百談

動物

第三話【件】

君たちは、『件』（くだん）という妖怪を知っているかい？

そうそう！
貴方、よく知っていたね！

そう。
半人半牛の『件』

古くは、頭が人間、体が牛。

牛から生まれ、人間の言葉を話すとされ、生まれて数日で死ぬが、その間に作物の豊凶や流行病、戦争などの重大なことに関して様々な予言をする。
そして、それは外れる事がないと言われている。


そんな不思議な妖怪だけれど、実は、第二次世界大戦の頃から『件』の説には、“頭が牛で、体が人間”だという事も出てきているんだ。


君たちは、それがどういう事か分かるかい？

ん？
あぁ。
なるほど。

半人半牛なのだから、元々いたに決まってるって？
しかし、話しをするには、“人間の顔”を持っていなくては、話せる訳がなく、“予言”が出来ない為に、それまでは存在を無視されていただけだって君は言いたいんだね？

確かに、僕も元々いたっていう意見は正しいと思うよ。

そもそも。
『件』は本当に“予言”していたのか。

その事が、僕には気になっている。

君たちは気付いていたかい？

『件』の予言が“飢饉”“流行り病”“戦”……凶事の事ばかりだという事を。
そして……それらの凶事が齎すうちで一番深刻な事と言えば……“食糧難”だっていう事を。

あぁ。
貴方は気が付いたようですね。

顔色が悪い。

えぇ。
きっと、貴方の考えていることが、事実なのでしょう。

そう。
食糧難になった時に、人間が最終手段として取る、尤も醜悪な行動とは……

“口減らし”と、称した“共食い”です。

その村で一番弱い者から、きっと、狙われたのでしょう。

しかし、やはり、同じ人間を喰うのは、あまりに残虐で、あまりに罪の意識が圧し掛かる。
だからこそ“牛の頭蓋骨”を被せ、“こいつは牛だ”“こいつは牛だ”そう自分達に思い込ませながら、同じ“人間”を食べたのでしょう。

いや……古くは逆に、“牛の肉を食べている”という考え方から、“体が牛”だったのかもしれない。

どっちにしろ、それが後世に残る事を、良しとはしなかった。

だからこそ、『件』という妖怪が凶事を予言し、そして、その数日後には死ぬ……という伝承を作ったと考えた方がしっくりくる。

しかも、『件』の絵姿は、厄除招福の護符になると言われていますよね？

この事からも、“自分達の犠牲になった者達”を、鎮魂の意味も含まれているように感じるのは、僕だけでしょうか？


そう。
『件』とは、既に、凶事が発生した後、繰り広げられた『狂事』を隠す為……



私達人間が行って来た、悪しき業を隠す為の伝承にすぎないのだと、僕は思うのです。