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恋じゃなくて、多分、愛じゃない
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ふと、耳に届く音が止み怖いくらいに揺れていた振動が治った。
濃い茶色で占める扉は、曇りガラスもない一枚の板。なのに俺は、まるでそうすれば扉の向こうが見えるかのようにそっと手を当てていた。
「私、ただ克巳が好きなだけなんです」
「だってあんなに大きくて頼り甲斐があってしかも教員で公務員。将来は安泰。そうでしょ?」
「それに私、自分で言うのもあれだけど見た目にはかなり気を付けてるの。エステも欠かさず行くし、ちょっとした整形だって痛くても我慢してやってるのよ?」
矢継ぎ早に語られる言葉に耳を澄ましていた。だが、彼女が意図することが読めない。
好きなのはわかった、きっと彼女も俺が克巳を好きなほどに好きなのだろう。
けれど、その先の理由がわからない。容姿や職種が人を好きになる上でそんなにも必要なのだろうか。
「料理だって家事だって、人並み以上には出来るの。それに夜だってそれなりに楽しませてあげられる。全部全部、あなたより…ッ!」
ドンッ!突然、大きな音を立てた扉に驚き、思わず一歩引き下がった。
「私はね、あの人の彼女として完璧なの!家事も仕事も、それに子どもだって産めるの!なのになんであなたなの?あなたさえいなければ私はあの人の一番になれたのにどうして⁈どうして私の思い通りにならないのよ⁈」
興奮しているのか彼女の甲高い声には涙が混じっている。
その悲痛な声を聞きながらふと、過ったのは自分のことだった。
「思い通りにならない」それは以前、俺が克巳に感じていたことだった。
多分、最初に感じたのはあの見た目だった。
誰よりもデカくて実は小顔で、けれどもそれを隠すモサイ髪に丸まりすぎた猫背をどうにかしたいと思ったのだ。
付き合ってからもそうだ。記念日だと拘る俺とは違い、忘れてしまう克巳に俺はどうして忘れるのかと一方的に怒っていた。
結局、自分も彼女と同じだったんだ。
思い通りにならないことが当たり前なのに、どこかでそうなることが当たり前のように勘違いをしていた。
それは多分、恋でも愛でもないはずだ。
濃い茶色で占める扉は、曇りガラスもない一枚の板。なのに俺は、まるでそうすれば扉の向こうが見えるかのようにそっと手を当てていた。
「私、ただ克巳が好きなだけなんです」
「だってあんなに大きくて頼り甲斐があってしかも教員で公務員。将来は安泰。そうでしょ?」
「それに私、自分で言うのもあれだけど見た目にはかなり気を付けてるの。エステも欠かさず行くし、ちょっとした整形だって痛くても我慢してやってるのよ?」
矢継ぎ早に語られる言葉に耳を澄ましていた。だが、彼女が意図することが読めない。
好きなのはわかった、きっと彼女も俺が克巳を好きなほどに好きなのだろう。
けれど、その先の理由がわからない。容姿や職種が人を好きになる上でそんなにも必要なのだろうか。
「料理だって家事だって、人並み以上には出来るの。それに夜だってそれなりに楽しませてあげられる。全部全部、あなたより…ッ!」
ドンッ!突然、大きな音を立てた扉に驚き、思わず一歩引き下がった。
「私はね、あの人の彼女として完璧なの!家事も仕事も、それに子どもだって産めるの!なのになんであなたなの?あなたさえいなければ私はあの人の一番になれたのにどうして⁈どうして私の思い通りにならないのよ⁈」
興奮しているのか彼女の甲高い声には涙が混じっている。
その悲痛な声を聞きながらふと、過ったのは自分のことだった。
「思い通りにならない」それは以前、俺が克巳に感じていたことだった。
多分、最初に感じたのはあの見た目だった。
誰よりもデカくて実は小顔で、けれどもそれを隠すモサイ髪に丸まりすぎた猫背をどうにかしたいと思ったのだ。
付き合ってからもそうだ。記念日だと拘る俺とは違い、忘れてしまう克巳に俺はどうして忘れるのかと一方的に怒っていた。
結局、自分も彼女と同じだったんだ。
思い通りにならないことが当たり前なのに、どこかでそうなることが当たり前のように勘違いをしていた。
それは多分、恋でも愛でもないはずだ。
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