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ヒトコマ・シリーズ

夜会にて ~お姫様に「愛してる」と言ってくれる皇子様♡~

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 夜会が終わり、別れを惜しむ声がそこかしこから聞こえます。カムラの皆様、なかなか首尾よくおやりになった模様です。

カタリーナ「――気が利きませんわ、レオン皇子。あなたもティリス様に愛しているの一つくらい、おっしゃったらどうですの?」

 お姉様の一言に、姫は危うく飲んでいた水を吹くところでした。

ティリス「カ、カ、カ、カタリーナ!?」
レオン「……? 何でだ? 僕は別に、ティリスを愛してなんていないぞ」

 途端、お姉様のお美しいかんばせが、能面のように強張りました。

カタリーナ「何……ですって……!? あなた、愛してもいないのにティリス様に手を出したとでも!」

 大変です。こわくてみんなが逃げ出しました。
 どうしましょう。作者もこわいです。
 姫もさすがにお顔を強張らせて、助け舟を出しません。

レオン「……? …………。」

 皇子様は難しそうなお顔をして、困った時の賢者様ゾンビをふり向きました。

レオン「ロズ、僕はティリスを愛しているのか?」
ロズ「大切にはしているね」

 賢者様は白い顔をした姫を見ると、穏やかに言いました。

ロズ「愛という言葉では、足りない思いもあるんだよ」
ティリス「……。」

 ところが、皇子様こそは納得行かなげです。答えが難しかったご様子です。
 皇子様は愛とか幽霊とか、目に見えないモノが良くわかりません。冥王は見えるので、わかります。(へんです。)

レオン「――愛しているか?」

 より、簡潔でわかりやすい答えを求め、皇子様が重ねて問いました。

ロズ「……愛していると言って、差し支えないと思うよ」

 その答えに、皇子様はすっきりしたお顔をして、姫に向き直りました。

レオン「ティリス、愛しているぞ」

 ずざざざざっ

 姫が真っ赤になって、身を退きました。

ティリス「ばっ、ばかやろう! そのやり取りの後に、んなこと言われても、……少しくらい取りつくろえっ!」

 いいツッコミですが、お顔がそんなに真っ赤では、動揺がバレバレです。

 ――いえ、バレるわけがありませんでした。相手はレオン皇子です。

レオン「……」

 皇子様は不服そうに姫を見ると、その腕を乱暴につかみました。

ティリス「なっ、なにすっ……」
レオン「来るんだ。旅に出るぞ」
ティリス「――――は?」

 姫は目を点にして皇子様を見ました。
 正直なところ、ちょっとだけ期待したので、ほんのちょっとだけ、残念です。

レオン「僕はおまえを愛している。間違いない。だから、旅に出て証明してやるぞ」

 ――ついさっき、愛してなんていないぞと言って、あまつさえ、自分が姫を愛しているのか、ロズに問うていたように思いますが。

ティリス「~」

 姫は沈痛な面持ちで、額に手を当てて沈黙しました。

レオン「どうした?」
ティリス「いや、いいや。でも、旅に出るって、カムラは? 政務とか、どうする気だ?」
レオン「? 何を言っているんだ。今夜の消灯までには戻るぞ。僕は僕の部屋で寝るんだ。そろそろ眠いな。戻るか」
ティリス「どあほう!! まだ、第一歩も踏み出してねーよ!」
レオン「……?」

 姫がむずかっていると思ったのか、皇子様はどうしたんだと姫の横顔を取ると、優しく口付けました。

ティリス「……っ……」

 こんなんでごまかされないぞと、頑張る姫ですが、何度か口付けられるうちに、つい、ごまかされてしまいました。


 ――いつでも真剣なのに、どこまでも天然な皇子様にお弱い姫の理不尽な日々は、大変に甘やかで、時にピリ辛です。
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