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あるべき恋の姿

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 そう思うのは俺がまだ、これからどうしたいのかを決断しきれていないからだろう。

 結局、学校からさほど距離もない激安スーパーに訪れ、セールの肉や野菜を買い込んだ。

 チラッと時計を見れば午後7時15分頃。ご飯はいつも在宅ワークの良樹が炊いてくれているから、夕飯を作ったとしても8時過ぎには食べられるだろうか。

 忙しなく帰路を急ぐ人の群れに乗り、同じように足を急がせようとした、その時だった。

「あれぇ?もしかして、戸崎先生ですかぁ?」

 癖のある間延びした喋り方に一瞬で背筋がゾワっと逆立つのを感じた。

 同時にデジャヴ感が否めず、つい恐る恐る振り返ってしまう。

「し、東雲先生…。」

「奇遇ですねぇ。またスーパーで会っちゃうなんてぇ」

 …この場合、「そうですね」とさり気なく言った方がいいんだよな?

 そうは思いつつも、身体は本能で感じる恐怖に忠実で喉はカラカラに乾き張り付き、代わりに冷や汗がたらっと流れている。

 東雲先生の手にはパンパンに膨れた花柄の可愛らしいエコバッグが提げられている。

 ということは、買い物という理由は嘘ではなさそうだ。

 職場の同僚である彼女をつい、穿った視野で見てしまうのには理由があった。

 あれから彼女は職場でも隙を見て、俺に「いい加減覚悟決めてくれません?」とまるで悪い魔女のように囁いてくるのだ。

 覚悟とはつまり、克巳と別れるのか別れないのかということでそれはどちらにしろ、俺にとっては最悪な決断となるものだ。

 正直、まだわからない。一体何故自分がここまで彼女に恨まれなければならないのか。

 何故、自分がこんな選択を強いられなければならないのか。

 ただ一つわかるのは、彼女にとって克巳は何よりも大切な人だということだけだ。

 エコバッグからはみ出している葱や牛蒡を見て、俺は彼女がこれから作るであろう克巳の好きなメニューを頭に浮かべていた。

「で、戸崎先生。例のあれ、決まりましたか?」

 途端に口調を変えて彼女が言う。最近になってようやく気が付いたが、彼女はこの言い方をする時、肩の力がふっと抜けた気がする。
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