上 下
15 / 21

しおりを挟む
(すごい人の数……)

 王宮の大広間に集まったたくさんの貴族たち。
 誰もかれも派手に着飾っているところを見るに、私が知らないだけでそれぞれが名のある有力者なのだろう。
 お父様はあまりこういう場に興味のない人だたので、私も社交界に参加したのはヴィントの家へ行ってからの数回きり。
 正直、息が詰まる。

「……すまないな、このような場所へ連れ出してしまって」

 そんな私の様子を察してか、ジン様が声をかけてくれた。

「いえ、必要なことですので」

 整備の道具や部品は一式ロイドに持たせてある。
 恥ずかしく思えた衣装もこの場では必要不可欠なもので、むしろ今まで着ていたような格好でこの場へ来たら入場すらさせてもらえずジン様に迷惑をかけていたかもしれない。

「おお、ジンじゃないか。珍しいな、こんなところへ来るなんて」

「……む」

 人ごみに巻き込まれぬよう壁際寄りに立っていた私とジン様に、突然聞きなれぬ声がかかった。
 ジン様を超える長身に、がっちりとした肩幅。
 顔に付いた傷跡も含めて、長らく戦いの場に身を置いていた人なのだとうかがわせる。

「そっちのちっこいのは……」

「……すまない、少し席を外す」

「あ、こら。引っ張るなよ」

 会話の矛先が私の方へ向きそうになったのを見るや否や、ジン様はその男性を引っ張って一緒にどこかへ行ってしまった。

(強引に引っ張るの、クセみたいなものなんだな)

「ふん、軍人上がりどもが大きな顔しおって……」

 私がその大きな二つの背を見送るとほぼ同時に、二人が去るのを見計らっていたのか一人の男が現れた。
 独り言にも思えたそれは明らかに二人に向けられたもので、そして気になることも言っていたように思う。

「お前、あの軍人あがりとどういう関係だ」

 『軍人あがりども』というのはやはり、ジン様の事も含めての言葉だったらしい。

「専属の技師ですが」

 少し小太りで嫌味そうなその男へ、一定の距離を保ちながら言葉を返す。

「技師……ああ、そうか。あの男、戦いの中で片腕を失くして前線にいられなくなったんだったな」

 ジン様は元々、軍にいたのか。
 あれだけの魔力を持っている方なら、元技師と考えるよりは説得力がある。

「いっその事そのままくたばればよかったものを……爵位を恵んでもらう為だけに生き残るとはな」

 言いたいことだけ言いたい放題に吐き捨てると、男はまたふん、と鼻を鳴らした。

「そんな方じゃないですよ、ジン様は」

 頭で考えるよりも先に、声が出て。

「なっ、貴様……私がクラップ家の当主と知っての無礼か!」

 何やら自分で言うほど偉い家の人だったようだけれど。
 そんなこと構わず、私は男を睨み返す。

「技師風情が……身の程をわきまえろ!」

 男がこちらへ構え、腕を大きく振り上げたのと同時に。
 私の危険を察知して、ロイドが前に出るのが見えた。

「ダメっ!」

 ロイドはあまり頑丈に出来ていない。
 大の男に思い切り殴られてしまったらどうなるか分からない程度には脆いのだ。
 だから。

「おいおい、最近の貴族はか弱い女の子に手を出すのかよ」

「ぐっ……離せ、離さんかっ!」

 その手が振り下ろされる前に止められたのを見て、心の底からほっとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

処理中です...