上 下
35 / 38
第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。

第20話 戴冠式

しおりを挟む
 すべてのカリキュラムを修了し、最終試験もすべて最高評価で突破したエトランジュは、遂に、光の聖女に選出された。

 荘厳な光の聖女としての戴冠式が執り行われ、サイファ様とデゼル様、大公陛下もお見えになった。

「私達が貴国にエトランジュをお預けしたのは、二年間とのお話でのこと。オプスキュリテ公国の闇巫女であるエトランジュを、聖サファイア共和国に献上するわけには参りませんよ」

 父上が、不敵な笑みを浮かべて仰せになった。
 なんだか、確信犯に見えて仕方ない。
 私が闇主の礼装でエトランジュの傍に控えるのを、父上はそれは、ご機嫌麗しく御覧になったんだ。
 天界で八か月の試験は、地上では二年間。
 先代の光の聖女、京奈様の皇女であるグレイスが、闇の聖女であるエトランジュに敗北する事態は聖サファイアの想定外だったみたいで、金華様の表情は渋い。

「会えなくて寂しかったけど、とっても綺麗だよ、エトランジュ」
「とっても可愛いよ、エトランジュ」

 サイファ様とデゼル様は、エトランジュに久しぶりに会えてはしゃいだご様子。
 あんまり、エトランジュの今後の心配はなさっていないみたい。
 エトランジュが幸せなら、公国には戻らなくてもいいから笑顔なのか。
 エトランジュが公国に戻らないなんて、思いもよらないから笑顔なのか。
 お二方とも天然なところがあるだけに、ちょっと、わからない。

「ガゼル様、エトランジュをよろしくお願いします。愛して、可愛がってあげて下さいね」
「エトランジュ、おめでとう! よかったね!」

 困ったな。
 祝福には心からの感謝を返したいのだけど、光の聖女は結婚を認められていないなんて、すごく、言い出しにくい雰囲気だ。
 なんだか、いやな予感がしてきた。
 この式典、光の聖女の戴冠式なのに、サイファ様とデゼル様に限っては、私とエトランジュの結婚式だと誤解なさっているかもしれない。
 そのくらいは天然な方々なんだ。

「金華様、光の神リュミエールを降ろす準備はいかがでしょうか」
「ご随意に」

 うなずいたエトランジュが、舞台の中央に立った。
 その周りに速やかに、光の十二使徒が十二芒星を描くように配置して、魔力を解放した。

 彩も鮮やかな、めくるめくまばゆい光が束になり、渦になり、エトランジュを覆い隠した。
 その光がいったん収まると、キラキラときらめく光を絶え間なく零すエトランジュが、舞台から足を浮かしていた。

『我に何用か、光の子らよ』

 光の子じゃ、ないけど。
 私が一歩、前に進み出て、口上した。

「高貴なる光の神リュミエールに申し上げます、光の聖女として聖別された二人の少女のうち、一人は去り、一人は私の花嫁となりました」

『それがいかがしたか』

「光の聖女と光の使徒には結婚が許されない、その理由を伺いたいのです」

『我が禁忌と定めしは、重婚のみ。たとえ、死が二人をわかつとも、二人目の伴侶を光の子が得てはならぬ』

 リュミエール様が軽く目を伏せると、過去の情景が私の中に流れ込んできた。

 あれは、初代の光の聖女?
 グレイスにも引けを取らない、優しく聡明な美少女を光の使徒が争った。
 そうか、傾国の美姫――
 聖サファイアの光の聖女は、最初から傾国の美姫になりやすい存在なんだ。

 闇巫女を護る闇主は一人。
 別の闇主を選んだ闇巫女に生涯を捧げる必要なんて、闇主にはない。
 私はそれを当たり前だと思っていたけれど――

 いくら、高徳の光の使徒だって、人間なんだ。心があって、感情がある。
 たとえば、ルーカスを選んだエトランジュに、公国のため生涯に渡り、仕えることができるかと問われたら。
 私には、できそうにない。

 光の聖女と光の使徒との結婚を禁じた取り決めは、だから、光の神ではなく、光の聖女と光の使徒との間で定められたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...