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弐 一つ目の夜
第11話 一つ目の夜
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夜。
昼間とはまた違う感じに髪を結ってもらって、さらりとした夜着を着せられて。
せっかくの自信作だからそのまま寝て下さいと最後に頼んで、迦陵は帰宅した。
侍女とは違うらしい。
「……」
屋敷は静かなもので、近くには人の気配も感じなかった。
何と言うか、逃げてしまえそうなくらい、見張られていない。
その事実には驚いたものの、そうとわかると逆に、由良は明日でいいという気になってしまった。
正直、今日はもう疲れたのだ。
迦陵に連れ回されて、泣いて、慣れない場所で慣れない人々と会話して。
ただ一つのことを除けば、案外楽しかった。
ここにいるのが、魂留離の長の娘として連れ去られてのことでなければ。
紫苑に見初められてのことだったなら、どんなにか良かっただろう。
そこまで考えて、由良は無駄なことを考えるのはやめた。
紫苑の世にも冷たい瞳がまぶたの奥に焼きついている。
迦陵はああ言ったけれど、やはり、紫苑には憎まれているのだ。
そうでなくて、どうしてあんな瞳ができるだろう。
どうして死なせるつもりで抱けるだろう。
――少しでも私を思って下さっていたら、あんな瞳はできない――
見切りをつけるつもりでそう考えたら、また涙が出そうになった。胸が痛い。
逃げなければならないし、逃げ損ねたら殺さなければならないのだから、憎んでくれた方が良いのだ。
それなのに――
由良は小さく息を吐くと、不思議そうに鏡を見た。
迦陵は本当に天才だと思う。
自分がこんなに綺麗になるなんて、由良は想像したことさえなかった。
まるで別人のような、天女のような娘がいる。
こんな格好恥ずかしくて、とても外は出歩けないけれど、綺麗なのは嬉しかった。
そろそろ寝ようと、迦陵が用意していった飲み物に手をかける。
昼間とはまた違う感じに髪を結ってもらって、さらりとした夜着を着せられて。
せっかくの自信作だからそのまま寝て下さいと最後に頼んで、迦陵は帰宅した。
侍女とは違うらしい。
「……」
屋敷は静かなもので、近くには人の気配も感じなかった。
何と言うか、逃げてしまえそうなくらい、見張られていない。
その事実には驚いたものの、そうとわかると逆に、由良は明日でいいという気になってしまった。
正直、今日はもう疲れたのだ。
迦陵に連れ回されて、泣いて、慣れない場所で慣れない人々と会話して。
ただ一つのことを除けば、案外楽しかった。
ここにいるのが、魂留離の長の娘として連れ去られてのことでなければ。
紫苑に見初められてのことだったなら、どんなにか良かっただろう。
そこまで考えて、由良は無駄なことを考えるのはやめた。
紫苑の世にも冷たい瞳がまぶたの奥に焼きついている。
迦陵はああ言ったけれど、やはり、紫苑には憎まれているのだ。
そうでなくて、どうしてあんな瞳ができるだろう。
どうして死なせるつもりで抱けるだろう。
――少しでも私を思って下さっていたら、あんな瞳はできない――
見切りをつけるつもりでそう考えたら、また涙が出そうになった。胸が痛い。
逃げなければならないし、逃げ損ねたら殺さなければならないのだから、憎んでくれた方が良いのだ。
それなのに――
由良は小さく息を吐くと、不思議そうに鏡を見た。
迦陵は本当に天才だと思う。
自分がこんなに綺麗になるなんて、由良は想像したことさえなかった。
まるで別人のような、天女のような娘がいる。
こんな格好恥ずかしくて、とても外は出歩けないけれど、綺麗なのは嬉しかった。
そろそろ寝ようと、迦陵が用意していった飲み物に手をかける。
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