俺の彼氏

リンドウ(友乃)

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俺の彼氏が家出した

(3)-4

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 それからも二人の勉強会は続き、気が付けば窓からは綺麗なオレンジ色が差し込んでいた。

「もうこんな時間か」
「ああ、気が付かなかった」
「そろそろ帰るかな。勉強も榊のお陰で大分わかったし、マジでサンキュ」
 言いながら南沢が帰り支度をする。

 本当は引き留めたかった。まだいてくれ、ここにいてほしい。

 どうして引き留めたいのか、わからなかった。ただ、もっと話したい、一緒にいたい、そう思って仕方ない。
 南沢、と榊が声を出しかけた時、玄関からただいま~と間延びした声が聞こえた。

「叔父さん、と陽子さん?」
「こんばんは、哲太くん。と、お友達?」
「哲太に友達って、珍しいなぁ」
「今日は遅くなるんじゃなかったっけ?」
 慌てて聞くと、「ああ、夕飯はみんなで食べようかって話になってな」と叔父が言う。

「こんばんは、お邪魔してました」
「君が哲太の友達かい?」
「はい、同じ高校の南沢 雪と申します」
 勝手にお邪魔してすみません、と南沢が言うと、叔父は「いいからいいから」と荷物をリビングに置きながら言った。

「この荷物、なに?」
「ああ、すき焼きでもするかって。そうだ、雪くんも一緒に食おうか」

 出会って数分での雪くん呼びにも驚いたが、そうだった。叔父は榊と違ってコミュニケーション力が豊富で、榊はそんな叔父のことを毎度、尊敬していたのだ。
 慌てて隣にいる南沢を見た。が、案の定、南沢はニコニコしている。

「えっと、お邪魔じゃないのなら、是非」

 そうなのだ、南沢も叔父と同じ、コミュ力お化けだった。

 それから、すき焼きを囲むまで時間は掛からなかった。野菜を切って、鍋を用意して、食卓に運び、ぐつぐつと煮えさせた。
 途中、一緒にキッチンに並んだ陽子にどうして暑いのにすき焼きなのかと聞くと、暑い時は熱いもので制すって叔父が言ったと苦笑いしながら教えてくれた。叔父は時々、理屈では説明のつかない根性論を言い出す。

 汗を流しながらすき焼きを頬張る。たしかに、汗が流れ出て気持ち良いのかもしれない。

 鍋の中身が少なくなってきた頃に、叔父が「哲太とはずっと仲いいのか?」と、唐突に聞き出した。

「去年、一緒のクラスだったんです。今年は分かれちゃったんですけど、仲良くしてもらってます」
「そうか。哲太の奴、学校のことあんまり話さないからな」
「叔父さん、そういうのいいから」

 思春期に親に交流関係を知られてしまった子どものようで、聞いていられない。

「さっきも勉強教えてもらってたんですよ、榊、くん、本当に頭が良くて教えるのも上手くて助けられてばかりです」
 褒めすぎだろう、とすき焼きと部屋の暑さのせいだけじゃない熱が身体の内側から沸き起こる。

「哲太は勉強も弓道もできるから、モテモテだろう?」
「はい、でも弓道してること知ってるのは、少ないみたいですよ」
「へえ。雪くんはなんで知ったんだ?」
「俺は…中学の頃に偶然、見かけたからです」

「え?」
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