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第二章 聖サファイア

【Side】 エトランジュ ~一羽の小鳥~

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「俺はトランスサタニアン帝国の第一皇子だぞ? なぜ、それくらいのことができないと思う」
「――それは、その代わりにエトランジュを諦めろということですか」

 私、すごくハラハラしながら聞いていたのに。
 ルーカスったらウグッとなって、爆笑したの。

「あほうかおまえ。不幸づらをしてエトランジュの同情を引くなと言っているんだ。不幸づらをしていないおまえと俺なら、エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」

 ううん、私、ルーカスは選ばない。

「おまえの立場などわかりたくもないがな。おまえこそ、俺の立場がわかるのか? 第一皇子なのに、妾腹だからと愚弟に皇太子をもっていかれ、男なら自分で稼げと小遣いはなし。だが、母上はこの俺に最高の容姿とスペックと地位を与えたもうた。母上の仰る通り、男なら自分で稼げばいいことだ。ルーカス様ファンクラブの二万人の女どもから、月に銀貨数枚の会費を集めて抽選で握手会でもしてやるだけで、チンケな公国の公子様よりは高収入だろう」

 高笑うルーカスを、あっけに取られて見たガゼル様が私に小声で聞いたの。
 「彼、そんなことやってるの?」って。
 うん、やってるの。

「月に金貨一枚の会費を支払う特別会員なら、握手会でルーカスの気に入った一人、ルーカスにキスしてもらえるんだよ。先月は壁ドンサービスもつけたみたい」
「特別会員になりたがる女性、いるの?」
「三千人いるって言ってた」
「……ふうん………」

 すごいんだもの。
 私、ルーカスはいやよ?
 ファンクラブの女の子たちに怨まれるもの。

「ルーカス様、そのお話……本当に、公国に帝国からの圧力がかからないように、グレイス様の興味を私から失わせることができるのですか? できるのであれば、どうか、お願いします」

 言われた通りに頭を下げて頼んだガゼル様を、ルーカスが感心した顔で見たの。

「言っておくが、グレイスとの復縁は望めなくなるぞ? エトランジュにフラれたからといって、元の鞘に納まるつもりなら大間違いだ」
「私がエトランジュに望まれなかったとしても、グレイスとの復縁は望みません」
「よく言った、任せておけ」

 ドンと胸を叩いて請け合ったルーカスが、直後、ガゼル様にビシっと指を突きつけた。

「そこ! 今すぐ、エトランジュから離れるように。勝負がつく前の手出しは許さん」
「あ」

 私、もう少し、ガゼル様の腕の中にいたかったな。
 でも――

「グレイスは俺も気に食わん。エトランジュの方が本命だったというなら、貴様もなかなかどうして、見る目はあるようだがな。この俺に敵わぬことに気づかぬあたり、身の程知らずめが」

 私はつい小さく「ルーカス、それ、ブーメラン」って、つぶやいてた。
 ルーカスって、ガゼル様にどんなところが勝ってるつもりなのかな?
 たとえば、傲慢さとか、ナルシストさとか、傍若無人さとか、野蛮さとかかな。
 よく考えたら、勝ってるところもたくさんあるのかもしれなかった。

 十日もあれば十分だって、ルーカスは言ったの。
 本当に、翌週にはグレイス様はガゼル様を構わなくなったの。

 私、今度だけは、ルーカスに感謝したのよ。
 ルーカスのこと、ほんとはね、そんなに嫌いじゃないの。
 だけど、私はみんな好きで、私がルーカスのことを好きな気持ちは、ルーカスが求める好きじゃない。みんなを好きな気持ちと同じなの。
 ガゼル様を好きな気持ちだけが違うの。
 どうしてかな。
 ガゼル様にだけは、私だけを見ていて欲しい。いつでも一緒にいたい。
 ガゼル様を争ってた小鳥たちの気持ちがわかるの。
 私、望めるならガゼル様に、私の闇主になって欲しかった。
 ガゼル様はきっと覚えてないよね。
 私はただの一羽の小鳥。
 ガゼル様の肩にとまっていたい小鳥は、たくさんいるから。
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