59 / 79
第六章 冥王招来
6-4a. 襲撃
しおりを挟む
ここまで、広い城内をあちこち走り回ってきたために、ティリスは既に肩で息をしていた。
「レオン!」
アシュレイナ姫を連れ出していたレオンが、ふり向く。かと思えば、ティリスを認めた途端にその表情を明るくした。
彼女が無事、元に戻ったようで、レオンは嬉しかったのだ。
ティリスは真っ直ぐレオンに駆け寄ると、はやる気持ちを抑えて姫に礼をした。
「アシュレイナ姫、済みません。失礼します」
姫はわずかに微笑み、頷いただけで、答えなかった。たった今、レオンに本当のことを聞かされて、帰国して欲しいと告げられたところだ。言うべきことは、なかった。
「今日は遅かったんだな。起きないから、心配した」
「オレのことはどうでもいいんだ、それより、おまえ何やってんだよ! ちゃんと護衛つけなきゃだめだろ!」
ティリスが怒り心頭なのに、レオンときたらにやりと笑った。
「おまえがいる。おまえだけでいいぞ」
――は?
何のことかと考えて、思い当たると、がくっときた。
「あほう! 妃じゃないんだから、護衛をオレ一人になんてするなよっ! 他に護衛がいたってオレもちゃんと守るから、馬鹿言ってないで手配するんだ!」
「……いいのか?」
あんなに別の姫を娶るなと、泣いて文句を言ったくせにと、レオンがぶうぶう言う。納得行かないぞと、なじるようにティリスを見る。
こ、こいつの頭はダメだ。わかってねえ。
こいつには、ほんとに一から十まで説明しないとだめなんだったと、悲しいやら、しょーもないやら。
「いいよっ! いいから、急ぐんだ。ロズが、悪意のあるヤツが城内にいるって――」
その時、中庭に聖衣をまとった神官たちが現れて、ティリスはごくりとつばを飲み込んだ。
無意識に、レオンを庇うように立った。
――相手、カムラの方術師だぞ!? オレ、なんで緊張してるんだ。味方だろ? 護衛、頼まなきゃ――
「何か用か? レダス」
「さよう――」
その背後の神官たちが、左右に展開しようとするのを見て取って、瞬間、ティリスは半ば反射的に剣を抜いて叫んでいた。
「レオン、逃げろ! アシュレイナ姫も! ロズのところに早く!」
「何っ!?」
「逃がすか!」
レダスが一声上げたかと思うと、ざっと、武装した神官戦士が幾人も、飛び出してきた。武器を持たない神官たちも、何やら呪文を唱え始める。
「行くんだ! おまえが逃げないとオレが下がれない! 早く!」
散開する敵の姿を目で追いながら、ティリスは全身に、冷たい汗をかいていた。
自分の実力は知っている。
敵の武器はメイス。リーチが長い。そして4人。
同じくリーチの長い武器も扱う兄かカタリーナでないと、さばけない人数だ。
囲まれる前に、逃げるしかない。
「――高骨霊!!」
レオンが死霊術を使う気配に、ティリスはぎょっとした。
「馬鹿、どうして逃げないんだ!」
「南にも回り込まれているのよ!」
アシュレイナ姫が悲鳴に近い声で答えた。
「――くそっ!」
ティリスが持つのは細身の剣だ。メイスは受けられない。
「レオン、剣、貸せ!」
返事も待たずに、レオンが形ばかり帯びる長剣を抜き取ると、両手で構えた。
「――いい剣……だなっ!!」
それでメイスの一閃をどうにか受けると、返す刀で斬りつけた。
一人――
剣が重い。
敵の武器が重い。
訓練なんかとは、使う体力が桁違いだった。
――だめだ、何人ももたない、どうしたら……!
「ティリス、下がれ!」
レオンが鋭い声で指示した。
「――!?」
従って、ティリスは息を呑んだ。
たった今斬り殺した神官戦士の屍から、邪悪に発光する何かが、立ち上がったのだ。
死霊――
禁じ手だったはずだ。
けれど今、父親の禁を破っても、生きようとするのか。
――あるいは、ティリスを守ってくれようと。
「ターン・アンデッド!!」
敵の方術に、レオンが作り出した骸骨兵の何体かが砕けたが、死霊は還らなかった。
「もう、やめろよ! あんたたち方術師だろ!? 何でこんなこと――レオンに死霊術、使わせるようなことするんだ! レオンは、こんな術使いたくないんだ!!」
「黙れ、小童! 皇子で最後――! 皇帝め、9人も子をなしおったが、これで終いだ! 皇子を殺し、皇帝を弑せば、カムラは神の威光を取り戻す!」
「嘘だっ!!」
真っ向から突っぱねて、ティリスは剣を構えてレダスと対峙した。
「レオン!」
アシュレイナ姫を連れ出していたレオンが、ふり向く。かと思えば、ティリスを認めた途端にその表情を明るくした。
彼女が無事、元に戻ったようで、レオンは嬉しかったのだ。
ティリスは真っ直ぐレオンに駆け寄ると、はやる気持ちを抑えて姫に礼をした。
「アシュレイナ姫、済みません。失礼します」
姫はわずかに微笑み、頷いただけで、答えなかった。たった今、レオンに本当のことを聞かされて、帰国して欲しいと告げられたところだ。言うべきことは、なかった。
「今日は遅かったんだな。起きないから、心配した」
「オレのことはどうでもいいんだ、それより、おまえ何やってんだよ! ちゃんと護衛つけなきゃだめだろ!」
ティリスが怒り心頭なのに、レオンときたらにやりと笑った。
「おまえがいる。おまえだけでいいぞ」
――は?
何のことかと考えて、思い当たると、がくっときた。
「あほう! 妃じゃないんだから、護衛をオレ一人になんてするなよっ! 他に護衛がいたってオレもちゃんと守るから、馬鹿言ってないで手配するんだ!」
「……いいのか?」
あんなに別の姫を娶るなと、泣いて文句を言ったくせにと、レオンがぶうぶう言う。納得行かないぞと、なじるようにティリスを見る。
こ、こいつの頭はダメだ。わかってねえ。
こいつには、ほんとに一から十まで説明しないとだめなんだったと、悲しいやら、しょーもないやら。
「いいよっ! いいから、急ぐんだ。ロズが、悪意のあるヤツが城内にいるって――」
その時、中庭に聖衣をまとった神官たちが現れて、ティリスはごくりとつばを飲み込んだ。
無意識に、レオンを庇うように立った。
――相手、カムラの方術師だぞ!? オレ、なんで緊張してるんだ。味方だろ? 護衛、頼まなきゃ――
「何か用か? レダス」
「さよう――」
その背後の神官たちが、左右に展開しようとするのを見て取って、瞬間、ティリスは半ば反射的に剣を抜いて叫んでいた。
「レオン、逃げろ! アシュレイナ姫も! ロズのところに早く!」
「何っ!?」
「逃がすか!」
レダスが一声上げたかと思うと、ざっと、武装した神官戦士が幾人も、飛び出してきた。武器を持たない神官たちも、何やら呪文を唱え始める。
「行くんだ! おまえが逃げないとオレが下がれない! 早く!」
散開する敵の姿を目で追いながら、ティリスは全身に、冷たい汗をかいていた。
自分の実力は知っている。
敵の武器はメイス。リーチが長い。そして4人。
同じくリーチの長い武器も扱う兄かカタリーナでないと、さばけない人数だ。
囲まれる前に、逃げるしかない。
「――高骨霊!!」
レオンが死霊術を使う気配に、ティリスはぎょっとした。
「馬鹿、どうして逃げないんだ!」
「南にも回り込まれているのよ!」
アシュレイナ姫が悲鳴に近い声で答えた。
「――くそっ!」
ティリスが持つのは細身の剣だ。メイスは受けられない。
「レオン、剣、貸せ!」
返事も待たずに、レオンが形ばかり帯びる長剣を抜き取ると、両手で構えた。
「――いい剣……だなっ!!」
それでメイスの一閃をどうにか受けると、返す刀で斬りつけた。
一人――
剣が重い。
敵の武器が重い。
訓練なんかとは、使う体力が桁違いだった。
――だめだ、何人ももたない、どうしたら……!
「ティリス、下がれ!」
レオンが鋭い声で指示した。
「――!?」
従って、ティリスは息を呑んだ。
たった今斬り殺した神官戦士の屍から、邪悪に発光する何かが、立ち上がったのだ。
死霊――
禁じ手だったはずだ。
けれど今、父親の禁を破っても、生きようとするのか。
――あるいは、ティリスを守ってくれようと。
「ターン・アンデッド!!」
敵の方術に、レオンが作り出した骸骨兵の何体かが砕けたが、死霊は還らなかった。
「もう、やめろよ! あんたたち方術師だろ!? 何でこんなこと――レオンに死霊術、使わせるようなことするんだ! レオンは、こんな術使いたくないんだ!!」
「黙れ、小童! 皇子で最後――! 皇帝め、9人も子をなしおったが、これで終いだ! 皇子を殺し、皇帝を弑せば、カムラは神の威光を取り戻す!」
「嘘だっ!!」
真っ向から突っぱねて、ティリスは剣を構えてレダスと対峙した。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる