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第三章 どきどきイベント編

①平和な休日は突然に。

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「よし、これで大丈夫だ」

「う…ぅん、ありがと……」

 俺はお礼を言ったがとても動ける状態ではなく、もぞもぞと体を動かして下半身に集まる熱を散らそうと必死だった。

「おー、終わったか?」

 カーテンに人影が映ってすぐに、シャーッと音を立ててカーテンは遠慮なく開けられた。

「印が濃くなったな。問題なく入ったようだ」

 何やらよく分からない定規のような器具を手にしてベッドに近づいてきたのはファビアン先生だ。
 俺のお尻についた印に器具を当てて測ってから、メモを取っている。
 最中もアレだが、この瞬間も恥ずかしくてたまらない。

「ひと月、週一回行ってきたが、印が薄くなる時間が伸びてきている。少し間隔を空けてみよう。具体的な数値を知りたい。上手く行けば、継続していくことで長期的に維持されるかもしれない」

「はい……」

 荒くなった息を気づかれないように、俺は何とか普通に返事をした。
 保健室に通うようになり、初回だけは力を込める様子をファビアン先生に見られたが、それ以降は仕切りのついたベッドでカーテンを閉めてもらっている。
 俺が恥ずかしくないようにと、イグニスが提案してくれた。
 最終的な状態だけチェックされるが、最中が見られないのでかなり気が楽になった。
 お尻を揉まれて快感に耐える行為だけは慣れることがないのだが……。

「……少しテラと話がある。イグニスは外してくれ」

「は? なんでだ?」

「イグニス、大丈夫だよ」

 治療とはいえ、俺とファビアン先生と二人きりにすることをイグニスはあまり好まないようだ。
 いつも俺を後ろにして話をする状態が、なんだか守られているみたいで嬉しいが、今は少し離れて欲しかった。
 何かあったら呼んでくれと言って、イグニスは保健室から出て行った。

「今のうちに服を直せ。そこのトイレを使ってもいいぞ」

「す…すみません」

 二人きりになると、ファビアン先生はカーテンを引いて目隠しをしてくれた。
 その隙にうつ伏せから起き上がった俺は、大きくなったソレをズボンの中に押し込めた。
 その感触だけでも声が漏れそうになる。
 やはり、トイレを借りた方がよさそうだ。

「力をもらうのは強烈だろう。向こうは何ともないらしいが、受ける側はもともとある人間だって、狂いそうになるくらいだ。わずかに注がれているだけでも、全くないお前にどれほどか想像したくもないね」

「……先生は……あるんですか?」

「少年兵だった頃、落馬してたまたま運良く力持ちの人に助けられた。……忘れられない体験だったよ。そのせいで医学と研究の道に進んだのもある」

「そう…なんですね」

「テラが好きなのはイグニスだろう」

 まさかバレてしまったと驚いて息を吸い込んだ。慌てて声が出ないように手を口に当てた。

「だだ漏れだ。だが、アイツは気がついてなさそうだな。三兄弟の中でもこういうことに一番疎そうだし、力持ちは庇護欲が強いからその辺り錯覚してまだ自覚が薄いのかもしれない」

「イグニスは……実は優しい、……そういうやつですから」

「んー……、お前もまたアレだな……。色々大変そうな二人だが、研究対象でもあるし、俺は応援しているぞ。お前達が仲良くなったらまた違う方法も……あ、いやなんでもない」

 最後の方はよく分からないことを言いながら、会議があるから好きに使ってくれと言って、ファビアン先生は出て行った。
 俺はもぞもぞと動き出してトイレを借りた。
 毎回終わった後は、理由をつけてトイレに行って、昂った状態を一人で慰めている。


「……ンっ……」

 個室に入ったらすぐに欲望に手を這わせた。ズボンを脱いで下着から取り出せば、反り返るほど張り詰めていて、少し擦っただけで終わりそうだった。

 力を込められることが快感につながるというのは教えてもらったが、俺の場合そこに気持ちが伴っているのでタチが悪い。
 イグニスはひたすら優しく尻をさすってくれる。その度に漏れそうになる声を抑えるのに毎回必死だった。

 イグニスはこの行為についてどう思っているのだろう。可哀想な友人を助けている、それくらいの気持ちなのかもしれない。
 あのキスだって、イグニスにとってはきっと……。
 あれからクラスの方も忙しくなり、二人きりになる機会がなかなかない。
 気持ちを飲み込むと決めたからには、あのキスについて、触れることもできない。

 こうやって慰めている時に思い浮かべるのはイグニスのことだ。
 彼ならどうやって触れてくれるか、それをずっと考えながら擦っている。
 大きな手で包んで優しく指を動かして、優しいだけじゃない、時には激しく……。

「あ…あ……ぅぅ……はぁ……もう……」

 後ろからイグニスに抱かれているところを想像する。吐息を耳に感じて、耳を舐められる。テラ、上手だと褒めてくれる、そして…そして…イっていいよと……

「ああ…あっ……ンンっ…!!」

 手の中に勢いよく放った。
 指の間から溢れたものがぽたりぽたりと垂れて、床に落ちていった。

「はぁはぁ…はぁ……」

 達した後の気だるさが虚しい。
 頭を壁に押し付けて、小さく名前を呼んだ。
 呼んでくれと言われた。
 だからここに来てくれたらいいのにと、俺は都合のいい妄想をして、壁にもたれたまま目を閉じた。








 のんびりした休日の午後。
 母親に誘われて庭でお茶をしていたら、自然と学院のクラスについての話題になった。

「それじゃクラスの派閥はほぼ壊滅状態になったのね」

「うん、イグニスもノーベンも仲良くなったし、これ以上間を裂こうなんてやつはいなくなったよ」

「やるじゃないテラ、私、派閥とかそういうの大嫌い。どんどん壊しちゃって」

「ハハッ…俺は何もしてないって」

 男爵夫人らしからぬ発言で手を振り回して興奮している母を見て、おかしくて笑ってしまった。
 このところ悶々とした気分だったので、母と話すことで気持ちが晴れていくのを感じていた。
 クラス内は騒動からひと月を過ぎて、やっと混乱が収まったところだ。
 ノーベンの人形を盗んだ者達は全員無期限の出席停止、解除になるのは早くても次の学年になってからで、そうなれば彼らは一年からやり直すのではと言われている。

 イグニスはノーベンと争わないことを宣言して、それに伴いイグニスを支持していた者達は行き場を失い、ほぼディセルの支持者に流れていった。
 ディセルはこの件に関して何も反応せず、傍観という姿勢をとっている。

「ディセル様は分からないけど、お二人はラギアゾフ家を継ぐつもりはないのかしらね」

「……分からない。それに関しては、誰一人口にしないから……」

 ゲーム内で三兄弟が次期当主の座を狙って争うのは、主人公の意向が入りまくりの展開なのだ。

 主人公は当主になる男を求める。主人公を手に入れるために、当主の座を奪うという流れになっている。
 そういう意味ではまだ主人公が登場していないから、三人にそこまでの欲が現れていないのかもしれない。

「人に好かれるのはテラのいいところよ。私はね、どんなトゲトゲしたものも、テラなら丸くできる、そう思っているのよ」

「ふふふっ、なにそれ。俺、刺抜きみたいじゃん。そっか、それなりに便利ってことか」

「いい子に育ったわね。これなら、どこへお嫁に出しても恥ずかしくないわ」

 母の台詞がなんだか意味深で、俺はぱちぱちと目を瞬かせた。
 ふわりとして可愛らしい人だが、その微笑みに何か含まれているような気がして、じっと瞳の奥を覗き込んだ。

 その時、ガタガタと馬車の音がして、母は遅かったわねとこぼした。
 まだ早い時間だというのに家の前に馬車が止まり、父親の帰宅が知らされた。
 遅いというほどではない、早すぎる帰宅に俺は首を傾げた。

「いやすまない、なかなかサインしないやつで時間がかかってしまった。まだ大丈夫だろう」

 仕事帰りだと思うが。父親は汗を流していて、ハンカチで禿げ上がった頭をペタペタと拭きながら走ってきた。

「ええ、まだ余裕はありますわよ。さぁ、テラを着替えさせたら出発しましょう」

「は? え? どこに行くの?」

 父親と母親に同時に背中を押されて、椅子から立たされた。
 今日は空けておいてくれと母から言われていたが、他に何も言われなかったので特に予定はないのだと思っていた。

 突然着替えろと言われて家の中へ連れて行かれた。

「言っていただろう。見合いだ」

「ごめんねぇ、テラ。恥ずかしがり屋ちゃんだから、絶対嫌がると思って当日まで秘密にしていたの。さ、可愛らしく着飾って行きましょう」

「えーーーー! あれ、本気だったの!?」

 顎が外れそうなくらい、口を開けて驚いたら、父親に当たり前だろうと背中を叩かれた。

「え!? あの、だって…俺……」

「なんだ? ご兄弟達の誰かとお付き合いでもしているのか?」

「そっ…それは…ないけど……」

「だったらいいじゃない! きっと素敵な殿方がいるわよ。試しに会ってみるだけいいじゃない」

「言っておくが当日に断ることなんてできないからな。ほら、早く支度しろ」

 絶対この作戦でいこうと父と母で策を練ったはずだ。ドタキャンしたら大変なことになるからと、逃げられないように秘密にされていたのだ。

「嘘ぉ……嘘だろう…」

 部屋の中に用意されていた服を見て、また頭がクラリとして倒れそうになった。

 一体どうなるのか。
 なんの準備もできない状態で、舞台に引っ張り出される気分だ。
 麗かな日差しを浴びて、途方に暮れた俺は、逃げ道を探して辺りを見回した。







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