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本編

じゅうなな スターからの返事

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 日差しが熱い。
 太陽がギラギラと輝いていて、窓から外を見たビリジアンは、肌にじっとりと汗を感じて、これはだめだとカーテンを閉めた。

 暑いより寒い方がいい。
 苦手な季節がやってきたと、ゲンナリしてしまった。

「すっかり暑くなりましたね。もうすぐプールの授業が始まります。水着でボール遊びをするみたいですよ。毎年、ポロリをする生徒がいて盛り上がるとか」

「本当かよ……俺が学生だったら喜んで出ていたな」

「サボっていたくせに」

「現役でサボっているお前が言うなっ」

 相変わらず、まだ授業中だというのに、マゼンダは事務机の前にあるソファーに座って、優雅にお茶を飲みながら本を読んでいた。

 本なら図書館で読めというのに、ここが落ち着くからと言って平気でサボりにやって来る。
 何度言っても聞かないので、もう好きにさせているが、本当に好き勝手をするので困ってしまう。

 乱れた衣服と、どうにも疼いてしまう尻の奥。
 先ほどまで、仮眠用のソファーの上で何をしていたか思い出して、ビリジアンは一人で赤くなって頭の中で唸った。

 マゼンダは練習だと称して、毎回触れてくるようになった。
 いつもポケットからハンカチを取り出すように、張形を取り出して、さぁやりましょうと言ってくるので、ヤツが現れるとクラっと目眩がしてしまう。
 そんな物騒なものを持ち歩くなと言ったが、借り物ではなく、オーダーメイドで作ったからと言ってきて、話が少しも通じない。

 前に誤解されて、怒ったマゼンダに口でさせられたが、あれはその時だけで、それ以降は毎回尻を弄られて、ビリジアンだけイカされまくって終わる。
 真面目にやっているのか、楽しんでいるのか、ビリジアンにはマゼンダの気持ちが分からない。

 始まれば気持ちが良すぎて、何度も意識が飛びそうになるし、何も考えられなくなってしまうが、果てた後、一人で乱れている自分に少し寂しくなってしまう。
 怒ってめちゃくちゃにされるのは嫌だと思っていたのに、思い出すのはあの時のことばかり。
 苦しくて気持ち良くて満たされた、あの感覚が忘れられなかった。

 今日も他の部屋では授業中だというのに、散々喘がされて、何度も達してしまった。
 マゼンダはいつも水の魔法で、すっかり綺麗にしてしまうが、体からマゼンダの名残りが消えてしまうのが、少しだけ寂しかった。

 パタンと音がして、マゼンダが呼んでいた本を閉じた。
 ビリジアンが顔を上げると、マゼンダとバッチリ目が合ってしまった。

「先生、どうして顔が赤いのですか? もしかして、さっきのだけじゃ足りなかった?」

 クスッと艶やかに笑ったマゼンダに、心臓を掴まれてしまった。
 ドクドクと激しく鳴って、後ろが疼き出した。

「だ……もう、だめだって……」

「先生……」

 再び部屋の中が、濃厚な空気に包まれたのを感じた。ビリジアンはマゼンダと見つめ合ったまま、身動きが取れなかった。
 だがその時、二人の空気を切り裂くように、ドアが弾け飛びそうなくらいの勢いで開いた、

「コンドルト先生ーーーーーー!!!」

「うわっああああ!?」

 ピンクのドレスの裾をたくし上げて、急いで走ってきたのか、息を切らしながら部屋に飛び込んできたのはキャメルだった。

 ビリジアンは咄嗟にソファーの上に目をやった。
 そこには、さっきまで使っていた張形が残されていた。
 事後に綺麗にはしているが、陰干ししないといけないとかで、そのまま丸出しで置かれていた。
 普段誰も訪ねてくることなどないので、完全に油断していた。

 飛び込んできたキャメルの視線がすぐそこに向かったので、ビリジアンは慌てて椅子から降りて、ソファーに飛び込んだ。
 張形を背中に隠して、パニックになりながら口を開いた。

「こ、こんにちは。今日はいい天気ですね。これは、その……、アレなんですけど、肩凝りに使えるので、ちょっと使っているというか、おかしいですよね。ははははっ……」

 苦しすぎる言い訳に涙が出そうだったが、ビリジアンは引き攣った笑顔でごまかそうとした。

「あら、マゼンダ君の面談中でしたか、すみません。それ、素敵な張形ですね。健全な男子のお部屋には一つや二つあるものですからね」

「キャメル先生、こんにちは。コンドルト先生は本当にシャイですよね。成人の祝いに両親からもらうくらい一般的なのに」

「う、そ!? そーなのお!?」

「チラッと見えましたけど、規格外サイズでしたわね。テコキ社製ですか?」

「いえ、オーダーメイドなので、マチオ社製です」

「さすがマゼンダくん。やっぱり男の子だから詳しいわね」

 汗だくでソファーに転がっているビリジアンを横目に、マゼンダとキャメルは、素材が違うとか語り合って二人で盛り上がっていた。

「あのーー、キャメル先生は何か……」

「あー、いけない。すっかり忘れていました。ビリジアン先生、朗報ですよ」

 話に夢中になっていたキャメルは、あっと気が付いて自分の頭をぺこんと指で叩いた。
 そんな可愛いリアクションいいから、先に教えてくれと思っていると、キャメルはキラキラした目で、ビリジアンの手を握ってきた。

「驚かないで聞いてください」

「……はい」

「返事が来たのですよ! オッケーですって! コンドルト先生に決まったのです!」

「……はい?」

「もー、なんの話みたいな顔しないでくださいっ、ミモザとのお見合いですよ」

「ミ……ミ、……ああ」

 そういえば、紹介がどうとかそんな話を一方的にされたのを思い出した。王国のドン・ファンとなんて、まさかないだろうと思っていたが、本当にまさかの知らせで声が出なかった。

「全然驚かないじゃないですかぁ、私昨日、知らせを聞いてお茶を噴き出したんですよぉ」

 つまらないと言って、組んだ指をぐるぐる回しているキャメルを見ながら、こりゃマズイかもと思っていると、背中に極寒を思わせる冷風を感じた。

「お見合い? ミモザ・シャルトルーズ? どういうことですか?」

「あー……ええとー……」

 マゼンダが水魔法を氷にする勢いで、ビリジアンの顔にかけてきたので、もっと言葉が出なくなった。

 助けてくれとキャメルに視線を送ると、ニコッと笑ったキャメルがお茶を淹れましょうと、全然空気の読めない笑顔で、手を叩いて喜んでいた。







 ミモザ・シャルトルーズ。
 年齢は三十五歳。
 地方の小劇場で子供の頃から演者をしていたが、その抜群の容姿を買われて、王都の劇場に来るやいなや、一躍トップスターとなる。
 今や彼の姿を見るために、連日女性たちが劇場に列を作って、幕が上がると失神してしまう人が続出。
 入手困難というチケットを巡って、強盗事件まで起きる大変な騒ぎになっているそうだ。

 派手な職業であるからか、遊びも派手だとして知られている。
 一晩でもいいから、ミモザのベッドに入りたいと、こちらも寝室への列が絶えないと聞いた。

「私は反対です」

 マゼンダがキッパリと言い放ったのを見て、キャメルが目を瞬かせて驚いた顔をした。
 机の上にはマゼンダが用意したティーセットが並べられていて、手際よく淹れてくれたお茶を飲みながら、ミモザから来たという返事をキャメルが読み上げた。
 それを聞いて、マゼンダは眉を寄せて、気に入らないという顔になった。

「んー、そういえば、どうしてマゼンダ君がこの話に入っているのかしら? 二人は……」

「じっ、実は友人になったのです! 恥ずかしながら、教師と生徒ではあるのですが! マゼンダは恋愛の魔術師と呼ばれていて、私が色々と教えてもらっていまして……」

「まぁ、そうだったのですね。それは頼もしい!」

 友人というか、協力関係というか、なんと呼んでいいのか分からなかったが、説明して納得してもらうにはそれしかないと思った。
 友人という言葉がマゼンダは気に入らなかったようで、眉間の皺が深くなった気がした。

「でもね、こんな機会滅多にないのよ。せっかくだからね、話だけでも。もし何かの間違いで呼ばれたのだとしても、サインだけでも貰って帰ればいいじゃない」

「キャメル先生、それが目的ですか……」

 マゼンダが冷静に返すと、キャメルはまさかぁと言って笑っていた。

「ね、コンドルト先生。もう、私の名前で推薦状も出しちゃったし。おねがーい」

 キャメルが目のやり場に困る豊満な胸を揺らしながら、ビリジアンの腕に縋りついてきた。
 マゼンダからの視線が痛いが、断ったら押し倒されそうな勢いだった。

「わ、分かりました。間違いだとは思いますが、キャメル先生にはお世話になっていますので……」

「やったぁ! あ、サインの横にキスマーク、よろしくお願いします」

「はは……はい」

 そうとなったら連絡しないとと言って、お茶を飲み干したキャメルは席を立った。

「日程が決まったら、また連絡しますね」

「はい、よろしくお願いします」

 部屋の外へ送り出そうという間も、興奮したキャメルはペラペラとお喋りが止まらなかった。

「コンドルト先生、張形がお好きなら、アイク社の最新作、暴れるぞ坊Rが家にありますけどお使いになります?」

「え……いや、それは……」

「結構です、キャメル先生。そういうのは私が用意しますので」

「ん? なぜマゼンダ君が……」

 まだキャメルが話していたが、マゼンダはそれではと言って、ピシャリとドアを閉めてしまった。


 嵐みたいなキャメルが去って、顔を見合わせたビリジアンとマゼンダは、揃って頭に手を当てた。

「困ったことになりましたね」

「まったくだ……」

 予想もしなかった新たなお見合い相手の登場に、二人の困惑のため息が部屋に響き渡った。






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