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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第81話 町人Sはモブリーダーになる【後編】
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「麗しき女神アテナよ、僕に気高き戦神の祝福を!」
「うわっ」
光の波紋が幾重にも拡がって、目が眩んだ近衛隊士たちの統制が乱れたスキに。
僕は跳び退がって距離を取り、続け様に、マルスの小剣を振るった。
「偉大なる軍神マルスよ、僕に浄化の炎の力を!」
小剣から渦を巻いてCの字に燃え広がった青白い神炎が、僕と近衛隊士たちを遮った。四方から同時に僕に襲いかかることはもうできないけど、炎の門は開けてある。
何人かくらい、炎の門をくぐってかかってくると思ったけど、誰も、かかってこなかった。それなら、僕の方から――
「軍神マルスの聖なる炎、邪なる者を焼き尽くせ!」
神炎だから、デゼルやガゼル様なら、炎のただなかに涼しげに佇むことさえできるんだ。その姿はすごく神々しいけど、決して、幻の炎じゃないから。
神炎の散弾に、何人かが火傷を負ったみたいで、そこかしこから、苦悶の声が聞こえてきた。
「ま、待て! もういい! 隊長、頼む、鎮めてくれ!」
「――はッ! デゼル様サマだぜ! 魔法の品がなけりゃ何にもできねぇおガキが偉そうにッ! その盾も剣も、デゼル様にもらったモンだろうよ!」
神炎を鎮めると、僕は穏やかに微笑んだ。
「確かに、デゼルからの贈り物です。手に取ってみますか?」
「何ッ」
思いもよらなかったみたいで、隊士たちがごくりと生唾を飲み込んだ。
「忠告しておくけど、神剣は使い手を選ぶと聞きました。ふさわしくない者が手にした時に、何が起こるのか、僕は知りません。手に取るなら、その覚悟をもって」
デゼルったら、自分が先に手に取って、何も起こらないのを確かめてから、僕に取らせたんだ。神剣を手に取る意味を先に教えたら、僕が先に手に取ると思ってそうしたんだよ。
自分が危ない目に遭っても、僕を危ない目に遭わせまいとするところ、ちっとも、変わってないんだ。
僕が草原に突き立てたマルスの小剣を、隊士たちが喉を鳴らして凝視した。
魔力を持つ剣なんて、滅多にお目にかかれるものではないし、神剣ともなれば、その身に宿す魔力は絶大。たった今、どれほどのことができる剣かを目の当たりにしたばかりの隊士たちは、逆に警戒してるみたいだった。
「はん! ハッタリだろ、ただのガキでも選ばれる剣なら、俺だって余裕で――」
ずっと、僕に挑発的だった衛兵隊士の一人が進み出て、剣に手を伸ばした、その時だった。
抜く前に剣がスっと浮き上がって、神炎が衛兵隊士を包み込んだ。
「ギャァアアアア!!!」
嘘、こんなに危ないものだったの!?
だって、ガゼル様が取っても、ジャイロが取っても何事もなかったのに!
「ザックス!」
隊士は瞬く間に黒焦げになって、消し炭になって、何が起きたのか、僕にさえ、なかなか理解できなかった。
「――ッ!!」
僕も、近衛隊も衛兵隊も、あまりのことに言葉もなかった。
「失礼いたしましたッ!!」
「えっ」
僕が凍りついていた間に、真っ先に立ち直った近衛副隊長が、血の気を引かせた顔で僕にひざまずいた。
そうしたら、他の隊士たちもあわててそれにならった。
わ。わ。
しかも、マルスの小剣が勝手に滑空して、僕の手の中に戻ってきたものだから、みんなが目を見開いて、感嘆のため息をついたんだ。
使い手を選ぶって、まさか、このレベルで僕が選ばれてたなんて!
使いこなすのはみんなが思うほどラクじゃないこと、神を讃える詞の棒読みじゃ何も起こらないこと、そういったことをわかってもらうつもりで、覚悟を決められる隊士がいるなら、手に取ってもらおうと思ったんだ。
それなのに、手に取ることすら、ふさわしくない者には許さないほどの剣だったなんて。
僕、神様を甘く見てた。
犠牲者に悪いことをしてしまったけど、忠告はしたから、後はもう、仕方がないよね。
本当に、知らなかったんだもん。
翌月からは、手の平を返したように、近衛隊士も衛兵隊士も、そろって僕を評価してくれるようになったんだ。
「うわっ」
光の波紋が幾重にも拡がって、目が眩んだ近衛隊士たちの統制が乱れたスキに。
僕は跳び退がって距離を取り、続け様に、マルスの小剣を振るった。
「偉大なる軍神マルスよ、僕に浄化の炎の力を!」
小剣から渦を巻いてCの字に燃え広がった青白い神炎が、僕と近衛隊士たちを遮った。四方から同時に僕に襲いかかることはもうできないけど、炎の門は開けてある。
何人かくらい、炎の門をくぐってかかってくると思ったけど、誰も、かかってこなかった。それなら、僕の方から――
「軍神マルスの聖なる炎、邪なる者を焼き尽くせ!」
神炎だから、デゼルやガゼル様なら、炎のただなかに涼しげに佇むことさえできるんだ。その姿はすごく神々しいけど、決して、幻の炎じゃないから。
神炎の散弾に、何人かが火傷を負ったみたいで、そこかしこから、苦悶の声が聞こえてきた。
「ま、待て! もういい! 隊長、頼む、鎮めてくれ!」
「――はッ! デゼル様サマだぜ! 魔法の品がなけりゃ何にもできねぇおガキが偉そうにッ! その盾も剣も、デゼル様にもらったモンだろうよ!」
神炎を鎮めると、僕は穏やかに微笑んだ。
「確かに、デゼルからの贈り物です。手に取ってみますか?」
「何ッ」
思いもよらなかったみたいで、隊士たちがごくりと生唾を飲み込んだ。
「忠告しておくけど、神剣は使い手を選ぶと聞きました。ふさわしくない者が手にした時に、何が起こるのか、僕は知りません。手に取るなら、その覚悟をもって」
デゼルったら、自分が先に手に取って、何も起こらないのを確かめてから、僕に取らせたんだ。神剣を手に取る意味を先に教えたら、僕が先に手に取ると思ってそうしたんだよ。
自分が危ない目に遭っても、僕を危ない目に遭わせまいとするところ、ちっとも、変わってないんだ。
僕が草原に突き立てたマルスの小剣を、隊士たちが喉を鳴らして凝視した。
魔力を持つ剣なんて、滅多にお目にかかれるものではないし、神剣ともなれば、その身に宿す魔力は絶大。たった今、どれほどのことができる剣かを目の当たりにしたばかりの隊士たちは、逆に警戒してるみたいだった。
「はん! ハッタリだろ、ただのガキでも選ばれる剣なら、俺だって余裕で――」
ずっと、僕に挑発的だった衛兵隊士の一人が進み出て、剣に手を伸ばした、その時だった。
抜く前に剣がスっと浮き上がって、神炎が衛兵隊士を包み込んだ。
「ギャァアアアア!!!」
嘘、こんなに危ないものだったの!?
だって、ガゼル様が取っても、ジャイロが取っても何事もなかったのに!
「ザックス!」
隊士は瞬く間に黒焦げになって、消し炭になって、何が起きたのか、僕にさえ、なかなか理解できなかった。
「――ッ!!」
僕も、近衛隊も衛兵隊も、あまりのことに言葉もなかった。
「失礼いたしましたッ!!」
「えっ」
僕が凍りついていた間に、真っ先に立ち直った近衛副隊長が、血の気を引かせた顔で僕にひざまずいた。
そうしたら、他の隊士たちもあわててそれにならった。
わ。わ。
しかも、マルスの小剣が勝手に滑空して、僕の手の中に戻ってきたものだから、みんなが目を見開いて、感嘆のため息をついたんだ。
使い手を選ぶって、まさか、このレベルで僕が選ばれてたなんて!
使いこなすのはみんなが思うほどラクじゃないこと、神を讃える詞の棒読みじゃ何も起こらないこと、そういったことをわかってもらうつもりで、覚悟を決められる隊士がいるなら、手に取ってもらおうと思ったんだ。
それなのに、手に取ることすら、ふさわしくない者には許さないほどの剣だったなんて。
僕、神様を甘く見てた。
犠牲者に悪いことをしてしまったけど、忠告はしたから、後はもう、仕方がないよね。
本当に、知らなかったんだもん。
翌月からは、手の平を返したように、近衛隊士も衛兵隊士も、そろって僕を評価してくれるようになったんだ。
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