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第二章 聖サファイア
【Side】 エトランジュ ~聖サファイア~
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聖サファイアに到着した後、たくさんの手続きとご挨拶を済ませて、キコキコ、公園のブランコをこいでいたら、光の十二使徒の一人、翡翠様が声をかけて下さった。
「どうしたの? ずっと、元気がないね。困ったことがあったら言ってね」
私、元気、ないのかな。
「ありがとう、翡翠様。明日から、よろしくお願いします」
ふふっと、翡翠様が笑った。
翡翠様の優しい胡桃色の髪が風に揺れるのを見ていたら、なんだか、ほっとした。
明日から、グレイス様と私の、ふさわしい方を聖サファイアの光の聖女に選ぶための適性試験みたいなものが始まるの。
「不安だったら、最初のパートナーは僕にしたらいいからね。僕も、まだまだだけど――未熟者同士、頑張ろうね」
「はい」
いつまでも、くよくよしていたら駄目よね。
みんな、優しくしてくれるもの。
ガゼル様のことはまだ好きだけど、忙しくしていたら、きっと、忘れられるよね。
公国を発つ前にも、父様がつくって下さったお庭のブランコをこいでいたら、大公陛下がお出ましになって、びっくりしたの。
「陛下」
あわてて礼を取ろうとしたけど、陛下はそのままでいいと仰って、ブランコをこいで下さった。
「ガゼルが、あなたに許されない真似をしてしまったようだね。エトランジュ、あなたが望むのであれば、責任は取らせるけれど」
「――……」
私は静かにかぶりをふった。
「ガゼル様が私にご不満なら、無理強いしたくありません。闇巫女を愛することができなくなったら、闇主の生涯は地獄だと教わりました。ガゼル様が、私と契ったことを、生涯、悔やまれたら悲しいから」
「――あの子、あなたに不満などないよ。どちらかというと、あの子はあなたと契らなかったことを、生涯、悔やむことになると思うけれど」
ブランコをこぎ上げると、公国の山なみと蒼穹が視界いっぱいに広がって、涙が溢れそうになるくらい、綺麗だった。
「ガゼルを許してはくれないだろうね?」
「陛下……?」
「もう、ガゼルが嫌い?」
ブランコをこぐのをやめて、陛下を見た。
「ガゼル様は何も、酷いことはなさっていません。お慕いしています」
「エトランジュ、もしも――」
私の手を両手で押し包むようにして、ガゼル様によく似た優しい目をした陛下が、微笑まれた。
「あの子があなたを追い求めた時には、まだ、あなたの心が誰のものでもなかったなら、どうか、一度だけ。今日の、あの子の過ちを許して欲しい。二度とは、あなたを裏切らせないから。我が子でなければ斬り殺しているところなのだけど、私も、子供には甘いんだと思い知ったよ」
びっくりして首をふったの。
ガゼル様は本当に、許されないとならないことなんて、なさっていないもの。
無理なことはされていないの。止めようと思えば止められたはずなの。
だけど、私――
最初から、惹かれていたから。
夢みたいに綺麗な人だった。
優雅に結ったプラチナ・ブロンドも、湖のようなサファイアの瞳も、優しく澄んだオーラの色も。
好きだなって、思ったの。
「どうしたの? ずっと、元気がないね。困ったことがあったら言ってね」
私、元気、ないのかな。
「ありがとう、翡翠様。明日から、よろしくお願いします」
ふふっと、翡翠様が笑った。
翡翠様の優しい胡桃色の髪が風に揺れるのを見ていたら、なんだか、ほっとした。
明日から、グレイス様と私の、ふさわしい方を聖サファイアの光の聖女に選ぶための適性試験みたいなものが始まるの。
「不安だったら、最初のパートナーは僕にしたらいいからね。僕も、まだまだだけど――未熟者同士、頑張ろうね」
「はい」
いつまでも、くよくよしていたら駄目よね。
みんな、優しくしてくれるもの。
ガゼル様のことはまだ好きだけど、忙しくしていたら、きっと、忘れられるよね。
公国を発つ前にも、父様がつくって下さったお庭のブランコをこいでいたら、大公陛下がお出ましになって、びっくりしたの。
「陛下」
あわてて礼を取ろうとしたけど、陛下はそのままでいいと仰って、ブランコをこいで下さった。
「ガゼルが、あなたに許されない真似をしてしまったようだね。エトランジュ、あなたが望むのであれば、責任は取らせるけれど」
「――……」
私は静かにかぶりをふった。
「ガゼル様が私にご不満なら、無理強いしたくありません。闇巫女を愛することができなくなったら、闇主の生涯は地獄だと教わりました。ガゼル様が、私と契ったことを、生涯、悔やまれたら悲しいから」
「――あの子、あなたに不満などないよ。どちらかというと、あの子はあなたと契らなかったことを、生涯、悔やむことになると思うけれど」
ブランコをこぎ上げると、公国の山なみと蒼穹が視界いっぱいに広がって、涙が溢れそうになるくらい、綺麗だった。
「ガゼルを許してはくれないだろうね?」
「陛下……?」
「もう、ガゼルが嫌い?」
ブランコをこぐのをやめて、陛下を見た。
「ガゼル様は何も、酷いことはなさっていません。お慕いしています」
「エトランジュ、もしも――」
私の手を両手で押し包むようにして、ガゼル様によく似た優しい目をした陛下が、微笑まれた。
「あの子があなたを追い求めた時には、まだ、あなたの心が誰のものでもなかったなら、どうか、一度だけ。今日の、あの子の過ちを許して欲しい。二度とは、あなたを裏切らせないから。我が子でなければ斬り殺しているところなのだけど、私も、子供には甘いんだと思い知ったよ」
びっくりして首をふったの。
ガゼル様は本当に、許されないとならないことなんて、なさっていないもの。
無理なことはされていないの。止めようと思えば止められたはずなの。
だけど、私――
最初から、惹かれていたから。
夢みたいに綺麗な人だった。
優雅に結ったプラチナ・ブロンドも、湖のようなサファイアの瞳も、優しく澄んだオーラの色も。
好きだなって、思ったの。
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