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第一章
⑦戦いのあと
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決闘が行われた翌日、関係者は学園の一室に集められた。
イアンの処遇については、退学相当となったが、最終的な判断は勝者であるアンドレアに任せられるのだ。
イアンは頭を下げて今までの行為について謝罪をした。
「……では、イアンについては、学園は退学ということでいいかな」
教師がアンドレアに最終確認をした。学園の退学、それは一族の恥を意味する。これから先の人生でイアンと家族はずっとそのことを言われ続けて、何かある度に笑われ蔑められて生きることになるのだ。
「待ってください。どうして俺に敵意を向けるようになったのか、それを教えて欲しいんです」
以前聞いたときの答えではどうも納得がしかなかった。理由も分からないままで、そのまま終わるのは嫌だった。
促されたイアンは、ぼそぼそと喋りだした。
「……似ていたんだ。昔、俺を苛めていたやつに。そいつも金髪で緑の目で、髪が長くて……、俺は赤毛で背も小さくて、いつもそいつに赤毛をバカにされて殴られてた。学園に入って、アルバートを見たら……忘れていたそいつのことを思い出して……その時の憎しみとか怒りとかが甦ってきたんだ」
「だからって!アルバートは関係ないだろう。そんなの、勝手に思い出の男と一緒にされて迷惑だよ!」
ルイスがアルバートの気持ちを代弁するように、怒りを表した。
「悪かったと思っている!初めてアルバートに会った時、偶然肩が触れたんだ。そしたら、ゴミを見るような目で見られて、それで……それで……、いつも女の話ばかりしているアルバートに、なんであいつばかりって余計に腹が立って……、って、もうどうでもいい話だよな……。早く終わりにしてくれ」
超女好きのアルバートは、友人以外の男を極端に毛嫌いするときがあった。
もしかしたら、その時期にイアンとの初対面で嫌悪が顔に出てしまったのだろう。
部屋にいる全員がアンドレアの言葉を待った。今回の関係者として、ローレンスとライオネルの姿もある。
「なんだ、あったじゃん」
「は……?」
「いやぁさ、お前前に聞いたとき、俺の存在自体が気にくわないとか、どうにもならないこと言っていただろう。でもちゃんと俺を嫌う理由があったわけだ。なるほど、そういうことか」
一人で納得して、すっきりした顔のアンドレアに、部屋にいる全員がぽかんとなった。
「ここまで大騒ぎして申し訳ないんだけど、俺の気持ちは晴れたから、退学はなしでいいよ」
「なっ……!?ふざけんな!俺に情けをかけるのかよ!?」
「ああ、かけるよ。それが悪いのか?貴族社会ははみ出したものに徹底的に厳しいだろう。うちはもともと軍人で貴族ではなかったから、曾祖父代に功績が認められて貴族になっても、いまだに出自が卑しいと蔑む者もいる。お前はまだいいが、お前の家族にまでそんな思いをさせるのは俺の気持ちが嫌なんだ」
「……………」
イアンはもう何も言うことなく、ただじっとアンドレアの方を見つめていた。
「先生、そういうことでいいですか?」
「……あっいや、まぁ。勝者は君だからな。その決定が絶対だ」
ルイスがまだ何か言いたそうに口を開いたが、ローレンスがそれを制した。
「処遇は決まったんだ。私達は口出し出来ないんだよ」
ローレンスの一言でその場の雰囲気は固まった。イアンは混乱を避けるため、今週は休みになり教師に職員室に連れていかれた。週明けからまた来れることになるらしいが、その後どうするかはイアン次第だろう。さすがに、もう絡んでくることはないだろうと思われた。
話し合いが終わり、アンドレアとルイス、ローレンスとライオネルは、それぞれ教室へ戻るために廊下を歩いていた。
「いやぁ、戦いは見事だったけど、お前手を出す気満々だっただろ?」
なんとなく続いていた沈黙を、ライオネルがカラリと破った。
「さぁ、なんのことですか?」
「涼しい顔して、立会人の特例ルールを申請していたくせによー」
「特別ルール?なんですか?」
アンドレアが何のことかという顔でローレンスを見つめると、ローレンスは不機嫌そうにライオネルを睨んだ。
「通常は、立会人は戦いには参加してはいけないのがルールだけど、双方の戦力にあまりに差がある時のみ、危険を感じたら立会人が助けに入っても良いってやつだ」
「あくまで、そういった場合を考えてのことです。聞けばアルバートは、剣術の授業はひどい成績で見学組だというじゃないですか。無謀にもほとがあると思ったのですよ」
アンドレアは複雑な気持ちだったが、確かにアルバートだったなら、周りがそういったフォローしてくれてもおかしくないだろう。
「ありがとうございます。色々と気を回していただいて……」
アンドレアが隣を歩くローレンスを見上げてお礼をいうと、軽く微笑んだローレンスに頭をぽんぽんと撫でられた。
「でもイアンのせこい攻撃を一振りで弾き飛ばしたのはさすがでしたね。キントメイアの一振りに感動で震えました」
ルイスが興奮冷めやらぬ感じで話に入ってきたが、アンドレアはキントメイアと聞いて、思わず、え?と声を出してしまった。
「何だよ、アルバート。変な声出して」
「だって、え?ローレンスがキントメイア?なの?」
その外見から、てっきりライオネルがナンバーワンだと信じて疑わなかったアンドレアは、やっと自分の勘違いに気がついた。そして、この学園にいて、知らなかったというのは、通用するのだろうかと焦りだした。
「だっ…ははははっ!!アルバート、お前、本当に男に興味無さすぎだろ!そういえば、最初会った時、俺らの名前すら知らなかったからな。そんな軟派な頭でよく決闘しようなんて思い付いたな」
「そっそうなんです!頭の中はいつも女性のことでいっぱいなんです!あはははっー」
ライオネルが良い感じに解釈してくれたので、アンドレアもそれに乗った。というか、あながち間違いではないなと言いながら思ってしまった。
ローレンスは何故かとても不機嫌そうな顔をしていた。付き合いが深くなったからか、そういった些細な変化に気がつくようになった。よほど、キントメイアを誤解していたことが、気に入らなかったのかとアンドレアは申し訳なくなった。
考えたら、キントメイア直々に剣の指導をしてもらうなんて、なんと大それた約束をしてしまったのかと、アンドレアはますます萎縮していった。
「アルバートの頭が女性でいっぱいでも、私との週末の約束は忘れないでいてくださいね」
「あー!あの時のローレンスを止めたのは凄かったな、あいつ以外にも止められるやつがいると思わなかった。熱烈な愛の告白みたいだったな」
アンドレアを押し出したくせに、ライオネルは何を言うのかと、さすがに非難を込めた目を向けた。
「え?愛の…!?おまっ…まさかそんな事をしたのか!?」
会場の遠くから見ていて成り行きを知らなかったルイスが青い顔をして騒ぎ出した。
ルイスからしたら、アンドレアが言葉通り愛の告白をしたのかと思ってしまったのだろう。
「バカ!違うって、そのままの意味じゃなくて……」
「まずいよ!なんて説明したらいいんだ!いくらアルバートのせいでもそんな展開になったら、アンド……ッグヴヴ」
パニックになったルイスが、言ってはいけない言葉を口から出しそうになったので慌てて飛びついてルイスの口を手でふさいだ。
目でやめろと語ると、ルイスはやっと気がついたのか、ハッとしたように目を開いて頷いた。
「……何やってんだ、お前ら?」
ライオネルが至極当然な疑問をぶつけて来たので、アンドレアはとっさにルイスに目配せをした。
「いやー毎回、俺が調子に乗ると、アルバートに怒られるんですよ。な!あはははっ」
ルイスが機転を利かせて、肩を組むように腕で頭を抱えて来た。これなら仲が良い男同士がふざけあっているように見えるだろう。
「……へぇ、二人はずいぶんと仲が良いみたいですね」
ローレンスがそう言ったので、アンドレアは前が見えなかったが、どうやら上手くごまかせたようだった。
その後ルイスは何故か無言で、何を聞いてもうわの空だったのが気になったが、とりあえず話し合いも終わり、後は穏やかに残りの生活を過ごすだけだった。アルバートさえ見つかれば全て上手くいくのだろうと、アンドレアは信じて疑わなかった。
□□□
イアンの処遇については、退学相当となったが、最終的な判断は勝者であるアンドレアに任せられるのだ。
イアンは頭を下げて今までの行為について謝罪をした。
「……では、イアンについては、学園は退学ということでいいかな」
教師がアンドレアに最終確認をした。学園の退学、それは一族の恥を意味する。これから先の人生でイアンと家族はずっとそのことを言われ続けて、何かある度に笑われ蔑められて生きることになるのだ。
「待ってください。どうして俺に敵意を向けるようになったのか、それを教えて欲しいんです」
以前聞いたときの答えではどうも納得がしかなかった。理由も分からないままで、そのまま終わるのは嫌だった。
促されたイアンは、ぼそぼそと喋りだした。
「……似ていたんだ。昔、俺を苛めていたやつに。そいつも金髪で緑の目で、髪が長くて……、俺は赤毛で背も小さくて、いつもそいつに赤毛をバカにされて殴られてた。学園に入って、アルバートを見たら……忘れていたそいつのことを思い出して……その時の憎しみとか怒りとかが甦ってきたんだ」
「だからって!アルバートは関係ないだろう。そんなの、勝手に思い出の男と一緒にされて迷惑だよ!」
ルイスがアルバートの気持ちを代弁するように、怒りを表した。
「悪かったと思っている!初めてアルバートに会った時、偶然肩が触れたんだ。そしたら、ゴミを見るような目で見られて、それで……それで……、いつも女の話ばかりしているアルバートに、なんであいつばかりって余計に腹が立って……、って、もうどうでもいい話だよな……。早く終わりにしてくれ」
超女好きのアルバートは、友人以外の男を極端に毛嫌いするときがあった。
もしかしたら、その時期にイアンとの初対面で嫌悪が顔に出てしまったのだろう。
部屋にいる全員がアンドレアの言葉を待った。今回の関係者として、ローレンスとライオネルの姿もある。
「なんだ、あったじゃん」
「は……?」
「いやぁさ、お前前に聞いたとき、俺の存在自体が気にくわないとか、どうにもならないこと言っていただろう。でもちゃんと俺を嫌う理由があったわけだ。なるほど、そういうことか」
一人で納得して、すっきりした顔のアンドレアに、部屋にいる全員がぽかんとなった。
「ここまで大騒ぎして申し訳ないんだけど、俺の気持ちは晴れたから、退学はなしでいいよ」
「なっ……!?ふざけんな!俺に情けをかけるのかよ!?」
「ああ、かけるよ。それが悪いのか?貴族社会ははみ出したものに徹底的に厳しいだろう。うちはもともと軍人で貴族ではなかったから、曾祖父代に功績が認められて貴族になっても、いまだに出自が卑しいと蔑む者もいる。お前はまだいいが、お前の家族にまでそんな思いをさせるのは俺の気持ちが嫌なんだ」
「……………」
イアンはもう何も言うことなく、ただじっとアンドレアの方を見つめていた。
「先生、そういうことでいいですか?」
「……あっいや、まぁ。勝者は君だからな。その決定が絶対だ」
ルイスがまだ何か言いたそうに口を開いたが、ローレンスがそれを制した。
「処遇は決まったんだ。私達は口出し出来ないんだよ」
ローレンスの一言でその場の雰囲気は固まった。イアンは混乱を避けるため、今週は休みになり教師に職員室に連れていかれた。週明けからまた来れることになるらしいが、その後どうするかはイアン次第だろう。さすがに、もう絡んでくることはないだろうと思われた。
話し合いが終わり、アンドレアとルイス、ローレンスとライオネルは、それぞれ教室へ戻るために廊下を歩いていた。
「いやぁ、戦いは見事だったけど、お前手を出す気満々だっただろ?」
なんとなく続いていた沈黙を、ライオネルがカラリと破った。
「さぁ、なんのことですか?」
「涼しい顔して、立会人の特例ルールを申請していたくせによー」
「特別ルール?なんですか?」
アンドレアが何のことかという顔でローレンスを見つめると、ローレンスは不機嫌そうにライオネルを睨んだ。
「通常は、立会人は戦いには参加してはいけないのがルールだけど、双方の戦力にあまりに差がある時のみ、危険を感じたら立会人が助けに入っても良いってやつだ」
「あくまで、そういった場合を考えてのことです。聞けばアルバートは、剣術の授業はひどい成績で見学組だというじゃないですか。無謀にもほとがあると思ったのですよ」
アンドレアは複雑な気持ちだったが、確かにアルバートだったなら、周りがそういったフォローしてくれてもおかしくないだろう。
「ありがとうございます。色々と気を回していただいて……」
アンドレアが隣を歩くローレンスを見上げてお礼をいうと、軽く微笑んだローレンスに頭をぽんぽんと撫でられた。
「でもイアンのせこい攻撃を一振りで弾き飛ばしたのはさすがでしたね。キントメイアの一振りに感動で震えました」
ルイスが興奮冷めやらぬ感じで話に入ってきたが、アンドレアはキントメイアと聞いて、思わず、え?と声を出してしまった。
「何だよ、アルバート。変な声出して」
「だって、え?ローレンスがキントメイア?なの?」
その外見から、てっきりライオネルがナンバーワンだと信じて疑わなかったアンドレアは、やっと自分の勘違いに気がついた。そして、この学園にいて、知らなかったというのは、通用するのだろうかと焦りだした。
「だっ…ははははっ!!アルバート、お前、本当に男に興味無さすぎだろ!そういえば、最初会った時、俺らの名前すら知らなかったからな。そんな軟派な頭でよく決闘しようなんて思い付いたな」
「そっそうなんです!頭の中はいつも女性のことでいっぱいなんです!あはははっー」
ライオネルが良い感じに解釈してくれたので、アンドレアもそれに乗った。というか、あながち間違いではないなと言いながら思ってしまった。
ローレンスは何故かとても不機嫌そうな顔をしていた。付き合いが深くなったからか、そういった些細な変化に気がつくようになった。よほど、キントメイアを誤解していたことが、気に入らなかったのかとアンドレアは申し訳なくなった。
考えたら、キントメイア直々に剣の指導をしてもらうなんて、なんと大それた約束をしてしまったのかと、アンドレアはますます萎縮していった。
「アルバートの頭が女性でいっぱいでも、私との週末の約束は忘れないでいてくださいね」
「あー!あの時のローレンスを止めたのは凄かったな、あいつ以外にも止められるやつがいると思わなかった。熱烈な愛の告白みたいだったな」
アンドレアを押し出したくせに、ライオネルは何を言うのかと、さすがに非難を込めた目を向けた。
「え?愛の…!?おまっ…まさかそんな事をしたのか!?」
会場の遠くから見ていて成り行きを知らなかったルイスが青い顔をして騒ぎ出した。
ルイスからしたら、アンドレアが言葉通り愛の告白をしたのかと思ってしまったのだろう。
「バカ!違うって、そのままの意味じゃなくて……」
「まずいよ!なんて説明したらいいんだ!いくらアルバートのせいでもそんな展開になったら、アンド……ッグヴヴ」
パニックになったルイスが、言ってはいけない言葉を口から出しそうになったので慌てて飛びついてルイスの口を手でふさいだ。
目でやめろと語ると、ルイスはやっと気がついたのか、ハッとしたように目を開いて頷いた。
「……何やってんだ、お前ら?」
ライオネルが至極当然な疑問をぶつけて来たので、アンドレアはとっさにルイスに目配せをした。
「いやー毎回、俺が調子に乗ると、アルバートに怒られるんですよ。な!あはははっ」
ルイスが機転を利かせて、肩を組むように腕で頭を抱えて来た。これなら仲が良い男同士がふざけあっているように見えるだろう。
「……へぇ、二人はずいぶんと仲が良いみたいですね」
ローレンスがそう言ったので、アンドレアは前が見えなかったが、どうやら上手くごまかせたようだった。
その後ルイスは何故か無言で、何を聞いてもうわの空だったのが気になったが、とりあえず話し合いも終わり、後は穏やかに残りの生活を過ごすだけだった。アルバートさえ見つかれば全て上手くいくのだろうと、アンドレアは信じて疑わなかった。
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