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第三章 入学編(十八歳)
3、初ミッション
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自分がここに来てしまうなんて、考えもしなかった。
とにかく制服はマズイので、一度家に帰ってから、悩んだ末に衣装部屋の端に追いやっていたものを取り出した。
いつも着ている、いかにもお坊ちゃんの格好では目立ちすぎるからだ。
それは誕生日に従姉妹のロティーナから貰ったが、派手さが恥ずかしくて一度も着ていなかったものだった。
皮肉にも今日の場所にはピッタリ合っている気がする。
大人な格好に顔だけ浮いていないかなというのだけ心配だった。
こんなことなら一時期イクシオに誘われていた時に、遊びに来て慣らしておくべきだったと目の前の光景を見て後悔した。
俺が今いるのは、貴族の遊び場であるカジノだ。
ランプの灯に照らされた少し薄暗い部屋には、たくさんのテーブルが並び、各テーブルにはディーラーが一人立ってカードを配ったり、ルーレットを回している。
テーブルの周りには、着飾った男女が集まっていて、ある物は興奮して手を上げて喜んでいて、ある者は頭を抱えて絶望している様子が見える。
狂喜乱舞、阿鼻叫喚、ここには様々なドラマが詰まっているように見えた。
俺みたいなトロい男が参加したら、あっという間に丸裸にされそうな気がしてぶるりと震えた。
俺がここに来たのは、賭け事を楽しむためではない。
悪役令息としてやらなければいけないことのためにここに足を運んだ。
目当ての人間を探して俺は部屋の中を進んだ。
途中の鏡に映る自分を見て、似合わないなとため息をつきたくなった。
黒いパンツに透け感のある黒いシャツ、ぐっと開いた胸元にはシルバーのアクセサリーが輝いている。
腕にはドクロのデザインのトゲトゲしたブレスレットを着けた。
指にはシルバーのゴツいリングを何個も着けた。
ちなみに髪の毛はいつも適当に下ろしているが、後ろにかきあげておでこを出している。
アクセサリーは、いかにも遊んでいそうな男の格好をイメージしてコツコツと集めた。
ちなみに家には遊びに行って来ますと手紙を残してそっと抜け出した。
誰にも見られないように辻馬車を拾ってここまで来た。
いつも誰かしら付いて歩いて来たので、ここまでするのは初めてで大冒険だった。
俺のお目当ては、いつもここで遊んでいるという素行の悪い生徒だ。
概要本にチラッと出てくる顔を確認し、すでに人物も特定している。
そいつに金をチラつかせて、俺の手下として動いてもらわなければいけないのだ。
さすがに校内で買収するのは危険なので、わざわざここに来るしかなかった。
俺が持って来たセカンドバッグには、三年間コツコツ働いて貯めたバイト代が入っている。
これを使って、命令通りに動いてもらうのだ。
これはゲーム通りの展開なので、話をすればそれほど苦労せずに乗ってくるだろうと思うのだが、何しろ緊張して胃が痛くなってきてしまった。
今までのほほんとお坊ちゃん生活をして来たので、こういったちょっと危なそうな世界に足を踏み入れたことなどない。
賭け事は貴族の遊びだからとイクシオは言っていたが、夜は危険だから誰か詳しい人と一緒に行くか、一人では行かないようにと言われていた。
すでに夕刻は過ぎたので、カジノの雰囲気はより怪しいものになってきている気がする。
遊び慣れていなそうな男が歩いていると思われたのか、大人達の値踏みするような視線を感じる気がする。
早く帰りたいと思いながら、俺は必死にお目当ての男を探した。
いたっ!
俺はついにテーブルからは離れた雑談用の席に知っている顔を見つけた。
仲間と酒を飲みながらシガー燻らせている姿は、一丁前の悪党に見える。
あそこに集まっているのは、貴族だが素行が悪いと評判の令息達だ。
その中でも中心にいる男、彼こそが俺がお金を使って意のままに操る予定の男だ。
名前は、イゼル・ブラック。
ブラック男爵家の長男で、貴族学校ではクラスは違うが同じ学年だ。
クラス分けは、俺とイクシオが同じクラスで、アスランとリカードとカノアが同じクラスだ。
そしてイゼルは、アスラン達と同じクラスだった。
イゼルは青い瞳にシルバーの髪をしていた。
俺と同じ目が吊り上がった目つきの悪い、いかにも悪役という顔をしているが、貴族の令息らしく色白で上品な雰囲気もあった。
銀髪と赤い眼、それは聖力を持つ者の証である。
アスランはその両方だし、シモンは目だけ該当している。
そしてこの男、イゼルは銀髪がそうなので、幼い頃から将来を期待されて生きてきた。
しかし、入学前の神殿の検査で、聖力はあるがあまりに少なくて、このまま開花することはないだろうと診断が下ってしまった。
その時、同じ検査会場にはアスランがいて、神官達が驚くくらいの量を保有していると評価されていた。あまりの差を見せつけられたイゼルは自暴自棄に陥り、そこから道を踏み外してしまう。
父親の金を使い、酒に色に賭け事に怪しげな薬にまで手を出して放蕩三昧。
そこに現れたのが、悪役令息のシリウス。
イゼルは男爵家の令息だが、遊び過ぎて金欠気味だったのでシリウスはそこに目をつけた。
金をやるからある人物を徹底的に痛めつけて欲しいと依頼されて、イゼルは最初は冷笑する。
しかし、その人物が自分に劣等感を植え付けたあのアスランだと知って、その依頼を喜んで受けるのだ。
と、まあこれが、ゲームでの話だ。
俺は金を用意して、いかにも悪そうな格好までしてきたのだから完璧に準備は整っている。
のだが。
……ハードルが高い。
あの不良グループの溜まっているところに突入するなんて、ハードルが高過ぎる。
ゲームのシリウス、ハート強過ぎだろ!
あんな連中に声をかけるのなんて、怖くてたまらない。
俺はバーカウンターに座って、イゼルをチラチラ見ながら、どうしていいか分からずに頭を抱えていた。
金はある!
しかし、怖くて声がかけれない!
ここまで来てしっかりしろ俺!
こんなところで悶々と悩んでいても、時間だけが過ぎていく。
せめてイゼルがトイレにでも立って一人になった時がタイミング的にはベストかもしれない。
そうだ、そうしよう。
仲間といる時になんてとてもじゃないけど……
下を向いて作戦を練っていたら、トンっと、目の前にグラスが置かれた。
あれ何も注文していないけどなと思って顔を上げたら、横の席に誰か座った気配がした。
「なぁ、さっきから、俺のことチラチラ見てるけど……、そういうことだと思っていい?」
そういうことって何のことだと思ったら、横に座って来たのは、俺が話しかけられなくて困っていたイゼルだった。
まさか、本人から話しかけて来てくれるなんてと、信じられなくて一瞬ポカンとしてしまった。
「あ……あの、そういうこととは?」
「あれ、ジラすタイプ? とぼけるなよ、穴が開きそうなくらい熱い視線を感じたぜ」
どうやら隠れて見ていたのを気づかれてしまったようだ。しかし、これは好都合だ、交渉の機会を向こうから持ちかけてきてくれたのだ。
俺は落ち着け落ち着けと頭の中で繰り返した。
「ん? 手が震えてる……。遊んでそうな格好のわりには、慣れてない? もしかして、初めて?」
さすが本物の不良くんだ。
俺の着慣れない格好では偽物だとすぐに見抜かれてしまったらしい。ここは素直にいうべきだと小さく息を吐いた。
「……初めて……です」
こんなところに来たのは初めてだと言おうとしたが、緊張で色々と抜けてしまった。
言葉が出てこなくて嫌になるが、とにかくここから交渉に入らなければいけない。
息を整えようと胸に手を当てたら、その手をイゼルに取られてしまった。
「へぇ……、よく見たら服も上等だし。貴族のお坊ちゃんだろ? なるほど、そろそろ捨てたいってやつかな」
「そっ、捨てたいわけじゃなっ……、俺は三年間頑張って……」
「分かった分かった。その三年間? 色々努力したんだろう? 頑張ったな」
人が必死に貯めた金に何を言うのかとムカっとしたが、なぜか頑張ったなと言われたら今度は心がじんとしてしまった。
バイトを知られた人にはなぜそんなことをするんだと言われてきたが、頑張ったなんて努力を認めてくれた人はいなかった。
俺は頑張ったんだと思ったら、ちょっとウルっとしてしまった。
「お前みたいに思い詰めた顔でここに来るやつを何人も見て来たよ。俺を選んでくれたなら嬉しい。……俺のタイプってワケじゃないけど、優しくしてやるよ」
「優しく……、違う、俺は痛めつけて欲しいんだ」
「本気か? そっち系?」
「そっち系がよく分からないけど、そういう依頼で……」
「ふーん、分かった」
「えっ!?」
ちぐはぐな交渉に思えたが、いきなり引き受けてくれることになって俺の方が信じられなかった。
まだ詳しい話を聞いていないのに、軽々と引き受けるなんて、さすが怖いもの知らずだと驚いた。
こちらとしては話が早くて助かる。
「そうか、助かるよ。あの、金ならここにあるから」
「おいおい、そこまで思い詰めるなよ。コッチも良い思いするんだし、そういうのはナシでヤろうぜ」
「金が……いらないのか!?」
驚いた。
ゲームの設定では、金で動く男だとなっていたはずだ。
それが、無償で働いてくれるなんて、またどこかで何か変わってしまったのだろうか……。
イゼルはさっきから俺の手の甲をしきりに指で撫でている。話に集中していたから、されるままにしていたが、さすがにくすぐったくなってきた。
「あの……、手を……」
ここで振り払って機嫌が悪くなっても困るので、触らないでくれとイゼルの目を見て訴えた。
「ふっ……目、潤ませちゃって、よく見ると可愛いな」
「へ?」
「ほら、上にいい部屋があるから付いて来いよ」
場所を変えるということは、やはり依頼内容を確認して値段交渉の必要があると思い直したのだろう。
人気のない場所は怖かったが、後で文句を言われるかもしれないので、じっくり話し合う必要がある。
俺は金の入ったセカンドバッグを小脇に抱えてイゼルの後を追った。
□□□
とにかく制服はマズイので、一度家に帰ってから、悩んだ末に衣装部屋の端に追いやっていたものを取り出した。
いつも着ている、いかにもお坊ちゃんの格好では目立ちすぎるからだ。
それは誕生日に従姉妹のロティーナから貰ったが、派手さが恥ずかしくて一度も着ていなかったものだった。
皮肉にも今日の場所にはピッタリ合っている気がする。
大人な格好に顔だけ浮いていないかなというのだけ心配だった。
こんなことなら一時期イクシオに誘われていた時に、遊びに来て慣らしておくべきだったと目の前の光景を見て後悔した。
俺が今いるのは、貴族の遊び場であるカジノだ。
ランプの灯に照らされた少し薄暗い部屋には、たくさんのテーブルが並び、各テーブルにはディーラーが一人立ってカードを配ったり、ルーレットを回している。
テーブルの周りには、着飾った男女が集まっていて、ある物は興奮して手を上げて喜んでいて、ある者は頭を抱えて絶望している様子が見える。
狂喜乱舞、阿鼻叫喚、ここには様々なドラマが詰まっているように見えた。
俺みたいなトロい男が参加したら、あっという間に丸裸にされそうな気がしてぶるりと震えた。
俺がここに来たのは、賭け事を楽しむためではない。
悪役令息としてやらなければいけないことのためにここに足を運んだ。
目当ての人間を探して俺は部屋の中を進んだ。
途中の鏡に映る自分を見て、似合わないなとため息をつきたくなった。
黒いパンツに透け感のある黒いシャツ、ぐっと開いた胸元にはシルバーのアクセサリーが輝いている。
腕にはドクロのデザインのトゲトゲしたブレスレットを着けた。
指にはシルバーのゴツいリングを何個も着けた。
ちなみに髪の毛はいつも適当に下ろしているが、後ろにかきあげておでこを出している。
アクセサリーは、いかにも遊んでいそうな男の格好をイメージしてコツコツと集めた。
ちなみに家には遊びに行って来ますと手紙を残してそっと抜け出した。
誰にも見られないように辻馬車を拾ってここまで来た。
いつも誰かしら付いて歩いて来たので、ここまでするのは初めてで大冒険だった。
俺のお目当ては、いつもここで遊んでいるという素行の悪い生徒だ。
概要本にチラッと出てくる顔を確認し、すでに人物も特定している。
そいつに金をチラつかせて、俺の手下として動いてもらわなければいけないのだ。
さすがに校内で買収するのは危険なので、わざわざここに来るしかなかった。
俺が持って来たセカンドバッグには、三年間コツコツ働いて貯めたバイト代が入っている。
これを使って、命令通りに動いてもらうのだ。
これはゲーム通りの展開なので、話をすればそれほど苦労せずに乗ってくるだろうと思うのだが、何しろ緊張して胃が痛くなってきてしまった。
今までのほほんとお坊ちゃん生活をして来たので、こういったちょっと危なそうな世界に足を踏み入れたことなどない。
賭け事は貴族の遊びだからとイクシオは言っていたが、夜は危険だから誰か詳しい人と一緒に行くか、一人では行かないようにと言われていた。
すでに夕刻は過ぎたので、カジノの雰囲気はより怪しいものになってきている気がする。
遊び慣れていなそうな男が歩いていると思われたのか、大人達の値踏みするような視線を感じる気がする。
早く帰りたいと思いながら、俺は必死にお目当ての男を探した。
いたっ!
俺はついにテーブルからは離れた雑談用の席に知っている顔を見つけた。
仲間と酒を飲みながらシガー燻らせている姿は、一丁前の悪党に見える。
あそこに集まっているのは、貴族だが素行が悪いと評判の令息達だ。
その中でも中心にいる男、彼こそが俺がお金を使って意のままに操る予定の男だ。
名前は、イゼル・ブラック。
ブラック男爵家の長男で、貴族学校ではクラスは違うが同じ学年だ。
クラス分けは、俺とイクシオが同じクラスで、アスランとリカードとカノアが同じクラスだ。
そしてイゼルは、アスラン達と同じクラスだった。
イゼルは青い瞳にシルバーの髪をしていた。
俺と同じ目が吊り上がった目つきの悪い、いかにも悪役という顔をしているが、貴族の令息らしく色白で上品な雰囲気もあった。
銀髪と赤い眼、それは聖力を持つ者の証である。
アスランはその両方だし、シモンは目だけ該当している。
そしてこの男、イゼルは銀髪がそうなので、幼い頃から将来を期待されて生きてきた。
しかし、入学前の神殿の検査で、聖力はあるがあまりに少なくて、このまま開花することはないだろうと診断が下ってしまった。
その時、同じ検査会場にはアスランがいて、神官達が驚くくらいの量を保有していると評価されていた。あまりの差を見せつけられたイゼルは自暴自棄に陥り、そこから道を踏み外してしまう。
父親の金を使い、酒に色に賭け事に怪しげな薬にまで手を出して放蕩三昧。
そこに現れたのが、悪役令息のシリウス。
イゼルは男爵家の令息だが、遊び過ぎて金欠気味だったのでシリウスはそこに目をつけた。
金をやるからある人物を徹底的に痛めつけて欲しいと依頼されて、イゼルは最初は冷笑する。
しかし、その人物が自分に劣等感を植え付けたあのアスランだと知って、その依頼を喜んで受けるのだ。
と、まあこれが、ゲームでの話だ。
俺は金を用意して、いかにも悪そうな格好までしてきたのだから完璧に準備は整っている。
のだが。
……ハードルが高い。
あの不良グループの溜まっているところに突入するなんて、ハードルが高過ぎる。
ゲームのシリウス、ハート強過ぎだろ!
あんな連中に声をかけるのなんて、怖くてたまらない。
俺はバーカウンターに座って、イゼルをチラチラ見ながら、どうしていいか分からずに頭を抱えていた。
金はある!
しかし、怖くて声がかけれない!
ここまで来てしっかりしろ俺!
こんなところで悶々と悩んでいても、時間だけが過ぎていく。
せめてイゼルがトイレにでも立って一人になった時がタイミング的にはベストかもしれない。
そうだ、そうしよう。
仲間といる時になんてとてもじゃないけど……
下を向いて作戦を練っていたら、トンっと、目の前にグラスが置かれた。
あれ何も注文していないけどなと思って顔を上げたら、横の席に誰か座った気配がした。
「なぁ、さっきから、俺のことチラチラ見てるけど……、そういうことだと思っていい?」
そういうことって何のことだと思ったら、横に座って来たのは、俺が話しかけられなくて困っていたイゼルだった。
まさか、本人から話しかけて来てくれるなんてと、信じられなくて一瞬ポカンとしてしまった。
「あ……あの、そういうこととは?」
「あれ、ジラすタイプ? とぼけるなよ、穴が開きそうなくらい熱い視線を感じたぜ」
どうやら隠れて見ていたのを気づかれてしまったようだ。しかし、これは好都合だ、交渉の機会を向こうから持ちかけてきてくれたのだ。
俺は落ち着け落ち着けと頭の中で繰り返した。
「ん? 手が震えてる……。遊んでそうな格好のわりには、慣れてない? もしかして、初めて?」
さすが本物の不良くんだ。
俺の着慣れない格好では偽物だとすぐに見抜かれてしまったらしい。ここは素直にいうべきだと小さく息を吐いた。
「……初めて……です」
こんなところに来たのは初めてだと言おうとしたが、緊張で色々と抜けてしまった。
言葉が出てこなくて嫌になるが、とにかくここから交渉に入らなければいけない。
息を整えようと胸に手を当てたら、その手をイゼルに取られてしまった。
「へぇ……、よく見たら服も上等だし。貴族のお坊ちゃんだろ? なるほど、そろそろ捨てたいってやつかな」
「そっ、捨てたいわけじゃなっ……、俺は三年間頑張って……」
「分かった分かった。その三年間? 色々努力したんだろう? 頑張ったな」
人が必死に貯めた金に何を言うのかとムカっとしたが、なぜか頑張ったなと言われたら今度は心がじんとしてしまった。
バイトを知られた人にはなぜそんなことをするんだと言われてきたが、頑張ったなんて努力を認めてくれた人はいなかった。
俺は頑張ったんだと思ったら、ちょっとウルっとしてしまった。
「お前みたいに思い詰めた顔でここに来るやつを何人も見て来たよ。俺を選んでくれたなら嬉しい。……俺のタイプってワケじゃないけど、優しくしてやるよ」
「優しく……、違う、俺は痛めつけて欲しいんだ」
「本気か? そっち系?」
「そっち系がよく分からないけど、そういう依頼で……」
「ふーん、分かった」
「えっ!?」
ちぐはぐな交渉に思えたが、いきなり引き受けてくれることになって俺の方が信じられなかった。
まだ詳しい話を聞いていないのに、軽々と引き受けるなんて、さすが怖いもの知らずだと驚いた。
こちらとしては話が早くて助かる。
「そうか、助かるよ。あの、金ならここにあるから」
「おいおい、そこまで思い詰めるなよ。コッチも良い思いするんだし、そういうのはナシでヤろうぜ」
「金が……いらないのか!?」
驚いた。
ゲームの設定では、金で動く男だとなっていたはずだ。
それが、無償で働いてくれるなんて、またどこかで何か変わってしまったのだろうか……。
イゼルはさっきから俺の手の甲をしきりに指で撫でている。話に集中していたから、されるままにしていたが、さすがにくすぐったくなってきた。
「あの……、手を……」
ここで振り払って機嫌が悪くなっても困るので、触らないでくれとイゼルの目を見て訴えた。
「ふっ……目、潤ませちゃって、よく見ると可愛いな」
「へ?」
「ほら、上にいい部屋があるから付いて来いよ」
場所を変えるということは、やはり依頼内容を確認して値段交渉の必要があると思い直したのだろう。
人気のない場所は怖かったが、後で文句を言われるかもしれないので、じっくり話し合う必要がある。
俺は金の入ったセカンドバッグを小脇に抱えてイゼルの後を追った。
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