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壱 魂留離
第5話 迦陵
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翌朝。
由良は知らない場所で目を覚ました。
大きな館。
紫苑はどこかの部族の長らしく、館には大勢の人間がいた。
その館の奥の一室が、彼女にあてがわれていた。
「由良」
朝食の後、彼女を妻にするという男が部屋を訪れた。
紫苑は鶴の模様が淡く織り込まれた、高貴な室内着に身を包んでいて、それがひどく似合っていた。
思わず目を奪われかけ、由良は顔を背けるように目を逸らした。
彼の声に答えることもしない。
「祝言だが、次の新月まで、延期することにした。あなたも女性に生まれたからには、立派な婚礼衣装の一つ、髪飾りの一つも身に着けたいだろう」
由良は驚いて紫苑を見た。
その後ろに、見知らぬ女性が一人。
ひどく美しく、可憐な女性。
なぜかどきりとした。
軽く結い上げられた、長く艶やかな黒絹の髪。
澄んだ大きな瞳。
白い肌に、すっと引いた紅が鮮やかだ。
本当に綺麗だった。
その綺麗な女性が紫苑のそばにいることに、二人がひどく似合うことに、由良は少なからず動揺したのだ。
「こちらは迦陵。あなたの世話をしてくれる。私はほとんどここにはいない。用がある時には、迦陵に」
「え……」
不安げとも、悲しげとも聞こえる声を漏らした由良に、紫苑はやんわり、ひどく冷たい言葉をかけた。
「私の顔など見たくもないだろう? 私も同じなのだ。ただ……逃げ出すことは許さぬが、あなたは私の妻となる身だ。館の中では自由にしていい」
胸に冷たい痛みを覚え、由良は顔を伏せた。震える声で言う。
「顔も見たくない女を……それでも抱けるのですか。妻になさるのですか」
見ようとしなかったので、紫苑がどんな顔をしたかはわからない。
ただ、あくまで淡々とした声が言った。
「抱けるな。男とはそういうものだ」
「わ……私はいやです! 愛してもくれない人に……! 美しいとも思ってくれない人に……! あ、あなたの妻になど、なりたくありません!!」
「……そうだろうな。御影の言は外れたか」
紫苑は小さく笑ってそれだけ言うと、迦陵に二言三言指示をして、由良に背を向けた。
「……美しいから見たくないのだ」
去り際、わずかな呟きを残し、彼は出て行った。
由良は知らない場所で目を覚ました。
大きな館。
紫苑はどこかの部族の長らしく、館には大勢の人間がいた。
その館の奥の一室が、彼女にあてがわれていた。
「由良」
朝食の後、彼女を妻にするという男が部屋を訪れた。
紫苑は鶴の模様が淡く織り込まれた、高貴な室内着に身を包んでいて、それがひどく似合っていた。
思わず目を奪われかけ、由良は顔を背けるように目を逸らした。
彼の声に答えることもしない。
「祝言だが、次の新月まで、延期することにした。あなたも女性に生まれたからには、立派な婚礼衣装の一つ、髪飾りの一つも身に着けたいだろう」
由良は驚いて紫苑を見た。
その後ろに、見知らぬ女性が一人。
ひどく美しく、可憐な女性。
なぜかどきりとした。
軽く結い上げられた、長く艶やかな黒絹の髪。
澄んだ大きな瞳。
白い肌に、すっと引いた紅が鮮やかだ。
本当に綺麗だった。
その綺麗な女性が紫苑のそばにいることに、二人がひどく似合うことに、由良は少なからず動揺したのだ。
「こちらは迦陵。あなたの世話をしてくれる。私はほとんどここにはいない。用がある時には、迦陵に」
「え……」
不安げとも、悲しげとも聞こえる声を漏らした由良に、紫苑はやんわり、ひどく冷たい言葉をかけた。
「私の顔など見たくもないだろう? 私も同じなのだ。ただ……逃げ出すことは許さぬが、あなたは私の妻となる身だ。館の中では自由にしていい」
胸に冷たい痛みを覚え、由良は顔を伏せた。震える声で言う。
「顔も見たくない女を……それでも抱けるのですか。妻になさるのですか」
見ようとしなかったので、紫苑がどんな顔をしたかはわからない。
ただ、あくまで淡々とした声が言った。
「抱けるな。男とはそういうものだ」
「わ……私はいやです! 愛してもくれない人に……! 美しいとも思ってくれない人に……! あ、あなたの妻になど、なりたくありません!!」
「……そうだろうな。御影の言は外れたか」
紫苑は小さく笑ってそれだけ言うと、迦陵に二言三言指示をして、由良に背を向けた。
「……美しいから見たくないのだ」
去り際、わずかな呟きを残し、彼は出て行った。
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