賢者様の仲人事情

冴條玲

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第五章 涙

5-5c. 決裂

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「僕の両親に挨拶するよう言ったら、『それは死体だ』と言って――当たり前のことを言って、その姫が泣いたんだ。綺麗だった」

 レオンは腕を組んで柱に寄りかかり、軽くティリスをふり向くと、少し冷酷に微笑んだ。

「おまえなど、足元にも及ばないよ」
「……」

 何も言えなくなって立ち尽くすティリスに、レオンがふと、何か思いついた様子で誘いかけた。

「音楽が入っているな。ティエラ、一曲踊ってやろうか?」
「えっ……」

 ――ちょっと待て。

 踊ってやろうか、じゃなくて「踊って下さい」だろ!?

「あ、ええと……」

 やだやだやだ。
 踊ってもらうのなんてやだ。オレが踊ってやるんだ。

「…………はい」


  **――*――**


 ちゃんと踊れるかと、内心不安だったティリスながら、杞憂だった。
 レオンは難しいことは何もせず、それ以上に上手かった。
 リードに任せるだけで、踊れるのだ。
 踊り終わった後、わっと喝采が上がってティリスを驚かせた。
 いつの間にか、人だかりができていた。

「皇子、一人目のご側室がお決まりで?」
「ああ。ティエラ・アストライーゼル。シグルド王国侯爵家の令嬢だそうだ」
「ほほう、たいそうな美姫に目を留められましたな」
「いや? こいつが、僕の服の袖を引いたんだ。失礼だぞ、ティエラは」

 なっ、言うかよ!? そういうこと!?

 話しかけた大臣らしき男も、返答に詰まって、すごすごと身を引いた。
 その様子を見ながら真っ赤になったティリスが睨むと、気付いたレオンがくすりと笑った。
 それから――
 少し前そうしたように、その横顔に手をかけた。

「……皇――」

 当たり前みたいに、唇を合わせた。


 何……で……?
 オレ、オレ以外の姫に触れるなって、触れたら、オレには二度と触れさせないって言ったんだ。
 言ったのに、何で――!? 何でだよっ!!


 全身が震えて、苦しかった。
 夢中で、レオンの手を振り払った。

「ティエラ?」
「何で……」

 だめだ、泣く――!
 駆け去ろうとしたティリスの手を、レオンがつかんだ。

「何……」

 はっと、レオンを見た。
 こいつ、もしかして気が付いて――!?

「ティリスは? まだ遅れるのか?」

 一瞬で、打ち砕かれた。気が付いてなんて、いなかった。
 血が滲むほど唇を噛み、それから、答えた。ひどく冷たい声が出た。

「……姫は……皇子の部屋で、お待ちです……」

 ――ああ、王子なんだっけ。姫って言っちゃったな。まあ、いいや――

 もう、おしまいだから。
 おしまいにする。

 ……もう、いいんだ……。
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