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デゼル ~お姫様だっこ~
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みんなの悪意が重たくて、寝たり起きたりを繰り返していたある日。
お忙しい合間をぬって、私の様子を見にきてくれたマリベル様が仰ったの。
「困りましたな、一向によくなられないとあっては……」
私のせいで、闇神殿は存続が危ぶまれているのに、マリベル様は私を責めない。
「サイファ、デゼル様を湯あみさせて頂けますかな」
「えっ……!?」
私もサイファも、たちまち、ゆでだこになった。
なのに、マリベル様は不思議そうに私達を見たの。
「デゼル様を一人で湯あみさせて、浴室で倒れられてはいけません」
マリベル様は大真面目よ。
からかってる顔じゃないんだけど、なんで!?
「あの、ええと……」
私、サイファがゆでだこになるのなんて初めて見た。
私がゆでだこにされるのはいつものことなんだけど。
私をちらっと見たサイファが、口許を片手で覆うように手をやりながら、うなずいたの。
「わかりました」
えぇえええ!!?
「デゼル、ひとりで入れないよね?」
は、入れると思う!
そこまで重病人じゃないもの。
何度も、高熱を出しては倒れての繰り返しだけど、今日は、病み上がりっていうのか、体の重さはなくならないけど小康状態よ。
サイファの優しい手が横顔にかかって、私が息も吐けずにいたら、サイファが私を抱き上げたの。お姫様だっこで。
マリベル様は満足げにうなずくと、さっさと出て行かれてしまった。
マリベル様も侍女達も、今は本当に忙しいから。責任者を出せって、大騒ぎになってしまって、みんなに、頭を下げて回らないといけないの。
私は絶対に出ないようにって言われて、みんなが守ってくれているのに、よくならないの。
でも――
サイファにお姫様だっこで運んでもらうの、久しぶりで、その、こんな時なんだけど、嬉しかったりして。
優しいサイファの胸に頭を預けて目を閉じたら、とっても、心地好かった。
黒曜石のタイルが敷き詰められた脱衣所に私をおろす頃には、サイファはもう、ついさっき、ゆでだこだったのが嘘みたいな落ち着いた顔。
バスタオルと着替えを確かめたサイファが、テキパキと私を脱がせて、タオルを巻く前、私の白い肌を眩しそうに見て、また少し頬を染めたけど、それだけよ。
子供だからか、サイファがあんまり淡白で、この状況でも別に嬉しくないのかなって、へんなことが心配になった私に、サイファが微笑んで言ったの。
「デゼル、おいで。洗ってあげる」
「え……」
おいでって。
動けない私の手をつかんだサイファが、ぐいって引っ張ったの。
「きゃ」
「もぉ。デゼル、突っ立ってたら冷えるでしょ。僕が一緒に入った意味がなくなるよ」
うそ、うそ、うそ!
サイファの膝の上に座らされて、サイファの左腕が私の胸に回ったの。左手は私の肩をつかんだ。
私が冷えないように抱いてくれてるだけなんだけど、私、きっと首まで赤い。
鼓動がサイファに聞こえてしまうんじゃないかと思ったけど、すぐに、そんなこと考えていられなくなった。
お忙しい合間をぬって、私の様子を見にきてくれたマリベル様が仰ったの。
「困りましたな、一向によくなられないとあっては……」
私のせいで、闇神殿は存続が危ぶまれているのに、マリベル様は私を責めない。
「サイファ、デゼル様を湯あみさせて頂けますかな」
「えっ……!?」
私もサイファも、たちまち、ゆでだこになった。
なのに、マリベル様は不思議そうに私達を見たの。
「デゼル様を一人で湯あみさせて、浴室で倒れられてはいけません」
マリベル様は大真面目よ。
からかってる顔じゃないんだけど、なんで!?
「あの、ええと……」
私、サイファがゆでだこになるのなんて初めて見た。
私がゆでだこにされるのはいつものことなんだけど。
私をちらっと見たサイファが、口許を片手で覆うように手をやりながら、うなずいたの。
「わかりました」
えぇえええ!!?
「デゼル、ひとりで入れないよね?」
は、入れると思う!
そこまで重病人じゃないもの。
何度も、高熱を出しては倒れての繰り返しだけど、今日は、病み上がりっていうのか、体の重さはなくならないけど小康状態よ。
サイファの優しい手が横顔にかかって、私が息も吐けずにいたら、サイファが私を抱き上げたの。お姫様だっこで。
マリベル様は満足げにうなずくと、さっさと出て行かれてしまった。
マリベル様も侍女達も、今は本当に忙しいから。責任者を出せって、大騒ぎになってしまって、みんなに、頭を下げて回らないといけないの。
私は絶対に出ないようにって言われて、みんなが守ってくれているのに、よくならないの。
でも――
サイファにお姫様だっこで運んでもらうの、久しぶりで、その、こんな時なんだけど、嬉しかったりして。
優しいサイファの胸に頭を預けて目を閉じたら、とっても、心地好かった。
黒曜石のタイルが敷き詰められた脱衣所に私をおろす頃には、サイファはもう、ついさっき、ゆでだこだったのが嘘みたいな落ち着いた顔。
バスタオルと着替えを確かめたサイファが、テキパキと私を脱がせて、タオルを巻く前、私の白い肌を眩しそうに見て、また少し頬を染めたけど、それだけよ。
子供だからか、サイファがあんまり淡白で、この状況でも別に嬉しくないのかなって、へんなことが心配になった私に、サイファが微笑んで言ったの。
「デゼル、おいで。洗ってあげる」
「え……」
おいでって。
動けない私の手をつかんだサイファが、ぐいって引っ張ったの。
「きゃ」
「もぉ。デゼル、突っ立ってたら冷えるでしょ。僕が一緒に入った意味がなくなるよ」
うそ、うそ、うそ!
サイファの膝の上に座らされて、サイファの左腕が私の胸に回ったの。左手は私の肩をつかんだ。
私が冷えないように抱いてくれてるだけなんだけど、私、きっと首まで赤い。
鼓動がサイファに聞こえてしまうんじゃないかと思ったけど、すぐに、そんなこと考えていられなくなった。
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