上 下
25 / 120
阿蘇灼熱ダンジョン編

灼熱ダンジョン2日目

しおりを挟む
2日目の朝を迎えた。
朝日は上らない場所で全く変わらない景色だが、時間の管理をしっかりしておかないと体調や感覚が狂ってしまうため必ず起きる。

「みなさん、朝6時です。起きる準備をしましょう」

冷却装備を着たまま寝ている4人に声をかけていく。
結局、交代しながら寝ても途中途中でモンスターが来て起こされてを繰り返したため、満足に寝れたのは1時間もなく後は途切れ途切れに半覚醒状態で横になっていただけだった。

「うがぁぁ、眠い」
「ダンジョンに泊まるってこういう事なのね。初体験よ」
「りーの、起きなさい。瀬尾くんが見てるよ」
「あ・・・ぐ、ぐぅぅぅぅ」

野営に慣れていないので、こういうのも初体験なのだろう。
天外天は3級として実力もあるのだが、異界ダンジョンなんかは行ってないのだろうか?
あのてのダンジョンは必ず野営をするはずなのだが。

「時間をかけて起きましょう。ほぼ床に寝たような状態ですので、体も硬くなっていると思います。関節を伸ばしながら整えていくといいですよ」

入念にストレッチをしながら、僕は他の人たちの冷却装備のバッテリーを確認していく。
僕のは2日ぐらい保つと説明書に書いてあったが、余裕を見て今日の昼には交換するつもりだ。

「みなさんのバッテリーはいつなくなるとか説明書に書いてありましたか?」
「1.5日で交換を推奨って書いてあったわ。どうしよう。いっそB級に変えておくのもありかもしれない」

高城さんと相談して、天外天のメンバーのバッテリーは外接の物に取り替えることになった。
それから朝食を摂って、テントと土台を解体してカートに入れる。

「それでは次の広場に行きましょう」

初めてのダンジョンなので、マップもモンスターの分布図も全くない。
何が起きてもおかしくないので、慎重に移動を開始する。
移動中に火鼠が6匹出てきたが、範囲内に入ったらあっさりと倒れたので踏み殺した。
加重も朝から継続使用しているため、重さがとんでもないことになっているみたいで、地面にヒビが入っている。
ベルゼブブの籠手を装備しているので僕の体には影響ないが、持っていたら自分の攻撃の衝撃で骨折してもおかしくない威力だ。

「あの足の攻撃って加重だったよね?」
「うーん、私の知っている加重じゃないけど、加重ね」
「京平くんに聞いたことあるけど、下への攻撃にしか効果が発揮されないらしいよ。乗り物に乗る時は必ず解除してるんだって」

まだ、スキルの適合性のことは発表してないのかな?
そのまま広場に到着するとそこにジャイアントファイアゴーレムがいた。
しかも普通のファイアゴーレムも3体いる。

「どうしましょうか・・・」

生命力吸収が効かないから、僕に発言権はない。
この場は天外天の案に任せるのが一番だ。

「私としては、瀬尾くんの加重が十分ジャイアントに通用すると思う」
「でも、動き回っているからクリーンヒットはできないと思うの」
「私の地魔法で行動を阻害することはできるかな。暴れられたら力負けすると思うけど」
「でも、それは邪魔がいなければの話よね。普通のやつが邪魔になるわ」
「私たち4人ならデカいのを止めれるよね?」

4人が顔だけ出して部屋を覗く。

「・・・東田みたいなタンクなら余裕なんだろうな」
「全力で避け続けるしかないね」
「私の韋駄天と高城ちゃんの残像か」
「ゴーレムに残像が効くかどうか・・・やるしかないけど。ってことで瀬尾くん」
「はい」
「でかいのは引き付けておくから、全部踏み潰して。よろしく」

単純明快な指示に、僕は頷いて駆け足の体勢をとった。

「それじゃ・・・GO!」

高城さんの合図と共に、僕らは一気に飛び出す。

「まずは私よ!」

モンスターの足元に無数の棘が飛び出して行動を阻害した。
一瞬モンスターの行動ができなくなるが、ジャイアンは力任せに棘を蹴り折る。
ノーマルサイズも折って出ようとするが、その前に僕は身体強化で飛び上がって、1体目を踏み潰した。
とてつもない音がして、ゴーレムの頭と胸が砕け散る。
続いて2体目を見ると、既に半身を棘の囲いから出していた。
すぐさま2体目の頭に跳び移って、加重の重さで床に倒し、再度跳び上がり踏み潰す。

「3体目!」

目を向けると3体目は麻生さんを狙っていた。
麻生さんは剣で攻撃を担うアタッカーだが、それ以上に重要な役割が一つある。
それは味方に対する速度上昇付与というバッファーの役割だ。
莉乃さんの韋駄天は十分高速を出せるが、他の人たちはその速度に追いつくことができず連携が難しい。
その差を埋める役割が彼女なのだ。

「させるか! うぉ!」

ジャイアントが腕を回して風を起こす。
跳び上がれば風を受けて押し戻されるため、走って3体目に駆け寄った。

「きゃっ!」
「おっと! 危ない危ない」

麻生さんを掴もうとした手を僕が掴み、力を込めてその体を持ち上げた。

「身体強化を使ってもこんなに重いのかよ!」

頭上に持ち上げたそれを放り投げ、風がおさまったタイミングで高く跳び踏み潰す。

「麻生さん、すみません。近寄らせてしまいました」
「大丈夫。助けてくれてありがと」
「それじゃ、後はジャイアントだけですね!」

莉乃さんと高城さんが接近戦で攻撃し、植木さんが魔法をジャイアントファイアゴーレムに放っているが、全くと言っていいほど効いていない。

「カバ擬きとは大違いだな。これがA級と戦うってことか」

手始めに、僕の身長の3倍はあるゴーレムの左足の甲を思いっきり踏む。
ビキッ! と大きな音を立ててヒビが入った。
二足歩行を倒す上で最も効果にある場所。
足を壊せば、こいつは動くことができなくなる。

「おっと!」

ジャイアントの拳が僕の横を通り過ぎる。

「麻生ちゃん! 京平くんにもバフ!」
「分かってる!」

僕の体を青い光が包んで動きが軽やかになった気がした。

「気をつけて! 1.5倍速だよ!」
「ありがとうございます!」

ジャイアントの攻撃を避けながら少しずつ距離を開けると、ジャイアントがその差を詰めようと足を踏み出す。
ビキビキっとヒビが大きくなる音がした。

「右足も行きます!」
「無茶はしないで!」

莉乃さんと高城さんにジャイアントの注意が向いている隙を狙って、右足を狙って跳び上がると、その右足が突然移動した。
完全に僕の行動が予測され、跳ぶ瞬間を狙われてしまった!
次に来る蹴りに備えるべく、僕はベルゼブブの籠手でガード体勢を空中でとるが、それは襲いかかってこなかった。

「魔法の効果が上手く出ない! もっと深い穴にするつもりだったのに!」

ジャイアントの左足が突然できた穴にはまっていて、体勢を崩している。
これ幸いと、僕はすぐさまジャイアントに駆け寄り、右足の甲を踏みつけた。
左足にヒビよりも大きな亀裂が入って、ジャイアントが体勢を戻そうと右足に力を入れた瞬間、バキバキっと音を立てて完全に割れた。
そうなるとジャイアントは体重を足にうまくかけることができずに、前傾姿勢のままゆっくりと倒れだす。
僕は倒れるジャイアントの足から背に乗って何度も踏みつけた。
おそらく、僕の加重はこのジャイアントファイアゴーレムと同等以上の重さになっているはずだ。

「腕は封じたわ! やっちゃって!」

僕からはわからないが、植木さんが何かをしたらしい。
最高の重さを与えるべく、僕は高く跳んで、手加減なく思いっきりジャイアントの背を踏み潰した。

ベキバキと大きな音を立ててジャイアントファイアゴーレムの体が上下に分かれて、紫の光になって消えていく。

「や・・・やった・・・」
「よかった・・・やっぱりA級はきつい」
「攻撃が全然通らなかった」
「魔法も上手く発動しなかった。干渉されてたのかな」

それぞれが気づいたことや感じたことをその場で共有し始める。
僕は足元にあったそれを掴んで持ち上げた。

「A級の魔石」
「「「「!」」」」
「忘れてましたね」

4人とも僕から目を逸らした。

「えっと、いくらになるのかな?」

あからさまな話題逸らしだが、ここは乗ってあげよう。

「前回の噴火の際に出た物は、国が一つ13億で買ったらしいですよ」
「じゅ! 13億!!」
「え? え? 金持ちになっちゃう? 私たちもう勝ち組決定?」
「借金全部返せる。家もいい場所で買えるかも」
「私は、いい武器でも買おうかな・・・」

それぞれ夢が頭の中を駆け巡っているようだが、莉乃さんだけは、お金よりもアイテムの方が欲しいみたいだ。

「僕も魔法系のアイテムが欲しいですね。とりあえず、ここにテントを張りましょう。魔石はもう十分でしょうから、当初の宝箱探しをして・・・敵は避ける流れで行きましょうか」

僕の提案に、4人は何度も頷き、軽やかなステップで土台を作り始めた。
僕はリンゴぐらいの大きさの魔石をカートに入れて床の材料を持っていく。

「京平くん、ありがとうね」
「宝箱至上主義なんでしょ? みなさんが辞めるまで探しましょう」
「うん・・・」

テントを張って、少し休憩をとり、僕の冷却装備の魔石を交換して、ここをベースにして短時間で探索できる場所を午後は探した。
あまり離れすぎると、テントがダンジョンに吸収されかねないため、定期的に触っておかないといけないのだ。
モンスターとはなるべく戦わない方向で行動し、コウモリや鼠や蜥蜴など、どうしても襲いかかってくるものだけは僕が踏み潰した。

結局、この日も宝箱を見つけることはできずに、魔石だけがカートを埋めることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...