上 下
59 / 182
A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】

(59)

しおりを挟む
「我らが鳳――加賀谷隆人に選ばれたまいし者、高遠遥殿。面をあげられたまえ」
 ついに遥の番が来たのだ。遥に許された最後の選択の時が。
 遥はゆっくりと顔を起こした。
 一瞬だけ、加賀谷に視線をやった。
 加賀谷はじっと遥を見下ろしていた。
 遥はすぐに視線を披露目司へ向ける。
「お応えたまわりたし。我らが鳳に望まれ、選ばれたまいし御身はその守護の力をもって鳳を守りたもうや」
 遥は視線をさまよわせてしまった。
 加賀谷に言われた言葉が頭の中をぐるぐると回る。

 これが本当に最後の選択だ。ここでならば、まだ何とかできる。『否』と答えれば司に理由を問われるから、すべてが自分の望んだことではないこと、私を拒絶することをはっきり告げろ。中途半端な表現では駄目だ。罵っていい。それが唯一お前を救う道だ

 頭が真っ白になる。気を失ってしまいそうだ。
 答えない遥にじれたのか、司が答えを迫った。
「応か。あるいは否か」
 遥は唇を開いて、喘ぐように答えた。

「……応」

 その瞬間、加賀谷が身を乗り出しかけたのが視界の隅に入った。広間全体にも、ざわめきが広がった。
 披露目司はそれを抑えるように声を張り上げる。
「重ねてお応えをたまわりたし。鳳の眷属たる我らも認めたまいしその汚れなき御身、そを鳳に委ね、凰として我らが鳳とつがいたることをこの場にて証立てなしたもうや、否や」
 遥は迷わず答えた。
「応」

 ざわめきがいっそう強まった。
「ご一同、お控えなさいませ。ご静粛に」
 披露目司の言葉にやっとささやきかわす声が多少おさまった。
 満足げに全体を見回してから、司は言った。
「凰として望まれたまいしこの者――高遠遥殿は、この場にてその汚れなき御身を我らが鳳に委ねたもうこと、つがいの証だてをなしたもうことを赦したまいき。とくとその御心みこころばえ見届けられよ」
 広間に異常な熱気が立ちこめている。

 ここに来て遥は悟った。
 加賀谷と敵対する一族の者たちは、このぎりぎりの時点で遥が加賀谷を切ると考えていたのだ。満座の中で遥によって加賀谷が恥をかかされることを望んでいたのだ。
 加賀谷を切らなければ、この大勢の者達が見守る前で、遥は同性である加賀谷に犯される。そのような辱めを拒まないわけがない――そう読んでいたらしい。
 しかし、遥はそうしなかった。
 そうしないことは、たぶん前から決めていたと思う。繰り返し迷いに襲われはしたが、最後は自らが決めたとおりにした。

 基が遥の側に膝を進めた。目隠しのせいではっきりしないが、基の顔は赤らんでいるように感じた。
「隆人様のもとへお上りください。お助けいたしますが、くれぐれも裾捌きにはお気を付けください」
 差し伸べられた基の手に遥は紙手鎖に縛められた両手を重ねた。
 その手がぶるぶると震えている。
 基が手を握ってくれた。
「桜木の者はすべて遥様のお味方でございます。お気を強くお持ちください」
 幾分ふらつく足元で段を上る遥が袴の裾を踏まないよう、洋が横から気をつけてくれた。
「どうか、隆人様をよろしくお願いいたします」
 今までずっと黙っていた洋が最後にそうささやいた。

 舞台に上った遥を加賀谷がにらんでいた。
 遥は素知らぬふりで加賀谷に相対あいたいして正座し、頭を下げる。
 加賀谷の責めるような目は心地よかった。
 この顔が見たかったのかもしれないと、遥は思った。自然に口元がほころぶ。
 加賀谷が立ちあがった。そして遥の前に場所を移ってきて片膝をついた。
「面をあげよ」
 遥は前に手をついたまま、少しだけ身を起こし顔を上げる。
 一瞬加賀谷が視線をさまよわせ、すぐに遥にもどしてきた。
「そなたは我が望みに応ずると約した。それに二心ふたごころなきときは、我が手を取りてその身を預けよ」
 遥に向かって、加賀谷が手を差し出した。
 加賀谷は真っ直ぐに遥の目を見つめている。
 遥は加賀谷のその手を縛められた両手で取った。

「鳳の手を取りし者の縛めを解く」
 加賀谷がそう宣してから、遥の手首にまかれた紙の手鎖てじょうをちぎり取った。
 折敷おしきを捧げ持った披露目司が進み出て、加賀谷が差し出された折敷に破った紙を載せた。
 遥は手首を捕まれて、加賀谷の胸元に引き寄せられた。
「今こそ鳳と凰のつがいたる証、我が眷属に示そうぞ。そのまなこを持ってしっかと御覧ごろうじろ」
 広間全体から「応」と答えが返ってきた。あたりの空気を震わすほどのその大音声だいおんじょうに気圧されて、遥は身を強ばらせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョ兄貴調教

Shin Shinkawa
BL
ジムでよく会うガタイのいい兄貴をメス堕ちさせて調教していく話です。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

処理中です...