10 / 139
第一章 舞い降りた天使
第9話 今夜は帰らないで
しおりを挟む
夜の帳が降りる頃まで。
僕はずっと、デゼルの傍について闇の神様にデゼルの回復を祈り続けた。
ごめんね、デゼル。
本当にごめん。
ずっと、言えなくて。
学校で、僕がどういう立場にあるのか、みんなにどう思われてるのか、デゼルにだけは、知られたくなかったんだ。
ごめんね、こんな、情けないありさまで。
ガッカリしたよね。
知られたら、デゼルも僕から離れて行くと思った。
デゼルだけは、失いたくなかった。
どうして、言わなかったんだろう。
デゼルを傷つけるくらいなら、僕が傷つけばよかったのに。
それなのに、どうして――
デゼルはどうして、こんなになるのに、闘ったの?
どうして、デゼルはひとつも悪くないのに、ぜんぶ、デゼルが悪いことにしたの?
こんなことのために、デゼルの傍にいたんじゃないのに。
僕がどんな目に遭っても、デゼルがガッカリせずに、昨日までと同じように傍にいてくれたら、昨日までと同じように僕を呼んで、笑いかけてくれたら、僕なら、それだけで、どんなことにも耐えられたのに。
デゼルの高熱が引かないんだ。
息も絶え絶えで、それなのに、たまに意識が戻ると、僕を見てほっとした顔で笑うんだ。
闇の神様、どうか、デゼルをお守り下さい。どうか――
**――*――**
「サイファ…さま……」
気がついた様子のデゼルが、僕を探すように右手を宙にさまよわせたから。
僕はほっとしたあまり泣いてしまいそうになりながら、きゅっと、その手をつかんだ。
「デゼル、気がついてよかった。何か食べられる? お水なら飲める?」
「…キノコ……サイファ様と一緒に採ってきたキノコ……デゼルと一緒に、焼いて食べよう?」
やだな、デゼルったら。
僕のこと、こんなに心配させておいて、まずキノコなの?
もぉ、可愛いんだから。
僕はクスっと笑って、優しくデゼルの髪をなでた。
「キノコだね。わかった、焼いてくるから、少し、待ってて。お水はここにあるからね」
デゼルがこくんとうなずくのを確かめた後、僕はリュックごと、キノコを持って部屋を出た。
そうしたら、デゼルが起きてついてきちゃったから、すごく、驚いたんだ。
起きられるくらいデゼルが元気になって、安心したら、デゼルのすることがあんまり可愛くて、抱き締めたくなったけど――
デゼル、まだ苦しいかもしれないから、我慢して、キノコをどうやって焼いたらいいのか教えてあげた。
僕、上手なんだから。
「美味しく焼けました」
アツアツのキノコを頬張りながら、デゼルが幸せいっぱいの笑顔で言うんだ。
おかしくて、笑っちゃった。
「よかった、デゼルが元気になって」
「うん。でも、今夜は帰らないで、サイファ様」
僕、大丈夫かな。
デゼル、ものすごく可愛いんだよ?
ついさっきまで高熱で、息も絶え絶えだったデゼルを、渾身の力で抱き締めちゃったりしない自信、あんまり、ないんだけど。
キノコにブロッコリーとじゃがいもを添えた料理を食べて、デゼルはお腹がいっぱいになったみたい。
今度は、ふらふらとお風呂に入りに行った。
僕も、その間に神殿のお風呂を借りて、歯を磨いて、パジャマに着替えた。
その間に、いろいろ考えた。
これで終わりじゃないんだ。
公国の滅亡を阻止したいなら、こんなこと、きっと、始まりですらないんだよね。後戻りはできない。
デゼルも僕も、もっと、危険な目に遭うんだと思う。
つらいことや悲しいことが、たくさん、あるんだと思う。
デゼル、本当にいいのかな。
僕は?
僕こそ本当に、デゼルにこんな思いをさせてまで、守れるかもわからない公国を守りたいのかな――
「サイファ様、一緒に寝よ~」
顔を上げたら、枕を抱いた湯上がりのデゼルがいて。
えぇっ。
可愛い。
わ、わ、胸がとくとく、とくとく、高鳴って止まらないよ。
そんな僕を見てデゼルが笑うんだ。
駄目だったら、そんな、可愛い顔で笑ったら。
どうしよう、抱き締めたいな。
ぎゅってしていい? だめ?
「サイファ様、あのね」
月をかたどったナイトライトをつけて、僕のとなりに座ったデゼルが、寄りかかってきて。
わ、わ、痺れる甘さってこういう――
すごく可愛くて、パジャマ越しに感じるデゼルの肌のあたたかさが優しくて。
僕はずっと、デゼルの傍について闇の神様にデゼルの回復を祈り続けた。
ごめんね、デゼル。
本当にごめん。
ずっと、言えなくて。
学校で、僕がどういう立場にあるのか、みんなにどう思われてるのか、デゼルにだけは、知られたくなかったんだ。
ごめんね、こんな、情けないありさまで。
ガッカリしたよね。
知られたら、デゼルも僕から離れて行くと思った。
デゼルだけは、失いたくなかった。
どうして、言わなかったんだろう。
デゼルを傷つけるくらいなら、僕が傷つけばよかったのに。
それなのに、どうして――
デゼルはどうして、こんなになるのに、闘ったの?
どうして、デゼルはひとつも悪くないのに、ぜんぶ、デゼルが悪いことにしたの?
こんなことのために、デゼルの傍にいたんじゃないのに。
僕がどんな目に遭っても、デゼルがガッカリせずに、昨日までと同じように傍にいてくれたら、昨日までと同じように僕を呼んで、笑いかけてくれたら、僕なら、それだけで、どんなことにも耐えられたのに。
デゼルの高熱が引かないんだ。
息も絶え絶えで、それなのに、たまに意識が戻ると、僕を見てほっとした顔で笑うんだ。
闇の神様、どうか、デゼルをお守り下さい。どうか――
**――*――**
「サイファ…さま……」
気がついた様子のデゼルが、僕を探すように右手を宙にさまよわせたから。
僕はほっとしたあまり泣いてしまいそうになりながら、きゅっと、その手をつかんだ。
「デゼル、気がついてよかった。何か食べられる? お水なら飲める?」
「…キノコ……サイファ様と一緒に採ってきたキノコ……デゼルと一緒に、焼いて食べよう?」
やだな、デゼルったら。
僕のこと、こんなに心配させておいて、まずキノコなの?
もぉ、可愛いんだから。
僕はクスっと笑って、優しくデゼルの髪をなでた。
「キノコだね。わかった、焼いてくるから、少し、待ってて。お水はここにあるからね」
デゼルがこくんとうなずくのを確かめた後、僕はリュックごと、キノコを持って部屋を出た。
そうしたら、デゼルが起きてついてきちゃったから、すごく、驚いたんだ。
起きられるくらいデゼルが元気になって、安心したら、デゼルのすることがあんまり可愛くて、抱き締めたくなったけど――
デゼル、まだ苦しいかもしれないから、我慢して、キノコをどうやって焼いたらいいのか教えてあげた。
僕、上手なんだから。
「美味しく焼けました」
アツアツのキノコを頬張りながら、デゼルが幸せいっぱいの笑顔で言うんだ。
おかしくて、笑っちゃった。
「よかった、デゼルが元気になって」
「うん。でも、今夜は帰らないで、サイファ様」
僕、大丈夫かな。
デゼル、ものすごく可愛いんだよ?
ついさっきまで高熱で、息も絶え絶えだったデゼルを、渾身の力で抱き締めちゃったりしない自信、あんまり、ないんだけど。
キノコにブロッコリーとじゃがいもを添えた料理を食べて、デゼルはお腹がいっぱいになったみたい。
今度は、ふらふらとお風呂に入りに行った。
僕も、その間に神殿のお風呂を借りて、歯を磨いて、パジャマに着替えた。
その間に、いろいろ考えた。
これで終わりじゃないんだ。
公国の滅亡を阻止したいなら、こんなこと、きっと、始まりですらないんだよね。後戻りはできない。
デゼルも僕も、もっと、危険な目に遭うんだと思う。
つらいことや悲しいことが、たくさん、あるんだと思う。
デゼル、本当にいいのかな。
僕は?
僕こそ本当に、デゼルにこんな思いをさせてまで、守れるかもわからない公国を守りたいのかな――
「サイファ様、一緒に寝よ~」
顔を上げたら、枕を抱いた湯上がりのデゼルがいて。
えぇっ。
可愛い。
わ、わ、胸がとくとく、とくとく、高鳴って止まらないよ。
そんな僕を見てデゼルが笑うんだ。
駄目だったら、そんな、可愛い顔で笑ったら。
どうしよう、抱き締めたいな。
ぎゅってしていい? だめ?
「サイファ様、あのね」
月をかたどったナイトライトをつけて、僕のとなりに座ったデゼルが、寄りかかってきて。
わ、わ、痺れる甘さってこういう――
すごく可愛くて、パジャマ越しに感じるデゼルの肌のあたたかさが優しくて。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~
テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。
彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。
日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。
しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。
そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。
そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。
彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。
そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと――
これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる