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第二章 聖サファイア
第14話 何度でも君を探し出す
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「昨夜の査定で、光の十二使徒すべてが、グレイスよりもエトランジュを高く評価したぞ。グレイスはエトランジュにしてやられたと焦っただろう。おまえなんかにかまけている場合じゃなかったとな」
「ルーカス様は、光の十二使徒でも私でもなく、あなたこそがエトランジュを射止めると、今なお確信を?」
私の言葉に、ルーカスは心底、不思議そうな顔をした。
「おまえ、本気で、この俺がエトランジュを射止め損ねるとでも思っているのか? 世界広しといえど、エトランジュがためらわず攻撃魔法を撃ってじゃれてくるのは俺だけだ。エトランジュがそこまで心を許せる男は、この俺だけなんだぞ。エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」
……最初の日、私も生まれて初めて、ルーカスにだけは問答無用で攻撃魔法を撃ちたくなったんだよね……。
なんだったんだろう、あれ。
恋愛感情とは違う気がするんだけど。
まぁ、いいか。
ここまで自信過剰だと、もうほんとに、魅力的でしかないよ。
皮肉ではなく、ね。
ルーカスがクツクツと笑いながら、「どうした、ご麗容だけの公子様?」って、私をからかったけど。
構わずに笑顔で挨拶すれば、ルーカスはかえって、感心したみたいだった。
これまでの私は、実際、そんなものだったんだ。
だけど、私をいつまでもそのままだと侮るなら、痛い目に遭うかもね?
そういう視線をルーカスに送れば、ほう、と、ルーカスも美しい黄金の視線で返してきた。
さすが、ルーカス様ファンクラブ二万人かな。
真剣になれば、迫力も風格も超一級の皇子様。
それでも――
エトランジュは譲れない。
悪いね、ルーカス。
エトランジュはオプスキュリテ公国の闇巫女で、私は公子なんだよ。
子供の頃に、何度も聞かされた御伽噺。建国神話。
暗闇に覆われた荒野に、一人の少年が迷い込んだ。
女神オプスキュリテを探して行き倒れた少年は、美しい少女に出会う。
「こんなところへ何をしに?」
「夜が明けなくなってしまったので、女神様に夜明けを願うために」
世にも稀な麗容の少女こそは、久遠の孤独の中に過ごすうちに、澄んだ闇に心を満たされ、夜明けを忘れてしまった女神オプスキュリテの化身だった。
女神と少年は一目で恋に落ち、少年が永遠に女神を愛することを、この命が終わっても、何度でも生まれ変わって女神を傍で守ることを誓うと、明けることのなかった夜が遂に明け、公国の大地にあえかに輝く黎明の光が降り注いだ――
公子である私さえ、夢物語だと思っていたよ。エトランジュに出会うまでは。
だけど、今は、この胸に確信がある。
私はエトランジュを愛するために生まれてきたんだ。
この魂は必ず闇巫女に惹かれるんだ、エトランジュだって、私を求めてる。
それが、公家が闇の女神と神代に交わした約束なんだから。
闇巫女が可愛くて可愛くて仕方ないように、この魂ができているんだから。
たぶん、夜明けの公子である兄上とエトランジュの年齢が近ければ、私のように、もたもたしたりはしなかったんだ。
私は夜明けじゃなく、夜明け前だから。
少し、目覚めが遅れてしまったみたいだ。
だけど、遅れは取り戻してみせる。
グレイスにも感謝かな。
父上が激昂されたのも当然だよ、いったい私は、私に抜きん出た麗容以外のどんな取り柄があるつもりで、私を容姿だけで選ばない異性を求めていたんだろう。
私がエトランジュを探し出すべきだったのに、私さえ知らない私の価値を見つけてくれて、私を選んでくれる、そんな、可愛い女の子をただ待っていたんだ。何の覚悟もなく。
――馬鹿だよ。
何度でも君を見つけてあげると約束したのは、きっと、私の方だったのにね。
エトランジュに先に見つけられてしまって。
たとえ、最初から、そうだったんだとしても。
王子様が人魚姫を見つけたんじゃなく、溺れていた王子様を見つけて助けてくれた人魚姫みたいに――
死を待つばかりだった初代を、闇の女神が見つけて助けてくれた。それが、公国の始まりなんだとしても。
遠くから見詰め合うしかできなかった間に募った想いを、ようやく、君に伝えられるんだ。
――どうか、待っていて。
「ルーカス様は、光の十二使徒でも私でもなく、あなたこそがエトランジュを射止めると、今なお確信を?」
私の言葉に、ルーカスは心底、不思議そうな顔をした。
「おまえ、本気で、この俺がエトランジュを射止め損ねるとでも思っているのか? 世界広しといえど、エトランジュがためらわず攻撃魔法を撃ってじゃれてくるのは俺だけだ。エトランジュがそこまで心を許せる男は、この俺だけなんだぞ。エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」
……最初の日、私も生まれて初めて、ルーカスにだけは問答無用で攻撃魔法を撃ちたくなったんだよね……。
なんだったんだろう、あれ。
恋愛感情とは違う気がするんだけど。
まぁ、いいか。
ここまで自信過剰だと、もうほんとに、魅力的でしかないよ。
皮肉ではなく、ね。
ルーカスがクツクツと笑いながら、「どうした、ご麗容だけの公子様?」って、私をからかったけど。
構わずに笑顔で挨拶すれば、ルーカスはかえって、感心したみたいだった。
これまでの私は、実際、そんなものだったんだ。
だけど、私をいつまでもそのままだと侮るなら、痛い目に遭うかもね?
そういう視線をルーカスに送れば、ほう、と、ルーカスも美しい黄金の視線で返してきた。
さすが、ルーカス様ファンクラブ二万人かな。
真剣になれば、迫力も風格も超一級の皇子様。
それでも――
エトランジュは譲れない。
悪いね、ルーカス。
エトランジュはオプスキュリテ公国の闇巫女で、私は公子なんだよ。
子供の頃に、何度も聞かされた御伽噺。建国神話。
暗闇に覆われた荒野に、一人の少年が迷い込んだ。
女神オプスキュリテを探して行き倒れた少年は、美しい少女に出会う。
「こんなところへ何をしに?」
「夜が明けなくなってしまったので、女神様に夜明けを願うために」
世にも稀な麗容の少女こそは、久遠の孤独の中に過ごすうちに、澄んだ闇に心を満たされ、夜明けを忘れてしまった女神オプスキュリテの化身だった。
女神と少年は一目で恋に落ち、少年が永遠に女神を愛することを、この命が終わっても、何度でも生まれ変わって女神を傍で守ることを誓うと、明けることのなかった夜が遂に明け、公国の大地にあえかに輝く黎明の光が降り注いだ――
公子である私さえ、夢物語だと思っていたよ。エトランジュに出会うまでは。
だけど、今は、この胸に確信がある。
私はエトランジュを愛するために生まれてきたんだ。
この魂は必ず闇巫女に惹かれるんだ、エトランジュだって、私を求めてる。
それが、公家が闇の女神と神代に交わした約束なんだから。
闇巫女が可愛くて可愛くて仕方ないように、この魂ができているんだから。
たぶん、夜明けの公子である兄上とエトランジュの年齢が近ければ、私のように、もたもたしたりはしなかったんだ。
私は夜明けじゃなく、夜明け前だから。
少し、目覚めが遅れてしまったみたいだ。
だけど、遅れは取り戻してみせる。
グレイスにも感謝かな。
父上が激昂されたのも当然だよ、いったい私は、私に抜きん出た麗容以外のどんな取り柄があるつもりで、私を容姿だけで選ばない異性を求めていたんだろう。
私がエトランジュを探し出すべきだったのに、私さえ知らない私の価値を見つけてくれて、私を選んでくれる、そんな、可愛い女の子をただ待っていたんだ。何の覚悟もなく。
――馬鹿だよ。
何度でも君を見つけてあげると約束したのは、きっと、私の方だったのにね。
エトランジュに先に見つけられてしまって。
たとえ、最初から、そうだったんだとしても。
王子様が人魚姫を見つけたんじゃなく、溺れていた王子様を見つけて助けてくれた人魚姫みたいに――
死を待つばかりだった初代を、闇の女神が見つけて助けてくれた。それが、公国の始まりなんだとしても。
遠くから見詰め合うしかできなかった間に募った想いを、ようやく、君に伝えられるんだ。
――どうか、待っていて。
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