Parasite

壽帝旻 錦候

文字の大きさ
上 下
78 / 101
episode 25

しおりを挟む
 激しい爆発音と衝撃に、走るペースは落とさずに慌てて振り返った。 
 大きな砂埃が舞っているのを確認すると、再び前を向いた。
 とうとう晴香さんが、刀ではなく手榴弾を使ったようだ。

《至近距離で爆破を受けたら、あんな巨体でも流石にひとたまりもないだろう》

 長期戦となれば、晴香さんにも分が悪くなる。
 懸命な判断だと思いながらも、何故か言い知れぬ不安が沸き起こる。
 晴香さんと野獣のような変化を遂げた感染者との闘いは、決着がついたというのに、ドッドッドッと早鐘を打つ心臓は、俺の全身を振動させるほどの隆起と陥没を繰り返す。
 このままのペースで走っていれば、晴香さんとも研究所に到着する手前で合流出来る。

 突然変異的な寄生虫感染者は、晴香さんが倒した。

 あとは研究所にいる一般人や祖父の仲間。
 助けるべき人達を迅速に助け出した後、木っ端みじんにすればいいだけ。
 死んだ化け物の詳細なんて、俺が心配することも、考える必要だってない。
 俺は研究者でも学者でもない、単なる一介の高校生なんだから、いくら考えたって、化け物が出来上がる仕組みなんてわかりゃしないし、そんな知識いらねぇ。

 頭の中を支配していた嫌な考えを追い出そうとするが、どうにも胸がざわつく。

 駆け足の状態なので、足を大地に着けるのは僅かな時間。
 しかも、靴を履いているのだから、足の裏から感じ取れる感覚なんてたかが知れている。
 そんな一秒にも満たない時間だけでも、足元から違和感が伝わって来る。

 ふわりと浮くような。
 地震で大地が揺れているような。
 体に沁みるような緊張が襲えば、五感が研ぎ澄まされて行く。

 速くなっていく自分の鼓動の音だと思っていたものは、その大きさを徐々に増す。
 体の中から聞こえていたと思っていたものは、鼓膜を直接震わせている。

 まさか。
 そんな、馬鹿な――――

「伏せろぉっ!」

 一番後ろについていた筈の鶴岡さんの姿がいつの間にか、かなり後方にあった。
 彼の叫びがあまりに切迫したものであったので、皆、反射的に地面に腹這いになると、先程よりも大きく激しい爆音が鳴り響いた。
 耳に膜でも張られたかのような感じと、キーンとした耳鳴り。
 顏を上げると、大きな土煙が見えた。

「みんなぁっ! 油断するなっ! 立ち上がって走れぇぇっ!」

 怖い顏をした鶴岡さんが叫びながら全力疾走してくる。
 彼の背後には粉塵が飛散し、霧がかったようにその奥が見えないものの、何か怪しい気配を確認することは出来ない。
 だが、彼のあまりに激しい勢いが、緊急を要するものであることを物語っており、皆、慌てて立ち上がり、研究所を目指して全力で駆け出した。
 誰一人として声を出すことなく、がむしゃらに走る。
 心拍数が一気に上がる。
 そんな中、またも足元を揺るがすような感覚がした。
 ドッドッドッと鳴っているのは、俺の心臓じゃない。
 この音は、足音だ。

《晴香さんがヤラれた》

 あの化け物が生きてピンピンしているということは、晴香さんの死を意味すること。
 彼女の死を痛ましく思うが、今は哀しみに浸っている場合ではない。
 振り向いても、真っ直ぐ前を向いて走り続けていても、後ろから猛進してくる重量感溢れる足音の主にはいずれ俺達は捕らえられる。
 だったら、振り向いて悪足掻きした方がマジだ。
 銃のスライドを引き、いつでも引き金を引けるように持ち替える。
 意を決して振り返ろうとした瞬間、またもや轟音が響いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...