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第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。
第20話 戴冠式
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すべてのカリキュラムを修了し、最終試験もすべて最高評価で突破したエトランジュは、遂に、光の聖女に選出された。
荘厳な光の聖女としての戴冠式が執り行われ、サイファ様とデゼル様、大公陛下もお見えになった。
「私達が貴国にエトランジュをお預けしたのは、二年間とのお話でのこと。オプスキュリテ公国の闇巫女であるエトランジュを、聖サファイア共和国に献上するわけには参りませんよ」
父上が、不敵な笑みを浮かべて仰せになった。
なんだか、確信犯に見えて仕方ない。
私が闇主の礼装でエトランジュの傍に控えるのを、父上はそれは、ご機嫌麗しく御覧になったんだ。
天界で八か月の試験は、地上では二年間。
先代の光の聖女、京奈様の皇女であるグレイスが、闇の聖女であるエトランジュに敗北する事態は聖サファイアの想定外だったみたいで、金華様の表情は渋い。
「会えなくて寂しかったけど、とっても綺麗だよ、エトランジュ」
「とっても可愛いよ、エトランジュ」
サイファ様とデゼル様は、エトランジュに久しぶりに会えてはしゃいだご様子。
あんまり、エトランジュの今後の心配はなさっていないみたい。
エトランジュが幸せなら、公国には戻らなくてもいいから笑顔なのか。
エトランジュが公国に戻らないなんて、思いもよらないから笑顔なのか。
お二方とも天然なところがあるだけに、ちょっと、わからない。
「ガゼル様、エトランジュをよろしくお願いします。愛して、可愛がってあげて下さいね」
「エトランジュ、おめでとう! よかったね!」
困ったな。
祝福には心からの感謝を返したいのだけど、光の聖女は結婚を認められていないなんて、すごく、言い出しにくい雰囲気だ。
なんだか、いやな予感がしてきた。
この式典、光の聖女の戴冠式なのに、サイファ様とデゼル様に限っては、私とエトランジュの結婚式だと誤解なさっているかもしれない。
そのくらいは天然な方々なんだ。
「金華様、光の神を降ろす準備はいかがでしょうか」
「ご随意に」
うなずいたエトランジュが、舞台の中央に立った。
その周りに速やかに、光の十二使徒が十二芒星を描くように配置して、魔力を解放した。
彩も鮮やかな、めくるめくまばゆい光が束になり、渦になり、エトランジュを覆い隠した。
その光がいったん収まると、キラキラときらめく光を絶え間なく零すエトランジュが、舞台から足を浮かしていた。
『我に何用か、光の子らよ』
光の子じゃ、ないけど。
私が一歩、前に進み出て、口上した。
「高貴なる光の神に申し上げます、光の聖女として聖別された二人の少女のうち、一人は去り、一人は私の花嫁となりました」
『それがいかがしたか』
「光の聖女と光の使徒には結婚が許されない、その理由を伺いたいのです」
『我が禁忌と定めしは、重婚のみ。たとえ、死が二人をわかつとも、二人目の伴侶を光の子が得てはならぬ』
リュミエール様が軽く目を伏せると、過去の情景が私の中に流れ込んできた。
あれは、初代の光の聖女?
グレイスにも引けを取らない、優しく聡明な美少女を光の使徒が争った。
そうか、傾国の美姫――
聖サファイアの光の聖女は、最初から傾国の美姫になりやすい存在なんだ。
闇巫女を護る闇主は一人。
別の闇主を選んだ闇巫女に生涯を捧げる必要なんて、闇主にはない。
私はそれを当たり前だと思っていたけれど――
いくら、高徳の光の使徒だって、人間なんだ。心があって、感情がある。
たとえば、ルーカスを選んだエトランジュに、公国のため生涯に渡り、仕えることができるかと問われたら。
私には、できそうにない。
光の聖女と光の使徒との結婚を禁じた取り決めは、だから、光の神ではなく、光の聖女と光の使徒との間で定められたんだ。
荘厳な光の聖女としての戴冠式が執り行われ、サイファ様とデゼル様、大公陛下もお見えになった。
「私達が貴国にエトランジュをお預けしたのは、二年間とのお話でのこと。オプスキュリテ公国の闇巫女であるエトランジュを、聖サファイア共和国に献上するわけには参りませんよ」
父上が、不敵な笑みを浮かべて仰せになった。
なんだか、確信犯に見えて仕方ない。
私が闇主の礼装でエトランジュの傍に控えるのを、父上はそれは、ご機嫌麗しく御覧になったんだ。
天界で八か月の試験は、地上では二年間。
先代の光の聖女、京奈様の皇女であるグレイスが、闇の聖女であるエトランジュに敗北する事態は聖サファイアの想定外だったみたいで、金華様の表情は渋い。
「会えなくて寂しかったけど、とっても綺麗だよ、エトランジュ」
「とっても可愛いよ、エトランジュ」
サイファ様とデゼル様は、エトランジュに久しぶりに会えてはしゃいだご様子。
あんまり、エトランジュの今後の心配はなさっていないみたい。
エトランジュが幸せなら、公国には戻らなくてもいいから笑顔なのか。
エトランジュが公国に戻らないなんて、思いもよらないから笑顔なのか。
お二方とも天然なところがあるだけに、ちょっと、わからない。
「ガゼル様、エトランジュをよろしくお願いします。愛して、可愛がってあげて下さいね」
「エトランジュ、おめでとう! よかったね!」
困ったな。
祝福には心からの感謝を返したいのだけど、光の聖女は結婚を認められていないなんて、すごく、言い出しにくい雰囲気だ。
なんだか、いやな予感がしてきた。
この式典、光の聖女の戴冠式なのに、サイファ様とデゼル様に限っては、私とエトランジュの結婚式だと誤解なさっているかもしれない。
そのくらいは天然な方々なんだ。
「金華様、光の神を降ろす準備はいかがでしょうか」
「ご随意に」
うなずいたエトランジュが、舞台の中央に立った。
その周りに速やかに、光の十二使徒が十二芒星を描くように配置して、魔力を解放した。
彩も鮮やかな、めくるめくまばゆい光が束になり、渦になり、エトランジュを覆い隠した。
その光がいったん収まると、キラキラときらめく光を絶え間なく零すエトランジュが、舞台から足を浮かしていた。
『我に何用か、光の子らよ』
光の子じゃ、ないけど。
私が一歩、前に進み出て、口上した。
「高貴なる光の神に申し上げます、光の聖女として聖別された二人の少女のうち、一人は去り、一人は私の花嫁となりました」
『それがいかがしたか』
「光の聖女と光の使徒には結婚が許されない、その理由を伺いたいのです」
『我が禁忌と定めしは、重婚のみ。たとえ、死が二人をわかつとも、二人目の伴侶を光の子が得てはならぬ』
リュミエール様が軽く目を伏せると、過去の情景が私の中に流れ込んできた。
あれは、初代の光の聖女?
グレイスにも引けを取らない、優しく聡明な美少女を光の使徒が争った。
そうか、傾国の美姫――
聖サファイアの光の聖女は、最初から傾国の美姫になりやすい存在なんだ。
闇巫女を護る闇主は一人。
別の闇主を選んだ闇巫女に生涯を捧げる必要なんて、闇主にはない。
私はそれを当たり前だと思っていたけれど――
いくら、高徳の光の使徒だって、人間なんだ。心があって、感情がある。
たとえば、ルーカスを選んだエトランジュに、公国のため生涯に渡り、仕えることができるかと問われたら。
私には、できそうにない。
光の聖女と光の使徒との結婚を禁じた取り決めは、だから、光の神ではなく、光の聖女と光の使徒との間で定められたんだ。
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