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序章 謎
第1話
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どこの街にも七不思議は存在している。例えば、中学校は元々墓地であったとか、河童がいるとか。この街にも七不思議がある。その一つが“想い出を売る”お店があるというものだ。この街のどこにあるのか、どんなお店なのか、など全くわからない。ただ、わかっていることは必要としたときその人の前に現れるということだ。
私の名前は水無瀬有紗、今年、近くの大学に入ることが決まりこの街に引っ越してきた。ついてすぐ、七不思議を耳にした。私は、普段七不思議やオカルトの類は全く興味ないのだが“想い玉を売る”というのはなぜか気になって仕方なかった。
新居での荷ほどきも適当にして周辺の探索に出かける。歩いてすぐのコンビニを過ぎ、横断歩道を渡り、駅の近くまでやってきた。
「さて、どっちに行こうかな。よし決めた。」
時間にして数秒ほどだったと思う。街の中心部の方に行くか裏路地の方に行くか。わかりにくい方がありそうという理由で裏路地の方へ歩いていく。スマホを取り出し時間を確認する。午後3時を回ったところだった。この時期はまだ、日が落ちるのが早いため1~2時間ほどで家に帰ることにした。
裏路地へ入り、キョロキョロと周りを見ながら歩いて進む。なぜかわからないがこっちにあるという自信だけがあった。空が赤く染まっていてそろそろ帰ろうと思っているときだった。カランカランという、音がしてその音のする方を向くとさっきまで真っ暗だったはずのお店の明かりがついておりドアに掛かっている看板には『open』と書かれている。
自然とそのお店の中に入る。中はこじんまりとしており誰もいない。その代わり、たくさんの水晶が置かれていた。色も形も違う水晶でとても幻想的で見入ってしまっていた。そのせいだろう、後ろにいる老人に気づくことができなかった。
数分か数十秒か数十分かはたまた数秒か、有紗は、我に返りあたりを見回した。すると、お爺さんがニコッとしてこちらを見ていた。
「珍しいお客さんですね。」
老人は、やさしい声で声をかけてきた。有紗はハッとして挨拶をする。
「こんにちは、すみません。勝手に入って。ここは、何のお店なのですか?」
疑問を老人に投げかける。すると、老人は手招きして向かいの椅子に腰かけるように言ってきた。有紗は椅子の方に向かい腰掛ける。
「ここは、“想い玉を売る”お店さ。そして、私はここの主人さ。」
先ほどからニコニコしていた老人がここの主人で会った。それよりも探していた“想い玉を売る”お店を見つけたことに有紗は驚きであった。
「その様子だと、“想い玉を売る”お店があるのは知っているようだね。ここでは、想い出を必要としている人に売っているんだ。」
「想い出を必要としている人?」
「そうさ。必要としている人だけこのお店の扉を開けることができるんだよ。君も扉を開けることが出来たということは何か想い出を買い取りたいのではないかい?」
私が、“想い出”を買い取りたい?そんなこと思ったことないはずだ。大体想い出を買い取るってどういうことなのだろう。
「おじいさん、ごめんなさい。私は、想い出を買いに来たわけじゃないんです。想い出を買うってどういうことか教えてもらってもいいですか?」
「おや、違うのかい?想い出を買い取るというのはそのままの意味だよ。人は一つ一つの経験を想い出として記憶しておくんだ。良いことも悪いこともいずれ想い出となり帰ってくるんだ。しかし、人はすべてのことを経験することは出来ない。例えば、君が難病で病院から、病室から出ることが出来ない。ましてや、歩くことすらできない子だったとして君は遊園地ではしゃいだり、学校で先生に怒られたり、クラスの友達と話をして笑い合ったり、出来ると思うかね。ここまで言えばわかると思うがそういった子に想い出を売っているのさ。想い出として心にあるだけで人は希望を持つことができる。」
有紗は店主の話を聞いて、自分にはあまり必要ないのかもしれないと思った。だが、もう一つ思ったことがあった。
「私にお手伝いできることはありませんか!」
思ったことがそのまま口に出ていた。店主は、面白そうに有紗を見た。
「手伝い?じゃあ、バイトでもしてみるかい?お客さんは時々しか来ないからお茶を入れてもらったり爺の話し相手になってもらったりすることが多いかもしれないが給料もちゃんと出すしどうだい?」
もっと詳しく知りたいと思いすぐさまその提案に乗った。
「それじゃあ、決定だね。では、空いている日でいいからお店においで、君ならまた扉を開けてこれるだろう。」
有紗は、返事をしてお店を出る。何時間立ったのだろうか。あたりは恐怖を覚えるほど闇に包まれていた。しかし、有紗の心には少しばかりの光がさしていた。“想い出”という光が。
私の名前は水無瀬有紗、今年、近くの大学に入ることが決まりこの街に引っ越してきた。ついてすぐ、七不思議を耳にした。私は、普段七不思議やオカルトの類は全く興味ないのだが“想い玉を売る”というのはなぜか気になって仕方なかった。
新居での荷ほどきも適当にして周辺の探索に出かける。歩いてすぐのコンビニを過ぎ、横断歩道を渡り、駅の近くまでやってきた。
「さて、どっちに行こうかな。よし決めた。」
時間にして数秒ほどだったと思う。街の中心部の方に行くか裏路地の方に行くか。わかりにくい方がありそうという理由で裏路地の方へ歩いていく。スマホを取り出し時間を確認する。午後3時を回ったところだった。この時期はまだ、日が落ちるのが早いため1~2時間ほどで家に帰ることにした。
裏路地へ入り、キョロキョロと周りを見ながら歩いて進む。なぜかわからないがこっちにあるという自信だけがあった。空が赤く染まっていてそろそろ帰ろうと思っているときだった。カランカランという、音がしてその音のする方を向くとさっきまで真っ暗だったはずのお店の明かりがついておりドアに掛かっている看板には『open』と書かれている。
自然とそのお店の中に入る。中はこじんまりとしており誰もいない。その代わり、たくさんの水晶が置かれていた。色も形も違う水晶でとても幻想的で見入ってしまっていた。そのせいだろう、後ろにいる老人に気づくことができなかった。
数分か数十秒か数十分かはたまた数秒か、有紗は、我に返りあたりを見回した。すると、お爺さんがニコッとしてこちらを見ていた。
「珍しいお客さんですね。」
老人は、やさしい声で声をかけてきた。有紗はハッとして挨拶をする。
「こんにちは、すみません。勝手に入って。ここは、何のお店なのですか?」
疑問を老人に投げかける。すると、老人は手招きして向かいの椅子に腰かけるように言ってきた。有紗は椅子の方に向かい腰掛ける。
「ここは、“想い玉を売る”お店さ。そして、私はここの主人さ。」
先ほどからニコニコしていた老人がここの主人で会った。それよりも探していた“想い玉を売る”お店を見つけたことに有紗は驚きであった。
「その様子だと、“想い玉を売る”お店があるのは知っているようだね。ここでは、想い出を必要としている人に売っているんだ。」
「想い出を必要としている人?」
「そうさ。必要としている人だけこのお店の扉を開けることができるんだよ。君も扉を開けることが出来たということは何か想い出を買い取りたいのではないかい?」
私が、“想い出”を買い取りたい?そんなこと思ったことないはずだ。大体想い出を買い取るってどういうことなのだろう。
「おじいさん、ごめんなさい。私は、想い出を買いに来たわけじゃないんです。想い出を買うってどういうことか教えてもらってもいいですか?」
「おや、違うのかい?想い出を買い取るというのはそのままの意味だよ。人は一つ一つの経験を想い出として記憶しておくんだ。良いことも悪いこともいずれ想い出となり帰ってくるんだ。しかし、人はすべてのことを経験することは出来ない。例えば、君が難病で病院から、病室から出ることが出来ない。ましてや、歩くことすらできない子だったとして君は遊園地ではしゃいだり、学校で先生に怒られたり、クラスの友達と話をして笑い合ったり、出来ると思うかね。ここまで言えばわかると思うがそういった子に想い出を売っているのさ。想い出として心にあるだけで人は希望を持つことができる。」
有紗は店主の話を聞いて、自分にはあまり必要ないのかもしれないと思った。だが、もう一つ思ったことがあった。
「私にお手伝いできることはありませんか!」
思ったことがそのまま口に出ていた。店主は、面白そうに有紗を見た。
「手伝い?じゃあ、バイトでもしてみるかい?お客さんは時々しか来ないからお茶を入れてもらったり爺の話し相手になってもらったりすることが多いかもしれないが給料もちゃんと出すしどうだい?」
もっと詳しく知りたいと思いすぐさまその提案に乗った。
「それじゃあ、決定だね。では、空いている日でいいからお店においで、君ならまた扉を開けてこれるだろう。」
有紗は、返事をしてお店を出る。何時間立ったのだろうか。あたりは恐怖を覚えるほど闇に包まれていた。しかし、有紗の心には少しばかりの光がさしていた。“想い出”という光が。
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