91 / 105
俺の彼氏が家出した
(3)-1
しおりを挟む
「お邪魔します?」
「なんで畏まってるんだ」
いつもの南沢らしくないよそよそしさに、榊は言いながらおかしくなり、声を上げて笑っていた。
自分の家だと最近、ようやく思えるようになってきたせいだろうか。安心感のせいか、普段、外では見せない姿を見せられる気がする。
南沢を部屋へ案内する。一緒に暮らしている叔父はまだ帰っていない。
(叔父さんには悪いけど、帰ってきてなくて良かった)
去年の学校祭の時、叔父には情けない姿を見られている。名前こそ出していないが、榊が友人関係のことで悩んでいると叔父にはばれている手前、南沢の姿を見られるのは少々恥ずかしかった。
ほっと安心し、飲み物と菓子を取りにキッチンへ向かった。
菓子は南沢の好きなせんべいを用意してある。見ると、安心と少しの期待が込み上げてくる。
今日は南沢と久しぶりに二人で過ごす日なのだ。
といっても、ただ二人でまったり家で過ごすわけではなく、来週にある学期末テストに向けての勉強会なのだが。
事の発端は先週のことだった。
「まじでやばいかも…」
「何がやばいんだ?」
「テストだよ…」
南沢が覇気のない声で言う。
「そう言って、いつも良いじゃないか。テストの成績」
「今回はマジでやばいんだって」
「だから、やばいって何が?」
「上手く言えねー…けど、たしかにやばい」
口を開けばやばいの連発に、榊もさすがに弁当から顔を上げた。
本当にやばいのかもしれない。と、南沢を見る。普段の南沢は昼休みに教室にいることなどないのだから。
数いる友人に誘われ、弁当を掻き込むとすぐさま校庭に飛び出す、その姿を窓から眺める、それが南沢と榊の過ごし方だった。
それが今日は教室に、しかも数学の教科書を立てている。残念ながら顔は教科書に隠れていて見えない。
「誰かマジで勉強教えてくんねーかな?」
「…南沢なら自力で大丈夫じゃないか?」
「…榊にはこの焦りがわかんねーのかよ」
くぐもった声に、焦った。
「でも、南沢は授業さぼってないだろ?」
「さぼってはないよ?ただ、ちゃんと授業受けてたかって言われると」
「もしかして、寝てたとか?」
「寝てはいない、と思う」
「思う?」
「…寝てる時もあったかもしれない」
堪忍したように小さな声で南沢が呟き、榊はとうとう慰めの言葉を失った。
元々、慰めるなど苦手だ。こういう時、気の利いた言葉が出ればと自分を恨む。
「なんで畏まってるんだ」
いつもの南沢らしくないよそよそしさに、榊は言いながらおかしくなり、声を上げて笑っていた。
自分の家だと最近、ようやく思えるようになってきたせいだろうか。安心感のせいか、普段、外では見せない姿を見せられる気がする。
南沢を部屋へ案内する。一緒に暮らしている叔父はまだ帰っていない。
(叔父さんには悪いけど、帰ってきてなくて良かった)
去年の学校祭の時、叔父には情けない姿を見られている。名前こそ出していないが、榊が友人関係のことで悩んでいると叔父にはばれている手前、南沢の姿を見られるのは少々恥ずかしかった。
ほっと安心し、飲み物と菓子を取りにキッチンへ向かった。
菓子は南沢の好きなせんべいを用意してある。見ると、安心と少しの期待が込み上げてくる。
今日は南沢と久しぶりに二人で過ごす日なのだ。
といっても、ただ二人でまったり家で過ごすわけではなく、来週にある学期末テストに向けての勉強会なのだが。
事の発端は先週のことだった。
「まじでやばいかも…」
「何がやばいんだ?」
「テストだよ…」
南沢が覇気のない声で言う。
「そう言って、いつも良いじゃないか。テストの成績」
「今回はマジでやばいんだって」
「だから、やばいって何が?」
「上手く言えねー…けど、たしかにやばい」
口を開けばやばいの連発に、榊もさすがに弁当から顔を上げた。
本当にやばいのかもしれない。と、南沢を見る。普段の南沢は昼休みに教室にいることなどないのだから。
数いる友人に誘われ、弁当を掻き込むとすぐさま校庭に飛び出す、その姿を窓から眺める、それが南沢と榊の過ごし方だった。
それが今日は教室に、しかも数学の教科書を立てている。残念ながら顔は教科書に隠れていて見えない。
「誰かマジで勉強教えてくんねーかな?」
「…南沢なら自力で大丈夫じゃないか?」
「…榊にはこの焦りがわかんねーのかよ」
くぐもった声に、焦った。
「でも、南沢は授業さぼってないだろ?」
「さぼってはないよ?ただ、ちゃんと授業受けてたかって言われると」
「もしかして、寝てたとか?」
「寝てはいない、と思う」
「思う?」
「…寝てる時もあったかもしれない」
堪忍したように小さな声で南沢が呟き、榊はとうとう慰めの言葉を失った。
元々、慰めるなど苦手だ。こういう時、気の利いた言葉が出ればと自分を恨む。
1
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣
彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。
主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。
とにかくはやく童貞卒業したい
ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。
美人攻め×偽チャラ男受け
*←エロいのにはこれをつけます
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる