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番外編
番外編② ジェラシーとスパイス
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俺は燿一郎とひな子ちゃんの元へ一直線に、ツカツカと歩いて向かった。
もう足は止まらなかった。
撮影は終わったがチェックがあるので、まだそのままでと言われている状況で、飛び込んできた人間に誰もが、え? という驚いた顔をしていた。
「……柊!? 来ていたのか?」
俺が機材の陰から覗いていたから、燿一郎は気づいていなかったらしい。
他のみんなと同じく、ポカンと驚いた顔をしていた。
「失礼します。これ以上は仕事の域を超えております。うちの社長に過剰に触るのはおやめいただけますか?」
ひな子ちゃんも同じくポカンとしていたが、俺の嫉妬に燃える目を見て瞬時に悟ったらしい。燿一郎のシャツを掴んで、キッと睨みつけてきた。
「撮影終わったのでこれはプライベートですぅ。あなたに関係あるんですか? 邪魔しないでください」
「………仕事ではないのでしたら、私からも言わせていただきます」
俺は頭が怒りで沸騰してまともな判断ができなかった。ソファーに座る二人の間に入って、燿一郎を隠すみたいにガバッと顔に抱きついた。
「触るな! 燿一郎は…俺のものだ! 触っていいのは俺だけなんだ!」
こんなこと、まるでお気に入りの玩具を取られた子供のようだ。
社会人としてあるまじき姿を晒すほど、俺は完全に頭にきて血が沸きたっていた。
しかし、スタジオ全体が、誰もいないかのように、シーンとした静寂に包まれてから、俺はやっと我に返った。
仕事中に仕事先の現場で、大事なクライアントを前にして俺はなんて事をやってしまったのか。一気に頭が冷えて今度は真っ青になって立ち上がろうとした。
しかし、燿一郎から離れようとしたのに、今度は燿一郎の方がガッツリ俺を掴んでいて、離れられなくなっていた。
もぞもぞと逃げようとする俺の下で、燿一郎がふふふっと笑い出した。
「という事なんで、今日はもう失礼します」
「……え?! く…九鬼さん? 嘘、帰るんですか?」
燿一郎はオレを離すどころか、そのまま力任せに抱きしめたまま持ち上げてしまった。
逃したくないのか、ひな子ちゃんは進路を塞ぐように立ち上がった。
「言いましたよね。パートナーがいますと。私は彼のものなんですよ。彼も私のものですけどね。それと、今最高に気分がいいので……」
今まで外向けの口調していた燿一郎の顔が、ドス黒い獣のような鋭いものに変わった。
「俺の邪魔をするな」
いきなり放出されたアルファの威嚇に、ひな子ちゃん含めスタッフを含め、全員が怯えて座り込んでしまった。
威嚇はアルファ特有の精神的な攻撃で、匂いと肌で感じるものだが、原始的な遺伝子を引き継ぐ燿一郎の威嚇の威力は凄まじく、まともにくらったらベータやオメガは意識を失うくらいだ。
たぶん、これでも燿一郎は抑えた方なのだろう。
みんなが倒れているという状況で、お疲れさまでしたと燿一郎は俺を抱えたまま、スタスタとスタジオを後にした。
ガタガタと震えが収まらなくて燿一郎にしがみついていると、当の本人は大丈夫かなんてのんきに聞いてきた。
「ばっ…何やってんだよ。あんな所で…」
「あー少しやり過ぎか。これでも抑えたんだぞ。せっかく恋人が可愛い嫉妬をしてくれたのに、それを邪魔するなんて許せないだろ。撮影は終わったし、あそこでやる事は終わった。次はこっちだ」
駐車場まで連れて行かれて、燿一郎は俺を自分の車の助手席に乗せた。
そのまま何食わぬ顔で車を走らせたので、それを呆然と眺めていたが、やっと気力が戻ってきた。
「か…会社に戻るなら、どこかでコーヒーを買っていいか? お前の威嚇ですっかり体が冷えたから落ち着きた…」
「社には戻らない。堤に連絡は入れたから大丈夫だ。体はすぐ熱くなる」
「はっ? どこへ行くんだよ」
「もう…ヤバいんだよ。何とか運転しているんだから…」
涼しい顔をしてるように見えたが、よく見たら燿一郎のひたいは汗が浮かんでいて、こめかみからタラりと垂れていった。
アルファのフェロモンを感じてまさかとそこに目を移すと、起立したモノがズボンを押し上げているのが見えた。
「お…おまっ…燿一郎…よくそんな状態で!」
「言っただろ、ヤバいって! ずっと我慢していたのに、あんな事を言われて、その場で押し倒さなかった俺を褒めてくれ。今だってさっきの柊の言葉を思い出したらヤバい……」
燿一郎は真っ赤な顔をして荒い息を吐き始めた。俺は甘い雰囲気よりも生命の危機を感じて慌てて、目に入った場所に入るように指示をした。
「おい……ここって……ラブホじゃないか」
「いいから止めろ。家までもたないだろ! 俺だってお前の威嚇とフェロモンに煽られてヤバくなってきた」
体の奥からくる燃えたぎるような熱さに俺は胸を押さえた。嫌というほど覚えのある感覚に耐えきれなくなって一気に解放した。
「だっ……し…しゅ……俺を殺す気……か……」
完全にラット状態だ。何とか車は止めたが、オメガの発情期のフェロモンが放出されて、ただでさえ爆発しそうだった燿一郎はほぼ理性を失っているように見えた。
「しゅ…しゅう……柊……」
「ちょっと…もうすぐ、部屋だから」
まだ理性を保っていた俺が、覆い被さってくる燿一郎を抑えながら、何とか車から這い出した。
かなり年季が入った古い建物だが、駐車場から部屋へ直結しているので、そのまま体のデカイ燿一郎を引きずるようにして部屋に入った。
「んっ…は…あっあ……お…い…待て…」
よほど我慢し過ぎたのだろうか。ラット状態で獣のようになっている燿一郎は、スーツの上からガシガシと噛み付いてきた。
すでに俺もヒートに入ったが、わずかな理性が初任給で買ったスーツが無惨なことになったらいけないと騒いだので、急いで全部脱ぎ捨てた。
「ほら…、燿一郎。来いよ…こっちだ」
まるで猛獣使いにでもなった気分だが、そろそろ自分の理性も尽きてきた。
先にベッドに上って裸体を晒したら、獣のような咆哮を上げて燿一郎が飛びかかってきた。
年季の入ったホテルの安っぽいベッドのスプリング壊れてしまいそうなくらい。
激しさを感じる始まりだった。
だんだんと意識が覚醒してきて、ギシギシと揺れるベッドの音を、シーツにうつ伏せになりながら聞いていた。
「んっ…よ…いちろ……っっああ!!」
ようやく体を起こそうとしたら、後ろから強く突き入れられて、背中を快感が突き抜けた。
「柊……、やっと頭が動いてきたな」
耳元で燿一郎の掠れた声が聞こえて、ゾクゾクと甘く震えてしまった。
後ろの孔にみちみちと熱くて硬い存在を感じて、自分が後ろから貫かれているのだと気がついた。
「ご…め…、俺…飛んでて……」
「いや、俺もさっき気がついた。何したかはもちろん覚えているけど、イってもイってもギチギチでヤバい。気持ち良過ぎてこのまま死にそ……」
「んっ…シーツ…どろどろだ。ぁ…か…噛んだのか?」
「まだ…ちゃんと噛んでない。ちゃんと柊が戻った時に…我慢した」
普段から噛むのが好きな男が、発情状態でよく我慢したなと驚いた。そう考えてから、確かに燿一郎は我慢強い男だったと思い直した。
「も…い…いいよ。ちゃんと…頭働いてるし…、この瞬間、忘れないから……」
「柊……、愛してる。ずっと…ずっと」
「ぁ…くっ……はぁ……んんんっ…」
燿一郎は豪快に噛むのかと思っていたが、ゆっくりと皮膚の中にずぶりと歯を入れてきた。
その時、味わったことがない快感が全身を駆け巡った。
いつも噛まれる時は、ほんの少し痛みの方が勝るのに、発情期の今は噛まれたところから溶けてしまうのではないかと思うほど強烈な快感が広がってきた。
「はぁ…はぁ……ぁぁ……よう…いろ…、おく……噛んだまま……奥……突いてっっ」
気持ち良過ぎて頭がおかしくなりそうで、後のナカがどろどろになって、雄を求めて疼き出した。
燿一郎は俺がお願いした通り、歯を深く入れたまま、最奥までぐっとねじ込むように雄を入れてきた。
そしてそのまま爆ぜて、ビクビクと揺れながら大量の精液を放ってきた。
「ああああっ…いい…熱い……おれ…も……イク……イっちゃ……はっ……んっくっっ!!」
ごぼごぼと飲みきれなかったものが溢れてシーツを鳴らしていく。その感覚すら快感で、俺は燿一郎をぐりぐりと締め付けながら、腰を揺らして達した。
うなじを噛まれたのでこれで番は成立しているのだろう。だが燿一郎はずっと噛んだまま離さなかった。
深く深く、もっと深くと俺の中に燿一郎という存在を植え付けていく。
もうこれ以上ないというくらい、染まったのに、まだ足りないと上から塗り続けられているみたいだった。
「燿一郎…………。嫉妬ばかりして……俺のこと…呆れないでくれよ」
こんな時に今日の自分の失態を思い出して、恥ずかしさが込み上げてきてポロリと口から溢れてきてしまった。
「………い…い」
「え?」
「もっと…嫉妬してくれて…いい」
「は? ……なに……うわっ…!!」
先ほど果てたばかりの燿一郎のモノがまた大きくなって存在感を増した。
その状態で繋がったまま体を回転させられて、向き合う体位になった。おかげでニヤニヤと顔を赤くして嬉しそうに笑う燿一郎の顔が目の前にきてしまった。
「できれば毎日して欲しい。それで、あの俺のものに触るなってやつを毎朝聞かせてくれよ」
「はぁ…!?」
「仕事の報告に来た時は俺の膝に跨って、さっき部下のこと、エロい目で見てただろって言いながら、俺のチンコをぐりぐりして……」
「アホか!? それはお前の妄想だろ!」
仕事中にそんな痴女のようなことをするはずないと睨みつけたら、燿一郎のモノはビクビクと揺れながらぐんぐん質量を増してきた。
「お…お前……話しながらデカくするな!」
「ああ…、やばっ……その目であの俺の燿一郎ってやつ言って…、すぐ出るから」
「絶対言わない!」
「柊、愛してるからーー!」
「言わない! 絶対やだーー!」
いつも通り、言い合って怒ったり笑ったりしながら、俺達の記念すべき日は終わった。
俺は必要以上にビクビクしながら、自分を曝け出すことを恐れていたけれど、それを上回る燿一郎の曝け出しっぷりに、悩んでいたことがおかしくなるくらいに最後は笑ってしまった。
こうしてやっと番になることができた。
今まで以上に忙しい日常が待っていたが、愛はいっそう深まっていった。
「頼むよ、燿一郎」
「だめだ…塩でもまいてやれ!」
堤が手をもみもみしながら猫なで声でお願いをしたが、燿一郎はバッサリと断ってしまった。
「今度うちから出すレディースブランドのいい宣伝になるじゃないか! 向こうからぜひにって言われているからチャンスだぞ」
「だからってなんで柊が女装しないといけないんだ。却下! 写真もどこから見つけたのか…全部回収だ!」
堤がドンと机を叩く音が社長室内に響いたが、燿一郎も負けずと机を叩いたので、机の物がバラバラと落ちていきそうで、俺はヒヤヒヤしていた。
あのドタバタで最悪の終わりだった撮影は、なんとか上手く編集してもらい、無事放映することができた。
しかし思いもよらなかったのだが、俺が画面に映り込むところまでアップされてしまい、出版社の上の方からあれは誰だと言う話になった。
てっきり怒られるのかと思いきや、訪ねてきた担当の人に、俺が学生時代にやったミスコンの写真を見せられて、実は探していましたと言われてしまった。
うちの会社の商品の宣伝も兼ねて、ぜひ女装男子特集に参加して欲しいと声がかかってしまったのだ。
嫌な気持ちしかないのだが、会社のため、燿一郎のためになるとノリノリの堤に説得されて、渋々頷いたのが一昨日。
出張から戻ってきた燿一郎に説明するために、堤と一緒に社長室を訪ねたが、全部言い終わる前に舌打ちをした燿一郎は絶対ダメだと一刀両断した。
なぜかやけに乗り気の堤は燿一郎の手まで握って機嫌を取ろうとしたが、バッと振り払われてやはり許可は出なかった。
「モデルは別で用意しろ。とにかく柊はだめだ。以上」
手で払われて不満顔の堤は、楽しいと思ったんだけどなーと言いながら社長室から出て行ってしまった。
俺も続いて出て行こうとしたら、燿一郎に呼び止められた。
「柊、こっち」
振り返ると先ほどまでのツンツンしていた雰囲気は消えて、甘さの混じる目線が注がれて、やっとどういうことか悟った。
俺が今まであまり自分を出せなかったように、燿一郎もどこまで出していいのか時々探るような態度を見せてくる。
本当はこうして欲しいけど、相手に嫌われたくない。自信がないのはお互い様だ。
俺達は同級生だから、お互いよけいに素直になれなかったのだろう。
番になったことで俺も気持ちもだいぶ落ち着いた。思いやることは大事な気持ちだけど、二人の間ではもう少し取り払ってもいいのではないかと思っていた。
「必要以上に柊を縛りたいわけじゃないんだ……。でも、俺にも許せないものがあって、俺だけが知っているものとか……見られたくなくて……あぁ、ダサいな俺……」
俺だけじゃない。
完璧に見えるこの男だって、嫉妬して悩んで不安になったりする。
好きなら、当たり前のことだったんだ。
クスリと笑った俺はゆっくりと燿一郎に近づいて行った。
「燿一郎さ、さっき堤さんに手、握られてたよね。指まで絡めちゃって」
「ばっ…さすがにアイツに嫉妬するのは勘弁してくれよ。絶対ないか…って…え?……し……柊」
燿一郎の驚く顔を見ながら、俺は椅子に座っている燿一郎の膝の上に跨った。
尻をぐりぐりと股間に擦り付けて、耳を甘噛みしてやると、隠してるはずのアルファのフェロモンが漏れてきた。
「つっ……柊……」
「こんな顔見せるのは、俺だけだろ?」
「…当たり前だ」
目元が赤くなって、感じた時にハの字になる垂れた眉を見るのが好きだ。これは俺だけのものだと思うと、胸をキュンと甘く突いてきた。
「もっと縛ってもいい。嬉しいから」
ごくりと喉を鳴らした燿一郎が興奮した目を向けてきた。
「それは……比喩的なものか…それとも……」
「さぁ…、どっちかな?」
燿一郎のネクタイを引っ張って近づいた唇を俺はペロリと舐めた。
「続きは会議の後にしよう」
「はっ……?」
唖然とした燿一郎を置いて、俺はひらりと床に降りてスーツの襟を正した。
わざと尻をキュと持ち上げて見せつけるように歩き出した。
「あと五分で始まるだろう。第二会議室。もうみんな待ってる」
「五分……五分あれば……」
さっさと部屋を出ていけば、待て待てと後ろから声がかかった。
悶えた声を出しながら、俺を追いかけてくる男に向かって振り返った俺は早くしろと言って笑った。
□おわり□
もう足は止まらなかった。
撮影は終わったがチェックがあるので、まだそのままでと言われている状況で、飛び込んできた人間に誰もが、え? という驚いた顔をしていた。
「……柊!? 来ていたのか?」
俺が機材の陰から覗いていたから、燿一郎は気づいていなかったらしい。
他のみんなと同じく、ポカンと驚いた顔をしていた。
「失礼します。これ以上は仕事の域を超えております。うちの社長に過剰に触るのはおやめいただけますか?」
ひな子ちゃんも同じくポカンとしていたが、俺の嫉妬に燃える目を見て瞬時に悟ったらしい。燿一郎のシャツを掴んで、キッと睨みつけてきた。
「撮影終わったのでこれはプライベートですぅ。あなたに関係あるんですか? 邪魔しないでください」
「………仕事ではないのでしたら、私からも言わせていただきます」
俺は頭が怒りで沸騰してまともな判断ができなかった。ソファーに座る二人の間に入って、燿一郎を隠すみたいにガバッと顔に抱きついた。
「触るな! 燿一郎は…俺のものだ! 触っていいのは俺だけなんだ!」
こんなこと、まるでお気に入りの玩具を取られた子供のようだ。
社会人としてあるまじき姿を晒すほど、俺は完全に頭にきて血が沸きたっていた。
しかし、スタジオ全体が、誰もいないかのように、シーンとした静寂に包まれてから、俺はやっと我に返った。
仕事中に仕事先の現場で、大事なクライアントを前にして俺はなんて事をやってしまったのか。一気に頭が冷えて今度は真っ青になって立ち上がろうとした。
しかし、燿一郎から離れようとしたのに、今度は燿一郎の方がガッツリ俺を掴んでいて、離れられなくなっていた。
もぞもぞと逃げようとする俺の下で、燿一郎がふふふっと笑い出した。
「という事なんで、今日はもう失礼します」
「……え?! く…九鬼さん? 嘘、帰るんですか?」
燿一郎はオレを離すどころか、そのまま力任せに抱きしめたまま持ち上げてしまった。
逃したくないのか、ひな子ちゃんは進路を塞ぐように立ち上がった。
「言いましたよね。パートナーがいますと。私は彼のものなんですよ。彼も私のものですけどね。それと、今最高に気分がいいので……」
今まで外向けの口調していた燿一郎の顔が、ドス黒い獣のような鋭いものに変わった。
「俺の邪魔をするな」
いきなり放出されたアルファの威嚇に、ひな子ちゃん含めスタッフを含め、全員が怯えて座り込んでしまった。
威嚇はアルファ特有の精神的な攻撃で、匂いと肌で感じるものだが、原始的な遺伝子を引き継ぐ燿一郎の威嚇の威力は凄まじく、まともにくらったらベータやオメガは意識を失うくらいだ。
たぶん、これでも燿一郎は抑えた方なのだろう。
みんなが倒れているという状況で、お疲れさまでしたと燿一郎は俺を抱えたまま、スタスタとスタジオを後にした。
ガタガタと震えが収まらなくて燿一郎にしがみついていると、当の本人は大丈夫かなんてのんきに聞いてきた。
「ばっ…何やってんだよ。あんな所で…」
「あー少しやり過ぎか。これでも抑えたんだぞ。せっかく恋人が可愛い嫉妬をしてくれたのに、それを邪魔するなんて許せないだろ。撮影は終わったし、あそこでやる事は終わった。次はこっちだ」
駐車場まで連れて行かれて、燿一郎は俺を自分の車の助手席に乗せた。
そのまま何食わぬ顔で車を走らせたので、それを呆然と眺めていたが、やっと気力が戻ってきた。
「か…会社に戻るなら、どこかでコーヒーを買っていいか? お前の威嚇ですっかり体が冷えたから落ち着きた…」
「社には戻らない。堤に連絡は入れたから大丈夫だ。体はすぐ熱くなる」
「はっ? どこへ行くんだよ」
「もう…ヤバいんだよ。何とか運転しているんだから…」
涼しい顔をしてるように見えたが、よく見たら燿一郎のひたいは汗が浮かんでいて、こめかみからタラりと垂れていった。
アルファのフェロモンを感じてまさかとそこに目を移すと、起立したモノがズボンを押し上げているのが見えた。
「お…おまっ…燿一郎…よくそんな状態で!」
「言っただろ、ヤバいって! ずっと我慢していたのに、あんな事を言われて、その場で押し倒さなかった俺を褒めてくれ。今だってさっきの柊の言葉を思い出したらヤバい……」
燿一郎は真っ赤な顔をして荒い息を吐き始めた。俺は甘い雰囲気よりも生命の危機を感じて慌てて、目に入った場所に入るように指示をした。
「おい……ここって……ラブホじゃないか」
「いいから止めろ。家までもたないだろ! 俺だってお前の威嚇とフェロモンに煽られてヤバくなってきた」
体の奥からくる燃えたぎるような熱さに俺は胸を押さえた。嫌というほど覚えのある感覚に耐えきれなくなって一気に解放した。
「だっ……し…しゅ……俺を殺す気……か……」
完全にラット状態だ。何とか車は止めたが、オメガの発情期のフェロモンが放出されて、ただでさえ爆発しそうだった燿一郎はほぼ理性を失っているように見えた。
「しゅ…しゅう……柊……」
「ちょっと…もうすぐ、部屋だから」
まだ理性を保っていた俺が、覆い被さってくる燿一郎を抑えながら、何とか車から這い出した。
かなり年季が入った古い建物だが、駐車場から部屋へ直結しているので、そのまま体のデカイ燿一郎を引きずるようにして部屋に入った。
「んっ…は…あっあ……お…い…待て…」
よほど我慢し過ぎたのだろうか。ラット状態で獣のようになっている燿一郎は、スーツの上からガシガシと噛み付いてきた。
すでに俺もヒートに入ったが、わずかな理性が初任給で買ったスーツが無惨なことになったらいけないと騒いだので、急いで全部脱ぎ捨てた。
「ほら…、燿一郎。来いよ…こっちだ」
まるで猛獣使いにでもなった気分だが、そろそろ自分の理性も尽きてきた。
先にベッドに上って裸体を晒したら、獣のような咆哮を上げて燿一郎が飛びかかってきた。
年季の入ったホテルの安っぽいベッドのスプリング壊れてしまいそうなくらい。
激しさを感じる始まりだった。
だんだんと意識が覚醒してきて、ギシギシと揺れるベッドの音を、シーツにうつ伏せになりながら聞いていた。
「んっ…よ…いちろ……っっああ!!」
ようやく体を起こそうとしたら、後ろから強く突き入れられて、背中を快感が突き抜けた。
「柊……、やっと頭が動いてきたな」
耳元で燿一郎の掠れた声が聞こえて、ゾクゾクと甘く震えてしまった。
後ろの孔にみちみちと熱くて硬い存在を感じて、自分が後ろから貫かれているのだと気がついた。
「ご…め…、俺…飛んでて……」
「いや、俺もさっき気がついた。何したかはもちろん覚えているけど、イってもイってもギチギチでヤバい。気持ち良過ぎてこのまま死にそ……」
「んっ…シーツ…どろどろだ。ぁ…か…噛んだのか?」
「まだ…ちゃんと噛んでない。ちゃんと柊が戻った時に…我慢した」
普段から噛むのが好きな男が、発情状態でよく我慢したなと驚いた。そう考えてから、確かに燿一郎は我慢強い男だったと思い直した。
「も…い…いいよ。ちゃんと…頭働いてるし…、この瞬間、忘れないから……」
「柊……、愛してる。ずっと…ずっと」
「ぁ…くっ……はぁ……んんんっ…」
燿一郎は豪快に噛むのかと思っていたが、ゆっくりと皮膚の中にずぶりと歯を入れてきた。
その時、味わったことがない快感が全身を駆け巡った。
いつも噛まれる時は、ほんの少し痛みの方が勝るのに、発情期の今は噛まれたところから溶けてしまうのではないかと思うほど強烈な快感が広がってきた。
「はぁ…はぁ……ぁぁ……よう…いろ…、おく……噛んだまま……奥……突いてっっ」
気持ち良過ぎて頭がおかしくなりそうで、後のナカがどろどろになって、雄を求めて疼き出した。
燿一郎は俺がお願いした通り、歯を深く入れたまま、最奥までぐっとねじ込むように雄を入れてきた。
そしてそのまま爆ぜて、ビクビクと揺れながら大量の精液を放ってきた。
「ああああっ…いい…熱い……おれ…も……イク……イっちゃ……はっ……んっくっっ!!」
ごぼごぼと飲みきれなかったものが溢れてシーツを鳴らしていく。その感覚すら快感で、俺は燿一郎をぐりぐりと締め付けながら、腰を揺らして達した。
うなじを噛まれたのでこれで番は成立しているのだろう。だが燿一郎はずっと噛んだまま離さなかった。
深く深く、もっと深くと俺の中に燿一郎という存在を植え付けていく。
もうこれ以上ないというくらい、染まったのに、まだ足りないと上から塗り続けられているみたいだった。
「燿一郎…………。嫉妬ばかりして……俺のこと…呆れないでくれよ」
こんな時に今日の自分の失態を思い出して、恥ずかしさが込み上げてきてポロリと口から溢れてきてしまった。
「………い…い」
「え?」
「もっと…嫉妬してくれて…いい」
「は? ……なに……うわっ…!!」
先ほど果てたばかりの燿一郎のモノがまた大きくなって存在感を増した。
その状態で繋がったまま体を回転させられて、向き合う体位になった。おかげでニヤニヤと顔を赤くして嬉しそうに笑う燿一郎の顔が目の前にきてしまった。
「できれば毎日して欲しい。それで、あの俺のものに触るなってやつを毎朝聞かせてくれよ」
「はぁ…!?」
「仕事の報告に来た時は俺の膝に跨って、さっき部下のこと、エロい目で見てただろって言いながら、俺のチンコをぐりぐりして……」
「アホか!? それはお前の妄想だろ!」
仕事中にそんな痴女のようなことをするはずないと睨みつけたら、燿一郎のモノはビクビクと揺れながらぐんぐん質量を増してきた。
「お…お前……話しながらデカくするな!」
「ああ…、やばっ……その目であの俺の燿一郎ってやつ言って…、すぐ出るから」
「絶対言わない!」
「柊、愛してるからーー!」
「言わない! 絶対やだーー!」
いつも通り、言い合って怒ったり笑ったりしながら、俺達の記念すべき日は終わった。
俺は必要以上にビクビクしながら、自分を曝け出すことを恐れていたけれど、それを上回る燿一郎の曝け出しっぷりに、悩んでいたことがおかしくなるくらいに最後は笑ってしまった。
こうしてやっと番になることができた。
今まで以上に忙しい日常が待っていたが、愛はいっそう深まっていった。
「頼むよ、燿一郎」
「だめだ…塩でもまいてやれ!」
堤が手をもみもみしながら猫なで声でお願いをしたが、燿一郎はバッサリと断ってしまった。
「今度うちから出すレディースブランドのいい宣伝になるじゃないか! 向こうからぜひにって言われているからチャンスだぞ」
「だからってなんで柊が女装しないといけないんだ。却下! 写真もどこから見つけたのか…全部回収だ!」
堤がドンと机を叩く音が社長室内に響いたが、燿一郎も負けずと机を叩いたので、机の物がバラバラと落ちていきそうで、俺はヒヤヒヤしていた。
あのドタバタで最悪の終わりだった撮影は、なんとか上手く編集してもらい、無事放映することができた。
しかし思いもよらなかったのだが、俺が画面に映り込むところまでアップされてしまい、出版社の上の方からあれは誰だと言う話になった。
てっきり怒られるのかと思いきや、訪ねてきた担当の人に、俺が学生時代にやったミスコンの写真を見せられて、実は探していましたと言われてしまった。
うちの会社の商品の宣伝も兼ねて、ぜひ女装男子特集に参加して欲しいと声がかかってしまったのだ。
嫌な気持ちしかないのだが、会社のため、燿一郎のためになるとノリノリの堤に説得されて、渋々頷いたのが一昨日。
出張から戻ってきた燿一郎に説明するために、堤と一緒に社長室を訪ねたが、全部言い終わる前に舌打ちをした燿一郎は絶対ダメだと一刀両断した。
なぜかやけに乗り気の堤は燿一郎の手まで握って機嫌を取ろうとしたが、バッと振り払われてやはり許可は出なかった。
「モデルは別で用意しろ。とにかく柊はだめだ。以上」
手で払われて不満顔の堤は、楽しいと思ったんだけどなーと言いながら社長室から出て行ってしまった。
俺も続いて出て行こうとしたら、燿一郎に呼び止められた。
「柊、こっち」
振り返ると先ほどまでのツンツンしていた雰囲気は消えて、甘さの混じる目線が注がれて、やっとどういうことか悟った。
俺が今まであまり自分を出せなかったように、燿一郎もどこまで出していいのか時々探るような態度を見せてくる。
本当はこうして欲しいけど、相手に嫌われたくない。自信がないのはお互い様だ。
俺達は同級生だから、お互いよけいに素直になれなかったのだろう。
番になったことで俺も気持ちもだいぶ落ち着いた。思いやることは大事な気持ちだけど、二人の間ではもう少し取り払ってもいいのではないかと思っていた。
「必要以上に柊を縛りたいわけじゃないんだ……。でも、俺にも許せないものがあって、俺だけが知っているものとか……見られたくなくて……あぁ、ダサいな俺……」
俺だけじゃない。
完璧に見えるこの男だって、嫉妬して悩んで不安になったりする。
好きなら、当たり前のことだったんだ。
クスリと笑った俺はゆっくりと燿一郎に近づいて行った。
「燿一郎さ、さっき堤さんに手、握られてたよね。指まで絡めちゃって」
「ばっ…さすがにアイツに嫉妬するのは勘弁してくれよ。絶対ないか…って…え?……し……柊」
燿一郎の驚く顔を見ながら、俺は椅子に座っている燿一郎の膝の上に跨った。
尻をぐりぐりと股間に擦り付けて、耳を甘噛みしてやると、隠してるはずのアルファのフェロモンが漏れてきた。
「つっ……柊……」
「こんな顔見せるのは、俺だけだろ?」
「…当たり前だ」
目元が赤くなって、感じた時にハの字になる垂れた眉を見るのが好きだ。これは俺だけのものだと思うと、胸をキュンと甘く突いてきた。
「もっと縛ってもいい。嬉しいから」
ごくりと喉を鳴らした燿一郎が興奮した目を向けてきた。
「それは……比喩的なものか…それとも……」
「さぁ…、どっちかな?」
燿一郎のネクタイを引っ張って近づいた唇を俺はペロリと舐めた。
「続きは会議の後にしよう」
「はっ……?」
唖然とした燿一郎を置いて、俺はひらりと床に降りてスーツの襟を正した。
わざと尻をキュと持ち上げて見せつけるように歩き出した。
「あと五分で始まるだろう。第二会議室。もうみんな待ってる」
「五分……五分あれば……」
さっさと部屋を出ていけば、待て待てと後ろから声がかかった。
悶えた声を出しながら、俺を追いかけてくる男に向かって振り返った俺は早くしろと言って笑った。
□おわり□
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一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
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番外編有り難うございます。
無事に番になれて良かったです。
嫉妬する柊ちゃんが可愛くってキュンキュンしちゃいました(((*≧艸≦)ププッ
harumi19661121
お読みいただきありがとうございます。
同じ歳でプライドもあったりで、なかなか素直になれなかった柊ですが、無事番うことができて最後は本領発揮してます(笑)
お楽しみいただけたら嬉しいです。
感想ありがとうございました⭐︎⭐︎
完結おめでとうございます(^ω^)
2人が最後まで諦めることなく素敵な未来を掴むことが出来て良かったです。
次回作も頑張ってください。
歌川ピロシキ様
お読みいただきありがとうございます。
色々ありましたが、思い続けて結ばれました。お楽しみいただけたら幸いです。
ありがとうございます。(^^)⭐︎⭐︎
またぜひ見ていただけたら嬉しいです。
めっちゃ面白かったです!
2人が近づくところがもう最高にきゅんきゅんしました!お願いなのですが、、
番外編を読んでみたいです‼️
出来たらでいいのでお願いします。
次の作品も楽しみにしてます!
ゆで卵様
お読みいただきありがとうございます。
きゅんきゅん嬉しいですー(//∇//)
番外編予定してます。
ちょっと遅くなってしまうかもしれませんが、できたら追加しますね。
優しいお言葉ありがとうございます。
頑張ります(^^)