賢者様の仲人事情

第五章 涙

5-1. あなたを選ばせなさい

「……ティリス様？」

　いやにおとなしく、指示されるままに教本をめくるティリスの様子に、カタリーナが気遣わしげに声をかけた。
　もはや、隠す気力もなくて。
　ティリスは問われるままに、話した。
　アシュレイナ姫ともめたこと。
　片付いたと思ったら、明日、この上レオンが側室を取るため夜会に出るのだと、聞かされたこと。
　何かもう、涙も出なかった。
　疲れたのだ、本当に。
　たそがれ時の砂浜で、カニでもつついていたい気分なのだ。

「――あら、面白いじゃありませんの」

　しかし、話を聞いたカタリーナは、不敵な笑みを浮かべてそう言った。

「ティリス様、ちょうどいいですわ。貴方を選ばせなさい」
「――は？」
「わたくしが忍び込ませて差し上げますわ。レオン皇子を悩殺し、女性として、皇子を独占、ひざまずかせる良いチャンスですわ」
「な、何言ってんだよ！　そんなことできるわけ……！」

　できますわと微笑むカタリーナの視線から、目を背けるようにした。

「……ティリス様……？」

　だって、オレ。
　なんかもう、疲れたんだ。
　なんかもう、ここまでしてレオンの傍にいなくても、いいんだ。
　だって、レオンは……レオンはさ……他の姫でも、いいんだから……。