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(すごい人の数……)
王宮の大広間に集まったたくさんの貴族たち。
誰もかれも派手に着飾っているところを見るに、私が知らないだけでそれぞれが名のある有力者なのだろう。
お父様はあまりこういう場に興味のない人だたので、私も社交界に参加したのはヴィントの家へ行ってからの数回きり。
正直、息が詰まる。
「……すまないな、このような場所へ連れ出してしまって」
そんな私の様子を察してか、ジン様が声をかけてくれた。
「いえ、必要なことですので」
整備の道具や部品は一式ロイドに持たせてある。
恥ずかしく思えた衣装もこの場では必要不可欠なもので、むしろ今まで着ていたような格好でこの場へ来たら入場すらさせてもらえずジン様に迷惑をかけていたかもしれない。
「おお、ジンじゃないか。珍しいな、こんなところへ来るなんて」
「……む」
人ごみに巻き込まれぬよう壁際寄りに立っていた私とジン様に、突然聞きなれぬ声がかかった。
ジン様を超える長身に、がっちりとした肩幅。
顔に付いた傷跡も含めて、長らく戦いの場に身を置いていた人なのだとうかがわせる。
「そっちのちっこいのは……」
「……すまない、少し席を外す」
「あ、こら。引っ張るなよ」
会話の矛先が私の方へ向きそうになったのを見るや否や、ジン様はその男性を引っ張って一緒にどこかへ行ってしまった。
(強引に引っ張るの、クセみたいなものなんだな)
「ふん、軍人上がりどもが大きな顔しおって……」
私がその大きな二つの背を見送るとほぼ同時に、二人が去るのを見計らっていたのか一人の男が現れた。
独り言にも思えたそれは明らかに二人に向けられたもので、そして気になることも言っていたように思う。
「お前、あの軍人あがりとどういう関係だ」
『軍人あがりども』というのはやはり、ジン様の事も含めての言葉だったらしい。
「専属の技師ですが」
少し小太りで嫌味そうなその男へ、一定の距離を保ちながら言葉を返す。
「技師……ああ、そうか。あの男、戦いの中で片腕を失くして前線にいられなくなったんだったな」
ジン様は元々、軍にいたのか。
あれだけの魔力を持っている方なら、元技師と考えるよりは説得力がある。
「いっその事そのままくたばればよかったものを……爵位を恵んでもらう為だけに生き残るとはな」
言いたいことだけ言いたい放題に吐き捨てると、男はまたふん、と鼻を鳴らした。
「そんな方じゃないですよ、ジン様は」
頭で考えるよりも先に、声が出て。
「なっ、貴様……私がクラップ家の当主と知っての無礼か!」
何やら自分で言うほど偉い家の人だったようだけれど。
そんなこと構わず、私は男を睨み返す。
「技師風情が……身の程をわきまえろ!」
男がこちらへ構え、腕を大きく振り上げたのと同時に。
私の危険を察知して、ロイドが前に出るのが見えた。
「ダメっ!」
ロイドはあまり頑丈に出来ていない。
大の男に思い切り殴られてしまったらどうなるか分からない程度には脆いのだ。
だから。
「おいおい、最近の貴族はか弱い女の子に手を出すのかよ」
「ぐっ……離せ、離さんかっ!」
その手が振り下ろされる前に止められたのを見て、心の底からほっとした。
王宮の大広間に集まったたくさんの貴族たち。
誰もかれも派手に着飾っているところを見るに、私が知らないだけでそれぞれが名のある有力者なのだろう。
お父様はあまりこういう場に興味のない人だたので、私も社交界に参加したのはヴィントの家へ行ってからの数回きり。
正直、息が詰まる。
「……すまないな、このような場所へ連れ出してしまって」
そんな私の様子を察してか、ジン様が声をかけてくれた。
「いえ、必要なことですので」
整備の道具や部品は一式ロイドに持たせてある。
恥ずかしく思えた衣装もこの場では必要不可欠なもので、むしろ今まで着ていたような格好でこの場へ来たら入場すらさせてもらえずジン様に迷惑をかけていたかもしれない。
「おお、ジンじゃないか。珍しいな、こんなところへ来るなんて」
「……む」
人ごみに巻き込まれぬよう壁際寄りに立っていた私とジン様に、突然聞きなれぬ声がかかった。
ジン様を超える長身に、がっちりとした肩幅。
顔に付いた傷跡も含めて、長らく戦いの場に身を置いていた人なのだとうかがわせる。
「そっちのちっこいのは……」
「……すまない、少し席を外す」
「あ、こら。引っ張るなよ」
会話の矛先が私の方へ向きそうになったのを見るや否や、ジン様はその男性を引っ張って一緒にどこかへ行ってしまった。
(強引に引っ張るの、クセみたいなものなんだな)
「ふん、軍人上がりどもが大きな顔しおって……」
私がその大きな二つの背を見送るとほぼ同時に、二人が去るのを見計らっていたのか一人の男が現れた。
独り言にも思えたそれは明らかに二人に向けられたもので、そして気になることも言っていたように思う。
「お前、あの軍人あがりとどういう関係だ」
『軍人あがりども』というのはやはり、ジン様の事も含めての言葉だったらしい。
「専属の技師ですが」
少し小太りで嫌味そうなその男へ、一定の距離を保ちながら言葉を返す。
「技師……ああ、そうか。あの男、戦いの中で片腕を失くして前線にいられなくなったんだったな」
ジン様は元々、軍にいたのか。
あれだけの魔力を持っている方なら、元技師と考えるよりは説得力がある。
「いっその事そのままくたばればよかったものを……爵位を恵んでもらう為だけに生き残るとはな」
言いたいことだけ言いたい放題に吐き捨てると、男はまたふん、と鼻を鳴らした。
「そんな方じゃないですよ、ジン様は」
頭で考えるよりも先に、声が出て。
「なっ、貴様……私がクラップ家の当主と知っての無礼か!」
何やら自分で言うほど偉い家の人だったようだけれど。
そんなこと構わず、私は男を睨み返す。
「技師風情が……身の程をわきまえろ!」
男がこちらへ構え、腕を大きく振り上げたのと同時に。
私の危険を察知して、ロイドが前に出るのが見えた。
「ダメっ!」
ロイドはあまり頑丈に出来ていない。
大の男に思い切り殴られてしまったらどうなるか分からない程度には脆いのだ。
だから。
「おいおい、最近の貴族はか弱い女の子に手を出すのかよ」
「ぐっ……離せ、離さんかっ!」
その手が振り下ろされる前に止められたのを見て、心の底からほっとした。
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