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第三章 闇を彷徨う心を癒したい

第76話 僕のことしか考えられないようにしてあげる

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「いつまでも、僕を心配させてる、おしおきだからね、デゼル?」
「えっ……あ、あぁっ!」

 首筋に吸いついたら、デゼルのすごく甘い悲鳴が聞こえた。
 恥ずかしがって真っ赤になるデゼルが、あんまり、可愛くて。

「デゼルには、僕が幸せじゃないように見えるの? 今、デゼルが可愛くて、とっても、幸せなんだけどな?」
「……っ!!」
「一緒にいようね」

 何にも言えずに、こくんとうなずいたデゼルの泣き顔が、まるで、笑顔みたいに嬉しそうなんだ。

「熱が下がらなかったら、明日も、おしおきに口移しするから。元気になって」

 あれ。デゼルが耳まで紅潮させて、顔を隠しちゃった。
 もしかして、こんなこと言ったら、デゼルの熱が上がるのかな。

「サイファ様、私……」
「なに?」
「私、サイファ様のことが好きでもいい……? ずっと、好きでもいい……?」

 にっこり笑って、デゼルと額を合わせた。

「うん、僕も」

 嬉しがって、デゼルが泣いたから。
 こうしたら届くんだと思って、寝台に横たえたデゼルの横顔に、耳元に、優しいキスを降らせた。

「啼いて」

 息を呑んだデゼルがあわてるけど、もう、僕に押し倒された姿勢だよ?
 デゼルのネグリジェの紐を解いた後、左手でデゼルの右手を寝台に縫いつけて、首のつけねのあたりから胸元にかけてキスを降らせた。

「あっ…! …あぁっ……!」

 んっ……
 デゼルの声と肌が、すごく甘くて限界。
 これ以上したら、襲いたくなって、容赦できなくなりそう。

「熱が上がるからここまでね」

 デゼルの一番、綺麗で可愛い表情も、優しくて甘い声も、僕だけが知ってる、僕だけしか知らないもの。
 緩く波打つ銀の髪から、きらめきながら優しい光が降るように――
 僕に呼ばれたデゼルが見せる微笑みは、まるで、闇の中に月の光が零れるみたいに、優しくて、儚くて、とても綺麗なんだ。

 穢れてなんていない。
 初めて会った時から、デゼルの瞳はずっと澄み切っていて、哀切な翳りを帯びてさえ、幻想的なまでの美しさだった。
 デゼルは何も変わっていない。
 変わったのは、ただ、周りの態度。

「大丈夫だよ、デゼル。もう、怖い夢はみない。ずっと、僕にされたことだけ、考えていて」
「~!」

 デゼルが従える闇主たちを見た人々の多くが、表ではデゼルを称賛しながら、裏ではデゼルを穢れた魔女だと蔑んで、心ない嘲笑や中傷、悪意を向けてくるから、デゼルはいつまでも体調がよくならないんだ。
 デゼル、待っていて。
 僕が必ず、デゼルを守ってあげるよ。

 デゼルは僕のことだけ考えていたらいいんだから。
 僕のことしか、考えられないようにしてあげるから。


 僕がデゼルの胸にそっと手を置いてあげたら、呼吸も仕種もすごくやわらかくなって、デゼルはそのまま、すうっと眠りに落ちた。
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