生まれ変わって愛を知る

朝顔

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⑱強くて優しい人

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 黒髪で大きな目をした可愛らしい女性のリネットは、大きな瞳を潤ませながら一歩ずつ前に進み出てきた。
 その姿を見て誰もが息を飲んだ。

「リネット……、お腹が大きいな。もしや子がおるのか……、それは……ギデオンの……?」

 王の戸惑いの声に、リネットはおずおずと顔を上げた。
 腹部に明かな膨らみがあり、妊娠しているのは明かだった。

「そうですわ!ギデオンの子です。わが国では婚約中に愛を交わすのは普通にあることですわ。子が出来たなら、喜ばしいことですわ」

「……違うのです。これは…、ギデオン様の子供ではありません」

 半狂乱の王妃の言葉を遮るように、きっぱりと否定したあと、リネットは泣き崩れてしまった。

「……どういうことなのだ!?誰か!誰か説明しろ!」

 王は怒りをはらんだ声で叫んだ。誰もが話の行方が分からずに戸惑っていた。そこに、私から説明しますとランドールが声を上げた。

「リネット・ロンディアはギデオンと婚約する前にすでに婚約者がいたのです。しかし、アリエスタ様とロンディア公爵の取引によって、その婚約は破棄され、ギデオンの相手に変わったのです。お腹の子は前の婚約者の子です」

「なっ…なんだと!」

「ソフィア誘拐に加わった誘導役の女は、リネットの侍女でした。予めパーティーに忍びこんで、ロンディア公爵の手引きで逃げ出していました。町に隠れていたところを見つけてきました」

 ランドールの説明を補足するように、カルロスも出てきて王に向かって話した。

「なぜだ…、なぜそんな狂ったようなことを…!別の男の子をギデオンの子にしようとしたのか!?なぜなんだ!」

 王の言葉に王妃は床に崩れ落ちた。そして、下を向いていたギデオンはやっと顔を上げて小さな声で喋りだした。

「それは…、僕が女性を愛せないから……」

「ギデオン……」

「ずっと、いつか誰かにバレてしまうと思って恐ろしくて、人の目が気になって隠れて生きてきた。何度も自分に嘘をついて、女性を好きになろうと頑張った……。でも、ダメで……、怖くて怖くて……。お母様は知っていたから、王になるなら子供が出来なくてはだめだから……、子供がいると分かったリネットを婚約者に……、リネットもごめん……こんなことに巻き込んで……。僕は王になんてなりたくなかった…」

 ギデオンの告白に誰もが言葉を失い呆然として、部屋の中は静寂に包まれた。

「リネットは、心は前の相手にあるのに父親に強制的に婚約を破棄されられて、辛い思いをしていたようです。ロンディア公爵は取引によって、ギデオンが王になったら、重要な役職につくことになっていたそうです。ところが最近、貴族の中でギデオンがリネットと会っていないことや、お腹が大きいことなどが噂になっていたので焦ったのでしょう。ソフィアを襲って傷物にして、その不手際を私のせいにして、一気に王の気持ちを変えさせるように企てたのだと思われます」

 ランドールの話に王は呆然として頭を抱えて項垂れた。
 自分の知らないところで、起こっていたことに衝撃を受けたのだろう。

「アリエスタ、ロンディア公爵、何か言いたいことはないのか?」

 王の言葉に王妃は無言でただ下を向いていた。しかし、ロンディア公爵はまだ折れるつもりはないようで、がはははと大口を開けて笑いだした。

「なかなか面白い劇でしたな、ただのお坊っちゃまだと甘く見ていましたが、ランドール殿下もやるようになりましたな。そうです。話を持ちかけたのは私です。祖父の代に本当は祖父が王に選ばれるはずだった……。それを弟の方が優秀だからと……。そうなっていれば今頃私が……。積年の恨み晴らすのは今しかない!おい今だ!」

 ロンディア公爵は大きな声を上げて何かを合図したが、辺りは特に変わりなく静かで何も起こらなかった。

「どういうことだ?おい?おい!!」

 一人慌てるロンディア公爵の後ろの扉がバーンと盛大に音を立てて開いた。

「おい!今だってのはコイツらのことか?」

 ぐったりした男の二人を軽々と小脇に抱えて登場したのはレイオンだった。
 完全に気を失った男二人をドサッと前に落とすと同時に彼らが持っていたであろう剣も一緒に転がった。

「はぁはぁ…、こういうの得意じゃないのに…」

 レイオンの後ろから、息を切らしながらヘインズも登場した。ヘインズもまた一人捕まえたらしく、その者は気絶してはいないが、大人しく捕まえられていた。

「……まさか、賊を忍び込ませていたとは……、呆れましたね、ロンディア公爵」

 ランドールの言葉にロンディア公爵は怒りで震えていた。
 ソフィアはなぜロンディア公爵が賊を呼んだのか考えていた。公爵が恨むのは王家であるとして、自分が国を動かす立場になれないのなら、彼が狙うのは次代を継ぐ男であるランドールである。

 その時、ヘインズが捕まえていたはずの一人が急に暴れだした。男の肘がヘインズに当たり、ヘインズの手が離れてしまい、男は自由になった。

 それは一瞬だった。男が懐から隠し持っていた剣を取り出して、ランドールの方へ駆けていった。

 ロンディア公爵に気をとられていたランドールは、男の接近に反応が遅れてしまった。
 男の振り上げた剣がランドールに迫った時、ソフィアはすかさず間に飛び込んだ。

 ソフィアは手に力を込めて渾身の一撃を男の腹めがけて叩き込んだ。
 男はうっと声を出して力が抜けてしまい、その場に転がるようにして倒れた。男が振り上げた剣ゴロリと床に転がった音が辺りに響き渡った。

「……なんと!」

 最初に驚きの声を上げたのは王だった。
 次々に拍手の音や歓声まで聞こえてきてしまった。

「…ソフィア」

「ランドール様、ご無事ですか!?」

「あぁ…君は、強くて優しい…最高の女性だよ」

 感極まった顔になったランドールは、ソフィアを強く抱きしめた。

「……女が強すぎると嫌ではないですか?」

「出会ったときに俺を倒したくせに何を言っているんだ。俺を守ってくれる女なんて世界で一人だけだ。それを愛さずにいられるか」

 やっと、全て受け入れて愛してくれる人が現れたのだ。ソフィアの目から小さな涙が溢れ落ちた。どこか遠くで奈々美が良かったねと言って微笑んでいるような気がした。




 □□

 衛兵が次々と入ってきて、関わった者達を連れていった。王妃だけは立場もあるので、監視をつけて自室から出られない状態にされるということだった。

「ソフィア怪我はないか!」

 ランドールが話を聞かれている間、レイオンが駆け寄って来てソフィアの体を必死に確認してきた。

「思いきりいったので拳に少し痛みはありますけど、大したものじゃないです」

「良かった…。あんな無茶をするなんて…、この俺が気を失いそうになったぞ」

「ごめんねぇ、俺もレイオンみたいに男を気絶させていればこんなことには…」

 申し訳なさそうな顔をしてヘインズも近づいてきた。どう見ても肉体派には見えないヘインズでは仕方なかったと言おうとしてソフィアは気づいてしまった。
 何か企んでいるときのヘインズはよく笑っていながら鋭い目をしていた。今もその目をしている。

「……ヘインズお兄様。まさか……」

「……どうしたの?ソフィア」

 ソフィアの訝しげな目線に気づいたのか分からないが、ヘインズはふわりと微笑んだ。

「いいえ、何でもないです」

 これ以上考えるとまたややこしいことになりそうなので、頭痛を覚えたソフィアは首を振って考えるのをやめた。
 レイオンがなんだどうしたと言っていたが、また後でと言ってソフィアはその場を離れたのだった。


 □□


「ソフィアこっちだ」

 簡単な調査が終わったランドールに呼ばれてソフィアは近くへ走っていった。
 祭りの最中ということもあるので、詳しい事情はまた後日聞かれることになったのだ。

 王はギデオンと話があるようで、二人して別室に行ってしまった。
 今後の話などがあるのだろう。ギデオンの顔は前よりずっと晴れているように見えた。

「この後は自由だから俺の部屋に行こう」

「ええ、分かりました」

「本当は祭りの出店を見物しに行きたかったが、警備が厳重になって外には出られなくなってしまった。部屋から眺めることにしよう」

 いつの間にか、空は赤くなり始めている。祭りどころではなく、ずいぶんと長い一日だった。

「それは楽しみです」

 ランドールが差し出した手を喜んでソフィアは握ったのだった。






 □□□
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