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それは恋以外の何者でもない

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 多分、一番の馬鹿はユウリだ。何年も音沙汰のなかった元カレに久しぶりに再会したと思いきや、意味もわからずシャツをべちょべちょに濡らされたのだから。

 あれから二週間が経った。ユウリとはあの日以降もメールのやり取りは続いている。

 と言ってもやはり、おつかれとかちゃんと食べているかとか親のようなメールだけれど。

 結局あの日、長々と俺が愚痴を垂れていたせいで終電を逃してしまったユウリは良樹の家に泊まることになった。

 翌朝、寝起きの悪い良樹らしからぬ顔でユウリを見た時は何を言い出すのかとヒヤヒヤした。

 なんせ良樹はすっかりユウリ派になってしまったのだ。

 しかし、そんなに分かりやすいのか自分は、といつかの多崎先生の言葉を思い浮かべ些かショックを受けながらも目下の悩みである油井 克巳を思い描く。

 いくら良樹が善人とは言え、人には限度というものがあるだろう。

 良樹の家に居座るようになってからもう三週間は経つ、ただの家出にしては些か長過ぎる。

 けれど今更どうすればいいのか、そもそも克巳は東雲先生とは本当に何もないのか。

 信じて欲しいと思う癖に克巳を信じられない自分に呆れた。

 俺が恋人の克巳を信じられないでどうする、だけど、そのループばかりが頭で繰り返される。

 自分がこんなにも情けないとは、人間いつどうなるのかなんて本気でわからない。

 吹奏楽部の練習はいつにも増してハードなものだった。

 テスト自粛期間明けだからか、藤原さんの扱きにも熱が籠っている。

 生徒もその扱きに応えるように、徐々に音色が揃っていく様は聞いていて気持ちが良いものだ。

 我が校の吹奏楽部は規模は小さいながらも、着々と力を伸ばし去年は銀賞を勝ち取ったことで水面下では他校から恐れられている。

 今年こそは金賞を、と意気込む生徒の気迫が伝わるようで、大人ながらにその気持ちが伝心してくる。

 …俺もあの子たちみたいに、素直になれたらいいのに。

「戸崎先生、さようなら」

「はい、さようなら。気をつけて帰れよ~」

 夏に向かう季節の日の入りの時間は遅いもので、午後6時だというのに空はまだオレンジの色をしている。
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