剣聖~約束の花嫁~

冴條玲

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砂の夜明け

Aube.03 闘神と呼ばれし者が

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「こんばんは」

 シルクは約束通り、その夜、エヴァディザードの姿も期待しながら、メイヴェルの部屋を訪ねた。
 部屋にはメイヴェルの他、エヴァディザードと、屈強な中年剣士。皆に温かく迎えてもらうと、シルクは嬉しくなって、ほこほこと笑った。
 紹介してもらって、メイヴェルと従者のマクアナイに挨拶を済ませる。
 シルクはそれで満足し、じゃあぼくも仲間に入れてねと、とりあえず、エヴァディザードのひざに陣取った。中央の果物に手を伸ばしながら、会話に耳を傾ける。

「皇女は、エヴァディザードが気に入られたか?」
「うん。エヴァは、ぼくのね」

 メイヴェルがおかしそうに、笑い声を漏らす。優勝候補だの、砂漠の戦闘民族だのいうからどんなかと思っていたのに、驚くほど、思慮深く穏やかな、優しい雰囲気の人たちだ。

「とって」

 ナツメをつまんで喉の渇いたシルクが、エヴァディザードの膝からのいて、あれ、と飲み物を指した。立ち上がったエヴァディザードが、行きがかり、シルクの頭を筋張った手で可愛がるようにぎゅむとやって、笑った。

「私はあなたの従者じゃないぞ、皇女」
「うん、でもとって~♪」

 目当ての飲み物をエヴァディザードにとってもらうと、んく、んくとそれを飲み干して、シルクはにっこり笑った。

「おいしいね、これ」

 んしょんしょと、華奢な身を押しつけるようにして、エヴァディザードの膝に座り直すシルク。
 向かいで「思わぬ甘やかし方だな。闘神と呼ばれたエヴァディザード殿が」とか、「いや、皇女の甘え方が上手いな。私でも逆らえないかもしれない」とか、「族長がご冗談を」とか、本人たちを目の前に、お兄様がた、言いたい放題。
 いっそ、エヴァディザードの方が途惑い気味で、隙のなかった無表情が崩れ、シルクの挙動のひとつひとつに、困惑や微笑みがのぞくのだった。

(この後「わぁい、メイヴェルもぼくの言うこと聞いてくれるんだね♪」とか、「なっ、敬称をつけなさい、皇女。年長者相手に」とか、「メイヴェルで構わないよ。エヴァディザードも皇女から見れば年長者のはずだが、エヴァと呼んでいるようだし。親愛の表現のつもりなんじゃないか?」とかいう会話も、あったりした)
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