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第三章 永遠のまどろみ
3-10. 天に逆らっても
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永遠にも思える石段を上がり、ついに地上に出ると、ティリスはとにかく窓に駆け寄った。
新鮮な当たり前の夜気が、これほどまで美味しかったことはかつてない。
――あれが平気って、レオン、普通じゃないよな――
慣れの問題じゃないぞと、視界の隅にレオンをとらえて、ティリスは驚いた。
あのレオンが、あのレオンでさえ、苦しそうに顔を歪めていたのだ。
胸を押さえる様子からして、吐き気もあるようだった。
「……レオン……」
小さく呟くと、ティリスはそっと、レオンの傍に屈み込んだ。
「……平気か?」
「ああ」
静かにレオンの様子を見ながら、やっぱり、わからせなければだめだと思った。
ティリスが口を開きかけた時だ。
それを制するように、ロズが遮った。
「姫」
ティリスは真っ直ぐロズを見た。
「ロズ、このままじゃ、あの二人だって可哀相だ。第一、こんなで――もし、オレのいない時にレオンが正気に返ったら、どうするんだよ! オレ……、オレ、レオンが壊れるのも、死ぬのもいやなんだ!」
ロズは、微笑んだようだった。
「ありがとう、姫。あなたは本当に優しい」
「優しかない!」
ええいと、顔を背けるティリスをロズが好ましげに見詰める。その優しさは、強さであり、美しさでもあるから。
腐ったロズの目にも、ティリスは鮮明で、美しかった。
「いいんだ。レオンはあなたの言葉を聞いた。それでも、あなたを殺さなかった。あなたがレオンのそばにいれば、レオンは少しずつでも、受け入れていくだろう。……もう、既に受け入れ始めてもいる。ただ、少し時間が必要だから……どうか、待ってやって欲しい」
ティリスは唇をかんで黙っていたが、やがて頷いた。
レオンをふり向くと、彼は廊下の床に座り込んでしまっていて、片ひざを立てて、無造作にそこに腕を乗せていた。
――なんだか、かっこいい。
自分自身が思ったことに、ティリスは一人で赤面した。
馬鹿か、オレ。
座ってるだけじゃん、何がかっこいいんだよ!?
……オレもう、末期だ……。
泣きたい気持ちになった。何で、レオン相手に片思いしてなきゃいけないのか。
「レオンは無防備で、不器用で、失えば、二度と傷が癒えないような愛し方しかできない」
ふいに、ロズがつぶやいた。
「あの子は――、天に逆らっても、愛した人の手を、求めるんだよ。頑ななまでに、失ったものを求める。愛した人を忘れることも、他者で代えることも、できない。……それでも、私はそんなあの子が愛しいんだ」
「……うん、わかるよ」
ティリスもぽつりとつぶやいた。
それから気を取り直して、いつもの調子でレオンに向かった。
「レオン、飯より風呂にしようぜ。オレ、さっぱりしたいんだ」
「ああ。……そうだな、僕も、何だか疲れたみたいだ」
だろうなあ。
てか、あの悪臭の直後に食えるって、人間じゃない。
レオンも人の子だったんだなと、ちょっとだけ、ほっとした。
新鮮な当たり前の夜気が、これほどまで美味しかったことはかつてない。
――あれが平気って、レオン、普通じゃないよな――
慣れの問題じゃないぞと、視界の隅にレオンをとらえて、ティリスは驚いた。
あのレオンが、あのレオンでさえ、苦しそうに顔を歪めていたのだ。
胸を押さえる様子からして、吐き気もあるようだった。
「……レオン……」
小さく呟くと、ティリスはそっと、レオンの傍に屈み込んだ。
「……平気か?」
「ああ」
静かにレオンの様子を見ながら、やっぱり、わからせなければだめだと思った。
ティリスが口を開きかけた時だ。
それを制するように、ロズが遮った。
「姫」
ティリスは真っ直ぐロズを見た。
「ロズ、このままじゃ、あの二人だって可哀相だ。第一、こんなで――もし、オレのいない時にレオンが正気に返ったら、どうするんだよ! オレ……、オレ、レオンが壊れるのも、死ぬのもいやなんだ!」
ロズは、微笑んだようだった。
「ありがとう、姫。あなたは本当に優しい」
「優しかない!」
ええいと、顔を背けるティリスをロズが好ましげに見詰める。その優しさは、強さであり、美しさでもあるから。
腐ったロズの目にも、ティリスは鮮明で、美しかった。
「いいんだ。レオンはあなたの言葉を聞いた。それでも、あなたを殺さなかった。あなたがレオンのそばにいれば、レオンは少しずつでも、受け入れていくだろう。……もう、既に受け入れ始めてもいる。ただ、少し時間が必要だから……どうか、待ってやって欲しい」
ティリスは唇をかんで黙っていたが、やがて頷いた。
レオンをふり向くと、彼は廊下の床に座り込んでしまっていて、片ひざを立てて、無造作にそこに腕を乗せていた。
――なんだか、かっこいい。
自分自身が思ったことに、ティリスは一人で赤面した。
馬鹿か、オレ。
座ってるだけじゃん、何がかっこいいんだよ!?
……オレもう、末期だ……。
泣きたい気持ちになった。何で、レオン相手に片思いしてなきゃいけないのか。
「レオンは無防備で、不器用で、失えば、二度と傷が癒えないような愛し方しかできない」
ふいに、ロズがつぶやいた。
「あの子は――、天に逆らっても、愛した人の手を、求めるんだよ。頑ななまでに、失ったものを求める。愛した人を忘れることも、他者で代えることも、できない。……それでも、私はそんなあの子が愛しいんだ」
「……うん、わかるよ」
ティリスもぽつりとつぶやいた。
それから気を取り直して、いつもの調子でレオンに向かった。
「レオン、飯より風呂にしようぜ。オレ、さっぱりしたいんだ」
「ああ。……そうだな、僕も、何だか疲れたみたいだ」
だろうなあ。
てか、あの悪臭の直後に食えるって、人間じゃない。
レオンも人の子だったんだなと、ちょっとだけ、ほっとした。
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