13 / 18
第12話 猫だるまが降った夜 【重要分岐】
しおりを挟む
怒りに目の色を変えたシェーンが観客席から飛び降り、剣を抜いて、エヴァディザードの行く手を阻んだ。
「貴様あぁぁっ!!」
ザッ!
覚えたのは、戦慄。
狂気に近いシェーンの吼え声に、シルクは身の毛がよだつ思いをした。
速い。
こんなシェーン、見たことがなかった。
いつも、冗談とも本気ともつかない口説き文句を、優雅にもてあそんで本心を見せないシェーンが。
怒りに狂った目をして迫ってきたシェーンと、シルクを放したエヴァディザードの剣が激突した。
ガキン!
シェーンの立て続けの斬撃、猛攻を、ことごとく受け切ったエヴァディザードが瞳に冷たい光を宿し、シェーンの首を狙うのを見て、シルクは絶叫して、エヴァディザードに組み付いた。
「やめてぇ!!」
本能で、察知した。シェーンが殺される。
シェーンにエヴァディザードの剣は受けられない。
力押しでどうにかなる相手ではない。エヴァディザード相手に理性を失ったら、終わる!
ポン!
光が弾けた。
突如、視界にとりどりの光が弾け、魔法で創られた、猫だるまのような奇妙な物体が降り注いだ。
「うわっ、な、何コレ!?」
――何で、猫だるま!?
表情とか、お馬鹿で平和そのものなんだけど!
ぽん!
今度はシェーンの剣が、一抱えもある花束になり、かと思うと、その花束の中から、輝く白い鳩が何羽も出てきて、平和を象徴するかのように、夜空へと飛び立った。
「サ、サリ王子……!?」
エヴァディザードを止めようとして、恐怖に壊れたように震えていたシルクの腕も、あまりの光景、それも腰砕けになる光景に、その恐怖さえ忘れ、震えを収めていた。
「――サリ!! なぜ、邪魔立てを!!」
サリは嘆息すると、どこからともなく、お得意のララ人形とリリ人形を取り出した。
『ああ、これが青い春。愛しい人に手を出された青年は、怒りに我を忘れて、他人の庭で自殺行為に及んでしまうの。でも、ここはララたちの庭。ここで決闘されたら、ララたち、怒られてしまうのよ』
『世の中は不条理。決闘なんて青い春の悪戯で、リリたちとは関わり合いのないことなのに、怒られるのはリリたちだなんて』
『場所を変えてくれれば、邪魔しないのよ。ララ、他人様の恋路のお邪魔をして、馬に蹴られて死ぬなんて、イヤ』
――えーと。
唇を噛んだシェーンが、サリに侮蔑の視線を向けながらも、元に戻った剣を鞘に収めた。
それを見届けたサリが、静かに、視線をシルクに移した。
「シルク、君は、君を懸けた試合に負けた。エヴァは、君を砂にさらう気でいるようだ。シグルドと私の命運を懸けても、君が私に、その阻止を願うのなら――」
サリの瞳が、ほんの少し寂しげに翳った。
「私は、君の願い通りにしようけれど。もしも、砂の命運を左右する覚悟が君にあるのなら、君自身の意志で、砂の国に赴いて欲しい。――砂の国は、もう半世紀以上も私達の血を待ち望み、私達は裏切り続けている。約束を、呪いとして断つことも、果たすこともしないままに」
「サリ……? 約束って、何……? ぼく、知らないよ。エヴァ、何か理由があって、ああいうことしたの……!?」
一筋縄ではいかない微笑みを見せたサリが、シルクの耳元に囁いた。
「砂に、真実を確かめにお行き。私も、断片しか知らない。砂の地では、メイヴェルが君を守ってくれるだろう。メイヴェルだけが、味方と覚えておいで。その庇護を離れれば、君は砂に呑まれるかもしれない」
========================
★ 次回予告的な分岐です。
※ いずれかのルートで更新されます。
========================
【C】 すごい! 何だかヒロイック・サーガっぽくなってきた! 隠された真実を突き止めて、シグルドとカイム・サンドを救うんだ。かっこいい、行くぞ!
⇒ 砂の黄昏編 soir.01 に続きます。
【D】「許さない」真っ青な顔をしたシェーンが割り込んだ。「サリ、君はよくも、シルクの身がどうなるかわからないことを――」
⇒ 砂の夜明け編 aube.01 に続きます。
「貴様あぁぁっ!!」
ザッ!
覚えたのは、戦慄。
狂気に近いシェーンの吼え声に、シルクは身の毛がよだつ思いをした。
速い。
こんなシェーン、見たことがなかった。
いつも、冗談とも本気ともつかない口説き文句を、優雅にもてあそんで本心を見せないシェーンが。
怒りに狂った目をして迫ってきたシェーンと、シルクを放したエヴァディザードの剣が激突した。
ガキン!
シェーンの立て続けの斬撃、猛攻を、ことごとく受け切ったエヴァディザードが瞳に冷たい光を宿し、シェーンの首を狙うのを見て、シルクは絶叫して、エヴァディザードに組み付いた。
「やめてぇ!!」
本能で、察知した。シェーンが殺される。
シェーンにエヴァディザードの剣は受けられない。
力押しでどうにかなる相手ではない。エヴァディザード相手に理性を失ったら、終わる!
ポン!
光が弾けた。
突如、視界にとりどりの光が弾け、魔法で創られた、猫だるまのような奇妙な物体が降り注いだ。
「うわっ、な、何コレ!?」
――何で、猫だるま!?
表情とか、お馬鹿で平和そのものなんだけど!
ぽん!
今度はシェーンの剣が、一抱えもある花束になり、かと思うと、その花束の中から、輝く白い鳩が何羽も出てきて、平和を象徴するかのように、夜空へと飛び立った。
「サ、サリ王子……!?」
エヴァディザードを止めようとして、恐怖に壊れたように震えていたシルクの腕も、あまりの光景、それも腰砕けになる光景に、その恐怖さえ忘れ、震えを収めていた。
「――サリ!! なぜ、邪魔立てを!!」
サリは嘆息すると、どこからともなく、お得意のララ人形とリリ人形を取り出した。
『ああ、これが青い春。愛しい人に手を出された青年は、怒りに我を忘れて、他人の庭で自殺行為に及んでしまうの。でも、ここはララたちの庭。ここで決闘されたら、ララたち、怒られてしまうのよ』
『世の中は不条理。決闘なんて青い春の悪戯で、リリたちとは関わり合いのないことなのに、怒られるのはリリたちだなんて』
『場所を変えてくれれば、邪魔しないのよ。ララ、他人様の恋路のお邪魔をして、馬に蹴られて死ぬなんて、イヤ』
――えーと。
唇を噛んだシェーンが、サリに侮蔑の視線を向けながらも、元に戻った剣を鞘に収めた。
それを見届けたサリが、静かに、視線をシルクに移した。
「シルク、君は、君を懸けた試合に負けた。エヴァは、君を砂にさらう気でいるようだ。シグルドと私の命運を懸けても、君が私に、その阻止を願うのなら――」
サリの瞳が、ほんの少し寂しげに翳った。
「私は、君の願い通りにしようけれど。もしも、砂の命運を左右する覚悟が君にあるのなら、君自身の意志で、砂の国に赴いて欲しい。――砂の国は、もう半世紀以上も私達の血を待ち望み、私達は裏切り続けている。約束を、呪いとして断つことも、果たすこともしないままに」
「サリ……? 約束って、何……? ぼく、知らないよ。エヴァ、何か理由があって、ああいうことしたの……!?」
一筋縄ではいかない微笑みを見せたサリが、シルクの耳元に囁いた。
「砂に、真実を確かめにお行き。私も、断片しか知らない。砂の地では、メイヴェルが君を守ってくれるだろう。メイヴェルだけが、味方と覚えておいで。その庇護を離れれば、君は砂に呑まれるかもしれない」
========================
★ 次回予告的な分岐です。
※ いずれかのルートで更新されます。
========================
【C】 すごい! 何だかヒロイック・サーガっぽくなってきた! 隠された真実を突き止めて、シグルドとカイム・サンドを救うんだ。かっこいい、行くぞ!
⇒ 砂の黄昏編 soir.01 に続きます。
【D】「許さない」真っ青な顔をしたシェーンが割り込んだ。「サリ、君はよくも、シルクの身がどうなるかわからないことを――」
⇒ 砂の夜明け編 aube.01 に続きます。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる