俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(3)-2

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 しかし、と内心、首を傾げた。
 南沢のことを成績が悪くないと思ったのは、慰めからではなく、本当のことだ。

 榊の通う高校では、テストの順位が掲示板に張り出される。一位から三十位までだが、いつもその中に南沢の名前は入っている。
 学年は四クラス、一クラスにつき三十人近い人数がいる。単純に計算して百二十人、学年には生徒がいることになる。
 その中で三十位までとなると、成績が良い方になるというのがみんなの価値観で、榊もそう思っていた。
 去年一年間のテスト成績のどれもに、南沢の名前はあった。一度だけならまだしも、二度、三度となれば偶然ではないだろう。

「このテストで赤点取ったら、試合に出られなくなる…」

 試合、とはラグビー部の試合のことだ。榊は漫研に入り浸ってはいるが、正式に入部はしていなく、また他の部活のことについての規則など全く知らないのだが、どうやらこの高校は文武両道を理念に掲げているらしく、勉強を怠る者は部活に精を出せないようになっている。つまり、テストで赤点を取ると強制的に試合に出られなくなる。

「試合に出られなかったら、どうなるんだ?」
「どうなるって、ベンチだろ?」

 ベンチ。南沢が言う意味がしっかりとわかったわけではないが、きっと野球やサッカーで言うところの補欠か選手に選ばれなかった人のことを言っている。

「ベンチは嫌なのか?」
「嫌っていうか、やっぱ、試合に出るために先輩後輩と頑張ってきたわけだしさ?それに、先輩にとっては高校最後の試合になるから、力になりたいんだよなぁ」
「…じゃあ、俺が勉強教えるか?」
「…へ?」
「ああー…やっぱり、俺だと役不足か」
「いや、そうじゃなくて!いいのか?」
「俺は別にいいけど」

 教科書の壁を取っ払い、南沢が榊を見つめる。相変わらずでかい瞳は、人を惹きつける。

 ただ、力になりたかった。南沢がラグビーをしているところを間近で見たことはない。けれど、真剣なのはわかる。南沢はいつだって何をするにも真剣で、そこには気持ちが籠っている。

 中学の頃から勉強が趣味のようになっていた。だから、自分なら南沢の悩んでいることを少しでも解決できるかもしれないと思ったのだ。
 じゃあ、お言葉に甘えて、と言う南沢の言葉に、今日、榊の家で二人だけの勉強会が開かれることになった。

「お待たせ」
「あ、サンキュ。わざわざごめんな?」
 いいよ別にと言いながら、小さいテーブルにお盆を置いた。

「まず何から始める?」
「やっぱ、数学かな?」

 そこからは、真面目に勉強に励んだ。どうやら南沢は数学が苦手らしい。

「ここにこの公式を当てはめればいいんだ」
「なるほど!わかりやす!さすが榊!」

 ささいなことで褒められ、頬が緩みそうになる。
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