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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第79話 公子様に伝えた悪役令嬢のわがままは
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「なんの公子だ! 何のための……!」
デゼルがふわっと笑って、ガゼル様を抱き締めた。
「公国を滅亡から救って、平和と繁栄を守るための公子様だよ」
「何言っ……」
「ガゼル様、ガゼル様が公子様だったから、公国を守れたの。水神の加護を授かったのはガゼル様ということにしてくれていたから、この状況でもまだ、私が授かった水神の加護で、公国の人々の暮らしをよくしてあげることができるの」
「デゼル、そんな!」
「もし――」
デゼルもいつの間にか、泣いていて。
二人とも、涙も容貌もすごく綺麗で、二人がいる場所だけ別世界のようだった。
僕、ガゼル様になら、ガゼル様にだけは、デゼルを譲ってもいいと思ってるんだ。デゼルが望むなら。
誰よりデゼルを愛してくれて、闇主にふさわしいのは、ガゼル様だって、僕は思うから。僕はきっと間違って、割り込んでしまったんだ。
だけど、あくまで、デゼルが望むならだよ。
僕だってデゼルが大好きだし、きっと間違いだからなんて理由で、デゼルとの素敵な思い出や約束をなかったことにする気はないから。
「もしも、いつか、みんなが私とサイファを迫害することがなくなったら、私達、ガゼル様の公国に戻ってきてもいい……? おかえりって、迎え入れて下さいますか……?」
「当たり前だ!」
「ありがとう」
うん――
僕も、ガゼル様と公国が大好き。
いつか、帰ることができて、ガゼル様がおかえりって迎え入れて下さったら、素敵だね。
「デゼル、サイファ、本当にごめん。何にもしてあげられなくて……」
僕は微笑んでかぶりをふった。
僕達の方が、申し訳ないんだ。僕達が迫害を受けないようにするのなんて、どうしたらいいのか、途方もない難題なのに。ガゼル様は公国に一人残って、その努力を続けて下さるおつもりなんだ。
いつか、僕達が公国に帰るかもしれない、その日のために。
こんなに素敵な公子様なんて、世界中探したって、きっと、他にはいないよね。
涙が止まらないガゼル様に、デゼルが言いにくそうに切り出した。
「あのね、ガゼル様。今日は、よかったら、お願いがあって……」
「なに? 私にできることがあるなら、何でも、言ってくれていいよ」
デゼルは上目遣いにガゼル様を見たり、ちょっと目を逸らしたり、すごく、言いにくそうだった。
「豊穣の女神テラ・マーテル様のご加護を頂いたので、とりあえずガゼル様のお母様、公妃様が頂いたことにして頂けないでしょうか。その、いつか、ガゼル様がお妃様を迎えられたらそちらに」
ガゼル様があっけに取られてデゼルを見た。
僕もそれ、今、初めて聞いたから驚いた。
「デゼル……」
苦笑したガゼル様がかぶりをふった。
「ああ、そうだね。君なら、さらに神の加護を授かっても不思議じゃない。ほんとにおかしいな、その君を、なんでみんなは魔女だと信じて疑わないんだろう。石を投げて傷つけて、苦しめて殺そうとさえするんだろう」
また、涙を一筋だけ伝わせたガゼル様が、それでも、デゼルに笑いかけてくれたんだ。
「ありがとう、デゼル。その申し出は、ありがたく受けるよ。私がいつか、君達が迫害されることのない公国にできたなら――」
ガゼル様のきらめくプラチナ・ブロンドが風に揺れて、夜明けの光が零れるような優しい微笑みが、忘れられないくらい印象的に、僕の記憶に残った。
「必ず、帰ってきて欲しい。サイファ、どうか、君だけは傍でデゼルを守ってあげて」
僕もデゼルも笑顔でうなずいて、ガゼル様と別れたんだ。
デゼルがふわっと笑って、ガゼル様を抱き締めた。
「公国を滅亡から救って、平和と繁栄を守るための公子様だよ」
「何言っ……」
「ガゼル様、ガゼル様が公子様だったから、公国を守れたの。水神の加護を授かったのはガゼル様ということにしてくれていたから、この状況でもまだ、私が授かった水神の加護で、公国の人々の暮らしをよくしてあげることができるの」
「デゼル、そんな!」
「もし――」
デゼルもいつの間にか、泣いていて。
二人とも、涙も容貌もすごく綺麗で、二人がいる場所だけ別世界のようだった。
僕、ガゼル様になら、ガゼル様にだけは、デゼルを譲ってもいいと思ってるんだ。デゼルが望むなら。
誰よりデゼルを愛してくれて、闇主にふさわしいのは、ガゼル様だって、僕は思うから。僕はきっと間違って、割り込んでしまったんだ。
だけど、あくまで、デゼルが望むならだよ。
僕だってデゼルが大好きだし、きっと間違いだからなんて理由で、デゼルとの素敵な思い出や約束をなかったことにする気はないから。
「もしも、いつか、みんなが私とサイファを迫害することがなくなったら、私達、ガゼル様の公国に戻ってきてもいい……? おかえりって、迎え入れて下さいますか……?」
「当たり前だ!」
「ありがとう」
うん――
僕も、ガゼル様と公国が大好き。
いつか、帰ることができて、ガゼル様がおかえりって迎え入れて下さったら、素敵だね。
「デゼル、サイファ、本当にごめん。何にもしてあげられなくて……」
僕は微笑んでかぶりをふった。
僕達の方が、申し訳ないんだ。僕達が迫害を受けないようにするのなんて、どうしたらいいのか、途方もない難題なのに。ガゼル様は公国に一人残って、その努力を続けて下さるおつもりなんだ。
いつか、僕達が公国に帰るかもしれない、その日のために。
こんなに素敵な公子様なんて、世界中探したって、きっと、他にはいないよね。
涙が止まらないガゼル様に、デゼルが言いにくそうに切り出した。
「あのね、ガゼル様。今日は、よかったら、お願いがあって……」
「なに? 私にできることがあるなら、何でも、言ってくれていいよ」
デゼルは上目遣いにガゼル様を見たり、ちょっと目を逸らしたり、すごく、言いにくそうだった。
「豊穣の女神テラ・マーテル様のご加護を頂いたので、とりあえずガゼル様のお母様、公妃様が頂いたことにして頂けないでしょうか。その、いつか、ガゼル様がお妃様を迎えられたらそちらに」
ガゼル様があっけに取られてデゼルを見た。
僕もそれ、今、初めて聞いたから驚いた。
「デゼル……」
苦笑したガゼル様がかぶりをふった。
「ああ、そうだね。君なら、さらに神の加護を授かっても不思議じゃない。ほんとにおかしいな、その君を、なんでみんなは魔女だと信じて疑わないんだろう。石を投げて傷つけて、苦しめて殺そうとさえするんだろう」
また、涙を一筋だけ伝わせたガゼル様が、それでも、デゼルに笑いかけてくれたんだ。
「ありがとう、デゼル。その申し出は、ありがたく受けるよ。私がいつか、君達が迫害されることのない公国にできたなら――」
ガゼル様のきらめくプラチナ・ブロンドが風に揺れて、夜明けの光が零れるような優しい微笑みが、忘れられないくらい印象的に、僕の記憶に残った。
「必ず、帰ってきて欲しい。サイファ、どうか、君だけは傍でデゼルを守ってあげて」
僕もデゼルも笑顔でうなずいて、ガゼル様と別れたんだ。
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