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第二章 白馬の王子様

第39話 町人Sは贈り物をオーダーメイドする

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 闇神殿で暮らすようになって、一ヶ月。
 闇主の初任給をもらった僕は、公国にひとつしかない宝飾店に、初めて足を踏み入れたんだ。
 ショーケースの中には、綺麗な指輪や首飾りが所狭しと並べられていて、それぞれ綺麗だったり可愛かったり、センスのいいものに見えたけど――

 金貨三十枚で足りるのかドキドキしながら、僕は、店員さんに声をかけてみた。

「あの、オーダーメイドできますか?」

 僕が子供だからか、店員さんは少し驚いたみたいだった。
 だけど、デゼルにもらった闇主の礼装だし、そんなに、場違いじゃないと思う。

「ご予算はいかほどでしょうか?」
「金貨三十枚で、イヤリングをお願いしたいんです」

 僕がデザインと説明書きの封書を渡すと、店員さんが眼鏡を直しながら、目を通してくれた。
 どうしても、このデザインがいいんだ。
 ただの思いつきなんだけど、すごく、気に入ってしまって。
 僕、そんなに絵は上手くないはずなのに、イヤリングのデザインは、すごく綺麗に描けたんだ。

「かしこまりました。納期などは――」

 いろいろ相談してみたら、ちょうど、金貨三十枚でデゼルの誕生日に必ず間に合わせてくれるって、約束してもらえた。
 よかった、初任給で足りて。
 アクセサリーの値段って、僕、よくわからないから。
 今年のデゼルの誕生日は特別なんだ。
 僕――
 その日に契るつもりでいるから。
 デゼルの誕生日が九月七日で、ガゼル様も一緒に帝国の第二皇子に謁見する使節に参加するのが九月九日。
 デゼルの話では、帝国の第二皇子って、三年後にガゼル様を殺害する恐ろしい人なんだ。
 まだ、その時じゃないけど、心配だよね。何かあるかもしれない。
 戦闘訓練でも、死鬼に覚醒した後のジャイロには、僕、まるで敵わなくて。
 今のままじゃ足手まといで、いざという時にデゼルのことも、ガゼル様のことも守れない。
 時間がなくて、デゼルがおとなになるのを待ってあげられないから。
 せめて、僕に贈れる一番いい物を贈りたいんだ。
 今の僕に、これ以上の物は贈れない。
 そう納得できる、後悔しない贈り物を。
 だから、ガゼル様に返済を待ってもらえたこと、本当に嬉しかった。

 デゼル、喜んでくれるかな。
 時の神殿に時の魔法を授かりに行ったのは、公国滅亡の時を迎える前に、闇主を覚醒させるため。
 でもまだ、デゼルの方から契りたいとは言ってこない。
 デゼルがいつ、契るつもりか、わからないけど――
 僕は、公国を滅ぼす人と初めて会う日に間に合わせたい。
 だって、話し合いって、力がないと成立しないって、僕、わかったんだ。
 話し合う気のない人と話し合うためには、最低でも、相手の脅威になれるだけの力がいるんだ。
 だってそれって、「話し合いで解決したい」っていう僕のルールを相手に押しつけることだから。
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