76 / 139
第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第70話 はじめての癇癪
しおりを挟む
「――ッ! ああ、もうッ!!」
僕、癇癪を起こしたのって生まれて初めてかもしれない。
デゼルって! デゼルって! デゼルって!!
言葉にならないよ!
今度、つかまえたら、絶対におしおきしなくちゃ!!
きつく! すっごく、きつくだよ!!
もう、ここはどこなの!
そんなこと、どうでもいいんだけど、癇癪を起こしてるから、何もかもが腹立たしいんだ。
ねぇ、この人達、殺していいの!?
デゼルがスノウフェザーに一人で空間跳躍してしまって、エリス様も追うようにいなくなって、僕と、殺してしまいたい闇主たちだけが残されたんだ。
こんなの、ガゼル様だって守れなかったはずだよ。
今からスノウフェザーに向かったって、僕が行く頃には、どうせ、またいないんだから!
「サイファ?」
「えっ?」
どこかで聞いた声に振り向いて、驚いたんだ。
「ユリシーズ……様……?」
僕、ジャイロのお姉さんと直に話すのは初めて。
なんて呼びかけたらいいのか迷ったら、ユリシーズが小さく笑った。
「あなた、デゼルのことも呼び捨てだものね。ユリシーズでいいわよ」
恨みがましく、金色の片目でじっと見詰められて、少し、怖かった。
「サイファ、デゼルはどこ……? ネプチューン様が帝位に就くのに、そうしたら癒してくれる約束なのに、いないの。昨日、いたのにいないの。約束を破るの? 私、待ってたのに、待ってたのに!!」
「えぇ!? あの、待って下さい、ここはどこでしょう。僕も、さっきまでここにいたデゼルと会っていて。デゼルは約束を破るつもりじゃなくて、今、邪神に追われて手が離せないみたい……です……」
「そんな!! 邪神? 邪神ってなに? それは、私を癒す前にデゼルが死んでしまうということなの!? ここまできて、ひどいわ!!」
わっ。わっ。
怨念のオーラを立ち昇らせたユリシーズの、金色の瞳が妖しい燐光を帯びて、僕をおどろおどろしく凝視した。
怖いよ、どうしたらいいんだろう。
ジャイロは!?
お姉さんのなだめ方、僕、わからないよ。
「サイファ、ここがどこだか知らないの? あなた、ここにいてはいけないのよ? とにかく、私の部屋にいらっしゃい。見つかったら生きたまま、生皮を剥がれて、手足を一本ずつ切り落とされて、墓土に埋められてしまうかもしれないわ……」
えぇえ! 怖いッ!!
「ここはトランスサタニアン帝国の皇宮よ。あなたがいたのはデゼルの部屋」
「デゼルの部屋? あの、帝国の皇宮にデゼルの部屋が?」
「デゼルが昨日、皇帝を討ったからよ。ネプチューン様の副官に任命されたの」
「!!?」
全然、話が見えない。どうしよう。
デゼル、グノースの洞窟で酷い目に遭わされてたはずじゃ。
ええと、そうか、昨日はもう誰もいなかった。昨日なら、皇帝を討てるんだね。
でも、たぶん、ネプチューン皇子に助けてもらったんだとして、そのすぐ後に、まだ十歳のデゼルが皇帝を討ったの? なんで??
何か、考え込んでいるようだったユリシーズがうなずいた。
「いいわ、サイファ。ここにいらっしゃい。そうしたら、デゼルが約束を破るつもりじゃないって信じてあげる……。だって、デゼルはサイファが大好きだもの……。デゼルは必ず、サイファのいるところに戻ってくる……」
僕は少し驚いて、ユリシーズを見た。
僕、あんまりユリシーズのこと知らないんだけど、ユリシーズはデゼルのこと、よく知ってたのかな。
知ってたのかもしれない。
ユリシーズは闇の神様の片翼、闇幽鬼様だから。
じゃあ、信じてもいい?
デゼルは必ず、僕のところに戻ってくるって。
そうだったら、嬉しいんだけど。
もしも、デゼルがきちんと僕のところに戻ってきたら、おしおきはきつめで許してあげようかな。
うん。僕、そうしようっと。
すっごくきついおしおきは許してあげるから、戻ってきてね。
僕、癇癪を起こしたのって生まれて初めてかもしれない。
デゼルって! デゼルって! デゼルって!!
言葉にならないよ!
今度、つかまえたら、絶対におしおきしなくちゃ!!
きつく! すっごく、きつくだよ!!
もう、ここはどこなの!
そんなこと、どうでもいいんだけど、癇癪を起こしてるから、何もかもが腹立たしいんだ。
ねぇ、この人達、殺していいの!?
デゼルがスノウフェザーに一人で空間跳躍してしまって、エリス様も追うようにいなくなって、僕と、殺してしまいたい闇主たちだけが残されたんだ。
こんなの、ガゼル様だって守れなかったはずだよ。
今からスノウフェザーに向かったって、僕が行く頃には、どうせ、またいないんだから!
「サイファ?」
「えっ?」
どこかで聞いた声に振り向いて、驚いたんだ。
「ユリシーズ……様……?」
僕、ジャイロのお姉さんと直に話すのは初めて。
なんて呼びかけたらいいのか迷ったら、ユリシーズが小さく笑った。
「あなた、デゼルのことも呼び捨てだものね。ユリシーズでいいわよ」
恨みがましく、金色の片目でじっと見詰められて、少し、怖かった。
「サイファ、デゼルはどこ……? ネプチューン様が帝位に就くのに、そうしたら癒してくれる約束なのに、いないの。昨日、いたのにいないの。約束を破るの? 私、待ってたのに、待ってたのに!!」
「えぇ!? あの、待って下さい、ここはどこでしょう。僕も、さっきまでここにいたデゼルと会っていて。デゼルは約束を破るつもりじゃなくて、今、邪神に追われて手が離せないみたい……です……」
「そんな!! 邪神? 邪神ってなに? それは、私を癒す前にデゼルが死んでしまうということなの!? ここまできて、ひどいわ!!」
わっ。わっ。
怨念のオーラを立ち昇らせたユリシーズの、金色の瞳が妖しい燐光を帯びて、僕をおどろおどろしく凝視した。
怖いよ、どうしたらいいんだろう。
ジャイロは!?
お姉さんのなだめ方、僕、わからないよ。
「サイファ、ここがどこだか知らないの? あなた、ここにいてはいけないのよ? とにかく、私の部屋にいらっしゃい。見つかったら生きたまま、生皮を剥がれて、手足を一本ずつ切り落とされて、墓土に埋められてしまうかもしれないわ……」
えぇえ! 怖いッ!!
「ここはトランスサタニアン帝国の皇宮よ。あなたがいたのはデゼルの部屋」
「デゼルの部屋? あの、帝国の皇宮にデゼルの部屋が?」
「デゼルが昨日、皇帝を討ったからよ。ネプチューン様の副官に任命されたの」
「!!?」
全然、話が見えない。どうしよう。
デゼル、グノースの洞窟で酷い目に遭わされてたはずじゃ。
ええと、そうか、昨日はもう誰もいなかった。昨日なら、皇帝を討てるんだね。
でも、たぶん、ネプチューン皇子に助けてもらったんだとして、そのすぐ後に、まだ十歳のデゼルが皇帝を討ったの? なんで??
何か、考え込んでいるようだったユリシーズがうなずいた。
「いいわ、サイファ。ここにいらっしゃい。そうしたら、デゼルが約束を破るつもりじゃないって信じてあげる……。だって、デゼルはサイファが大好きだもの……。デゼルは必ず、サイファのいるところに戻ってくる……」
僕は少し驚いて、ユリシーズを見た。
僕、あんまりユリシーズのこと知らないんだけど、ユリシーズはデゼルのこと、よく知ってたのかな。
知ってたのかもしれない。
ユリシーズは闇の神様の片翼、闇幽鬼様だから。
じゃあ、信じてもいい?
デゼルは必ず、僕のところに戻ってくるって。
そうだったら、嬉しいんだけど。
もしも、デゼルがきちんと僕のところに戻ってきたら、おしおきはきつめで許してあげようかな。
うん。僕、そうしようっと。
すっごくきついおしおきは許してあげるから、戻ってきてね。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる