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7 何ゆえに
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(とりあえず、明日のためにも屋敷を見て回ろう)
これだけの広さのお屋敷だ、仕事を探せばいくらでも見つかるだろう。
私はひとまず、自分の寝室を探す意味でも一階の探索を始める。
間取りは玄関ホールが大きく作られていることを除けば割と一般的で、寝室となる個室は二階に集められているらしく一階には存在していない。
どう考えても一人で住むような造りではないし、あまりにも生活感が皆無なせいで一人が住んでいるとも思えない有様で。
台所もほとんど使われた形跡がなく、食料倉庫には味気ない保存食が山のように連なっている。
アルス様が普段、どういった生活を送っているのかが目に浮かぶようだ。
(多分、あまり家にいる機会がないだけだとは思うけど)
業務の都合上、外回りが多いのだろうし。
おまけに執務室にあった書類の山だ、使用人を急募していたのも頷ける。
「だとしたら、なぜ募集の人数が一人だけだったのかしら」
あまりに空間が静かすぎて、思わず呟いてしまった言葉に、
「大勢に周囲をうろつかれると落ち着かないからな」
「……!」
予期せぬ返答が背後から帰ってきた。
「まだ休んでいなかったのか」
「申し訳ございません。部屋を決めあぐねてしまって」
あまりに突然のことすぎて、半分本当で半分嘘の返答をしてしまう。
決めあぐねていたのは本当だが、起きていたのは作業の段取りを考えるためだ。
「確かに、これだけ部屋があるとな」
一部客室が含まれているとしても、二家族は住めそうな部屋数。
「アルス様の寝室はどちらにございますか」
この際ついでなので、気になっていたことも聞いておく。
「私は執務室のソファーで寝ている。他の部屋は基本使っていない」
「こんなに部屋があるのに、ですか?」
思わず聞き返してしまった言葉にも、
「あそこが一番玄関に近いからな」
さも当然、と言わんばかりの返答が返ってくる。
「……なるほど」
その返答を聞いて、アルス様の生活イメージがより強固なものとなった。
「でしたら私も、一階にある使用人控え室を使うことにします」
正直私も、いちいち二階へ上がるのも一階へ降りてくるのも面倒だと思っていたところで。
アルス様も同じ理由なのであれば話は早い。
「ふむ、そうか」
一瞬、何かを言いかけたように見えて含みだけで言葉をしまうアルス様。
こんなに部屋があるのにか、なんてことを言おうとしていたのなら面白い。
「部屋も決まりましたので、そろそろお休みをいただこうと思います」
私がうろうろしていたせいで、アルス様に余計な気を使わせていたのであろう。
屋敷の間取りは十分に把握できたおんで、これ以上の探索も不要だ。
「そうだな。私もこのあたりで休むとしよう」
私の返答に満足したのか、アルス様が執務室へと戻っていく。
私もその背について一階へ戻ると、玄関ホールで別れて控室へと向かう。
「……よっ」
そしてそのまま、少し埃っぽい布団の上へと身を投げた。
使用人が入れ代わり立ち代わりしているのに埃っぽいのは、おそらくこの部屋を使うものがいなかったからだろう。
二階にあれだけ豪華な部屋があるのだから、簡易なベッドとタンスしかないこの部屋を好き好んで使う意味はない。
そういったことも含めて、アルス様はああいった反応をされたのかもしれない。
(確かにこれだけの屋敷、一人で管理するのは骨が折れるな)
おまけにこういった上流階級の家に来る使用人は、基本的に縁を作りに来た別の家の者がほとんどで。
生活に困っているならまだしも、そうでないら長続きしないのも頷ける。
(まずは屋敷全体の埃を払って、それから荒れた庭の手入れを……いや、まずはそれより)
頭の中で次から次に、こなすべき仕事が浮かんできて。
「……ふぅ」
それらを一息入れることで、一旦頭の隅へと追いやった。
レイド様に追い出されてから数日しか経っていないというのに、あまりに多くのことが起こっている。
それは裏を返せば、これまでの生活があまりにも何もおこらないものだったとも言えた。
(……一度に多くを考えようとするのは、私の悪いクセだ)
今度は息をゆっくり吐いて、それから目を瞑る。
明日も朝は早いし、やることは山積み。しっかりと備えておかなければ。
こんな時、いつもなら悶々として結局眠れないことも多いのだが。
その日はなぜだか、ぐっすりと眠ることができた。
これだけの広さのお屋敷だ、仕事を探せばいくらでも見つかるだろう。
私はひとまず、自分の寝室を探す意味でも一階の探索を始める。
間取りは玄関ホールが大きく作られていることを除けば割と一般的で、寝室となる個室は二階に集められているらしく一階には存在していない。
どう考えても一人で住むような造りではないし、あまりにも生活感が皆無なせいで一人が住んでいるとも思えない有様で。
台所もほとんど使われた形跡がなく、食料倉庫には味気ない保存食が山のように連なっている。
アルス様が普段、どういった生活を送っているのかが目に浮かぶようだ。
(多分、あまり家にいる機会がないだけだとは思うけど)
業務の都合上、外回りが多いのだろうし。
おまけに執務室にあった書類の山だ、使用人を急募していたのも頷ける。
「だとしたら、なぜ募集の人数が一人だけだったのかしら」
あまりに空間が静かすぎて、思わず呟いてしまった言葉に、
「大勢に周囲をうろつかれると落ち着かないからな」
「……!」
予期せぬ返答が背後から帰ってきた。
「まだ休んでいなかったのか」
「申し訳ございません。部屋を決めあぐねてしまって」
あまりに突然のことすぎて、半分本当で半分嘘の返答をしてしまう。
決めあぐねていたのは本当だが、起きていたのは作業の段取りを考えるためだ。
「確かに、これだけ部屋があるとな」
一部客室が含まれているとしても、二家族は住めそうな部屋数。
「アルス様の寝室はどちらにございますか」
この際ついでなので、気になっていたことも聞いておく。
「私は執務室のソファーで寝ている。他の部屋は基本使っていない」
「こんなに部屋があるのに、ですか?」
思わず聞き返してしまった言葉にも、
「あそこが一番玄関に近いからな」
さも当然、と言わんばかりの返答が返ってくる。
「……なるほど」
その返答を聞いて、アルス様の生活イメージがより強固なものとなった。
「でしたら私も、一階にある使用人控え室を使うことにします」
正直私も、いちいち二階へ上がるのも一階へ降りてくるのも面倒だと思っていたところで。
アルス様も同じ理由なのであれば話は早い。
「ふむ、そうか」
一瞬、何かを言いかけたように見えて含みだけで言葉をしまうアルス様。
こんなに部屋があるのにか、なんてことを言おうとしていたのなら面白い。
「部屋も決まりましたので、そろそろお休みをいただこうと思います」
私がうろうろしていたせいで、アルス様に余計な気を使わせていたのであろう。
屋敷の間取りは十分に把握できたおんで、これ以上の探索も不要だ。
「そうだな。私もこのあたりで休むとしよう」
私の返答に満足したのか、アルス様が執務室へと戻っていく。
私もその背について一階へ戻ると、玄関ホールで別れて控室へと向かう。
「……よっ」
そしてそのまま、少し埃っぽい布団の上へと身を投げた。
使用人が入れ代わり立ち代わりしているのに埃っぽいのは、おそらくこの部屋を使うものがいなかったからだろう。
二階にあれだけ豪華な部屋があるのだから、簡易なベッドとタンスしかないこの部屋を好き好んで使う意味はない。
そういったことも含めて、アルス様はああいった反応をされたのかもしれない。
(確かにこれだけの屋敷、一人で管理するのは骨が折れるな)
おまけにこういった上流階級の家に来る使用人は、基本的に縁を作りに来た別の家の者がほとんどで。
生活に困っているならまだしも、そうでないら長続きしないのも頷ける。
(まずは屋敷全体の埃を払って、それから荒れた庭の手入れを……いや、まずはそれより)
頭の中で次から次に、こなすべき仕事が浮かんできて。
「……ふぅ」
それらを一息入れることで、一旦頭の隅へと追いやった。
レイド様に追い出されてから数日しか経っていないというのに、あまりに多くのことが起こっている。
それは裏を返せば、これまでの生活があまりにも何もおこらないものだったとも言えた。
(……一度に多くを考えようとするのは、私の悪いクセだ)
今度は息をゆっくり吐いて、それから目を瞑る。
明日も朝は早いし、やることは山積み。しっかりと備えておかなければ。
こんな時、いつもなら悶々として結局眠れないことも多いのだが。
その日はなぜだか、ぐっすりと眠ることができた。
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