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第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。

第17話 前哨戦

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 グレイスが私につまらないと言った意味が、重ね重ね、今ならわかるよ。
 私は、グレイスをアスタール伯爵令息と争うことさえいやだった。
 だけど今、頼まれもしないのに光の十二使徒を相手取って、闘おうとしている。
 グレイスは、私がエトランジュのためにならできることを、彼女のためにして欲しかったんだ。あたりまえだけど、本物の愛が欲しかったんだよね。

 それは、相手に断る権利を与えない婚約じゃ手に入らないものなのに。
 私はエトランジュを手に入れたい。
 私はエトランジュを守りたい。
 断ろうと思えば、かんたんに断れる伯爵令息を断らなかったグレイスとは違う。
 エトランジュはこの試験に、前回の査定ですべての光の使徒から最高評価をもらったくらい、真剣にきちんと取り組んできたんだ。
 それを私が、私の都合で失格させようというんだから。
 せめて、その責めくらいは私が負って、たくさんの人に迷惑をかけると思って、泣きそうな顔で震えているエトランジュを守ってあげたい。
 本当に、すべて、私が悪いんだ。
 エトランジュが聖サファイアに入国する前、婚約すらしないうちからキスしたあげく、彼女の気持ちに応えなかった。あの時に、私がきちんと責任を取っていれば。
 

 金華様と蒼紫様、グレイスとルーカス。
 そして、私とエトランジュ。
 この試験に関わる主要なメンバーがそろったところで、私は静かに立ち上がると、礼をした。

「本日は、誠に勝手ながら、エトランジュを公国に連れ帰りたく、お願いに上がりました」
「いいわけあるか!」

 途端、ルーカスが椅子を蹴立てて立ち上がり、テーブルを激しく叩いた。

「ルーカス殿、エトランジュに関して貴方の意見は必要ない。これは我々とオプスキュリテ公国の問題だ」

 金華様が毅然きぜんとした態度でいさめた。

「だが、私達としても頭が痛い。今度の試験は、エトランジュの合格でほぼ決まりだったというのに」
「あの、ガゼル様にも聖サファイアに婿入りして頂く形では駄目なのですか?」

 エトランジュが遠慮がちに言った。

「論外だ。光の聖女は結婚を認められていない」
「えぇっ!?」

 エトランジュとグレイスがそろって声を上げ、顔を見合わせた。

「そんな、光の使徒との恋愛はご法度はっとだとは聞いていましたけど、結婚できないだなんて!」

 グレイスが愕然がくぜんとした顔で抗議した。
 知らなかったなら、それは、抗議するだろうね。
 グレイスに光の聖女を任せるのは難しそうかな。

「でもあの、私、ガゼル様と契ってしまって……もしも、子供が生まれたら……?」
「だから、頭が痛いのだ」

 金華様が秀麗な額に、長い指を当てて嘆息した。

「さすがに大事だ。すべての光の使徒を臨席させよう。よもや、異論はあるまいな?」
「……集めたところで、誰にも解など出せまいに」

 蒼紫様のお言葉を、金華様は一瞥いちべつしただけで黙殺した。
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