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第二章 魔獣戦争
第21話 呪い
しおりを挟む集会場にはアーロン以外にも何人かの戦士達が集まり、先程現れたアレについて話し合いが行われる。
「アーロン隊長、アレはケツァルコアトルです!」
「あの空を覆う巨体! 間違いありません!」
「馬鹿な! ケツァルコアトルは平和の象徴! 攻撃してくる筈がない!」
「アーロン隊長! 此処は女王陛下に報告すべきです!」
話し合いと言っても、彼らの中で答えは決まっていた。
風の神ラファートの眷属であるケツァルコアトルだと言い張り、てんやわんやしている。
俺はその様子を飲み物を飲みながら見ている。
ララはまだ俺のことが心配なのか、ソワソワと落ち着かない様子で隣に座っている。
やがてアーロンがダンッとテーブルを叩き、騒いでいる戦士達を鎮まらせる。
「喧しいぞ、てめぇら。今何を言ってもアレが何なのか確かな答えを持つ奴はいねぇ。これは報告するにしても、俺達には他にやるべきことがあんだろ。で、どうなんだグリムロック?」
アーロンが俺に話を振ってきた。
他の戦士達が俺に視線を寄越す。
「……ま、あの鳥のことは俺も知らない。だが、この事件には関係無いと思う」
「ほう? どうしてそう言える」
「この事件の怪物に予想が付いた。俺の知る中で一番ゲスで残酷な呪いだ」
「それは?」
「――ヴァーガスだ。胎児に呪いを掛けることで生まれる怪物。その力は他の怪物よりもあらゆる面で凌駕する」
俺がその名を口にした瞬間、その呪いを知っている戦士達は騒然とする。
顔を青くし怯える者や、義憤に顔を引き攣らせる者までいる。
アーロンは黙って葉巻を咥え、だが沸々と怒りが内から沸き上がって来ているようだ。
それもそのはず。エフィロディアの氏族達は子供を何よりも大切にする。
子供は次第を担う大切な宝であり、何よりも尊び愛すべき存在だと教えられている。
ヴァーガスはそれを踏み躙って生まれる存在。
それ故、彼らは激しい怒りを感じているのだ。
アーロンは葉巻を吹かし、静かに口を開く。
「グリムロック……それを口にする意味を……分かってるんだろうな?」
「ああ」
「俺達エフィロディアの氏族の中に、子供を怪物にする裏切り者がいるってことか?」
「現状ではな。もしかしたら外部の――」
俺はそれ以上言葉を紡げなかった。
アーロンがテーブルを引っくり返し、俺に一瞬で近寄って首を締め上げたからだ。
そのまま柱に押し付けられ、アーロンは怒りの形相で俺を睨み付ける。
「俺達の魂である子供を、俺達の誰かが怪物に変えたってのか!? ええ!?」
「落ち――つけ――! まだ――そうだと決まった――!」
「例え冗談でも口にすることじゃねぇ! 憶測でもなぁ!」
「センセを離せ!」
ララが杖をアーロンに向けてそう言う。
アーロンは俺をもうひと睨みした後、俺を離した。
俺は咳き込みながら息を整え、ララは俺をアーロンから庇うようにして前に立って杖を向け続けている。
ララの手をそっと下げさせ、大丈夫だからと椅子に座らせる。
アーロンの激昂は当然のことだ。
エルフ族が掟を遵守するように、アーロン達エフィロディアの氏族は裏切り行為を絶対悪として見ている。
つまりは仲間意識が高いとも言える。
それなのに俺は彼らの前で堂々と裏切り者がいると口にしたようなものだ。
最悪殺されてもおかしくはない。
だが俺は毅然として事実を言わなければならない。
そうしなければ救われない命があるからだ。
「アーロン、まだ裏切り者がいると決まった訳じゃない。外部の仕業かもしれない。だが今回の事件はヴァーガスに間違いない。若い人の肝臓だけが無くなってる。ヴァーガスが好んで食べるんだ。つまりはただの殺しじゃない。捕食だ」
「……北西へ向かっているのは?」
「それは分からない。ただの偶然かも」
「……分かった。ヴァーガスの線で考えよう」
「隊長!?」
「黙れ。もう五つの村が滅ぼされてる。俺達には何の手掛かりも無い。グリムロックは信頼できる男だ……嘘は言わない。だが俺達の中に裏切り者がいるとは考えていない。外の誰かがヴァーガスを生み出した。その考えで進める」
「……良いだろう。俺も裏切り者がいるとは考えてない」
「……悪かった。多くの子供達が殺されたんだ……」
「いや、気にしなくて良い」
落ち着きを完全に取り戻したアーロンは新しい葉巻に火を点け、煙を吐き出す。
俺は魔法を使い、散らばったテーブルを元に戻して椅子に座る。
まだ魔力が戻りきっていない。ララの霊薬で誤魔化せているが、早く魔力を回復させないと効果が切れて気を失うかもしれない。
それ程までにあの巨大鳥の攻撃は凄まじかった。俺の魔力の殆どを費やさなければ防ぎきれなかった。
人族の防御魔法の中でも上級の魔法を使い、同時に魔族の魔法を使うのは身体への負担が大き過ぎた。
あれが何であれ、あの一撃は魔王級、下手をすればそれ以上の威力を持っていた。
あれが本当にケツァルコアトルなのか、俺にも分からない。
だが何かがこの地で起きているのは確かなようだ。
ユーリ……お前は今どこで何をしている?
何を知っているんだ……?
★
ヴァーガスの仕業と断定した後、アーロン達と対応策を考えた。
ヴァーガスは夜に行動する。太陽が昇っている間は休眠状態になり、何処かで身を潜めている。隠れ場所を見つけ出すには特別な匂いを追い掛ければ良い。
その匂いは嗅覚の鋭い獣族ですら捉えるのは難しい。
だが精霊なら、それができる。
「ララ、頼んだ」
「ああ」
ララは布で覆われている遺体の前に立ち、杖を取り出した。
「風の精霊よ来たれ――シル・フージェント」
杖を軽く振るうと、杖先から緑色の風噴き出し、小さな犬の形を取った。
「頼んだぞ」
ララがそう伝えると、風の子犬は遺体の周りをグルグルと駆け回り、何かを見付けたのか何処かへと走り去っていく。
ルートに乗って俺とララはその子犬を追い掛けていき、村を出た。
子犬を追い掛けて数十分、漸く子犬は足を止めて姿を消した。
その場所には古城があった。随分と古い、もう誰も住んでいない廃墟と化した古城だ。
「此処にいるのか? そのヴァーガスってのは……」
「みたいだな。精霊はどんなに微かな匂いでも嗅ぎ取れる。ヴァーガスの匂いは特殊だ。獣族でも嗅ぎ取れないほど微かだ。この城にヴァーガスは隠れてる」
「殺すのか?」
ララは背中越しに俺を見上げる。
俺は首を横に振った。
「殺せない。ヴァーガスは胎児に呪いを掛けて生まれる。赤ん坊が望んでやったことじゃない」
「じゃあ……」
「……呪いを解けば助けられる、かもしれない」
試した例は無いが……。
だが俺は戦争じゃない限り、子供を殺す気なんてない。
村を襲ったのはその子の意思なんかじゃない。術者が何を考えていたのかは知らないが、その術者の意志でそうさせたのだ。
例え大勢の人を殺そうとも、赤ん坊は救われるべきだ。
「できそうなのか?」
「やるしかない。一度村に戻るぞ」
ルートで来た道を引き返し、アーロン達がいるダール村へと戻った。
集会場でアーロン達にヴァーガスの隠れ場所を伝え、そこが嘗てランダルンの領主が持っていた城だと分かった。
その城は呪われていると言われ、領主の一族が不審死を繰り返した。
その為放棄されたが、呪いの所為もあって打ち壊されずにそのまま残っているらしい。
「で? どうするつもりだ?」
アーロンが尋ねる。
「城に結界を張ってヴァーガスを閉じ込める。ヴァーガスの呪いを解くには銀の鎖で縛り付けて力を失わせる。それから解呪の魔法を掛けるしかない」
「それで呪いが解けるのか?」
「……ヴァーガスの呪いを解くのは初めてだ。何が起こるか分からない」
「ちっ、結局はでたとこ勝負ってことか」
仕方が無いだろう。ヴァーガスの存在自体稀有なものだ。遭遇すること自体生きている内に一度あるかないかの確率だ。文献にだって専門的な解呪方法が載っている訳じゃない。解呪の魔法だって、ヴァーガスに使う為の魔法じゃない。専用の魔法じゃなければ、解呪の成功率は低いかもしれない。呪いを解けるかどうか、それは本当にでたとこ勝負になる。
だが必ず呪いを解いてみせる。赤子を助けなければ。
アーロン達を引き連れ、日が昇っている内に古城へと向かう。
古城の周囲を戦士達で囲み、俺が教えた即席の結界魔法を展開させることにした。常時展開し続けなければいけないが、それは交代で行ってもらう。
日が沈むとヴァーガスは城から出ようと、城の何処かから姿を現すはずだ。
そこを見つけ出して銀の鎖で拘束し、力を失わせる。
やることは至って単純だ。だが実際はそんなに甘くはない。
ヴァーガスの力は怪物の中でもかなり強力。単純な怪力だけでもかなり厄介だ。
古城に突入するのは俺だけだと考えていたが、アーロンも同行すると言い出した。
アーロンの腕前なら申し分ない。
だが問題はララだ。ララを古城へと同行させるような危険を冒させたくない。
最初はアーロンに警護を任せようと思ったが、アーロンは頑なに同行すると言ってきかない。
ランダルンの戦士の実力を疑っている訳じゃないが、こうなると俺の側にいさせたほうが俺が安心する。
「ララ、城の中では俺から絶対に離れるな。物珍しい物があっても決して触れるなよ」
「分かった。私はそこまで子供じゃない」
「お前には力がある。それは理解してる。お前を認めてない訳じゃない。いいな?」
「……ああ」
ララに危険な行動をしないと約束させ、時が来るのを待った。
やがて太陽は西へと沈んでいき、月が出た。星が輝き、暗い世界を光で満たす。
その時がやって来た。
「行くぞ。準備は良いか、アーロン?」
「ったりめぇだ」
「ララ」
「ああ」
戦士達に合図し、教えた結界魔法を展開させる。
『我、汝を閉じ込める者なり――フォース・プリズン』
俺達と古城を白い光の結界が覆う。
これで展開し続けている限り、ヴァーガスがすぐに外へと出ることはない。
正直言って、この結界がどれだけ役に立つかは分からない。けれどあるに越したことはない。
古い木の門を開けて古城の中に入る。
最初に俺達を出迎えたのは埃臭いエントランスだが明かりも無く、視界が暗闇で遮られる。
手に魔力を灯し、光の魔法を発動する。水晶玉程度の大きさの光が手から離れ、一定間隔で分裂していって広がっていく。
光が暗闇を照らし、古城の内部を明かりで満たす。
嘗ては豪華絢爛の装飾が施されていたのだろう、朽ち果てた内装にはその面影がある。
前の持ち主は美術品の収集家でもあったのか、おそらく価値のある壺やら武具やら絵画やらが飾られている。
「薄気味悪いな……」
ララが辺りを警戒しながらボソッとそう言う。
「こういう場所にはゴーストが棲み着く。大抵は悪戯で済ませる奴らばかりだが、長年同じ場所に棲み着くと力が増す。その力に飲まれて悪霊と化すのがオチだ」
「また悪霊祓いが必要?」
「そうだな。ゴーストにも効くから、そいつらの相手はお前に任せよう」
「ふふん、任されよう」
ララは可愛らしく胸を張った。
俺はその様子を見て軽く笑い、アーロンはやれやれと肩をすくめる。
俺の左後ろをララが歩き、右隣をアーロンが歩く。
「随分と仲が良さそうじゃねぇか。本当に教師と生徒か?」
「本当だよ。まぁ、知り合いの娘だからな。贔屓な部分は否定しない」
「へ、そうかい。なら女房は? いないのか?」
「は?」
突然何を言い出すんだ。
此処はもう相手のテリトリーなのだから警戒を強めてほしいものなんだが。
アーロンは構わず話を続ける。
「お前もいい歳だろ? 身を固めて子供を作らねぇのか?」
「何を言い出すんだ……。俺は誰ともくっ付くつもりはねぇよ」
「何でさ?」
「……」
半魔だから、と答えそうになったのを咄嗟に堪える。
それが本当の理由だが、そう答えてしまうと同じ半魔であるララがショックを受けると思った。
混血は何かと生き辛い世の中だ。それが半魔となると、世間からの当たりが強くなり、一緒に居るだけで嫌われる。
それにもし俺が子供を誰かとの間に儲けたら、その子は当然魔族の血を受け継ぐ。力も受け継いでしまえば、その身が保たないかもしれない。縦しんば保ったとしても、何かしらのハンデを負わされる可能性が高い。
そんな辛い人生を子供には歩んでほしくない。
だから俺はこの先誰とも一緒にならない。
だけど、そう考えるとララは? ララも一生独りで生きていくことになるのか?
「……グリムロック?」
考えに耽って黙ってしまったのか、アーロンが訝しむ。
何でもないと平静を装い、適当に理由を答える。
「いや……いい父親になれない気がするからな。お前のほうこそどうなんだ?」
「女房は三人、子供は五人だ」
「さん!?」
「あー、そういやエフィロディアの氏族は多夫多妻だったか」
「たふ!?」
ララが目を見開いて驚く。
そう、エフィロディアは多夫多妻という異色の文化を持つ。
最初は一夫多妻だったが、女性の実力者が台頭してからは夫を複数人持つようになった。
多夫多妻は力の表れでもあるし、優秀な子孫を多く残す手段でもあった。
前国王なんかは十数人もの妻が居たし、歴史で見れば百人単位で妻が存在していた時代もある。
そう言えば、グンフィルド女王は結婚したのだろうか。
カレーラスの当主の頃はまだ居なかったが、女王になってからは一人や二人ぐらい夫がいるだろう。
「女王は結婚したのか?」
「……」
アーロンは黙った。
それも何とも言い難い顔をして。
「……え、してねぇのか?」
「……お前達の所為だ」
「何で?」
「女王は強い男を好む。そこで質問だ。今の世の中で最も強い男に部類される者達とは?」
「そら……あー……」
そこまで口にして何故だか分かった。
今この世で最も強いかどうかは別にして、最強の部類に入る男は誰か。
それは勇者達だ。おまけで俺だ。
つまり、女王が結婚するとしたら勇者の男共か俺しかいないということだ。
「なんか……スマン」
「ちょうど良い。お前、女王と結婚しろ」
「断る。ユーリはどうした? というか、アイツの居場所知らねぇか?」
此処でアーロンから有益な情報が聞ければありがたいが、残念ながらアーロンは首を横に振った。
「三年前から姿も見てねぇ。女王なら何か知ってるかもしれねぇがな」
「ったく、何処で何してんだよアイツは」
「っ……センセ、あれ」
ララが何かを見付けて杖を指した。
その先にはユラユラと揺らめく何かがあった。
ヴァーガスかと警戒したが、それは以前にも見た悪霊の類いだった。
フードを被り、ボロ切れの布が辛うじて人の形に見えるその悪霊は、廊下を真っ直ぐ此方に近寄ってくる。
「ありゃあ、レイスか?」
「それに近いゴースト体だろ。あの程度ならララでも祓える。ララ、任せた」
「うむ……呪文は唱えたほうが良いのか?」
「無言でできるのなら、試してみな」
そう言うと、ララは杖を手首でくるりと回し、悪霊祓いの精霊魔法であるルク・エクソルを発動した。
以前は光の霞だったが、魔法が洗練されたのか光の壁となって悪霊を押し退けた。
威力が随分と上がっている。低級の魔法だが中級程度の魔法に仕上がってるな。
初めてララの魔法を見たアーロンは口笛を吹いて感嘆を表した。
「凄ぇな。無言魔法か。その歳でよくやる」
「ララは魔法力が高い。教え甲斐のある生徒だよ」
「……薄々思っていたが、魔族か?」
アーロンからそんな声が上がった。
意図して黙っていたが、長くは誤魔化せなかったか。
魔法力が高いと言ったのがマズかったか? いや、そもそも銀髪の時点で魔族と言っているようなものか。黒髪と銀髪は魔族特有の色だし、人族じゃ見ないからな。
「……半魔だ。センセと同じ」
「……いや、すまねぇ。安心しな、嬢ちゃん。偏見な目はねぇよ」
アーロンはララを否定しないでくれた。
アーロンの良い所はこういう所だ。魔族だろうが何だろうが、敵でなければ懐疑的な目で見ない。懐が深いと言えば良いのか、初めて俺と会った時も、半魔である俺を戦士の一人として最初から受け入れてくれた。
アーロンにララのことを言わなかったのは、アーロン以外の者達に知れ渡るのは念の為避けておきたかったからだ。
その後も老朽化でボロボロになった廊下を進んでいき、その道中でゴーストが現れたらララに祓ってもらう。
それにしても、本当にゴーストが多いな。そこまで危険度の高いゴーストはいないが、数が異常だ。
「アーロン、この城は確か曰く付きだとか言ってたな?」
「ああ。最初にこの城を所有していた当主が女絡みで問題を起こしてな。それで女の方が呪いを掛けて自殺したのさ。それ以来、当主の血縁者は不審死をこの城で繰り返した」
「いつの世も男はどうしようもねぇな。それで? 呪いを解こうとしたり何なりしたのか?」
「当然さ。だが呪いを解こうとした者は皆あの世だ。結局、城を放棄して去ったのさ」
「……ならちょっと面倒かもな。そこまで強力な呪いを掛けたのなら、自殺した女が悪霊になって棲み着いてるかもしれない。ヴァーガスだけでも厄介なのに……」
「仕方ねぇ。悪霊になってないことを祈るしかねぇよ」
確かに、祈るしかない。
だが経験上、こういう場合は必ず悪い方向へと物事が動く。
せめてララが怪我を負わないように立ち回らなくては。
そのまま廊下を進んでいくつかの部屋を探索した。そろそろ夜も濃くなる頃合いだ。
ヴァーガスが休眠から目覚め、城から出始める。そうなれば必然と気配で居場所が判明するだろう。
その内、他のとは違う印象のドアが目の前に現れた。
かなり大きく、おそらく古城の中でも一番広い部屋に繋がっているのだろう。
俺とアーロンは己の武器を手に握り締め、ララには俺達の後ろに下がっているよう伝える。
そしてドアをナハトで押し開き、中へと入った。
部屋の中はかなり広く、装飾や様式の面影から舞踏会でも開く大広間と言ったところだ。
柱や天井が崩れ落ち、床には瓦礫が散らばっている。
「アーロン……こういう場所に来た時、決まって大当たりって感じたことは?」
「奇遇だな……俺もしょっちゅうそう感じる。例えば、アレとか」
俺達の目の前には大広間に似つかわしくない巨大な棺がある。それは明らかに古城に最初からあった物ではない。何者かが此処に運び込んだ物だ。
その証拠に、棺が置かれている床には引き摺ったような痕跡がある。それもごく最近に付けられたものだ。
悪霊の気配は感じられない。その他の怪物の気配も無い。
俺とアーロンは頷いて示し合わし、ゆっくりと棺に近付く。ララは常に真後ろに付けさせ、マントを握らせる。
棺の前まで辿り着き、ナハトで棺をコンコンと突いた。
『……』
何も反応が無い。
ヴァーガスはまだ起きていないのか、それとも中には何も入っていないのか。
「……開けるぞ」
「……ああ」
アーロンは両手の戦斧を握り直す。
ナハトの切っ先で棺の蓋をゆっくりと押し開く。
ズズズズッと重い音が鳴り、蓋がずれていく。
いよいよ中身が見えそうになったその時、蓋が中から何かに吹き飛ばされた。
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