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「その機械人形、旧式の物だな」

 私の住んでいた街を離れてから少し経ったところで、運転をしていた侯爵様がそんなことを聞いてきた。
 
「はい。ロイドは私が生まれて初めて作った機械なんです」
 
 隣に座るロイドをちらりと見ながら、私は言葉を返す。
 実際には大半をお父様が作って、私は仕上げを担当しただけたっだりするが。

「何か御用でしょうか、お嬢様」

「特に何もないわ、大丈夫よ」

「了解しました」

 機械人形の新旧なんて、普通に生活をしている人は気づかないものだ。
 義手のことも含めて、侯爵様の謎はどんどん深まっていく。

「……やはり旧式は、独特の味があるな」

 そんな私たちのやり取りを聞いてなのか、侯爵様がくっくと目を細めて笑う。

「侯爵様も、そう思われますか?」

 喜びで詰め寄りたくなる気持ちも、大声を出したくなる気持ちも抑えて、運転の邪魔にならぬよう控えめに尋ねる。
 
「……そうだな、私は造り手ではないから偉そうなことは言えないが」

 侯爵様は私の質問へそう前置きしてから、

「従順なだけよりも、遊びがある方が私は好きだな」

 一瞬だけ私のロイドの方を見て、そう言った。
 侯爵様のことは今のところ全然分からないが、今の一言で『分かっている』人なのだということだけははっきりと分かって。

「私もそう、思います」

 返事を返しながら、思わず笑みが零れてくる。
 あまりに話が急すぎてどうなるか不安だったが、これなら大丈夫かもしれない。

「お嬢様」

「何?ロイド」

「体温の上昇が検知されています。本当に大丈夫ですか」

「……ほっといて」

「了解しました」

 そんなやりとりをロイドとしていたら、眼前に大きな屋敷が見えてきた。
 実家兼工房もそれなりに大きいはずなのだが、それでもこの屋敷ならすっぽり二棟入れても少し余裕がありそうに思える。

「……さぁ、手を」

 気づけば私より先に降りていた侯爵様が、こちらの方へ手を伸ばしていた。
 満たされた魔力の大きさでほのかに光を放つ義手。
 その色は侯爵様の瞳と同じ、深い青色をしている。

「ありがとう、ございます」

 体温が上がっているせいなのか、恐る恐る触れたその手の温度はひどく冷たく感じて。
 ロイドに手を引かれて歩いた小さい頃が、ふと思い返された。
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