠けていた状況で木下のアドバイスがなかったら、アルマジロの下敷きになっていた可能性が高いのに。

そのことを言ってやろうと思ったが、面倒くさくなってやめた。

「それじゃ、帰ろう」

出口に向かって、僕たちは歩き出した。






「俺とは遊んでくれないのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

なんだろう、婚約破棄の件、対等な報復を受けてもらってもいいですか?

みかみかん
恋愛
父に呼び出されて行くと、妹と婚約者。互いの両親がいた。そして、告げられる。婚約破棄。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

処理中です...