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本編
4 黄色い糸
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お前達さえいなければ、義母はそんな子守唄を歌いながら俺達を育てた。
本当の母は俺達を産んですぐに亡くなった。貴族であった父には次の縁談が用意され、新しい母親がやって来た。
義母は子供が嫌いな人だった。話しかければ嫌な顔をされ、触ろうとしたら手を叩かれた。
父は仕事人間で家庭を顧みない人だった。後妻に来ても相手にされることなく、冷たくされた義母は怒りの矛先を俺達にあてた。
実母のことは顔すら知らないが、どうやら顔は母似らしく、義母はその事も気に入らなかったようだ。
父の前であからさまに苛めることはなかったが、父のいないところでは、毎日のようにひどい言葉を浴びせられて、歯向かえばすぐに叩かれた。
父にも必死に訴えたが、面倒事が嫌いな父は仕事が忙しいと言って聞いてくれなかった。もともと距離があったが、その事で父とはもっと遠くなってしまった。父はますます仕事に逃げて帰らなくなった。
義母を止められる人はいなかった。乳母や使用人には、俺達に冷たく当たるように仕向けて無理矢理従わせた。俺達は二人で肩を寄せ合い、義母の執拗な苛めに耐えて生きてきた。
凍えるような寒い夜、窓の開け放たれた冷たい部屋に閉じ込められて二人で抱き合って体を温めた夜もある。
いつか二人でこの家を出て生きていこうと願いながら耐えてきた。
それなりに体が大きくなると、俺達は美貌の双子として貴族の間でもてはやされるようになった。
それが気に入らなかったのか、義母の闇はついに一線を越えてしまった。その事に俺はしばらく気づくことができなかった。
ある夜、寝苦しくて起きた俺は、隣に寝ているはずのミランがいないことに気がついた。
トイレに行ったのかと思って部屋を出ると、廊下の隅で泣いているミランの姿を見つけた。
ミランは裸でなにも身につけていなかった。
驚いて近づいていき声をかけると、顔を上げたミランの目は真っ赤だった。そして俺の目を見ていったのだ。
僕は汚れてしまったのだと。
「お帰りなさい。今日は帰りが早いんですね」
帰宅して自分の部屋に行こうと廊下を歩いていたら、背中に声をかけられた。
振り返るとユーリが立っていた。
「ああ、しばらく重役が集まっての会議が続いたが、重要な案件は決まったからこれでやっと落ち着いたよ」
「お帰りがしばらく遅かったから……、体が心配だったんです。良かった、今日はゆっくり休んでください」
ユーリは目を細めて微笑んだ。その微笑みに匂い立つような色気を感じて、思わずむせそうになった。
確かに帰りは深夜で家を空けることも多かったが、少し見ない間にユーリは艶やかに色づいて、色味のないこの家に咲く美しい花になっていた。
それがミランのせいだということは明白で、ジリっと胸が焦げるような気持ちになった。
この屋敷に来たばかりの頃、モジャモジャの頭で骨と皮ばかりで痩せ細ったユーリは見れたものではなかった。
確かにそれなりに髪を整えたら、光るものがあったが、触れたらすぐに壊れてしまいそうで恐ろしくてとてもでないが、触ることなどできなかった。
それがこの家に来て半年、もはや別人かと思うくらいの変貌を遂げていた。
彼がこの家に来たのは、ミランが探していた世話係として採用されたからだ。
もともとは子爵家の令息だったが、両親が死んだことで叔父が爵位を継ぎ、ユーリは家から出されて田舎の教会追いやられた。
不遇の子供時代を過ごして、成長してからもまた、叔父のいいように使われて金をむしり取られていた。
なぜそこまで従うのかといえば、妹ジュリアの存在があるからだ。
ジュリアは今、寄宿学校に入っているが、ジュリアを脅しの材料に使われて、ユーリはすっかり子爵の言いなりだったのだ。
子爵が金に困ってるのは確かだったが、妹のためとはいえ、そこまで自分を犠牲にするユーリが初めは理解できなかった。
世話係としてこの家に来た人間は何人もいる。ミランは女が抱けないので、男に限られたが、内容は世間的に日の当たるような仕事ではない。
簡単に言えば、俺達兄弟の性欲処理係りだ。
俺はもともと世話係に手を出すことはなく、三人でする時だけ参加する程度だった。
三人でするという行為には特別な思いがあった。俺とミランは愛し合っている。それは、肉体的な愛の行為というより、精神的な愛情に近い。しかし、肉体的に二人で繋がることは不可能なので、第三者を介することで肉体的にも精神的にも満たされていたのだ。
しかし、他人にこの気持ちは理解できないものである。高い賃金目当てでここに来ても、ほとんどの人間が、反抗的になったり、ひどい態度を取るようになって、すぐに解雇することが続いた。
半ば諦めてしばらくやめようと言っていたときユーリの話が来たのだ。
ユーリは真っ白なキャンバスみたいな人間だった。
疑うことを知らず、不遇の環境でも黒い色に染まることもなく、そのままで眩しいくらい白く育っていた。
最初は大人しくて静かすぎるくらいだったが、徐々に屋敷の使用人達とも打ち解けて可愛がられるようになった。
骨と皮だった頬に肉がついて、肌のツヤがでて血色が良くなった。
青い空の下、歌いながら楽しそうにシーツを干す姿を見て、演劇のスターのように輝いて見えて不覚にも見惚れてしまった。
思わず声をかけると、驚いたように目を開いた顔もまた美しかった。頬が薔薇色に染まっていたので、思わず触りたくなって指でつかんだらあまりの柔らかさに、そのまま食べてしまいたい気持ちになった。
初めて三人で交わったとき、味わったことのない快感を感じた。ユーリの中に自分のものを解き放ち、果てしない快感に震えた。それは真っ白だったユーリを俺達の色に染めた瞬間だった。忘れられない、忘れることができない快感だった。
「これが今週届いた分です。すでに内容ごとにまとめて、招待状の関係は日程表に記してあります」
暇そうにしていたユーリに、手紙の整理を頼むと喜んで引き受けたので、それ以来担当させている。いつもは執務室に置かせているが、今日は就寝前に俺の部屋まで持ってくるように頼んだ。
「眠る前に目を通しておきたかったんだ。ありがとう、助かったよ」
俺が礼を言うと、何か言いたげな目線をユーリは送ってきた。これは聞いて欲しいのかと理解して、なんだと声をかけた。
「あ……あの。最近、レモリア様からの手紙がなくて……、ちょっと気になったものですから……」
「…………返事を書けと言ったのは、どこのどいつだ?」
「え……」
「いい返事は書けなかったが、丁寧に断りの手紙を書いた。その後、パーティーで一度会ったが、断ってくれたからやっと諦めがついたと言われたよ。…………たまには人の意見を参考にするのも悪くないということが分かった」
俺の言葉を理解したのか、ユーリは嬉しさを隠せないような表情になって頬を赤く染めた。あまりの可愛らしさに、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……お前の妹はそんなに返事を書いてくれなかったのか?」
俺が妹の話をすると、とたんにユーリの顔は曇ってしまった。そして、どこか遠くを見るような目になって寂しそうな横顔を俺に見せた。
「以前、ミラン様が俺がいた田舎のことで、俺は暇があればいつも教会の外を見ていたって話を聞かれましたよね」
「ああ、外の世界に憧れでもあるのかと思ったが…………」
俺がそう言うと、ユーリは小さく首を振った。
「……郵便受けを見ていたんです。毎日、いつそこに手紙が届いてもすぐに見に行けるように。俺は毎月手紙を送っていたけど、ジュリアからの手紙は年に一度届けられるかどうか…………」
「ユーリ……それは…………」
「それでも……それでも嬉しかったんです。ジュリアは俺の希望で……、俺にはジュリアしかいなくて……だから毎日、手紙が来なくても、毎日俺は…………」
肩を震わせてその頃の寂しさを思い出すように悲しげに目を伏せたユーリを見て、たまらなくなって俺は細い体を強く抱きしめた。
「もういい!もう、思い出すな!」
震える体を抱きしめて、安心させるように背中を撫でたら、ユーリの震えは徐々に収まってきた。
「……そんなに手紙が欲しければ、俺に出せ」
「え……?シオン様に?」
「雰囲気を出したいなら、ジェイドを配達員にして渡しておけ。必ず返事を書くから」
なんとか慰めたくて、かっこつけたことを言ってしまったと恥ずかしくなったが、ユーリは喜んでくれたらしく、俺の服を掴んでぎゅっと抱き返してきた。
「嬉しい……。俺、嬉しいです。シオン様、ありがとうございます」
俺の間近で目を潤ませながらユーリはまた微笑んだ。抱き合ったままそんな顔を見て、とても冷静ではいられなかった。
俺は吸い寄せられるように、ユーリの唇を奪った。気がついたら無我夢中に舌を絡ませて、食らいつくように角度を変えて口内の奥まで舌を入れて舐め尽くした。
「はぁ……あ……んんっ……シオン……さ……ま」
すでに硬くなったモノをユーリに押し付けると、ユーリもまた熱が上がったように腰を揺らして感じていた。
「ユーリ、なんて可愛いんだ……早く、ユーリが欲しい」
性急にズボンの中に手を入れて、ユーリの後ろを触ると、そこは毎日ミランを受け入れているからか柔らかく、俺の指を簡単に飲み込んでしまった。
「……くそっ……こんなに柔らかくして……、これなら慣らさなくてもすぐに飲み込んでしまうな……。全く……こんなに悔しくなるなんて……とんだ計算違いだ」
「……すみません、そこ……触られると……、俺もう……だめに……なっちゃう……」
「くっ……ユーリ……」
獣のようにユーリに覆い被さって、ベッドへ押し倒した。
息も許さないくらい激しく唇を奪いながら、シャツを引きちぎってユーリの白い肌を月明かりの下にさらした。
そこには所有印のように赤い印が点々とついていた。それを見たらよけいに頭に熱が上がってしまった。
「ミランにこんなにたくさん付けられて……、気に入らないな……」
ミランの印を塗り替えるように自分の痕を残していく。真っ赤に染まっていく白い肌は扇情的で最高に美しい眺めだった。
「あっ……あっ……、そんなに……吸っちゃ……ああっ……」
「ここも……ここも……全部俺の…………」
その続きが口から出そうになって、俺はハッとして手を止めた。今まで人にこんな独占欲を持ったことなどなかった。
特別な繋がりで結ばれた俺達の前に、舞い降りてきた黒髪の天使。
今まで築いてきたものも守ってきたものも全て変えられてしまいそうで、小さな恐怖が先に進むことを躊躇ったのだ。
「…………シオン」
熱に浮かされたような目をしたユーリが俺のことを見ていた。そして細くて白い手を伸ばしてきて俺の頬に触れた。
「…………きて」
少し掠れた艶かしい声だった。
俺と目が合ったユーリは、赤く色づいた顔で微笑んだ。
俺の体を縛っていた鎖がブチリと音を立てて千切れて、小さな恐怖ごと弾け飛んだ。
俺の頭はユーリに楔を打ち込むことしか考えられなくなった。全身から滾る熱をぶつけるようにユーリに食らいついたのだった。
「ユーリ……ユーリ……俺が欲しいか?」
「んっ……ほし……シオ……」
激しく腰を打ち付けて何度目かわからない精をユーリの中に放つと、ユーリもまた声にならない声を上げて身を震わせた。
すでに意識を保つことが困難で、ユーリはぐったりとシーツの上に身を預けるように落ちてしまった。
「…………ユーリ」
「んっ…………」
「…………俺が人殺しでも………ユーリは………俺を…………」
こんな時に何を言っているのだと冷静な自分がいたが、どうしても認めてもらいたくて口から溢れるように出てしまった。
すでに意識がないと思われたユーリの頭を、バカなことを口にしたと苦笑しながら撫でた。
これは俺達の兄弟の秘密だ。
誰にも知られてはいけない秘密。
ずっと俺の中で抱え込んで、自分の中の怪物の存在と戦ってきた。ミラン以外の前で口にすることなどありえなかった。
小さくため息をついてから、ユーリの体を拭こうと立ち上がろうとすると、寝ているはずのユーリが、何やら寝言をもごもごと言い出した。
「……オン……シオン…………ほし……い」
「ははっ……ユーリ、欲しがりだな……。もう終わったよ。このまま寝ていいから…………」
どんな夢を見ているのかとおかしくなって、少し笑いながらユーリの頭をまた撫でた。
「っ……どんなシオンでも欲しい」
突然ハッキリとそう聞こえた。心臓がドキリと揺れて、ユーリの頭を撫でていた手はピタリと止まり、俺は恐る恐るユーリを見下ろした。
まさか起きていたのかと驚きながらじっと様子を見たが、ユーリは寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ていた。
「お前は……いったい……」
開きかけて慌てて閉めようとしたドアを、ユーリは無意識にこじ開けてきた。
そして、俺の中の怪物に遠慮なく触れられた。
自分が築いてきたものが侵食されていく恐怖と、さらけ出した自分を初めて受け入れられたようで俺の頭は混乱して目が眩みそうになった。
「ユーリ…………」
俺の横で安心したのように眠る、細くて柔らかい体を抱きしめた。体の中から湧き上がってくる熱が苦しくて息が荒くなった。
気持ちが溢れてきて、このまま壊してしまいそうだった。
□□
「…………え?お客様?俺にですか?」
「ええ、アークウェント子爵です」
ジェイドからその名前を聞いて、わずかに膨らんだ期待が脆くも崩れた。
会いに来る人間など、叔父以外にいないことくらい分かりきっていたのに、淡い期待を抱いた自分に腹が立った。
今日は朝からミランもシオンも仕事で出ていて、帰りは遅いと聞いていた。
久しぶりにぽっかりと一人の時間になって、気が楽だと思ったが、思ったより寂しくなって部屋にこもっていたのだ。
ここに来て半年ほど経つが、久々に会った叔父は相変わらずで、客室のソファーにふんぞり返って、俺を見て嫌そうに顔をしかめた。
「ずいぶんと女みたいな顔になったな……。前から気味が悪いやつだと思っていたが、もっとひどくなった」
「…………叔父さんも相変わらずですね。俺にそんな文句を言いに来たんですか?」
「ああ、上手くやっているならいいんだ。金は今まで通り回してくれればいい。それより、この屋敷から自由に出入りできるのか?」
珍しく叔父が俺の仕事の賃金以外での待遇について質問してきた。何を考えているのか分からなくて探るように叔父の瞳を覗いた。
「ええ、お二人がいない時は自由ですけど……。そもそも、俺に行くところなんてありませんし……」
「そうか、それならいい。お前に伝えておくことがある。ジュリアの婚約が決まった。相手はグラール伯爵家のミケイド様だ」
「え………。こっ……婚約ですか!?」
突然そんな話を聞かされて驚きで心臓がばくばくと鳴り出した。喜ぶべきことなのだろうと、騒ぐ胸を押さえながらなんとか落ち着こうとした。
そんな俺を面倒くさそうな目で見ながら、叔父は机の上に茶色い封筒を置いた。
「ジュリアからの手紙だ。俺は帰るから、一人で見てくれ」
そう言い残して、忙しいのか叔父はあっという間に屋敷から帰っていってしまった。
「……ジュリア」
久々の便りが嬉しくて、封筒を持つ手が震えた。十六歳になったジュリアはもう婚約をする年齢になったのだ。思い出すのは可憐に笑う六歳の時のジュリアで、俺の記憶はずっとそこで止まっていた。
はやる気持ちを抑えながら、封筒に手をかけたのだった。
□□
月明かりに照らされた窓辺で外を眺めていたら、カチャリとドアが開けられる音がした。
「あっ、やっぱり起きている」
ドアから顔を覗かせたのは雰囲気からミランに見えた。
「早くにベッドに入ったと聞いていたが、こんな時間までそこに座っていたのか?」
ミランの横から同じ顔が出てきた。こんな時間までと言いつつ、二人こそずっと働いていたのだから疲れているだろう。
「……すみません、少し眠れなくて……」
「夕食を食べなかったんだって?体調が悪いの?」
「いえ……大丈夫です」
曖昧に笑って見せたが二人の目はそんなものではごまかされなかった。
「昼間、子爵が来たらしいな。何かあったのか?まったく俺達の留守中に来るとは……、今度は事前に約束を取ってもらうように連絡しよう」
いつの間にか隣に来ていたミランに慰められるように背中を撫でられた。そしたら、我慢していたものがこぼれ落ちてしまいそうで急いで目を伏せた。
「叔父は……いつも通りでしたが、ジュリアから……手紙が……」
「ユーリ!良かったね。ずっと待っていたんでしょう!」
明るいミランの言葉が突き刺さるように痛かった。今度は笑うこともできなかった。
「…………手紙、見せてくれる?」
俺の落ち込んだ気配を察知したのか、ミランにそう言われたので俺は机の上を指差した。
机の上に置かれた茶封筒をシオンが手にとって中身を読み出した。
¨ユーリお兄様
お久しぶりです。
毎月のようにお手紙をいただいて、お返事ができず申し訳ありません。
私は相変わらずノールの寄宿学校で学業に忙しくしております。
この度、叔父様から良きご縁をいただいて、グラール伯爵家のミケイド様との婚約が決まりました。
お兄様は今、ミルズで働いていると聞きました。大変申し訳ないのですが、私は週末ミルズの家に帰り、ミケイド様と過ごすことが多いので、どうか家には近寄らないでください。
言いにくいのですが、田舎で遊び暮らして、今の仕事もとても世間には言えないようなものと聞きました。そのような方が兄であるとミケイド様に知れてしまっては破談になりかねないのです。
私には私の人生があります。
どうか、お許しください。
もうお手紙は送らないでください。
どうかお幸せに。
ジュリア¨
「なんだよそれ!誰のためにユーリはここまで……!」
内容を知ったミランは机を叩いて激昂した。何がお許しくださいだってと、手紙を破り捨てそうな勢いだった。
「……落ち着けミラン。ジュリアの相手のグラール家は最近事業が成功してかなりの勢いで資産を築いている。あの子爵のことだ、金目当てでジュリアを使うことにしたんだろう。その手紙も子爵が結婚を邪魔されたら困ると思って別の人間に代筆させたのかもしれない」
「…………そういえば叔父は、俺が自由に屋敷を出入りできるのか聞いてきました。代筆か……確かに、そうであってくれたら。…………でも、筆跡は今までの手紙と同じです」
「脅して書かせたんじゃないの?それくらいやりそうな男だ」
真っ暗な闇に落とされて、悲しみの中を漂っていたところを、ミランとシオンが上から光を照らしてくれたみたいだった。
二人はやはり、俺の天使だと思った。
「……ありがとうございます。俺……俺、もう、訳分かんなくなちゃって……。ジュリアに……ジュリアにいらないって言われたらもう……なんのために生きているのか…………」
情けないことにぼろぼろ泣いてしまった俺の腕をガシッとミランが掴んだ。いつもひたすら優しい彼にしては珍しいほどの強さだった。
「バカ!ユーリは自分のことを考えなさすぎだよ!ジュリアとかどうでもいい!自分のために生きるんだ!ユーリが幸せになるんだよ!俺が……俺がユーリを守るから!」
「…………ミラン様」
「約束してくれ自分を傷つけるのだけはやめるんだ。困ったことがあれば、俺達はいつでも力になるから」
「シオン様…………。分かりました。でも、お二人は……俺のこと……どうしてそこまで…………」
こんな夜中に俺の様子が違うからと見に来てくれて、話を聞いた上に励ましてくれた。考えれば二人はいつも俺を優しさで包んでくれた。雇用関係の上に成り立っているものだと、期待したらいけないと胸に言い聞かせてきたが、どう考えても仕事を超えているような気がしたのだ。
「確かに……、初めは仕事で結び付いた関係だけど……、ユーリはもう俺にとっては家族だよ。ユーリと離れるなんて俺は……いやだ」
ミランが俺にしがみつくように抱きしめてきた。家族という言葉が聞こえてきて、俺の体は痺れたように固まった。
「俺だってもうユーリはただの世話係ではない。大切に思っている」
反対側から近づいてきたシオンが俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
二人の言葉に堪えていた思いが堰を切ったように涙となって流れでた。
子供のように大きな声をだしてしゃくり上げて泣いてしまった俺をシオンも抱きしめてくれた。
二人に同時に抱きしめられたら、凍りついていた心は一気に温められて湯気まで出てきそうだった。
「……ユーリ、今日は三人で寝よう。俺が子守唄を歌ってあげる」
ミランがそう言って俺のおでこにキスをしてくれた。体も心も温められて、俺はこのまま溶けてしまいたいと思った。
「あぁ!でも俺、子守唄なんて知らないんだった!シオン……」
「俺だって知るか」
俺の部屋のベッドは三人寝るとぎゅうぎゅうで、ほとんど身動きが取れないのに、なぜかここで寝ることになって、俺を挟んで二人で横から寝ながら抱きしめてきた。
「なんだ……二人とも知らないんですか。じゃあ、俺が歌おうかな」
提案しておいて知らないというミランがおかしくて、俺はクスクス笑いながら自分から歌うと言った。昔は歌うことが好きだった。あんなことがあってから、すっかり忘れてしまったけれど。
「ああ、ユーリは歌が上手かったんだったな。これはよく眠れそうだ」
「え!?俺……いつ歌っていました?全然そんなことした記憶が……」
「なら無意識か。あれは素晴らしかった」
「ずっ……ずるい!!なんでシオンだけ聞いてるんだよ!ほとんどいないくせに!ユーリ!俺にも俺にも!今度は俺にだけ聞かせて!」
ぐりぐり頭を押し付けながら子守唄をねだるミランが可愛くて俺は笑ってしまった。
さっきまでいた暗闇は、もう思い出すこともできない。二人の間で温められて、俺はこれが幸せなのだと初めて気がついた。
結局はその晩、何度も歌わされて疲れきった後、気がついたら三人で寝ていた。
翌朝、寝坊したと言いながら、バタバタと出掛けていく二人の姿を微笑みながら見送ったのだった。
□□
その日は朝から雨が降っていた。
ポタポタと落ちる雨の音でいつもより早く目が覚めてしまった。
寒さを感じて隣を見ると、一緒に寝ていたはずの二人の姿がなかった。
昨日の夜は久々に三人で交わった。二人でする時よりも深い快感と満たされる感覚がある。何より二人に求められると、俺の体はすぐに熱くなってぐずぐずにとろけてしまう。
明け方まで交じり合って最後が記憶にない。体力のない俺はまた途中で寝てしまったらしい。
体は疲れているはずなのに、ベッドの中で温もりに慣れてしまって、それがないと眠りが浅くなってしまうのかもしれない。
ずいぶんと贅沢な体になったなとため息をついた。
まだ早朝で、屋敷の中はとても静かだ。こんなに早く二人で仕事なのかと俺はベッドを抜け出して、ペタペタと裸足で廊下を歩いた。
シオンの執務室から話し声が聞こえてきて、そこかと俺は嬉しくなりながら近づいた。
もう起きてきたのかと微笑む二人の姿を想像していた。
しかし、少し開いたドアから漏れ聞こえてきた声に、ノックをしようとした俺の手は止まった。
「それじゃあ、ユーリを解雇するってこと」
「まぁ、そうだな……。いつまでもこのまま、というわけにはいかないだろう」
「まぁ、そうだよね……」
ずっと恐れてたことがついに起きてしまった。
俺を家族だと言ってくれた。雇用関係を超えて大切にしてくれているのだと夢を見ていた。
けれどついに俺は解雇され、この楽園から追い出されることになるのだ。
「今日の夜にでもユーリに言うつもりだ」
「ユーリ、びっくりするかな。でもこれはずっと考えていたことだからね」
足が震えてきて力が入らなくなり、このまま倒れてしまいそうだった。今夜別れを言い渡される。驚くどころか、悲しくて心が壊れてしまいそうだった。
二人の話は続いていたが、頭が混乱して上手く聞き取ることも出来なかった。そんな俺の頭に、ミランの声が聞こえてきた。
「俺達は二人で一つだから…………」
他の言葉はよく聞こえなかったが、その言葉だけが直接頭の中に響いてきた。
それはかつて俺を大きな愛で包んでくれていたはずの人が言っていた言葉と同じだった。
その人は俺を置いて逝ってしまった。
俺はまた置いていかれるのだ。
¨ユーリ、私達は二人で一つなのよ。だからあの人の元へいくわ。ジュリアをよろしく、幸せになってね¨
母の声が聞こえた。
橋の欄干に座りながら、母は最後にそう言って笑った。
じりじりと後退りして、俺はその場から駆け出した。
俺にとっては捨てられるのと置いていかれるのは同じこと。そんなことをもう二度と経験したくなかった。
急いで着替えて荷物をまとめた。
いつだったかシオンから自分に手紙を書けと言われて慰めてもらったことを思い出した。
シオンに初めて書く手紙が、別れの言葉なんて悲しすぎた。
今までありがとうございましたとだけ書いて机の上に残した。
まだ早朝の屋敷の中、誰一人と会うことはなく、裏口からそっと抜け出した。
小雨が降っていたがそんなことは気にならなかった。厚手のコートの前を閉めて俺は歩きだした。
どこへ行くかはもう決まっている。
今日は週末だからきっと会えるはずだ。心はもう壊れていて、ほとんど使い物にならないけれど、一目だけ、遠くからだけでもジュリアの姿が見たかった。
雨は降ったり止んだりを繰り返していた。
俺はジュリアがいると思われる、今は叔父の屋敷で、かつての自分の家に向かった。
辻馬車も使ってやっとたどり着いた屋敷は、記憶にあるものとはあまり変わらなかった。
遠くから見ていても人の気配がないので、俺はフラフラと足を進めて玄関の前まで来てしまった。
すると同じタイミングで、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
中から出てきたのは、ピンク色のドレスを着て栗色の長い髪を可愛らしく横に結んだ女の子だった。女の子と言っても子供ではなく、すでに大人の女性と言ってもいい年頃で、その顔は何度も夢で想像した通りだった。
「……あら?どなた?すごく濡れていらっしゃるけど……大丈夫?」
「…………ア」
「……え?」
髪と同じ栗色の瞳が大きく開かれた。それは彼女の警戒心を強く表していた。
「ジュリア……」
「ど……どなたなの?……なぜ私の名前を……」
「おっ……俺は、ユーリ。俺は君の……」
「なんだ?どうしたんだ?」
そこで、ジュリアの後ろから背の高い男性が現れた。怪しい男がいると感じたようで、ジュリアを庇うように背中にして前に出てきた。
「君は誰だ?何の用だ?」
「俺は……、ジュリアの兄で、ユーリと言います」
「は?何を言っているんだ君は?」
男はかなり怪しんだ目で俺を見てきた。突然押し掛けてきて動揺したにしても、いくらなんでも名前を言えばジュリアも気づいてくれると思っていた。
「ジュリア、あの男を知っているのか?」
男の後ろから顔を出したジュリアは、憐れなものでも見るような目で俺を見てきた。そしてその桃色の可愛らしい唇から残酷な言葉が紡ぎ出された。
「申し訳ございません。存じ上げませんわ。どこのどなたか……。ユーリなんてお名前も聞いたこともありません」
世界がまた真っ暗になった。
しばらく止んでいた小雨が降りだして、俺の肩を叩く小さな音がやけに耳に響いていた。
「嘘だ……う……そ……」
膝から地面に崩れ落ちて、震える手で何かを掴もうとしてけれど何も掴めなかった。
俺は独りではない。
ジュリアがいる、そう思って生きてきたけれど。
俺は本当に独りになってしまったのだった。
□□□
本当の母は俺達を産んですぐに亡くなった。貴族であった父には次の縁談が用意され、新しい母親がやって来た。
義母は子供が嫌いな人だった。話しかければ嫌な顔をされ、触ろうとしたら手を叩かれた。
父は仕事人間で家庭を顧みない人だった。後妻に来ても相手にされることなく、冷たくされた義母は怒りの矛先を俺達にあてた。
実母のことは顔すら知らないが、どうやら顔は母似らしく、義母はその事も気に入らなかったようだ。
父の前であからさまに苛めることはなかったが、父のいないところでは、毎日のようにひどい言葉を浴びせられて、歯向かえばすぐに叩かれた。
父にも必死に訴えたが、面倒事が嫌いな父は仕事が忙しいと言って聞いてくれなかった。もともと距離があったが、その事で父とはもっと遠くなってしまった。父はますます仕事に逃げて帰らなくなった。
義母を止められる人はいなかった。乳母や使用人には、俺達に冷たく当たるように仕向けて無理矢理従わせた。俺達は二人で肩を寄せ合い、義母の執拗な苛めに耐えて生きてきた。
凍えるような寒い夜、窓の開け放たれた冷たい部屋に閉じ込められて二人で抱き合って体を温めた夜もある。
いつか二人でこの家を出て生きていこうと願いながら耐えてきた。
それなりに体が大きくなると、俺達は美貌の双子として貴族の間でもてはやされるようになった。
それが気に入らなかったのか、義母の闇はついに一線を越えてしまった。その事に俺はしばらく気づくことができなかった。
ある夜、寝苦しくて起きた俺は、隣に寝ているはずのミランがいないことに気がついた。
トイレに行ったのかと思って部屋を出ると、廊下の隅で泣いているミランの姿を見つけた。
ミランは裸でなにも身につけていなかった。
驚いて近づいていき声をかけると、顔を上げたミランの目は真っ赤だった。そして俺の目を見ていったのだ。
僕は汚れてしまったのだと。
「お帰りなさい。今日は帰りが早いんですね」
帰宅して自分の部屋に行こうと廊下を歩いていたら、背中に声をかけられた。
振り返るとユーリが立っていた。
「ああ、しばらく重役が集まっての会議が続いたが、重要な案件は決まったからこれでやっと落ち着いたよ」
「お帰りがしばらく遅かったから……、体が心配だったんです。良かった、今日はゆっくり休んでください」
ユーリは目を細めて微笑んだ。その微笑みに匂い立つような色気を感じて、思わずむせそうになった。
確かに帰りは深夜で家を空けることも多かったが、少し見ない間にユーリは艶やかに色づいて、色味のないこの家に咲く美しい花になっていた。
それがミランのせいだということは明白で、ジリっと胸が焦げるような気持ちになった。
この屋敷に来たばかりの頃、モジャモジャの頭で骨と皮ばかりで痩せ細ったユーリは見れたものではなかった。
確かにそれなりに髪を整えたら、光るものがあったが、触れたらすぐに壊れてしまいそうで恐ろしくてとてもでないが、触ることなどできなかった。
それがこの家に来て半年、もはや別人かと思うくらいの変貌を遂げていた。
彼がこの家に来たのは、ミランが探していた世話係として採用されたからだ。
もともとは子爵家の令息だったが、両親が死んだことで叔父が爵位を継ぎ、ユーリは家から出されて田舎の教会追いやられた。
不遇の子供時代を過ごして、成長してからもまた、叔父のいいように使われて金をむしり取られていた。
なぜそこまで従うのかといえば、妹ジュリアの存在があるからだ。
ジュリアは今、寄宿学校に入っているが、ジュリアを脅しの材料に使われて、ユーリはすっかり子爵の言いなりだったのだ。
子爵が金に困ってるのは確かだったが、妹のためとはいえ、そこまで自分を犠牲にするユーリが初めは理解できなかった。
世話係としてこの家に来た人間は何人もいる。ミランは女が抱けないので、男に限られたが、内容は世間的に日の当たるような仕事ではない。
簡単に言えば、俺達兄弟の性欲処理係りだ。
俺はもともと世話係に手を出すことはなく、三人でする時だけ参加する程度だった。
三人でするという行為には特別な思いがあった。俺とミランは愛し合っている。それは、肉体的な愛の行為というより、精神的な愛情に近い。しかし、肉体的に二人で繋がることは不可能なので、第三者を介することで肉体的にも精神的にも満たされていたのだ。
しかし、他人にこの気持ちは理解できないものである。高い賃金目当てでここに来ても、ほとんどの人間が、反抗的になったり、ひどい態度を取るようになって、すぐに解雇することが続いた。
半ば諦めてしばらくやめようと言っていたときユーリの話が来たのだ。
ユーリは真っ白なキャンバスみたいな人間だった。
疑うことを知らず、不遇の環境でも黒い色に染まることもなく、そのままで眩しいくらい白く育っていた。
最初は大人しくて静かすぎるくらいだったが、徐々に屋敷の使用人達とも打ち解けて可愛がられるようになった。
骨と皮だった頬に肉がついて、肌のツヤがでて血色が良くなった。
青い空の下、歌いながら楽しそうにシーツを干す姿を見て、演劇のスターのように輝いて見えて不覚にも見惚れてしまった。
思わず声をかけると、驚いたように目を開いた顔もまた美しかった。頬が薔薇色に染まっていたので、思わず触りたくなって指でつかんだらあまりの柔らかさに、そのまま食べてしまいたい気持ちになった。
初めて三人で交わったとき、味わったことのない快感を感じた。ユーリの中に自分のものを解き放ち、果てしない快感に震えた。それは真っ白だったユーリを俺達の色に染めた瞬間だった。忘れられない、忘れることができない快感だった。
「これが今週届いた分です。すでに内容ごとにまとめて、招待状の関係は日程表に記してあります」
暇そうにしていたユーリに、手紙の整理を頼むと喜んで引き受けたので、それ以来担当させている。いつもは執務室に置かせているが、今日は就寝前に俺の部屋まで持ってくるように頼んだ。
「眠る前に目を通しておきたかったんだ。ありがとう、助かったよ」
俺が礼を言うと、何か言いたげな目線をユーリは送ってきた。これは聞いて欲しいのかと理解して、なんだと声をかけた。
「あ……あの。最近、レモリア様からの手紙がなくて……、ちょっと気になったものですから……」
「…………返事を書けと言ったのは、どこのどいつだ?」
「え……」
「いい返事は書けなかったが、丁寧に断りの手紙を書いた。その後、パーティーで一度会ったが、断ってくれたからやっと諦めがついたと言われたよ。…………たまには人の意見を参考にするのも悪くないということが分かった」
俺の言葉を理解したのか、ユーリは嬉しさを隠せないような表情になって頬を赤く染めた。あまりの可愛らしさに、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……お前の妹はそんなに返事を書いてくれなかったのか?」
俺が妹の話をすると、とたんにユーリの顔は曇ってしまった。そして、どこか遠くを見るような目になって寂しそうな横顔を俺に見せた。
「以前、ミラン様が俺がいた田舎のことで、俺は暇があればいつも教会の外を見ていたって話を聞かれましたよね」
「ああ、外の世界に憧れでもあるのかと思ったが…………」
俺がそう言うと、ユーリは小さく首を振った。
「……郵便受けを見ていたんです。毎日、いつそこに手紙が届いてもすぐに見に行けるように。俺は毎月手紙を送っていたけど、ジュリアからの手紙は年に一度届けられるかどうか…………」
「ユーリ……それは…………」
「それでも……それでも嬉しかったんです。ジュリアは俺の希望で……、俺にはジュリアしかいなくて……だから毎日、手紙が来なくても、毎日俺は…………」
肩を震わせてその頃の寂しさを思い出すように悲しげに目を伏せたユーリを見て、たまらなくなって俺は細い体を強く抱きしめた。
「もういい!もう、思い出すな!」
震える体を抱きしめて、安心させるように背中を撫でたら、ユーリの震えは徐々に収まってきた。
「……そんなに手紙が欲しければ、俺に出せ」
「え……?シオン様に?」
「雰囲気を出したいなら、ジェイドを配達員にして渡しておけ。必ず返事を書くから」
なんとか慰めたくて、かっこつけたことを言ってしまったと恥ずかしくなったが、ユーリは喜んでくれたらしく、俺の服を掴んでぎゅっと抱き返してきた。
「嬉しい……。俺、嬉しいです。シオン様、ありがとうございます」
俺の間近で目を潤ませながらユーリはまた微笑んだ。抱き合ったままそんな顔を見て、とても冷静ではいられなかった。
俺は吸い寄せられるように、ユーリの唇を奪った。気がついたら無我夢中に舌を絡ませて、食らいつくように角度を変えて口内の奥まで舌を入れて舐め尽くした。
「はぁ……あ……んんっ……シオン……さ……ま」
すでに硬くなったモノをユーリに押し付けると、ユーリもまた熱が上がったように腰を揺らして感じていた。
「ユーリ、なんて可愛いんだ……早く、ユーリが欲しい」
性急にズボンの中に手を入れて、ユーリの後ろを触ると、そこは毎日ミランを受け入れているからか柔らかく、俺の指を簡単に飲み込んでしまった。
「……くそっ……こんなに柔らかくして……、これなら慣らさなくてもすぐに飲み込んでしまうな……。全く……こんなに悔しくなるなんて……とんだ計算違いだ」
「……すみません、そこ……触られると……、俺もう……だめに……なっちゃう……」
「くっ……ユーリ……」
獣のようにユーリに覆い被さって、ベッドへ押し倒した。
息も許さないくらい激しく唇を奪いながら、シャツを引きちぎってユーリの白い肌を月明かりの下にさらした。
そこには所有印のように赤い印が点々とついていた。それを見たらよけいに頭に熱が上がってしまった。
「ミランにこんなにたくさん付けられて……、気に入らないな……」
ミランの印を塗り替えるように自分の痕を残していく。真っ赤に染まっていく白い肌は扇情的で最高に美しい眺めだった。
「あっ……あっ……、そんなに……吸っちゃ……ああっ……」
「ここも……ここも……全部俺の…………」
その続きが口から出そうになって、俺はハッとして手を止めた。今まで人にこんな独占欲を持ったことなどなかった。
特別な繋がりで結ばれた俺達の前に、舞い降りてきた黒髪の天使。
今まで築いてきたものも守ってきたものも全て変えられてしまいそうで、小さな恐怖が先に進むことを躊躇ったのだ。
「…………シオン」
熱に浮かされたような目をしたユーリが俺のことを見ていた。そして細くて白い手を伸ばしてきて俺の頬に触れた。
「…………きて」
少し掠れた艶かしい声だった。
俺と目が合ったユーリは、赤く色づいた顔で微笑んだ。
俺の体を縛っていた鎖がブチリと音を立てて千切れて、小さな恐怖ごと弾け飛んだ。
俺の頭はユーリに楔を打ち込むことしか考えられなくなった。全身から滾る熱をぶつけるようにユーリに食らいついたのだった。
「ユーリ……ユーリ……俺が欲しいか?」
「んっ……ほし……シオ……」
激しく腰を打ち付けて何度目かわからない精をユーリの中に放つと、ユーリもまた声にならない声を上げて身を震わせた。
すでに意識を保つことが困難で、ユーリはぐったりとシーツの上に身を預けるように落ちてしまった。
「…………ユーリ」
「んっ…………」
「…………俺が人殺しでも………ユーリは………俺を…………」
こんな時に何を言っているのだと冷静な自分がいたが、どうしても認めてもらいたくて口から溢れるように出てしまった。
すでに意識がないと思われたユーリの頭を、バカなことを口にしたと苦笑しながら撫でた。
これは俺達の兄弟の秘密だ。
誰にも知られてはいけない秘密。
ずっと俺の中で抱え込んで、自分の中の怪物の存在と戦ってきた。ミラン以外の前で口にすることなどありえなかった。
小さくため息をついてから、ユーリの体を拭こうと立ち上がろうとすると、寝ているはずのユーリが、何やら寝言をもごもごと言い出した。
「……オン……シオン…………ほし……い」
「ははっ……ユーリ、欲しがりだな……。もう終わったよ。このまま寝ていいから…………」
どんな夢を見ているのかとおかしくなって、少し笑いながらユーリの頭をまた撫でた。
「っ……どんなシオンでも欲しい」
突然ハッキリとそう聞こえた。心臓がドキリと揺れて、ユーリの頭を撫でていた手はピタリと止まり、俺は恐る恐るユーリを見下ろした。
まさか起きていたのかと驚きながらじっと様子を見たが、ユーリは寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ていた。
「お前は……いったい……」
開きかけて慌てて閉めようとしたドアを、ユーリは無意識にこじ開けてきた。
そして、俺の中の怪物に遠慮なく触れられた。
自分が築いてきたものが侵食されていく恐怖と、さらけ出した自分を初めて受け入れられたようで俺の頭は混乱して目が眩みそうになった。
「ユーリ…………」
俺の横で安心したのように眠る、細くて柔らかい体を抱きしめた。体の中から湧き上がってくる熱が苦しくて息が荒くなった。
気持ちが溢れてきて、このまま壊してしまいそうだった。
□□
「…………え?お客様?俺にですか?」
「ええ、アークウェント子爵です」
ジェイドからその名前を聞いて、わずかに膨らんだ期待が脆くも崩れた。
会いに来る人間など、叔父以外にいないことくらい分かりきっていたのに、淡い期待を抱いた自分に腹が立った。
今日は朝からミランもシオンも仕事で出ていて、帰りは遅いと聞いていた。
久しぶりにぽっかりと一人の時間になって、気が楽だと思ったが、思ったより寂しくなって部屋にこもっていたのだ。
ここに来て半年ほど経つが、久々に会った叔父は相変わらずで、客室のソファーにふんぞり返って、俺を見て嫌そうに顔をしかめた。
「ずいぶんと女みたいな顔になったな……。前から気味が悪いやつだと思っていたが、もっとひどくなった」
「…………叔父さんも相変わらずですね。俺にそんな文句を言いに来たんですか?」
「ああ、上手くやっているならいいんだ。金は今まで通り回してくれればいい。それより、この屋敷から自由に出入りできるのか?」
珍しく叔父が俺の仕事の賃金以外での待遇について質問してきた。何を考えているのか分からなくて探るように叔父の瞳を覗いた。
「ええ、お二人がいない時は自由ですけど……。そもそも、俺に行くところなんてありませんし……」
「そうか、それならいい。お前に伝えておくことがある。ジュリアの婚約が決まった。相手はグラール伯爵家のミケイド様だ」
「え………。こっ……婚約ですか!?」
突然そんな話を聞かされて驚きで心臓がばくばくと鳴り出した。喜ぶべきことなのだろうと、騒ぐ胸を押さえながらなんとか落ち着こうとした。
そんな俺を面倒くさそうな目で見ながら、叔父は机の上に茶色い封筒を置いた。
「ジュリアからの手紙だ。俺は帰るから、一人で見てくれ」
そう言い残して、忙しいのか叔父はあっという間に屋敷から帰っていってしまった。
「……ジュリア」
久々の便りが嬉しくて、封筒を持つ手が震えた。十六歳になったジュリアはもう婚約をする年齢になったのだ。思い出すのは可憐に笑う六歳の時のジュリアで、俺の記憶はずっとそこで止まっていた。
はやる気持ちを抑えながら、封筒に手をかけたのだった。
□□
月明かりに照らされた窓辺で外を眺めていたら、カチャリとドアが開けられる音がした。
「あっ、やっぱり起きている」
ドアから顔を覗かせたのは雰囲気からミランに見えた。
「早くにベッドに入ったと聞いていたが、こんな時間までそこに座っていたのか?」
ミランの横から同じ顔が出てきた。こんな時間までと言いつつ、二人こそずっと働いていたのだから疲れているだろう。
「……すみません、少し眠れなくて……」
「夕食を食べなかったんだって?体調が悪いの?」
「いえ……大丈夫です」
曖昧に笑って見せたが二人の目はそんなものではごまかされなかった。
「昼間、子爵が来たらしいな。何かあったのか?まったく俺達の留守中に来るとは……、今度は事前に約束を取ってもらうように連絡しよう」
いつの間にか隣に来ていたミランに慰められるように背中を撫でられた。そしたら、我慢していたものがこぼれ落ちてしまいそうで急いで目を伏せた。
「叔父は……いつも通りでしたが、ジュリアから……手紙が……」
「ユーリ!良かったね。ずっと待っていたんでしょう!」
明るいミランの言葉が突き刺さるように痛かった。今度は笑うこともできなかった。
「…………手紙、見せてくれる?」
俺の落ち込んだ気配を察知したのか、ミランにそう言われたので俺は机の上を指差した。
机の上に置かれた茶封筒をシオンが手にとって中身を読み出した。
¨ユーリお兄様
お久しぶりです。
毎月のようにお手紙をいただいて、お返事ができず申し訳ありません。
私は相変わらずノールの寄宿学校で学業に忙しくしております。
この度、叔父様から良きご縁をいただいて、グラール伯爵家のミケイド様との婚約が決まりました。
お兄様は今、ミルズで働いていると聞きました。大変申し訳ないのですが、私は週末ミルズの家に帰り、ミケイド様と過ごすことが多いので、どうか家には近寄らないでください。
言いにくいのですが、田舎で遊び暮らして、今の仕事もとても世間には言えないようなものと聞きました。そのような方が兄であるとミケイド様に知れてしまっては破談になりかねないのです。
私には私の人生があります。
どうか、お許しください。
もうお手紙は送らないでください。
どうかお幸せに。
ジュリア¨
「なんだよそれ!誰のためにユーリはここまで……!」
内容を知ったミランは机を叩いて激昂した。何がお許しくださいだってと、手紙を破り捨てそうな勢いだった。
「……落ち着けミラン。ジュリアの相手のグラール家は最近事業が成功してかなりの勢いで資産を築いている。あの子爵のことだ、金目当てでジュリアを使うことにしたんだろう。その手紙も子爵が結婚を邪魔されたら困ると思って別の人間に代筆させたのかもしれない」
「…………そういえば叔父は、俺が自由に屋敷を出入りできるのか聞いてきました。代筆か……確かに、そうであってくれたら。…………でも、筆跡は今までの手紙と同じです」
「脅して書かせたんじゃないの?それくらいやりそうな男だ」
真っ暗な闇に落とされて、悲しみの中を漂っていたところを、ミランとシオンが上から光を照らしてくれたみたいだった。
二人はやはり、俺の天使だと思った。
「……ありがとうございます。俺……俺、もう、訳分かんなくなちゃって……。ジュリアに……ジュリアにいらないって言われたらもう……なんのために生きているのか…………」
情けないことにぼろぼろ泣いてしまった俺の腕をガシッとミランが掴んだ。いつもひたすら優しい彼にしては珍しいほどの強さだった。
「バカ!ユーリは自分のことを考えなさすぎだよ!ジュリアとかどうでもいい!自分のために生きるんだ!ユーリが幸せになるんだよ!俺が……俺がユーリを守るから!」
「…………ミラン様」
「約束してくれ自分を傷つけるのだけはやめるんだ。困ったことがあれば、俺達はいつでも力になるから」
「シオン様…………。分かりました。でも、お二人は……俺のこと……どうしてそこまで…………」
こんな夜中に俺の様子が違うからと見に来てくれて、話を聞いた上に励ましてくれた。考えれば二人はいつも俺を優しさで包んでくれた。雇用関係の上に成り立っているものだと、期待したらいけないと胸に言い聞かせてきたが、どう考えても仕事を超えているような気がしたのだ。
「確かに……、初めは仕事で結び付いた関係だけど……、ユーリはもう俺にとっては家族だよ。ユーリと離れるなんて俺は……いやだ」
ミランが俺にしがみつくように抱きしめてきた。家族という言葉が聞こえてきて、俺の体は痺れたように固まった。
「俺だってもうユーリはただの世話係ではない。大切に思っている」
反対側から近づいてきたシオンが俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
二人の言葉に堪えていた思いが堰を切ったように涙となって流れでた。
子供のように大きな声をだしてしゃくり上げて泣いてしまった俺をシオンも抱きしめてくれた。
二人に同時に抱きしめられたら、凍りついていた心は一気に温められて湯気まで出てきそうだった。
「……ユーリ、今日は三人で寝よう。俺が子守唄を歌ってあげる」
ミランがそう言って俺のおでこにキスをしてくれた。体も心も温められて、俺はこのまま溶けてしまいたいと思った。
「あぁ!でも俺、子守唄なんて知らないんだった!シオン……」
「俺だって知るか」
俺の部屋のベッドは三人寝るとぎゅうぎゅうで、ほとんど身動きが取れないのに、なぜかここで寝ることになって、俺を挟んで二人で横から寝ながら抱きしめてきた。
「なんだ……二人とも知らないんですか。じゃあ、俺が歌おうかな」
提案しておいて知らないというミランがおかしくて、俺はクスクス笑いながら自分から歌うと言った。昔は歌うことが好きだった。あんなことがあってから、すっかり忘れてしまったけれど。
「ああ、ユーリは歌が上手かったんだったな。これはよく眠れそうだ」
「え!?俺……いつ歌っていました?全然そんなことした記憶が……」
「なら無意識か。あれは素晴らしかった」
「ずっ……ずるい!!なんでシオンだけ聞いてるんだよ!ほとんどいないくせに!ユーリ!俺にも俺にも!今度は俺にだけ聞かせて!」
ぐりぐり頭を押し付けながら子守唄をねだるミランが可愛くて俺は笑ってしまった。
さっきまでいた暗闇は、もう思い出すこともできない。二人の間で温められて、俺はこれが幸せなのだと初めて気がついた。
結局はその晩、何度も歌わされて疲れきった後、気がついたら三人で寝ていた。
翌朝、寝坊したと言いながら、バタバタと出掛けていく二人の姿を微笑みながら見送ったのだった。
□□
その日は朝から雨が降っていた。
ポタポタと落ちる雨の音でいつもより早く目が覚めてしまった。
寒さを感じて隣を見ると、一緒に寝ていたはずの二人の姿がなかった。
昨日の夜は久々に三人で交わった。二人でする時よりも深い快感と満たされる感覚がある。何より二人に求められると、俺の体はすぐに熱くなってぐずぐずにとろけてしまう。
明け方まで交じり合って最後が記憶にない。体力のない俺はまた途中で寝てしまったらしい。
体は疲れているはずなのに、ベッドの中で温もりに慣れてしまって、それがないと眠りが浅くなってしまうのかもしれない。
ずいぶんと贅沢な体になったなとため息をついた。
まだ早朝で、屋敷の中はとても静かだ。こんなに早く二人で仕事なのかと俺はベッドを抜け出して、ペタペタと裸足で廊下を歩いた。
シオンの執務室から話し声が聞こえてきて、そこかと俺は嬉しくなりながら近づいた。
もう起きてきたのかと微笑む二人の姿を想像していた。
しかし、少し開いたドアから漏れ聞こえてきた声に、ノックをしようとした俺の手は止まった。
「それじゃあ、ユーリを解雇するってこと」
「まぁ、そうだな……。いつまでもこのまま、というわけにはいかないだろう」
「まぁ、そうだよね……」
ずっと恐れてたことがついに起きてしまった。
俺を家族だと言ってくれた。雇用関係を超えて大切にしてくれているのだと夢を見ていた。
けれどついに俺は解雇され、この楽園から追い出されることになるのだ。
「今日の夜にでもユーリに言うつもりだ」
「ユーリ、びっくりするかな。でもこれはずっと考えていたことだからね」
足が震えてきて力が入らなくなり、このまま倒れてしまいそうだった。今夜別れを言い渡される。驚くどころか、悲しくて心が壊れてしまいそうだった。
二人の話は続いていたが、頭が混乱して上手く聞き取ることも出来なかった。そんな俺の頭に、ミランの声が聞こえてきた。
「俺達は二人で一つだから…………」
他の言葉はよく聞こえなかったが、その言葉だけが直接頭の中に響いてきた。
それはかつて俺を大きな愛で包んでくれていたはずの人が言っていた言葉と同じだった。
その人は俺を置いて逝ってしまった。
俺はまた置いていかれるのだ。
¨ユーリ、私達は二人で一つなのよ。だからあの人の元へいくわ。ジュリアをよろしく、幸せになってね¨
母の声が聞こえた。
橋の欄干に座りながら、母は最後にそう言って笑った。
じりじりと後退りして、俺はその場から駆け出した。
俺にとっては捨てられるのと置いていかれるのは同じこと。そんなことをもう二度と経験したくなかった。
急いで着替えて荷物をまとめた。
いつだったかシオンから自分に手紙を書けと言われて慰めてもらったことを思い出した。
シオンに初めて書く手紙が、別れの言葉なんて悲しすぎた。
今までありがとうございましたとだけ書いて机の上に残した。
まだ早朝の屋敷の中、誰一人と会うことはなく、裏口からそっと抜け出した。
小雨が降っていたがそんなことは気にならなかった。厚手のコートの前を閉めて俺は歩きだした。
どこへ行くかはもう決まっている。
今日は週末だからきっと会えるはずだ。心はもう壊れていて、ほとんど使い物にならないけれど、一目だけ、遠くからだけでもジュリアの姿が見たかった。
雨は降ったり止んだりを繰り返していた。
俺はジュリアがいると思われる、今は叔父の屋敷で、かつての自分の家に向かった。
辻馬車も使ってやっとたどり着いた屋敷は、記憶にあるものとはあまり変わらなかった。
遠くから見ていても人の気配がないので、俺はフラフラと足を進めて玄関の前まで来てしまった。
すると同じタイミングで、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
中から出てきたのは、ピンク色のドレスを着て栗色の長い髪を可愛らしく横に結んだ女の子だった。女の子と言っても子供ではなく、すでに大人の女性と言ってもいい年頃で、その顔は何度も夢で想像した通りだった。
「……あら?どなた?すごく濡れていらっしゃるけど……大丈夫?」
「…………ア」
「……え?」
髪と同じ栗色の瞳が大きく開かれた。それは彼女の警戒心を強く表していた。
「ジュリア……」
「ど……どなたなの?……なぜ私の名前を……」
「おっ……俺は、ユーリ。俺は君の……」
「なんだ?どうしたんだ?」
そこで、ジュリアの後ろから背の高い男性が現れた。怪しい男がいると感じたようで、ジュリアを庇うように背中にして前に出てきた。
「君は誰だ?何の用だ?」
「俺は……、ジュリアの兄で、ユーリと言います」
「は?何を言っているんだ君は?」
男はかなり怪しんだ目で俺を見てきた。突然押し掛けてきて動揺したにしても、いくらなんでも名前を言えばジュリアも気づいてくれると思っていた。
「ジュリア、あの男を知っているのか?」
男の後ろから顔を出したジュリアは、憐れなものでも見るような目で俺を見てきた。そしてその桃色の可愛らしい唇から残酷な言葉が紡ぎ出された。
「申し訳ございません。存じ上げませんわ。どこのどなたか……。ユーリなんてお名前も聞いたこともありません」
世界がまた真っ暗になった。
しばらく止んでいた小雨が降りだして、俺の肩を叩く小さな音がやけに耳に響いていた。
「嘘だ……う……そ……」
膝から地面に崩れ落ちて、震える手で何かを掴もうとしてけれど何も掴めなかった。
俺は独りではない。
ジュリアがいる、そう思って生きてきたけれど。
俺は本当に独りになってしまったのだった。
□□□
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