73 / 91
第五章 闇血呪
5-1h. 闇血呪
しおりを挟む
「ご側室、ゼルダは少し眠らせたから、あなたも眠るといい。私の術は、そう長くはもたない。また、あの子が苦しみ始めたら、ついていてあげて」
廊下に滴り落ちた血の痕が、シルフィスを不安にさせていた。ほんの数滴でも、皇都からライゼールまでの道程で、血が止まらないのだとしたら――
シルフィスはこくんと頷いた後、遠慮しながら、ヴァン・ガーディナに伺いを立てた。
「あの、解呪しては、ならないでしょうか。皇帝陛下のご意向は、ゼルダ様が亡くなるまで、なのでしょうか……?」
シルフィスも、ヴァン・ガーディナと同じことを考えたのだ。闇血呪を受け、死霊に心身を侵されながらでは、十日を生き長らえることなど出来まい。
もっとも、それは、シルフィスの方術で解呪できるからこその言葉であり、ヴァン・ガーディナには心強かった。
たいした後宮だと思う。王家の血を引く侯爵令嬢に、聖アンナ神殿のサクリファイス、長男を出産し、既に次の子を宿している、幼馴染の貴族の令嬢――
ゼルダの恐るべきは、それぞれの妃を本気で愛しているところだ。ヴァン・ガーディナにも妃はいるが、政略結婚で、愛そうと努力したことさえない。
妃はおそらく、ゼルシアが彼の動向をつかんでおくために用意した間者なのだ。気が重く、会うことさえ厭われた。ゼルダなら、それでも愛したろうか。愛して、その忠誠をゼルシアから自分に変えさせるくらいのことはしそうだなと思う。
自らが愛せる、愛されると信じる力が、ヴァン・ガーディナには欠けているのだ。それがために、ゼルダの真似はできない。
「皇帝に嘆願して、ご許可を願う。少し待って」
廊下に滴り落ちた血の痕が、シルフィスを不安にさせていた。ほんの数滴でも、皇都からライゼールまでの道程で、血が止まらないのだとしたら――
シルフィスはこくんと頷いた後、遠慮しながら、ヴァン・ガーディナに伺いを立てた。
「あの、解呪しては、ならないでしょうか。皇帝陛下のご意向は、ゼルダ様が亡くなるまで、なのでしょうか……?」
シルフィスも、ヴァン・ガーディナと同じことを考えたのだ。闇血呪を受け、死霊に心身を侵されながらでは、十日を生き長らえることなど出来まい。
もっとも、それは、シルフィスの方術で解呪できるからこその言葉であり、ヴァン・ガーディナには心強かった。
たいした後宮だと思う。王家の血を引く侯爵令嬢に、聖アンナ神殿のサクリファイス、長男を出産し、既に次の子を宿している、幼馴染の貴族の令嬢――
ゼルダの恐るべきは、それぞれの妃を本気で愛しているところだ。ヴァン・ガーディナにも妃はいるが、政略結婚で、愛そうと努力したことさえない。
妃はおそらく、ゼルシアが彼の動向をつかんでおくために用意した間者なのだ。気が重く、会うことさえ厭われた。ゼルダなら、それでも愛したろうか。愛して、その忠誠をゼルシアから自分に変えさせるくらいのことはしそうだなと思う。
自らが愛せる、愛されると信じる力が、ヴァン・ガーディナには欠けているのだ。それがために、ゼルダの真似はできない。
「皇帝に嘆願して、ご許可を願う。少し待って」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる