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「……部屋は空き部屋の中から自由に使ってくれていい」

「作業部屋などはありますか?」

「いや……そういった部屋は無いな。必要であれば用意しよう、今は道具類も好きに置いてくれ」

「分かりました」

 外観に違わぬ広いホールに、ポツンと立つ私たち三人。
 こんなに広い屋敷だというのに、私たち以外に人の気配が全くしない。
 流石に一人でこの大きさの屋敷を管理するのは難しそうだが。

「……あぁ、そうだ。荷物持ちにはこいつらを使ってくれ」

 言いながら侯爵様がパン、と手のひらを鳴らす。

(なんだ、流石に使用人がいないわけじゃないのか)

 などと私が思ったのも束の間。
 玄関先のオブジェだと思っていた石像が数体動き出し、私の前に躍り出る。

「魔導……人形……?」

「……ほぅ、知っているのか」

 思わず漏れた言葉に、侯爵様がすかさず反応してきた。

「実際に動いているものを見るのは、初めてですが」

 無機物に魔力を注ぎ込んで使役する魔法があることは知っていたが。
 実際にそれを行える人間を、少なくとも今まで生きてきて見かけたことはなかった。

「これでは私の立場がありませんね」

 魔導人形たちに荷物を持っていかれて、手持無沙汰になっていたロイドがそんなことをポツリと言う。

「そんなことないわよ、ロイド」

「ああ、その通りだ。魔導人形は命じられた通りのことしか出来ないからな」

 ロイドへの返答に繋げるように発せられた、侯爵様の言葉。
 思わず私は隣に立つ侯爵様の方を見る。

「話し相手が必要な時などは特に、魔導人形だけだと非常に困る」

 普通、魔力の高い人ほど機械には疎いことが多い。
 それは機械技術と魔法の関係性的に仕方のないことだとは思うが。
 しかし侯爵様の考え方はまるで、技師の家に生まれた人のようなもので。
 一歩また一歩、侯爵様のことが気になっていく。

(人に対してこんなに興味が湧いたの、いつぶりだろう)

 自室で休むと言われて侯爵様と別れたあとも、私はしばらくその背中を追ってしまって。

「ねぇロイド、私少し変かもしれない」

 魔導人形に導かれるままに荷物を置いた適当な部屋で、ベッドに身を投げながら独り言のようにロイドへ問う。
 
「確かに一般的な十六歳の女性と比較すると、お嬢様は変と言えるかもしれません」

「もう、そうじゃなくって……」

 多分この質問をロイドにしても、絶対に答えは出ないだろう。
 だからこそロイドに確認したのだけれど。

(……今日は色々ありすぎて、疲れたな)

 主に思考の整理で大幅に体力を使ってしまった私に、このベッド……柔らかすぎる。
 この状態で目まで閉じてしまったらどうなるか。
 そんなことは誰が考えても分かり切ったことだった。
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