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コーチのリベンジ
第8話 マックで
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蹴翔がカーテンの隙間から車の中を覗き込んだとき、新見と守は下半身を交わらせていた。
腰から下は何も身につけず股を大きく開いて両脚を高く持ち上げている守と、その中心に向かって腰を振り下ろすたびにキュッと尻が閉じる新見。
とにかく脳裏にはその光景しか焼き付いておらず、守の表情まではまるっきり覚えていなかった。
守、きっとコーチに無理やりされちゃって、泣いてたんだろうな‥‥
蹴翔は心が落ち着かないまま、全く身が入らないリフティングの練習をしながら守が戻ってくるのを待っていた。
守が帰ってきたら、なんて声をかけよう‥‥
蹴翔は早く守に会いたいと思いつつ、最初の言葉が浮かんでこない。
そんな調子だからリフティングのコントロールは最悪だし、それゆえ全然長く続かなかった。
あ、また失敗‥‥
すると背後から、下手くそーという聞き慣れた声した。
守だ!
「まもるー!」
と呼びかけたその直後に、守の後ろを歩いてくる新見の姿が目に入った。
「お前、相変わらずリフティング下手な」
「あ、あぁ」
「守、大丈夫なの?」
「なにが?」
「いや、その‥‥」
「俺は大丈夫だけど、お前は?」
「う、うん‥‥」
「僕も、大丈夫‥‥」
会話がぎこちなかった。
蹴翔は、守が自分に心配をかけまいとして無理していつも通りに明るく振る舞っているに違いないと思った。
守の後ろを歩いて来た新見が2人の脇を通り過ぎていくとき蹴翔は少し緊張したが、新見も守も2人ともお互いに目を合わすことすらなくすれ違って行った。
そして新見はそのままグラウンドへ入っていき、他の少年たちのサッカー指導を始めた。
「さっきは悪りぃな、途中で練習抜け出しちゃって」
「うん‥‥」
「それはいいんだけど‥‥」
蹴翔は次に声をかけるタイミングを探していた。
「あのさ、守‥‥」
「よしっ!」
「じゃあパスの練習でもすっか」
意を決して呼びかけたのに、守はそれと同時に歩き出してしまった。
「あ?」
「なんか言ったか?」
「ううん、何でもない」
「そっか」
「じゃあ、リフティングと同じくらい下手っぴなお前のパスの練習相手でもしてやっか」
「うん」
そうして2人はグラウンドへ戻っていった。
その日の練習の帰り道、蹴翔と守はグラウンドから最寄りの駅まで歩いた。
行きは蹴翔の父親である博が車で送ってくれたが、新見との話しを済ませると先に帰ってしまったからだった。
「守‥‥」
「あ?」
守はいつもこんな感じで間の抜けたような返事をする。
「今日さ、帰りにマック寄らない?」
「なんかお腹すいちゃってさ」
「俺貧乏だから、そんな金ねーよ」
「お前の奢りならいいけどさ」
「もちろんいいよ」
「僕が誘ったんだから」
本当はお腹が空いていた訳ではなかった。
蹴翔は守とどうしても話しがしたかったのだ。
あの車の中で目撃してしまった出来事について。
自分も新見の手によって性を解放された者として。
またはもう一歩のところで守と同じことをされそうになった者として。
「ほんとにお前の奢りでいいんだよな」
「何食ってもいいんだよな」
マックに着くなり守は念を押した。
「いいよ」
「じゃあハッピーセットにしよっかな」
「いま玩具なんだっけ?」
「まじ?」
「ウッソ」
「お前、本気にしただろ」
「ばっかじゃねーの」
「6年生にもなってハッピーセットの玩具欲しいわけねーじゃん」
「あ、いや‥‥守なら本当に欲しいのかと‥‥」
「ざけんな、んなわけねーよ」
蹴翔はいたって守が普通に見えた。
その守の笑顔が車の中で下半身裸になって新見に抱かれている光景と重なった。
「お前、ちゃんと金持ってんだよな?」
「うん、これ」
蹴翔は現金の持ち合わせはあまりないが交通系のICカードを持っていて、それをヒラヒラさせて見せた。
「じゃあ俺ね、バリューセット」
「シェイクをLに変えてください」
守は蹴翔に聞くまでもなく、勝手にサイズを変更した。
「あとね、ポテトじゃなくてナゲットで」
蹴翔も守と同じものを頼んだ。
「俺、あんましこういうとこ来ないしさぁ」
「うちほら、片親じゃん」
「だから母親がいつもお金ないって言って、こういうとこ連れてきてくんないの」
「まじ今日はサイコーにうれしい」
「蹴翔、サンキュ」
蹴翔にはそんな守がどうしても意図的に明るく振る舞っているようにしか思えなかった。
そして2人は店内の一番奥の席を確保した。
もちろんそれは蹴翔が先導してのことだった。
「あのさ、守‥‥」
「僕さ、見ちゃったんだよね」
守がハンバーガーの包みを開け始めたタイミングで蹴翔が言った。
「見ちゃった?」
「何を?」
「その‥‥」
「何だよ、言えよ」
「守とさ、新見コーチがさ‥‥」
「俺とコーチが?」
「車ん中でさ‥‥その‥‥」
「何だよ」
「え、いや、その‥‥」
「全部ってわけじゃないけど」
「お前、覗き見してたのかよ」
「俺とコーチが車ん中でしてたこと‥‥」
「うん‥‥」
「じゃあ聞くけど、俺とコーチ、何してた?」
「車ん中で」
「新見コーチ、守に性教育してた」
蹴翔は自然と声のトーンが下がった。
「性教育?」
守もつられてヒソヒソ声になった。
「性教育って言うのは‥‥」
「んーとさ、あれだよ‥‥」
「ちゃんと言えよ」
「うん‥‥」
「なに?」
「せっくす」
守はため息を吐いた。
「性教育ね‥‥」
「あーあ、見られちゃってたか」
しかし守は蹴翔を責めるようなことはしなかった。
「で、どう思った?」
「どうって言われても‥‥」
「俺のこと、どんな風に見えた」
「いや、一瞬しか見なかったから‥‥」
「僕、びっくりしてすぐにそこから逃げちゃったし」
守は見られてしまったことは仕方ないとして、逆にこれを新見との約束に利用できるかもしれないと瞬時に思った。
「俺さ、もうずーっと前からコーチにああいうことされてるんだよね」
「ああいう、こと‥‥」
「ああ、セックスな」
「ずーっと前って、いつから?」
「小4の夏かな」
「お母さんとか先生とかに相談すればいいのに」
「言えねーよ、そんなこと」
「それにさ‥‥」
「新見コーチに脅されてるの?」
「言ったら、殺すとか‥‥」
「え?」
「大丈夫だよ、守」
「僕、お父さんに相談してみるよ」
「僕のお父さん、新見コーチの高校の先輩だから、きっとうまく解決してくれるよ」
「え?」
「あ、ああ、そうだよな」
守は本当は、自分は新見が大好きでセックスは同意の上でやっていることや、その大好きな新見から蹴翔とのペアヌードを撮らせろと言われていることについて協力して欲しいと打ち明けようと思っていた。
だがなぜか蹴翔は早合点して勘違いし、守が一方的な被害者だと完全に思い込んでしまっていた。
腰から下は何も身につけず股を大きく開いて両脚を高く持ち上げている守と、その中心に向かって腰を振り下ろすたびにキュッと尻が閉じる新見。
とにかく脳裏にはその光景しか焼き付いておらず、守の表情まではまるっきり覚えていなかった。
守、きっとコーチに無理やりされちゃって、泣いてたんだろうな‥‥
蹴翔は心が落ち着かないまま、全く身が入らないリフティングの練習をしながら守が戻ってくるのを待っていた。
守が帰ってきたら、なんて声をかけよう‥‥
蹴翔は早く守に会いたいと思いつつ、最初の言葉が浮かんでこない。
そんな調子だからリフティングのコントロールは最悪だし、それゆえ全然長く続かなかった。
あ、また失敗‥‥
すると背後から、下手くそーという聞き慣れた声した。
守だ!
「まもるー!」
と呼びかけたその直後に、守の後ろを歩いてくる新見の姿が目に入った。
「お前、相変わらずリフティング下手な」
「あ、あぁ」
「守、大丈夫なの?」
「なにが?」
「いや、その‥‥」
「俺は大丈夫だけど、お前は?」
「う、うん‥‥」
「僕も、大丈夫‥‥」
会話がぎこちなかった。
蹴翔は、守が自分に心配をかけまいとして無理していつも通りに明るく振る舞っているに違いないと思った。
守の後ろを歩いて来た新見が2人の脇を通り過ぎていくとき蹴翔は少し緊張したが、新見も守も2人ともお互いに目を合わすことすらなくすれ違って行った。
そして新見はそのままグラウンドへ入っていき、他の少年たちのサッカー指導を始めた。
「さっきは悪りぃな、途中で練習抜け出しちゃって」
「うん‥‥」
「それはいいんだけど‥‥」
蹴翔は次に声をかけるタイミングを探していた。
「あのさ、守‥‥」
「よしっ!」
「じゃあパスの練習でもすっか」
意を決して呼びかけたのに、守はそれと同時に歩き出してしまった。
「あ?」
「なんか言ったか?」
「ううん、何でもない」
「そっか」
「じゃあ、リフティングと同じくらい下手っぴなお前のパスの練習相手でもしてやっか」
「うん」
そうして2人はグラウンドへ戻っていった。
その日の練習の帰り道、蹴翔と守はグラウンドから最寄りの駅まで歩いた。
行きは蹴翔の父親である博が車で送ってくれたが、新見との話しを済ませると先に帰ってしまったからだった。
「守‥‥」
「あ?」
守はいつもこんな感じで間の抜けたような返事をする。
「今日さ、帰りにマック寄らない?」
「なんかお腹すいちゃってさ」
「俺貧乏だから、そんな金ねーよ」
「お前の奢りならいいけどさ」
「もちろんいいよ」
「僕が誘ったんだから」
本当はお腹が空いていた訳ではなかった。
蹴翔は守とどうしても話しがしたかったのだ。
あの車の中で目撃してしまった出来事について。
自分も新見の手によって性を解放された者として。
またはもう一歩のところで守と同じことをされそうになった者として。
「ほんとにお前の奢りでいいんだよな」
「何食ってもいいんだよな」
マックに着くなり守は念を押した。
「いいよ」
「じゃあハッピーセットにしよっかな」
「いま玩具なんだっけ?」
「まじ?」
「ウッソ」
「お前、本気にしただろ」
「ばっかじゃねーの」
「6年生にもなってハッピーセットの玩具欲しいわけねーじゃん」
「あ、いや‥‥守なら本当に欲しいのかと‥‥」
「ざけんな、んなわけねーよ」
蹴翔はいたって守が普通に見えた。
その守の笑顔が車の中で下半身裸になって新見に抱かれている光景と重なった。
「お前、ちゃんと金持ってんだよな?」
「うん、これ」
蹴翔は現金の持ち合わせはあまりないが交通系のICカードを持っていて、それをヒラヒラさせて見せた。
「じゃあ俺ね、バリューセット」
「シェイクをLに変えてください」
守は蹴翔に聞くまでもなく、勝手にサイズを変更した。
「あとね、ポテトじゃなくてナゲットで」
蹴翔も守と同じものを頼んだ。
「俺、あんましこういうとこ来ないしさぁ」
「うちほら、片親じゃん」
「だから母親がいつもお金ないって言って、こういうとこ連れてきてくんないの」
「まじ今日はサイコーにうれしい」
「蹴翔、サンキュ」
蹴翔にはそんな守がどうしても意図的に明るく振る舞っているようにしか思えなかった。
そして2人は店内の一番奥の席を確保した。
もちろんそれは蹴翔が先導してのことだった。
「あのさ、守‥‥」
「僕さ、見ちゃったんだよね」
守がハンバーガーの包みを開け始めたタイミングで蹴翔が言った。
「見ちゃった?」
「何を?」
「その‥‥」
「何だよ、言えよ」
「守とさ、新見コーチがさ‥‥」
「俺とコーチが?」
「車ん中でさ‥‥その‥‥」
「何だよ」
「え、いや、その‥‥」
「全部ってわけじゃないけど」
「お前、覗き見してたのかよ」
「俺とコーチが車ん中でしてたこと‥‥」
「うん‥‥」
「じゃあ聞くけど、俺とコーチ、何してた?」
「車ん中で」
「新見コーチ、守に性教育してた」
蹴翔は自然と声のトーンが下がった。
「性教育?」
守もつられてヒソヒソ声になった。
「性教育って言うのは‥‥」
「んーとさ、あれだよ‥‥」
「ちゃんと言えよ」
「うん‥‥」
「なに?」
「せっくす」
守はため息を吐いた。
「性教育ね‥‥」
「あーあ、見られちゃってたか」
しかし守は蹴翔を責めるようなことはしなかった。
「で、どう思った?」
「どうって言われても‥‥」
「俺のこと、どんな風に見えた」
「いや、一瞬しか見なかったから‥‥」
「僕、びっくりしてすぐにそこから逃げちゃったし」
守は見られてしまったことは仕方ないとして、逆にこれを新見との約束に利用できるかもしれないと瞬時に思った。
「俺さ、もうずーっと前からコーチにああいうことされてるんだよね」
「ああいう、こと‥‥」
「ああ、セックスな」
「ずーっと前って、いつから?」
「小4の夏かな」
「お母さんとか先生とかに相談すればいいのに」
「言えねーよ、そんなこと」
「それにさ‥‥」
「新見コーチに脅されてるの?」
「言ったら、殺すとか‥‥」
「え?」
「大丈夫だよ、守」
「僕、お父さんに相談してみるよ」
「僕のお父さん、新見コーチの高校の先輩だから、きっとうまく解決してくれるよ」
「え?」
「あ、ああ、そうだよな」
守は本当は、自分は新見が大好きでセックスは同意の上でやっていることや、その大好きな新見から蹴翔とのペアヌードを撮らせろと言われていることについて協力して欲しいと打ち明けようと思っていた。
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