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阿蘇灼熱ダンジョン編

第二回灼熱ダンジョン2日目午前

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2日目の朝。
十分な睡眠をとって体調万全で起きることができた。
前回とは大違いだ。

「瀬尾くん、起きて早速だけど加重お願い」

すぐにはMAXの重さに上がらないので、デッキを降りてスキルを使い、土に埋まったゴーレムの上に乗った。
ただ、すごく時間がかかった。
ファイアゴーレムはその硬さに特化した個体で、B級でも硬さだけならAに匹敵する。
昔天外天が噴火の際に戦った時は、腕と足を梃子の原理で折り飛ばして、動かない状態にしてから核を探して砕いたらしい。
それでも、僕が最初から加重を貯めるより時間がかかるために僕に任されている。

5分経ってようやく頭が割れて一気に崩壊する。
昔倒したカブトムシより時間がかかっている。
B級なのにそんなに硬いんだ。

デッキの上に僕が乗れないため、莉乃さんたちがテントを片付けて僕はデッキを解体する。
それから各自用を済ませて、トイレの幕を取って全部カートに入れた。
魔石もそこまで取っていないので、カートにはまだまだ余裕がある。
でも、A級が2つ入っているから前回よりも金額的には上になる。
最後に、安全確保のため、広間内の全てのモンスターを倒してお香を消した。

「それじゃ、2日目がんばりましょう」

僕の言葉に4人が頷いてさらに奥を目指す。
A級モンスターはまだ狼がいる。
他のモンスターと違って、天外天でもダメージを通せる敵だが、問題は俊敏性と攻撃力、そして肉食系動物の勘だ。

「そういえば、カバがいないんですよね」
「もしかして、最初の部屋にしかいないモンスターなのかも」
「あー、いるねそういうモンスター」
「レアじゃないけど、場所固定のモンスターですか・・・。あの場所に行くには、広間を一つ通り抜ける必要がありますよね。・・・今は奥を目指しましょう。今回の探索は情報も評価に入るはずです」

スモモの魔石が手に入らないと企業はガックリするだろうが、それは運だと思って諦めてもらおう。

「帰りにも必ずあの広間は通りますから、最低2個は確保できます。企業もそれが分かれば、算段が出来ますよ」

最初の二つをどの企業がもらうかの話し合いはあるかもしれないが、確実に手に入る保証があるのだから拗れたりはしないはずだ。

僕らは先の道を進んで、途中で何体か踏み潰し、次の広間を目指す。

「カバいた・・・けど」

莉乃さんと高城さんの敵意察知に反応があって広間を覗くと、カバ2匹と大狼が警戒の目をこっちに向けていた。

「相手も敵意察知か索敵関係のスキル持ちですね。僕らの存在を把握しています」
「危険察知だと、瀬尾くんを一番に警戒すると思う」
「私たちで大狼を引き受けることになるかな。カバは一撃で踏めそう?」
「麻生さんからバフをもらえれば確実に」
「今回はみんなにバフするよ。噴火のとき戦ったのと同じ能力なら、バフしないと反応速度が間に合わない」
「何回か私の後ろを取られたからね。高城ちゃんが助けてくれなかったら危なかったよ」
「そうですね。素早さと、爪と牙には気を付けましょう。後ろを取っても、尻尾や後ろ蹴りがあるから注意が必要です」
「ドラゴンバスターは避けられそうですよね。今回は無しで危なくなったら生命力吸収を使います」

全員が頷いて、順次麻生さんのバフを受けた。

「それじゃ、3・2・1、GO!」

一気に広間に飛び出して、モンスターが動き出す前に植木さんが光を走らせて棘を一斉に出現させた。
大狼はすぐさま跳び上がって壁を蹴って回避したが、カバたちはそうはいかずに一体は下半身を持ち上げられ、もう一体は脇腹を削りながら回避した。
僕は下半身を持ち上げられてるカバに狙いを定め飛び掛かる。
カバも僕の行動に気づいたのか、身を捻って回避しようとしたが僕の方が一歩早かった。
捻ろうとしたカバの横顔に僕は着地してゴキバキ! という音と共にカバの側頭部を踏み砕く。
即死でなくとも、戦闘不能なことは明らかなので、急いでもう一体を探すと、そいつは植木さんに襲いかかっていた。
植木さんもカバの口を壁を作り出してなんとか防いでいるが、カバの顎の力の方が強いのか、徐々にヒビが入っていく。

「逃げられないようにしてください!」

僕は叫んで足のレバーを上げた。
植木さんは僕の声に反応してカバの周囲をコの字に囲った。
ただでさえ壁に噛み付いていて動きが制限されているのに加えて、周囲を囲われることで逃げ場がなくなったカバは、僕のドラゴンバスターを胴体にくらって、千切れて光となり消えていった。

「後は大狼だけよ!」

大狼を見て、植木さんが床から大きな棘を作り出し、大狼に向けて一気に伸ばす。
莉乃さんたちは植木さんの攻撃を予測していたのか、すぐに射線から離れる。
大狼も異常なまでの俊敏さを発揮して、天井へ避難した。
どうやっているのか分からないが、天井で逆さまにになって降りてこない。
爪を天井の凸凹に引っ掛けているのだろうが、そんなんで支えれる体重じゃないだろうっと心の中で突っ込んで、僕は生命力吸収の準備をした。

「まだ待って」

突然、麻生さんの声がした。
周囲を見渡すが、彼女の姿が見えない。

「私たちを信じて。瀬尾さんの助けがなくてもA級を倒せることを証明したいの」

先日の大猪の件もある。
あの時、僕は生命力吸収は使っていないのだが、僕の加重とドラゴンバスターも使って欲しくないみたいだ。
彼女たちのプライドもあるかもしれない。
僕は一歩下がってみんなの戦いを見守ることにした。

大狼が腕を振るう。
その速度で爪が斬撃を作り出して壁や床に爪の跡を作り出す。
・・・昔、鬼木さんが斬撃はできても風が出るだけと言ってたが、ここに斬撃を撃つ奴がいます。
あの速度を真似すればと思うが、やった瞬間に腕の筋肉がズタズタになりそうな速度だった。
確実に人間とは作りが違うのだろう。

「私の方が速いわよ!」

その速度に張り合う莉乃さん。
洒落でもなく、韋駄天と速度アップバフで大狼の周囲を飛び回っている。
恐らく、韋駄天の複合スキルに身体強化に近いスキルがあるのだろう。

大狼が腕を振るう。
その側を莉乃さんが潜り抜ける。
大狼が莉乃さんを噛もうとする。
莉乃さんが地面を蹴ってその顎門から逃れる。
一瞬でも気を抜けば死神が笑う戦いが繰り広げられている。
そこにいくつもの残像が割って入る。

「こっちはホンモノのよ!」

高城さんの持っている刀が大狼の歯茎にザックリと突き刺さった。

「ゴオオオオオオオオォォォォ!」
「口の中は弱いのね! 私でも行けるっていい情報よ!」

口を振って高城さんを吹き飛ばそうと試みるが、もうそれは実体ではない。
鼻を動かして実体を掴もうと顔を振る。

「その鼻は潰すわね」

ブシュッと姿が見えない誰かが、大狼の鼻に赤い煙を吹きかけた。
麻生さんだっと思ったとき、大狼が悲痛の叫び声を上げた。
心なしか、目に涙が浮かんでいる気がする。

「松尾食糧と大鷲製薬の合作よ。どんな動物モンスターでも撃退しますってね。ただ・・・」

大狼が鼻の痛さに耐えきれず、何も見ずに周囲へ闇雲な爪撃を飛ばし始めた。

「これは予想外よ!」

麻生さんが急いでみんなのバフを更新してどこかに隠れる。
多分、植木さんが作った壁の向こうに一緒に隠れているのだろう。
フゥフゥ言いながら涙目の大狼が僕たちを睨みつける。
恐らくあの鼻はしばらく効かないに違いない。

「勝負どころですよ!」
「分かってるよー! 京平くん! 私の素敵な姿を瞼に焼き付けてね!」

莉乃さんが大狼の眼前に現れ、そこから急加速して首を一周し、瞼を掴んで単槍を力の限り突き刺した。

「ガァァァァァァァアアアアアアアアア!」

首を大きく振り回す大狼の瞼をすぐに離して単槍を引き抜いて莉乃さんが退避する。
大猪もそうだが、巨大な動物を攻略する際は目を狙うのが一番早いな。
そして、この戦いの終わりも近い。
大狼の残った目が横に立って刀を振りかぶった高城さんを捉えた。
大きな口が彼女に向けられ、一瞬の後に閉じられる。

「残念。それは残像よ!」

空を飛べない高城さんでも手が届くぐらい、大狼の目がそこにある。
大狼がこの戦いで1番のミスを犯した。
高城さんの刀が柄の部分まで目の中に埋まり、彼女は無慈悲にそれを捻った。

「グォォォォオオオオオオオオオ!」

最早何度目か分からない大狼の叫び。
そして大狼の足元が徐々に下がり、その足を地面に埋めていく。
十分に埋まったところで腹の下にそれが生えた。
とてつもなく鋭利に尖った地面の棘。
天井には平たくハンマーみたいな物が見えた。

「瀬尾くんの真似よ。大質量、大重量攻撃。喰らいなさい!」

天井から巨大なハンマーが落ちてきて、大狼の体を打ちつけて鋭い棘が腹に突き刺さる。

「もう一丁!」

ズドン!

短く鈍い音が響いて、大狼の体が光に変わりだした。

「や・・・やったぁぁぁぁぁぁ~」

莉乃さんがその場で横になった。

「疲れたわ。ちょっと休ませて。何かお腹に入れたい」

高城さんもその場に座って、麻生さんの近くにいるカートに手を伸ばす。

「何とか勝てたわ。これで私たちにも文句は出ないでしょ。休憩が必要だけどね~」

麻生さんと一緒に植木さんが歩いてくる。

「私も役に立つことができたと思いたいな」

バフで十分に役に立ってる麻生さんが不安そうに喋って、カートから携帯食糧を人数分出して配って行った。
僕も1つもらってカバーを剥いだ。

「あ、あった」

A級魔石を見つけてカートに入れる。
それからフェイスガードを上げて、食料に齧り付いた。
多少ハラハラしたが、結果から見れば、装備も壊れることなく、天外天メンバーの完勝と言ってもいい状況だった。
そして、これで魔石がAが3個、スモモが3個、Bが30近く。
お金至上主義の人だったら「もう帰ってもいいんじゃない?」と囁きそうな成果だった。
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